Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう) 作:因幡inaba
日曜日に投稿できて心底ほっとしてます。
今回はいつもより長めにかけたので最後まで読んでいただけると嬉しいです!
カクテルパーティー効果。
これは、現在の環境で自分にとって必要な事柄だけを選択し、見たり聞いたりする脳の働きのこと。
パーティー会場など周囲の喧騒に包まれるなか、目の前の人間と会話することができるのはこの力によるものだ。
要するに人間の脳は常日頃から周囲のあらゆる事柄を必要なものと不要なものに識別している。
例をあげよう。
通学でも通勤でも、ちょっと街を歩けば視界に映る他の人間の数は百や二百ではすまない。だがそれらの殆どは記憶に残ることはなく、視界から消えた瞬間脳からも消える。
可愛い、かっこいいといった特徴をとらえて稀に印象に残る人間もいるだろうが、結局それは自らの感情の起伏という点で必要になったからだ。喜怒哀楽は人間の持つ代表的な感情、そこに触れれば脳はそれを必要だと処理する。
では仮に、最早ノイズといっても差し支えない程の喧騒の中で、はっきりと聞き取れる声があったとしたらそれは………………。
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真っ白な空間に放り込まれた。
はっきりとしない意識の中で、数多ものノイズが飛び交うのを聞いた。
その中に一つ
はっきりと俺に届いた。
聞こうとしたわけじゃない。
一方的に告げられた。
『お前には、何も守れない』
耳に流れるその声が、脳に突き刺さるその意味が、痛いくらいに響いて止まない。
だから俺の意識はこんなにも目覚めようとしている──
──あァそうか、これは夢か
ようやくその果てしなく真っ白な世界を自覚する。自分の体とか、ノイズの出所とか、見えなきゃいけないものはそこにはない。
本当に意識だけを放り込まれたようだ。
途方もない白銀の世界。唯一確認できるものといえば、人間を型どったような黒い何か。
その異常なまでの黒は、この白い世界であまりにも目立ちすぎている。
ウェディングドレスのように広がる闇を纏い、その表情は決して伺うことはできず、それこそ形でしか容姿を説明することができないそれは、現実でいう人影に近い。
どうやら先程の声の正体はコレらしい。
──何なンだ一体?
そう思わずにはいられない。だが、俺の疑問など知らんとばかりに、再び一方的に告げてくる。
『その力は壊すことしかできず』
──……あ?
『その力は壊すためにあり』
──……
『お前は大切なモノすら自らの手で壊す、思い出せ』
そして流れ込んでくる映像は、数多く抱える闇の一つであり、辛苦の記憶。
──もういつの頃だったか。
自分はただ仲間に入れて欲しかっただけだった。
公園で無邪気に遊ぶ子供たちを眺めていた。
彼らはボールを蹴っては追いかけ、蹴っては追いかけ、とまるで『サッカー』と呼べるものではないが、それは楽しそうに走り回っていた。
だが、その輪に走ることはできなかった。見かけて立ち止まっただけでも充分だったと思う。
その時、不意にボールが足元に転がってきた。すぐに気付き、両手で掬うように拾い上げる。
俺は手中にあるボールを見て何を思ってただろうか。
これを期に仲間に入れて貰えるかも、という期待か。
自分も蹴ってみようか、という興奮か。
そんな感情も一瞬。当然だが、子供たちの内の一人が目の前まで来た。
──今思えば、そこが全ての始まりだった。
そこで直ぐに自分からボールを渡せていたら、どんなによかっただろうか。
もしこの時自分からボールを投げ返していたら、
──自分に触れようとした子供の手を、壊さなくてすんだかもしれない。
そこからは正にドミノ式。
重症を負った子供の親が出てきて、
派手に武装した大人に囲まれ、
最終的に視界に広がるのは、明らかに国一つは落とせるであろう核兵器の数々。
この負の連鎖。子供一人押さえるには過剰防衛もいいとこだ。
だが、
俺はただその場に立っているだけで、
──その全てを返り討ちにして破壊した。
──……ヤメロ
『お前に守ることなどできやしない』
──ヤメロって……
『思い出せ、そして──』
「言ってンだろォがァァーー!!」
その時、真っ白だったその世界が手前から奥へと一気に黒くなっていった。
まるで俺の心が色となって現れたように。
そしてそれを嘲笑うように言うのだ。
『そう、それがお前だ』
気づけば俺は自分の姿をこのドス黒い世界に見出だしていた。
声も出れば、体も動く。ならば、
「るッせェ! とりあえず、死体決定だクソヤロォォ!!」
この黒い世界でもなお形を保つソレに手を伸ばす。
そしてそのまま、その黒いナニかを貫いた。
「ハッハハ…………ハ?」
一瞬目が錯覚を起こしたかと思った。今一度目の前にいる人間を確認する。
俺の腕に胸を貫かれ、目や口から血を流しているのは、
「レ、ム…?」
「どうしたのですか?」
「なン……で…?」
胸に穴を開けたままで流暢に話すレムは、その血まみれの顔でくすっと笑って言うのだ。
「貴方が殺したんじゃないですか」
そこで霧のごとくレムは雲散霧消した。
その言葉を聞き、突如胸を抉られるような痛みに襲われる。
「グッアァァ!!?」
咄嗟に両手で押さえる。ちっとも引くことのない痛みは、逆に更なる熱をもって襲いかかる。
──冗談ではない。死んだ方がマシだ。
夢だと分かっていても、確かに痛みは訴えてくるし、死ぬことは許されない。逃げることも、目覚めることも、自発的にはできそうにない。
そしてそんな中、先程の無機質な声が耳に流れ込んでくる。
『これが全てだ。お前が関わった時点で、あらゆる物語の結末は決まっている。
その絶対的な核心を告げた。
最早辺りは暗いなどではすまない。
黒というのも生ぬるい真の闇の世界。触ることも見ることも聞くことも嗅ぐことも感じることもできない。
五感から完全に切り離された世界。それができあがっていた。
──自分以外の全てを殺すが、自分が死ぬことはない。
──その結果がこの
──これが報いだと言うのなら、俺は……
『そうだ。お前には、何も守れない』
「…オッレ、は──」
その瞬間、突如この漆黒の世界に一点の光が生まれた。
その光は俺の胸の辺りまで飛んでくると、その輝きをさらに強め、瞬く間に周りの闇を消し飛ばし、再び元の白銀の世界へと戻した。
そして元から黒で構成されていたソレは、
『チッ……』
恨むように舌打ちを残すと、その光に飲まれて消えた。
そして入れ替わりにその場に降り立ったのは、天使のような見た目の少女だった。
『いいえ、貴方は守ってくれました──』
…………………
「一方通行!!」
ビクッ、と驚いたように目を開ける一方通行。
「朝……」
「結局お互い寝ちまったな」
やれやれ、と苦笑いするスバル。
当の一方通行はまるで聞いていない。それには理由がある。
どうも起きたときから体の調子が悪いのだ。
しかし、自らの能力で体の所々を探るも、特に異常というべき問題はない。
「……なァ」
「ん? どした?」
「オマエ俺になンかしたか?」
「? いや、してねーけど。俺もさっき起きたばっかでさ、お前がそこにいるのを見て急いで起こしたんだ」
「……そォか。夜を越えたか」
それは本来喜ぶべきこと。
待ち望んだ六日目の朝だ。既に朝日は窓から差し込み、一日の始まりを告げていた。
スバルはそれに感激し、窓から顔を出して朝日とそよ風をその身で感じている。
だが、今の一方通行はなにやらしかめっ面して頭を押さえている。
そんな彼を怪訝に思い、スバルは聞く。
「なんかあったのか?」
「……いや、何でもねェよ。少し記憶が飛んでるだけだ」
「まぁそんなとこで寝かせちまったしな。長い夢でも見たんじゃないか?」
五日目の夜、彼らは徹夜で見張って館で起こる何かに備えるつもりだった。
夜も深夜と呼べるころに差し掛かると、二人の間での会話も尽き、思い思いのことをしていた。
スバルはベッドに寝転がり、一方通行はベッド脇で座り込んで本を読む。
その状態で寝落ちしたのならば、一方通行は硬い床と壁に背をかけて寝ていたことになる。
夢は浅い睡眠時こそ見ると言う。そんな状態で深い眠りにつけるわけもない。
だが、
「夢だァ? そンな曖昧なモンが影響するかよ。バカバカしい」
反応を見るに、そもそも夢というものを見たかも怪しい。
それ以前の問題として、一方通行がそういった非科学的なものをあまり好まないというのがある。
此度の体調不良は慣れない体勢で寝てしまったため、と自己完結を迎えた。
「それにしても、普通に迎えたな。六日目」
スバルが言う。
一方通行は返事こそしないが、同じことを思っていた。
いや、むしろその事にこそ一方通行は疑問を持っていた。
「……本当にそォか?」
「な、なんだよ。現にこうして……」
その時、コンコン、と扉を叩く音が鳴った。
ほいほい、とスバルはすぐさま扉を開ける。
すると、目の前に立っていたのはエミリアだった。
「おろ。エミリアたん、おはよう」
「うん、おはよ。……スバル、それにアクセラレータも。ちょっと来て欲しいの」
そういうエミリアの表情は優れない。
いつもはその瞳を見れば、自分が彼女に惚れた理由を再確認するところだ。
自分にはない、気圧されるほどに真っ直ぐで曇りない瞳を。
だが今エミリアの顔には、隠しても隠しきれない動揺と焦りが見てとれた。
一方通行もそれを感じて、促されるままに立ち上がり、三人で廊下を歩いていく。
普段とうって変わって神妙なエミリアに感化され、徐々に気分の落ちていく一行。
その重苦しい空気に耐えれなくなったスバルがエミリアに問おうとする。
「なぁ、一体何が──」
起きたんだ、と続けようとするその言葉は途中で遮られる。
──絶叫、あるいは悲鳴ともいえる声によって。
所々掠れるその声は、悲しみや苦しみといった負の感情に満ちており、聞くものの心にまでその感情を植え付ける。
いち早く走り出したのは意外にも一方通行だった。
階段をかけあがり、直ぐの廊下はたしか空き部屋、そしてラムとレムの個室があったはずだ。
その中に一つ。扉が全開になっており、やたら目立つ長身の男、ロズワールが目の前に立つ部屋があった。
その時点でそこが誰の部屋か、一方通行にはすぐに分かる。
すぐさまロズワールの前に駆け寄った。
すると、一方通行が声をかける前にロズワールはただ一言。
「中を」
と声だけで促した。
一方通行はスバルとエミリアを待たず、部屋へと踏み入れる。
よくよく見ればその部屋には色々な特徴が見つけられたはずだ。間取りが一方通行やスバルの部屋と同じだとか、どこもかしこも丁寧に手入れが行き届いていてやけに綺麗に見えるだとか、数えればキリがない程に。
だがそんな外野の景色には一切目が向かない。一方通行の意識は、今最も見なければいけない部分に集中していたからだ。
部屋の中央に丁寧に整えられた寝台がある。
その上で、
「いやああぁぁぁああああぁぁあぁ──ッ!」
聞くものの鼓膜を切り裂くような悲痛な叫びと、とめどない涙を流すラム。
そしてそんな彼女に縋りつかれるように、
──レムが息を引き取って横たわっていた。
お疲れ様です。
次回は波乱ですね
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