Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう) 作:因幡inaba
魔法器とは。
本来魔法を使えない者でも魔法を使えるようになるという優れものである。
希少であるが故その価値は当然高く、簡単に手に入るような物ではない。
だが貧民街の一角にある盗品蔵では今まさに魔法器の取引が行われようとしていた。
「その魔法器こそ俺が持つ『ケイタイデンワ』であり、その力は時間を切り取って凍結させるというこの世界ではなんとも驚きな──」
「誰に向かって喋ってるの?」
おっと、せっかく語り部っぽく説明してたのにサテラに水を差されてしまった。
現状はそんな感じ。
盗品蔵にたどり着いた俺とサテラ。
待ち受けたるはサテラから何かを盗んだ張本人である金髪のショートカットに八重歯を除かせた少女フェルト。
そしてフェルトの仲間だと思われるやたらでかい爺さんのロム爺。こちらは巨人族らしく、確かにその名通り太い腕に棍棒を握っていて巨人っぽい。素人目でもやばいってことが分かる。
俺は最初こそ戦闘になるのでは、と思ったが、どうやらサテラは巨人族からしてもやばいらしい。俺には純粋な美少女にしか見えんが。
さすがに目の前で戦争はやめてほしいので俺が取引を提示することでなんとかテーブルにつくことができた。
いやほんとに大変だった。
主にサテラを治めるのが。
だってこの娘、
「盗られたものを返してもらうのにどうしてお金が必要なの?」
の一点張り。いやそりゃ正しいことではあるが、正しいことが簡単に通るような世界ではないのは一目瞭然。
そこで収拾つかなくなる前に俺がパシャっとしたわけよ。
それにしてもホントにカメラが無いとは思わなんだ。まぁ今回はそれで助かったんだけど。
「で、どうする? そっちの爺さ……ロム爺曰く聖金貨20枚以上の代物だ。これで手を打たないか?ていうか打とうぜ」
「だから、スバルがそれを出す必要はないんだけど」
「いいっていいってこんくらい」
「こんくらいって、聖金貨の価値分かってるの?」
「もっちろん」
分かってない。
だが携帯電話の機能のほとんどが使えないことは分かってる。せめて一方通行と繋げれば、と思ったけど案の定圏外だし。
「ま、これがあるのがそもそもチートなのか。ううむ……しかし……」
元の世界の道具が残ってるのは俺tueee!的なアドバンテージとなりうるのか……。これは難しい問題だ。脳内会議でも結論が出そうにない。
なんにせよ異世界転生者の特権であることには変わりないし、存分に使わせてもらおう。
これで話が通ると良いんだが……
「なるほどなるほど。そっちの手札はよーく分かったぜ。」
あ、これはダメなパターンだ。このあと続く言葉は、でも、とかしかし、とかだろうな。
「だけどよ、」
微妙に外してきたよ。ていうかサテラを前によく否定の言葉が出てくるな。そっちの巨人ですら恐れてるってのに。
このガキの自信はいざとなったら逃げれるってことだろう。確かにこいつが本気で逃げようと思ったら捕まえるのは困難だし。
「あたしゃ別口からこいつを依頼されたんだ。今は交渉の場。同じ条件。同じテーブルじゃねーと平等じゃねーだろ?」
なるほど。交渉に持ち込んだのが仇となったか。
「何やってんだ俺っ...」
役に立つどころか足引っ張ってる事実に俺涙そうそう。
「平等、ね……」
サテラが隣にいる俺にしか聞こえないほど小さく呟いた。
その微妙に歪んだような表情は、いやに俺の心をゆさぶった。
──────────────────
コンコン
しばしの静寂の後、入り口の方から音がした。ノックの音に間違いない。
「多分アタシの客だ。心配すんな、今さら逃げやしねーよ」
そう言いつつ立ち上がり、入り口の方へと駆けていくフェルト。
先に釘を刺され、何も言わず見送るしかないスバルとサテラ。
「客か、穏便に済むといいけどな」
「そうね。まぁ、済まなくても取り返すけど」
サテラの意志は相当硬い。いざとなれば力ずくででも取り返すといった感じだった。
一方スバルは何か引っ掛かることがあり、表情を固めた。
「そういやなんでこいつらは……っ!! 行くなフェルト! 殺されるぞ!」
咄嗟に大声で叫んだが遅かった。その客はフェルトの後ろから入ってきてしまった。
「殺すなんて。そんなおっかないこといきなりしないわよ」
露出の多い黒装束に身を包んだ女がそう言った。
そしてその声にスバルは聞き覚えがあった。
(間違いなんかじゃない……!)
「サテラ、逃げるぞ」
「え、えっ……?」
そしてサテラを見て逃走を促そうとした。が、当の来客もスバルにつられて見てしまった。サテラの姿を。
「そう、関係者だったの。前言撤回」
そう言うなり懐からククリナイフを取り出してサテラに襲いかかった。およそ人とは思えないスピードであり、スバルは目で追うのがやっとだった。
咄嗟にサテラの前に入ろうとするも、間に合うわけがなく、まさにサテラにナイフが届く...瞬間。
ガキィン
っと甲高い音が盗品蔵に響いた。
お疲れ様です
ところで自分、高評価乞食いいっすか。はい冗談です
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