Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう)   作:因幡inaba

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6話

「精霊術師を舐めないこと。敵に回すと怖いんだから」

 

 氷の盾。

 サテラが展開したであろうそれはナイフによる攻撃を防いでいた。

 

「その通り!」

 

 少し遅れてサテラの頭の上に飛び出したパックが意気揚々と言い放った。

 

「精霊、精霊ね。ふふっ。嬉しいわ。精霊はまだ斬ったことがないから」

 

 女は物騒なことを言いながら少し後退した。

 

 そして今度は両手にナイフを持ち、

 

「腸狩り エルザ・グランヒルテ」

 

 そう名乗って次の攻撃の構えをとった。

 

「なんつぅ二つ名だよ……」

 

 スバルはサテラの後ろで呟いた。

 今自分にできることはなにもない。スバルは理解しているからこそサテラからも少し距離を取った。

 フェルトとロム爺もそれに習い、スバルの近くへ寄った。

 

「おい! あんたの仕事は徽章を買い取ることだったはずだ! ここを戦場にしようってんなら話が違くねーか!?」

 

 フェルトがエルザに向かって叫ぶ。

 

「持ち主まで連れてこられたら仕事なんてとてもとても。だから予定を変更したのよ」

 

 エルザは構えのまま目線だけをフェルトにやり、微笑んだまま言った。そしてその表情のまま冷酷に告げる──

 

「この場の人間は皆殺し。その上で徽章を持ち帰らせてもらうわ。あなたは役目を全うできなかった。切り捨てられても仕方ないわね」

 

 冷ややかに告げられる侮辱の言葉。

 フェルトは表情を強張せ、目を震わせた。ただしそれは恐怖によるそれではない。言うなればトラウマが蘇ったような───

 

「ふざけんじゃねぇぞ!」

 

 そんな中、一際大きな声が響いた。

 その場にいる皆が発生源であるスバルに顔を向ける。

 

「こんなちっこいガキを虐めてなにが楽しいんだ! この腸大好きサディスティック女が! 刃物で腹を切られることがっ、死ぬことがどんだけ苦しいか、辛いか、知らねぇだろ!? 俺は知ってますぅ!!」

 

 スバルの勢いのある演説に周りは沈黙を守り続けた。

 

「更に言わせて貰えばなぁ! なんでこのタイミングで出てくんだよ!? 明らか仕込んだとしか思えねぇタイミングじゃねぇか! カメラでも隠れてんのか!? ドッキリ大成功にはぴったりだろうがそうでなかったら最悪だわ!! でもってドッキリである可能性をまだ期待している俺氏がここにいるのでした」 

 

 全員が、何を言ってるんだ、という顔でスバルを見るなかパックは両手を広げて言った。

 

「後世に残したいほど見事な無様さだったけど、役には立ったよ」

 

「おっしゃ! やっちまえパック!」

 

 同時にパックの頭上に発生していく大量の氷柱。どれもが尖った先端をエルザに向けている。

 

「僕の名前はパック。名前だけでも覚えてから、逝ってね」

 

 喋り終えた瞬間実に20を超える氷柱が、エルザの身体へと叩きつけられた。

 

───────────────────────

 

 

 スバルが元いた世界でも氷柱の落下によって人が死んでしまうという話は珍しくなかった。

 

 所詮氷だと舐めていてはいけない。実際かなりの硬度を誇る氷は尖っていれば人体を易々と貫く。

 

 そんな氷が今まさに一人の人間に放たれた。それも一つ二つなんてものではない。その数はゆうに20を超える。

 

 普通の人間に耐えられるはずがない。

 

「やりおったか!?」

 

「それは言っちゃいかんだろうがい!!」

 

 肝心なとこで無駄口を叩いた禿頭。こういうのはフラグと称される。そして、

 

「──備えはしておくものね。着てきて正解だったわ」

 

 大抵回収される。

 氷柱が生んだ白煙から覗かせた外套を脱ぎ捨てたエルザ。その身体には傷一つ見えず、氷柱が放たれる前とは外套がないくらいの差しかない。

 

「まさか外套が重くて脱いだら身軽になるピッコロ的なやつか?」

 

「それも面白いけど、事実はもっと単純。私の外套は一度だけ魔を祓う術式が編まれていたの」

 

 スバルの問いに丁寧に答える。

 そして一度落としたナイフを拾い上げ、目線をサテラに移し、低い体勢で飛びかかった。

 だが再びサテラの前に展開された氷の盾によって防がれる。更にパックによる氷柱の攻撃も始まり、常に動き続けなきゃいけない状況を作られた。

 エルザを追うように次々と放たれる氷柱を、エルザは避けれるものは避け、避けれないと感じればナイフで叩き落とした。そうしながらサテラに近づくも、近づく度に氷の盾によって後退させられる。

 

明らかに優勢だ。

 

「あれじゃ。片方が防御し片方が攻撃する。場合によっては片方が時間稼ぎして片方が大技で決めるなんてこともできる。精霊術師に会ったら武器と財布を投げて逃げろ、というのが戦場のお約束じゃな」

 

 ロム爺の説明を受け、スバルはロム爺がサテラを恐れていたことに納得した。

 実質二対一の状況。この優位はよっぽどのことがなければ覆らないだろう。

 

「ところで爺さんは何をしようとしてるんだ?」

 

「隙を見てエルフの嬢ちゃんに助太刀をな。まだあっちの方が話が分かりそうじゃ」

 

「止めとけって!! どうせ右手と首を切られるのがオチだ!!」

 

「具体的な負けかた言うでない! 本気で切られた気がしてきたわ!!」

 

 実際一回目撃しているのだから説得力があるだろう。スバルの鬼気迫る表情にロム爺は本気で嫌がった。

 

 そんなやり取りの中でも戦いはヒートアップしている。

 圧倒的有利ではあるが、エルザはその差を微塵も感じさせない立ち回りで全ての攻撃をかわすか叩き落としている。

 常人離れした身のこなしに巧みなナイフ捌き、時には壁を走り、重力を無視した回避行動を取った。

 エルザのナイフがサテラに届くことはないが、サテラとパックの攻撃がエルザに入ることもまたなかった。

 

「戦い慣れしてるなぁ、女の子なのに」

 

 エルザの神業と表現するしかない動きにパックは素直に感心した。

 

「あら、女の子扱いされるなんて随分久しぶりなのだけれど」

 

「ボクからしたら大抵の相手は赤ん坊みたいなものだからね。それにしても不憫なくらい強いんだね、君は」

 

「精霊に褒められるなんて恐れ多いことだわ」

 

 賛辞の言葉に素直に喜ぶエルザ。言った方にはまだ声に余裕が感じられた。

 

「ここままだとmp切れで負けるんじゃねーの?」

 

 スバルが元の世界で培った知識から推測できることを言った。実際にはゲームで必須な知識なだけだが。

 

「えむぴーがなんなのかは知らんが、精霊術師がマナ切れで負けることはない」

 

「マナか、覚えておくとしてそりゃどういうことだ?」

 

「精霊術師は己の中にあるマナを使わないからの。世界が枯渇しない限りマナ切れはありえん」

 

「要はガソリン無制限でエンジンふかし放題か、なんたるチート職」

 

 またもや何言ってんだこいつ、みたいな顔をしたあとロム爺は補則するように言った。

 

「精霊がいつまで顕現できるか。場合によっちゃ戦況は一気に傾くぞい」

 

「何? 精霊って時間制限付きなの?」

 

「そんなことも知らんのかお主は……」

 

 ロム爺が哀れむように言った。

 一回目の世界ではスバルはパックとあまり行動を共にしてなかったので初耳なのだ。

 嫌なことを聞いてしまった、とスバルは思ったがそんな話がされてるとも知らずに戦っている二人は、

 

「あ、マズい。ちょっと眠くなってきた。むしろ今寝ながら戦ってた」

 

「ちょっとパック! ちゃんとしてよっ」

 

「……はっ! ボク寝てない! 全然寝てないよ!」

 

 なんて会話を小声でしていた。

 

「今めっちゃ不安な話してたけど!?」

 

 だがスバルよりショックなのはむしろ戦っているエルザだった。

 

「せっかく楽しくなってきたのに、心ここに在らずなんて、つれないわ」

 

 完全に戦闘狂のそれだが、これは本心だろう。

 

「モテるオスの辛いところだね。女の子の方が寝かせてくれないんだから。でもほら、夜更かしするとお肌に悪いしさっ」

 

 氷の雨が一瞬止み、エルザが体勢を整えようとしたところでパックは器用にウインクした。

 

「そろそろ幕引きといこうか。同じ演目も見飽きたでしょ?」

 

「! 足が……」

 

 体勢を整え、跳躍する瞬間エルザの身体はカクン、とその場に膝をつくことになる。

 無数の氷柱によって散らばった氷に片足を奪われていた。

 

「してやられた、てことかしら」

 

「無目的にばらまいていた訳じゃ、にゃいんだよ?ま、年季の違いだと思って素直に賞賛してくれていいとも。じゃ、オヤスミ」

 

 両手を胸の前に持っていったパックは今までとは比較にならないほどのエネルギーをエルザ目掛けて放出した。

 

 足をとられているかつあの威力の攻撃だ。さしものエルザでも耐えられるわけがない。

 

 直撃していれば、の話だが……。

 

「嘘だろ……」

 

「嘘じゃないわ。あぁ素敵。死んでしまうところだった」

 

 エルザの取った回避行動にパックは不満を抱くように、

 

「女の子なんだから。そういうのはボク、感心しないなー」

 

 と、呆れた表情で言った。

 

 パックの攻撃をかわしたエルザの足元はおびただしい量の血が溜まりを作っていた。

 それもそのはず、氷につかまっていた足の側面がバッサリと切り落とされているからだ。

 

 つまり片足を犠牲にして辛うじて避けたということだ。

 

「パック、いける?」

 

「ごめん、舐めてかかった。マナ切れで消えちゃう」

 

「あとはこっちでなんとかするから。パックはゆっくり休んで」

 

「君に何かあったら、ボクは盟約に従う。いざとなったらオドを絞り出してでもボクを呼び出すんだよ」

 

 そんなやり取りの直後、パックは透けはじめ、やがて雲散して消えた。

 

 

────────────────────────

 

 

次回予告ぅ

ナレーションスバル「均衡を保っていた戦いはパックがいなくなったことにより一気に傾く。ピンチを悟ったロム爺やフェルトはサテラに加担し、エルザへと挑む。ちくしょう、動けよ俺の足!ここでも足手まといになるわけにはいかねーだろ!!最終局面へと向かう戦いの最中、エルザの攻撃はさらに激しさを増す。俺の頭に『死』の文字が浮かんだ時、ついにあの男が現れた!さぁアクセラレータお前の力見せてやれよ!次回、Re ゼロから始める一方通行イッポウツウコウ、『最強の名乗り、主役登場!!』ぜってぇみてくれよな(悟空風)」

ナレーション一方通行「さァお前ェら、こっから先は一方通行だ!!」

 




次回予告は遊び。
お疲れ様です。

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