Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう)   作:因幡inaba

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おはようございます。
金曜日ですねー。今日を越えたら土日です。1日がんばりましょ!


29話 動乱のロズワール邸

「な、んで……………?」

 

 キツく締まった喉からなんとか絞り出した一言には、動揺を意味するありとあらゆる感情がこもっていた。

 

 その声の掠れ、震え。

 三度と世界を繰り返し、様々な事情を知るスバルにとってそれは当然であり、むしろその瞬間それだけで済んだのは上出来だろう。

 

 

 重い足取りでレムに近づき、その体に触れようとする。 

 

 だが、それは叶わなかった。

 スバルが震えながら伸ばした手を、横からラムがはたき落としたからだ。

 

「やめてッ! レムに、ラムの妹に触らないでッ!」

 

 その表情は歪んでいた。

 悲しみ、苦しみ、怒り、挙げればキリがない程の負の感情を全面に表し、その眼から流れる涙に終わりは見えない。

 

 ──ラムのこんな姿、普段からは想像もできない。

 

 だからこそ、現実は非情なのだ。

 

「死因は衰弱によるものだ。魔法というより、呪術に近い。眠っている間に徐々に命の灯火を吹き消され、意識がないまま死に至らせられている」

 

 いつの間にか部屋の扉は閉められ、ロズワールが入室していた。

 彼の淡々とした口調。出入口を塞ぐような立ち位置。

 

 ──そしてこのタイミングと雰囲気。

 

(まずいな……)

 

 一方通行は感じる。

 

 彼でも目の前の出来事には驚愕を表せずにはいられない。故に、既に一方通行のなかでこの世界の結末は決まっている。 

 

 だからこそ、一方通行はここで冷静さを失わずに思考する。

 

 

 呪術、というのは魔法とは少し違う。それは文字通り呪いで、大抵の効果がネガティブなものだ。今回のように人を殺すようなものもあれば、病に落とすものもある。

 

 そしてそんな呪術には()()()()()がある。それは『かける対象に触れること』である。

 

 素性が不明な上に、来て一週間も立たない人間がいれば、疑われるのは必然。

 

 即ち、

 

「お客人、何か心当たりはないかねぇ?」

 

 これは冗談でもなんでもない。

 ここでの受け答えをミスれば、憤る鬼と最強の魔導師を敵に回すことになる。

 

 一方通行は真っ先に口を開こうとした。ここでその解をスバルに任せれば、厄介なことになるのは明白だ。

 

 

「ま────!?」 

 

 そして、世界が凍りついた。

 

 発声は強制的に止められ、時計の針も止まり、意識が残ったまま身体中の機能が停止するこの歪な感覚。

 

 これは知っている。この世界に来て最初の死に戻り、その時と同じ感覚だ。

 

 ──何ッ!?

 

 その場においておかしいのは、スバルが生きているということ。

 死に戻りのトリガーはスバルの死、それは前回で完全に立証されたはずだ。

 

 ──グァ……っ!?

 

 そして突然訪れる、心臓を握られるような痛み。

 

 それはその止まった世界ではあまりにも不可解だった。

 

 何故痛覚が働くのか? 何に干渉されているのか? そもそもこれは何なのか?

 

 不可解、不可解、不可解──。

 

 身体中が声にならない叫びを上げ、意識が遠退いていく。

 

 

 そして、

 

 

「っ!?」

 

 時は動き出す。

 

 意識もはっきりしていれば、心臓の痛みなどどこへやら。時計も正確に動いており、周りの状況もそのまま。

 正常に時間が進んだとしか思えない。ただし物理的には、だ。

 

 その僅かな時間は、一方通行の心に確実に『恐怖』を植え付けていた。

 二度と味わいたくないとすら思える、あの『死』にも匹敵する恐怖。

 

 分からないことが一番怖い、とはよくいったものだ。『不可解』に囲まれた世界はそれほどまでに恐ろしかった。

 

(死に戻りじゃねェ!? クッ……返答を………………ッ!?)

 

 そして一方通行はある『可能性』に気づく。

 

(俺は何を言おうとした?)

 

 「心当たりはないか?」と聞かれたのだから、ただ単純に「ない」と答えればいい。

 

(違う!) 

 

 ロズワールは軟禁に近いこの状況を自ら作り出した。一方通行やスバルを観察し、ある程度の確信を持っているのは間違いない。

 

 そして一触即発といった、この雰囲気。

 

(『死に戻り』の内容に触れずに弁解は不可能……確証なンかねェ、が……)

 

 そして一方通行はその場で選択すべき言葉を見つける、が一歩遅かった。

 

 その瞬間、スバルがこの場において最も取ってはいけない行動をとってしまった。

 

「知らねぇよ……。俺にどうしろってんだよッ」

 

 ボソッと呟くと、ロズワールの立ち塞がる扉へと走り出したのだ。

 

 だが、その足は転倒という形で止められる。

 

 扉どころかロズワールにすら届かずに、膝をつくことになるスバル。

 

 スバルが走り出した刹那、それよりも遥かに速く走った一筋の風が、スバルの足を掠めたのだ。

 

「──逃がさない。何か知っているなら、逃がさないッ!!」

 

 気づけばラムは振り向いており、その手をスバルに向けていた。

 

 ──風の魔法『フーラ』。

 

 それでスバルを止めたのだろう。

 

 そして脅威はそれだけに止まらず、

 

「──私も少々気が立っているようだ。可愛がっていた従者がこんな目に会わされたかと思うとねぇ」

 

 そう言うロズワールの周囲はたちまち強大な魔力に満ち、空間の歪みすら感じさせる。そして臨戦体勢とばかりに、両手にそれぞれの色の光を発する四色の玉を浮かべた。

 

 最早取り繕うことなどできない。その場はスバルは愚か、一方通行でも下手はできない状況に陥っていた。

 

(バカが……)  

 

 一方通行はそう思うが、仕方ないことだとも思った。

 

 様々な葛藤があったのだろう。やりきれん思いがあったのだろう。拭いきれない焦燥に追い込まれたのだろう。

 

 スバルを理解できる唯一の人間として、一方通行はスバルを非難することはできなかった。

 

(これまで、か──)

 

 そして遂に一方通行は動く。

 

 決めていたことを実行しようと、片足を上げる──

 

    ──が、ゆっくりと下げた。

 

 立ち上がったスバルにエミリアが歩み寄る。その光景を見て、ギリギリで思いとどまったのだ。

 

 

 エミリアはスバルの袖に触れると、

 

「スバルお願い。何か知っているなら教えて。あなたがラムを……レムを助けられるなら……お願いっ」

 

 それはスバルにとって何よりも残酷な言葉。

 

 答えられるなら、それができるなら、全てをぶちまけてしまいたい。

 

 でも、できない。

 

 例えエミリアの、誰より大切な人の、震える瞳を見ても、

 

「……ごめん」

 

 できない。

 

「スバル……」

 

「っ……ごめんッ」

 

 ──できない。

 

  

 そしてそれを見ていられなくなった一方通行は、

 

「スバル! 走れェェーー!!」

 

 叫びながら右手を床に叩きつけ、

 

 ドーンッ

 

 と轟音とともに、廊下に面した壁を破壊した。

 

 

「っ!」

 

 すぐさまスバルは走り出す。

 ロズワールとラムの目が一方通行に向いた隙に、瓦礫を乗り越え、廊下へと飛び出した。

 

 

 当然ラムとロズワールはそれを許さない。

 

「逃がさないッ!」

 

 ラムはスバルの背中目掛けて風の魔法を放つ。

 だが、その間に割って入った一方通行が魔法陣を展開して、全く同じ風の魔法で相殺した。

 

「退いてッ! ラムの……レムの仇、絶対に殺してやる!!」

 

「悪ィがそれは出来ねェ相談だ」

 

 だが、視界の端でロズワールが廊下に飛び出すのが見えた。

 

(クソッ、目が放せねェってのに)

 

 少しでも隙を見せれば、ラムは飛び出し、スバルを追ってしまう。一方通行は警戒を解くわけにいかない。

 

 一方通行が何もできないまま、ロズワールの両手の魔法がスバルを狙って解き放たれる。

 

 ダメか、と一方通行は思ったが、ロズワールの魔法は意外な人物に阻止された。

 

 

「……そっちを止めてくれンのは助かったが、どォいう風の吹き回しだ?」

 

「まさか君が身を張って守るとは。そんなに彼が気に入ったのかぁな?」

 

 

 一方通行の真後ろで、ロズワールの魔法を止めたその人物が口を開く。

 

「冗談は性癖だけにするかしら。お前も、勘違いするんじゃないのよ。言ったハズかしら。館に面倒は持ち込まない、と」

 

 これまで一言も喋らずに事を見守っていた、肩に灰色の猫の精霊を乗せた少女。

 

 ベアトリスは、心底面倒そうに言った。

 

「ロズワール。コイツらに呪術の知識も、使う度胸もないかしら。決めつけてかかるのは早計なのよ」

 

「事態に重きを置くべきは既にそこにはない。ベアトリス、君もそれくらいのことは承知しているはずじゃぁないかな?」

 

 そうして二人が会話をしているその隙に、一方通行は声のベクトルを操り、エミリアにだけ聞こえるよう、

 

『スバルを追ってくれ。それかこの部屋から出ろ』

 

 と言った。

 

 エミリアは驚いたように一方通行を見るが、ラムと向かい合う彼に、彼女を気にかける暇はない。

 

 エミリアはそのままで頷き、廊下を走っていった。

 どうやら彼女はまだ信じてくれていそうだ。一人で出ていったスバルもこれで心配はない。

 

 一方通行はそれを悟り、意識をラムとロズワール、それからベアトリスに向ける。

 

「ベアトリス。オマエにまだその気があるなら、スバルを追ってくれ」

 

「何を言い出すかと思えば。さっきも言ったかしら。勘違いは──」

 

「俺とスバルはこの件に関係ない。これは絶対だ。今スバルを守れるのはオマエだけだ。頼む」

 

「……ベティはこの館の人間。アイツを殺す側でもおかしくないかしら。それでも──」

 

「──構わねェ。俺はオマエならスバルよりも信じられる」

 

 これは一方通行の本心だ。普段は何かとあれば悪口を言い合う仲だが、逆にそれだけ距離が近いともいえる。

 一方通行にとって、ベアトリスと軽口を言い合う時間は、余計な気を使わないで済む貴重な時間なのだ。

 

「…………」

 

 そこでベアトリスは黙りこむが、数秒後には廊下をスバルが去った方向に歩いていった。

 

 それを止める人間はいない。ロズワールにしろラムにしろ、狙いはスバル。ベアトリスがいなくなるのは何一つ問題ではない。

 

 

「さァて、やるか」   

  

 そこで一方通行はいよいよ臨戦体勢に入る。ラムから意識を変え、ロズワールを見入る。

 

 目の前にいる一国の最強の魔導師を前に、臆することなく立ちはだかった。

 

「ふむ。てっきりベアトリスの参戦に乗じるのかと思ったのだぁけど、それは賢い選択とはいえないんじゃぁないかい?」

 

「別にオマエら二人を相手にできるとは思ってねェ」

 

 そこで一方通行は策に出る。こうなった時点から、狙いはロズワールとの一対一だ。おそらくスバルは館の外まで逃げただろう。

 

 ──悪いが、ラムを遠ざけさせてもらう。

 

「今回の件。俺は何も知らねェが、スバルは何か知ってそうだったな。ここで俺に足止めくらってたら、アイツはお前らの手の届かねェ場所まで行っちまうぞ?」

 

 そう煽るように言った。

 

 一方通行の狙い通りラムは怒り狂い、

 

「逃がさない……絶っ対に逃がさないッ!!」

 

 一方通行がロズワールと向かい合うことでできた隙間をとてつもないスピードで駆け抜け、スバルを追いかけていった。

 

「ま、今のは嘘だがな」

 

「なぁるほど。ラムよりも私の方が楽だと判断したわぁけ?」

 

「ンなわけあるか。そもそも俺は最初の世界からお前とは戦ってみたかったンだぜ?」

 

 一方通行は確かめたかった。

 今の自分と国一番の魔導師。物理的には近いその男との()()()()()を。

 『俺と戦え』という、最初の更に最初の要求。それの実現。

 

 ()()()()()()()()()でやっておきたいことだった。

 

「ふっふっふ。ちょうどいい。私も君に興味が出たところだ」

 

「あ?」

 

「しかしあまり館を壊すのは好ましくない。──レムもいるのだぁからね」

 

 ロズワールは寝台で眠るレムを一瞥して言った。

 一方通行にとっても、この館を必要以上に壊したくはない。

 

「お互いに利害は一致している。場所を変えてもいぃかな?」

 

「あァ」   

 

 二人は戦いの場を変えるべく、廊下の窓から外へと飛び出す。ロズワールは魔法で、一方通行は能力で翼を装着し、飛行する。

 

 そしてその広い庭園の上空で向かい合い、

 

「さァ来いよ、ロズワール·L·メイザース。ルグニカ一の魔法とやらを見せてみろ」

 

「言っておくけぇれど……向かってくる男に、私は手加減できないよ?」

 

 科学と魔法が交差する、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

  




お疲れ様です。
感想でもダメ出しでも批判でもアドバイスでも、いつでも待ってます!

追記。ご指摘ありがとうございます!!
そして申し訳ありませんm(_ _)m
風の魔法は『ヒューマ』ではなく『フーラ』です。修正しましたが、本当にすみませんでした

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