Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう) 作:因幡inaba
朝食会は一切の不安なく終わった。
かつての敵を前に己の何かが燃えることもなく、至極真っ当な態度で一部始終を辿った。
本題の報酬問題だが、一方通行は今回も『客』を選択する予定だった。
ある程度のピースは揃ったが、結局物語の本筋──呪術師という黒幕に辿り着いていない。呪術の絶対条件は触れることなのだから、近いところに必ず黒幕はいるはずなのだ。そこを突き止めないことには進展はない。
更に言えば別のもくろみもあった。
かけられた呪術はしばらく対象に潜伏して発動の時を待つ。発動してからの阻止は不可能だが、潜伏中の呪術を祓うことはできる。
一方通行は今回、レムの動向に付いて自分から呪術に
『一方通行』によって呪術が探知できるかは未知だが、最悪の場合ベアトリス辺りに解呪して貰おうと保険も欠かさない。後は自分に触れた生物を一人一人尋問して消す。
大雑把だがそこそこ勝算の高い賭けだったのだ。
誤算を運ぶのはいつだってパートナーである。
一方通行の思考を嘲笑うかのごとく、スバルは高らかに『使用人』宣言をしたのだ。
その時ばかりはイラッ!!! と一瞬般若のような顔になった一方通行だが、場所が場所だけに鬱憤をため息にのせて吐き出し、かろうじて便乗した。
──それがつい先ほどのこと。
「ほらアクセル、次はこっち」
「……あァ」
つまり現在の彼らは今となっては懐かしい、初の使用人の仕事中。
未だ表情や態度にイライラが滲み出ているが、矛盾が生まれないよう注意を払うのは忘れない。
矛盾とはつまり、この世界において一方通行とスバルは本来知らないことを知っている。仕事においても基本はともかく、特殊な仕事や用具の場所は知らない
(にしてもアイツ、やけに……)
頭に浮かぶのは一方通行にとってある意味最大の厄ネタであるスバルだ。
どうも今回のスバルは明らかに顔付きと態度が違う。
死んだ魚のような顔で訴えてきた二度目三度目とは大違いだ。悪い目付きもいくらか丸く見えた。
──前の世界、あれから何があったのだろうか。
実はその辺のすり合わせがまだできていない。使用人を選んだ時点で業務はすぐに始まり、結局二人がゆっくり話せるのは夜ということだ。
そう考えると今朝は随分無駄な時間を過ごした、と片手間で仕事をこなしながら考える一方通行。
先導するラムは相変わらずの仕事ぶりで、枝切りハサミのような道具で次々と連なる木を不恰好にしていく。
「……ったく」
今は考え事をしながらでも完璧に仕事をこなせる万能な新人使用人がいるとは言え、
「レムがいないときどうしてンだオマエ」
「有事の際、ロズワール様のお付きは基本ラムよ。レムが館にいないことは滅多にないわ」
怪しい質問だが、今回も結局朝食会でラムの仕事ぶりは露呈しているため、一方通行の質問にも違和感を感じること無くしっかりと答えた。
「全くないってこたァねェだろ」
「いいアクセラ? 人は三日四日何も食べなくても死にはしないわ」
「死にはな」
呆れながらため息をつく一方通行を見て、ラムは表情を和らげ優しく笑う。
「──もう、大丈夫みたいね」
その言葉が何を表すか、分からないわけがない。
とはいえ、自ら触れたいようなものでもないために一方通行は無言で歩を進める。
するとその反応が気に入らなかったのか、意地悪な笑みに表情を変えると
「いえ、こんな美少女に手を握ってもらえたのだもの。むしろいい思い出?」
「……バカ言ってンじゃねェよ。自画自賛も程ほどに──」
「苦しむ男の手を握る美少女。するとなんということでしょう。男の顔色はみるみるよくなりました。そして最後に男は感謝の気持ちを込めてこう言うのです」
妙に芝居がかった口調で語るラム。ありそうな童話のクライマックスのような文体はこう続いた。
「アリガトウ?」
「テメェは……ッ!」
怒りのあまりプルプルと体を震わせながら拳を握る一方通行。
肘を曲げて顔辺りまで持っていった拳は感情に従ってゆっくりと下ろされた。大きく息を吸ってからため息のおまけ付きだ。
例えばこれが見知らぬ人間からの煽りであったら、一方通行は躊躇なく拳を振るいその人間を叩きのめしただろう。
それが行われないのは怒りの沸点が下がったからとかではなく、相手がラムだから。ただその一点のみだ。
「次だ、早くしろ」
「つまらない反応ね」
「雲の上旅行するか? あ? 楽しいぞ? 俺が」
「あら、できるものならしてみたいわ」
「……チッ」
背を向けて歩き始めるラムに大人しく着いていく。
それにしても、凄む一方通行を前に嘲笑を浮かべて答えられるラムの胆力は相当なものだ。
ラムの認識ではまだ出会って数時間。そんな彼女の目に、一方通行はどう映っているのだろうか。
答えは──一方通行を無害だと思い、友好的に付き合っていける存在だとしている。
よくも悪くもラムは感情を表に出すタイプ。楽しい時はそれは楽しそうに笑うし、嫌なときは思いっきり嫌そうな顔をする。口調も簡単に綻ぶし歩幅もすぐ変わる。
彼女の中で一度決めたことは覆りにくい。だからこそ、
──一方通行が『無害』ではない……いや、極めて『有害』であると気付くのもずっと先のことなのだ。
☆
「だぁーーっくそ! 滲みるぜ……っ痛たた」
湯船にゆっくりと沈みながら顔を歪めるスバル。
その手には今日の仕事の様子を表す、何枚かの絆創膏が貼ってある。
当然そこに大した理由はなく、二回目でも結局料理の腕は上がってませんってだけだ。
「オマエ……いや、いい」
「おい! なんだそのこのバカまたやってやがる……みたいな顔は!」
隣で座り、哀れみの顔でスバルを見るのは一方通行。
一日目の仕事を終えた彼らを待つのは風呂とベッドのみ。つまりようやく二人で話せる時間というわけだ。
「くぅ……前回のワンコロの時といい。もうちょっとこう、痛い思いしてる同僚に思いやりの心とか持とうぜ?」
「……」
返事の言葉無く、鋭い目線をスバルに向ける一方通行。
言わんとしていることは直ぐに分かる。
スバルが無駄に明るいことに一方通行は常に疑問を抱いていた。
そしてそういう疑問を持たれているだろう、という自覚がスバルにはあった。
故に、「本題に入れ」と無言の圧力が訴えるのも簡単に受け取れる。
──スバルは前回、つまり三度目の世界で辿った道を語った。
一方通行は口を挟むことなく全てを聞き終えると、「ハッ」と小さく笑った。
「高みの見物たァ、偉くなったな」
だが、一方通行はその言葉がひどく場違いなものだったと直ぐに気付くことになる。
スバルが語った決意というのは、一方通行の理解を遥かに上回っていたのだから。
「……強くなりたい。誰一人欠かしたくない。ここにいる人達が、俺のなかでこんなに大きかったんだって。
「──俺ってこんなに弱かったんだって気付いちまったから」
言葉の一つ一つに重みがあった。
霞むことのない意志を感じた。
心に届く力強さが、揺るがない決意が、奪えない情熱が、
──一方通行には無いものが、あった。
「一方通行」
「ッ……?」
「こ、こんな感じでどうっすか?」
一瞬気圧されていた一方通行は直ぐに気持ちを改める。
下手な笑みを浮かべるのは、一方通行が最もよく知る『ナツキスバル』だった。
──嗚呼、オンオフの切り替えが早い奴だ。
スバルの言葉に嘘、またその類いは一切無い。
であれば、相応の態度で示すのが一方通行の義務だろう。
「──足引っ張ンじゃねェぞ」
「っ。あ、あぁ!」
分かりにくいが、それは対等を表す言葉だった。
この絶望のループを抜けるための戦力、その一つとして認められた。
何より、まだまだ先にいる一方通行に一歩近づけたのがスバルにとっては嬉しかった。
たかが一歩。倍近くのスピードで歩く一方通行に一歩距離を詰めたところで、差は依然として大きい。
──されど一歩だ。
ゼロと一の差は『ない』か『ある』か。それがどれほど大きいかは、数字で表せないものが世にどれだけあるかと考えれば答えは出る。
立ち上がり、湯気の中を歩いて出口へと向かう一方通行。
「後で俺の部屋に来い」
そう言葉を残し、浴場を出ていった。
残されたスバルは密かに拳を握った。別に怒りのポーズではない。
それはこの上ない歓喜の表れ。
「──やっと、
目付きを精一杯柔らかくした穏やかな笑みを、浮かべた。
お疲れ様です。
もう二章クライマックス一直線ですね。
一方通行にも『ある』を自覚するときが来ます。
※全て本ss上での話です。
では次回また会いましょう。よければ評価感想お願いしますm(_ _)m
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