Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう)   作:因幡inaba

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こんばんは。
今回造語っぽいのが出てきますが多分意味は伝わるので許してほしい。
そして心理描写むずし


33話 ナツキスバルの消失

 

 

 時は遡り────

 

 

 ナツキスバルは必死に走っていた。

 

 およそ運動用とは思えないローファーのような靴と寝巻を着衣し、ひたすら真っ直ぐ走り続けた。

 

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

 

 頭のなかに浮かび続ける少女の寝顔。

 

 まるで現実が色褪せて見えるほどに、鮮明に写し出される絵。

 

「なんでっ……」

 

 脳がそういった機能を失ってしまったみたいに、まるで理解不能。

 

 何故、何故、何故────

 

  と頭を駆け巡るたった一つの言葉がどこまでもスバルを堕としていく。

 

「ハァ……ハァ…………?」

 

 気付けばスバルは、前回の見張りポイント。

 つまりロズワール邸を見下ろすことのできる崖まで来ていた。

 

「……アレは」

 

 改めてロズワール邸を見ると、その上空辺りに浮遊する人間が二人。

 

 遠目であまりハッキリとは見えないが、その内の片方は背中に四本二対の竜巻を生やしているため一方通行(アクセラレータ)に間違いない。

 

「ってことはあっちはロズワール……。アイツ、俺を逃がす為に────」

 

 そんな光景を見て思う。

 

 

 ────俺は何をやってるんだ……?

 

 

 彼が歩んだ『異世界』での道は、全て一方通行が踏み(なら)したモノだ。

 荒れた道も『強者』の背中に着くことで安全に歩く。

 

 

 だがナツキスバルは知っている。

 

 一方通行は決して『強者』ではないということを。

 

 スバルにとっての『強者』とは言葉のままの意味で、初めは間違いなく一方通行は『強者』だった。

 

 エミリアとパック、そして自分が戦ってもまるで歯が立たなかったエルザに対し、単騎で圧倒するその力。

 

 だが徐々に気付いていったのだ。

 

 ロズワール邸での一方通行は極端に()()()()人と接することを避けていた。

 此方(こちら)から行かなければ、彼が他者と会話することはなかっただろう。スバルが連日エミリアの元に走るのを他所に、一方通行は大体書庫か自室にいた。

 

 もちろん、訪ねれば彼は応じるし、会話も投げ掛ければ返ってはくる。決してコミュニケーション能力とかの問題ではない。

 

 

 つまり一方通行は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それは彼の(さが)なのだろう。これまでの人生で植え付けられてしまった『闇』の一つ。

 

 そう、一方通行とて精神的な面では『強者』とはいえない。

 

 実際、レムの件も相当堪えているはずだ。

 

 それを抑え込み、今あの場に立っている。

 

 

「それに比べて、俺は…………俺はっ…………」

 

 

 緊迫した場面で自ら地雷を踏み、事態を悪化させるだけ悪化させた挙げ句、その場を放り投げて安全地帯で感傷にふける。

 

 これがナツキスバルの現状だ。

 

 

「……強く、なりてぇ……ッ!!」

 

 

 言葉とともに、溢れる涙が視界を歪ませる。

 

 それは止まることなく、地面を湿らせた。

 

 

 ──その時、

 

 ガサッ

 

 と後ろから物音が聞こえた。

 

「……っ、あ?」

 

 茂みから飛び出したのは犬だった。

 

 無論ただの犬ではない。やたらと睨みの効いた目は赤く光っており、口の両端から飛び出している牙は飾りではないだろう。

 

「……魔獣ってとこか」

 

 スバルは寝巻の袖で涙を拭い、魔獣を正面に見入る。

 

 グルルルルッ、と唸りながら今にも飛びかかってきそうな魔獣を前に、一歩も引くことはなかった。

 

 

 ──戦っている一方通行の前でこれ以上、

 

 

「俺は、一歩も引けねぇ!!」

 

 

 ガウッ、と吠えながら襲いかかってくる魔獣。

 

 その大きく開いた口はスバルの首元を狙って跳躍。仮に首に噛みつかれれば、その牙が食い込み、命はないだろう。

 

 

 恐れずにスバルは一歩踏み込み、右手を引いた。

 

 

 それより早く魔獣はスバルに到達し、その鋭利な牙を振るう。

 

 

 だが魔獣が噛みついたのは狙いの首ではなく、

 

「イッ……!?」

 

 スバルが差し出した左手の肘だった。  

 

 

 一瞬顔をしかめるスバルだが、作戦通りという風にニヤリと笑う。

 

 

 そして引いて溜めを作っていた右手の拳を精一杯握りしめ、

 

 

「うおおぉぉーー!!」

 

 

 肘に噛みつく魔獣の顔面を横から殴り付けた。

 

 

 その会心の一撃は、見事に魔獣の意識を刈り取り、茂みの手前まで飛ばした。

 

 倒れたまま起き上がる気配のない魔獣を、スバルは崖から蹴落とす。

 

 

 直後、

 

「痛っだあぁぁたたたっ!!?」

 

 左手を抑えて転げ回るスバル。

 

 危機的状況という興奮で誤魔化していた痛みが、一気に襲いかかってきたのだ。

 

「くぅぅ……ワンころめ……。でも、勝ったんだ」

 

 仰向けになり、右手を顔の前に運んで拳を作る。

 

「……なぁ一方通行、俺は────」

 

 ────その時、再び後方で何かが動く気配がした。

 

 ガサッ

 

 と先程聞いたばかりのものと全く同じ、茂みを掻き分ける音が響く。

 

「…………まじで言ってんのか?」

 

 魔獣の再来を予感し、顔を青ざめるスバル。

 

 既に左手を失ったも同然のスバルからすれば、それは『死』に他ならない。

 

「随分な有り様かしら」

 

 だが聞こえてきたのは声だった。

 

「なんだベア子か……」

 

「かっちーん、なのよ。わざわざ探してみればこの言い草かしら。いっそそのまま死ねばいいのよ」

 

「ハハ……いやぁ、少なくとも、あの戦いが終わるまでは死ねねぇよ」

 

 座り直し、ロズワール邸方面を見るスバル。

 

 遠く離れたロズワール邸上空では、二人の男のぶつかり合いが大気に波動を発生させていた。

 

「……ちょうどいいかしら。アイツ、何者なのよ?」

 

 スバルと同じ方角を見ながら問うベアトリス。

 それに対してスバルは、

 

「一方通行? さぁ?」

 

 と、あっけらかんと答えた。

 

「さ、さぁ? お前ら一体どういう関係なのよ」

 

「…………ヤドカリと貝柄みたいな」

 

「分からないのよ」

 

「でしょうな」

 

 オッホッホ、と笑うスバルとベアトリス。

 

 数秒後、

 

「ゲフッ!?」

 

 座るスバルの足にベアトリスが蹴りを入れた。

 

「冗談は見た目と中身だけにするかしら」

 

「むちゃくちゃじゃないっすか……」

 

 それきりで会話は途切れ、二人は観戦に集中。

 

 その沈黙はしばらく守られるが、不意に

 

 

 ポツンポツン

 

 

 と頭部を柔らかく刺激する雨に破られた。

 

「ゲゲッかしら」

 

 ベアトリスは濡れるのはお気に召さない様子。

 

 二人は木が屋根になる所まで下がり、再び座り直す。

 

「雨雲なんてあったか?」

 

「なかったかしら」

 

 その会話の後、二人は、一方通行が天に向けて手を上げてることに気付く。

 

「────あ、なるほど」

 

 スバルはいち早く一方通行がやろうとしてることに気付いた。

 

 辺りがピカッと光り、轟音が鳴ったおかげだ。

 

 スバルはいつか、一方通行が電気を操るのを見せて貰ったことがあるのだ。

 

「……まさか」

 

 ベアトリスも察し、あり得ないといった風な表情になる。

 

「やっぱアイツとんでもねーな」 

 

「天気を操るのは膨大なマナを使えばできないことはない。でも、雷を任意の場所に落とすなんて聞いたことないかしら」

 

 ピッシャァァーーン!!

 

 と轟音が鳴ったと思えば、ロズワールが地に落ちるのが見えた。少し遅れて一方通行も落ちていく。

 

 そこまで見届けた二人は同時に立ち上がった。

 

「まさか、あのロズワールを……」

 

「信じらんねーな────でも、あれが一方通行という男なんだ」

 

 そしてスバルの『友人』であり『仲間』であり、『()()』である。

 

 気付けば辺りはすっかり静まり、雨音だけが響き渡っていた。

 

 

──────────────────────────

 

 

 

「それで、お前はこれからどうするのよ?」

 

 ベアトリスがスバルに問う。

 

「俺さ、今まで誰かを好きになることなんて無かったんだ。いや、その意味が分からなかった」

 

 唐突の語りに疑問の表情を浮かべるベアトリス。

 何を言ってるんだ、と表情が告げているが、スバルはそれを見ることなく続ける。

 

「でも俺、分かった。多分これが『好き』って感情なんだと思う」

 

 それは一方通行、そしてロズワール邸の全ての住民に向けた言葉。

 

 エミリア、ロズワール、ベアトリス、ラム、そしてレム。

 

 

「────答えは決まってる」

 

 

「何を言って……っ!?」

 

 ベアトリスは驚愕を表す。

 当然、スバルがまた何か語りだしたと思えば、崖に向かって走っていくのだから。

 

「そっちはっ……!」

 

 崖だ、と言葉にする前に、ベアトリスは振り向き、片手を伸ばす。

 

 飛んできた風の魔法を制したのだ。

 

「お前もしつこいのよ──!」

 

 スバルを狙って、風の魔法を放った人物が姿を現す。

 

「ベアトリス様っ、何故ここに!?」

 

 血相を変えたラムが、ついにスバルの居所を突き止めたのだ。

 

 第一波をベアトリスに防がれ、声を荒げるラム。

 

「くっ、しまっ──」

 

 しかしあまりにも不意討ちすぎたために、それ以上の防衛をできず、ベアトリスはラムを通してしまった。

 

 ラムは勢いを止めることなく、スバルに迫る。

 

「お、ラムか」

 

 それにスバルも気付き、振り向く。

 

 だがそれも一瞬。

 

「ラム、それにベアトリス! 月が綺麗だな!」

 

 そんな言葉を残すと、再び正面を向き、ついには崖から飛び出した。

 

「っ、何故……どうして……?」

 

 崖の直前で立ち止まり、落ちていくスバルを見下ろすラム。

 

 まるで理解不能といった表情だ。

 

 無理もないが、標的が落ちていくのを止めることもなかった。

 

 仰向けに落ちていくスバルはラムを見上げながら、

 

「必ず……必ずお前も! レムも! 救ってみせるからな!!」

 

 と力の限り叫んだ。

 

 その言葉にこたえることなく、ラムは呆然と立ち尽くし、スバルの落下を見届けた。

 

 

 その後ろでは、

 

「…………どこに月があるのよ。バカっ。お前も、アイツも、大バカかしら」

 

 

 ──人知れず涙を溢した少女がいた。

 

 

 

 




お疲れ様です。
四本二対なんて言葉はございません。要は左右に二本ずつです。
ところでこの話どうだったですか? よければなにかコメントください!
大分あっさり終わらせてしまいましたが……

あなたの推しキャラ

  • エミリア
  • レム
  • ラム
  • ベアトリス

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