「プリキュア版深夜の文字書き1時間一本勝負」に参加した作品を文字数の関係でまとめて投稿しています。

◆残香
(第98回・Go!プリンセスプリキュア・紅城トワ・2017年5月27日、Pixivさまにて初公開)
 感じる紅
 残る香
 想い出してしまうのは…

◆海、とても青くて…
(第99回・Go!プリンセスプリキュア・春野はるか・海藤みなみ・2017年6月3日、Pixivさまにて初公開)
 連れて行った海、
 綺麗な海、そして、綺麗な…
 だから、もっと好きになってしまいそうで

◆これからたくさんの記念日を
(第100回・Go!プリンセスプリキュア・天ノ川きらら・紅城トワ・きらトワ・2017年6月10日、Pixivさまにて初公開)
 片想い、
 困難が沢山、
 でも、笑顔のためなら…

◆年末の素敵なごあいさつ
(最終回・ドキドキ!プリキュア・相田マナ・菱川六花・マナりつ・2017年12月30日、Pixivさまにて初公開)
 一年の終わり、素敵な挨拶
 でも、今年はいつもと違って…

1 / 1
「プリキュア版深夜の文字書き1時間一本勝負」参加作品(8)

◆残香

 

「ぁっ…」

 もう夕方でしょうか。夕暮れの色が窓の外を覆っています。

 一緒にお昼を食べた後、きららはお仕事なので私はひとりでお勉強していたのですが、夜遅くまできららとお話していたからでしょうか…少し眠くなってしまって、少しだけ、と思ってベッドに横になったのですが…結構寝てしまったようです。

「これは…やってしまいました」

 目をこすると自然と出てしまう小さなあくび。

 私は軽く頭を振って机に戻ることにしました。

 先ほどまで勉強していたのは…ノートをめくっていると視界の隅に紅い色が飛び込んできます。

 机の下、紅いリボン。

「きららったら…」

 洗濯物をしまっているときに落としたのでしょうか。

 私はそれを拾い上げて、ほこりを払います。

「また、洗わないとだめかもしれませんね」

 ほこりは取れましたけど、床に落ちたものを身に着けるのは嫌でしょう。

 後で戻った時に渡してあげ…いえ、洗って渡してあげましょう。

 そう思って洗い物のかごの中に入れることにしました。

 かごに持っていく途中、ふいにきららの香りが漂ってきました。

「きらら!? 帰っているのですか?」

 でも、私の声に対する反応はありません。

 ベッドを調べても、きららはいません。

 どこかに隠れているわけでもないようです。

「きらら…」

 再び、きららの香りが届いてきます。

 どうしてでしょう?

 その時、自分の右手に握るリボンの存在を思い出しました。

 鼻に近づけて、漂うのは洗剤の匂いではなくてきららの香り。

「もしかして…」

 髪からほどいてそのままここに落としてしまったようです。

 最近忙しかったようですから、リボンまでは気が回らなかったのでしょうか。

「おつかれさまです」

 きららと同じ香りがするリボンにささやきます。

 応えてくれないですが、きららと同じあたたかさも感じます。

「きらら…」

 ぎゅっとリボンを胸に抱いてきららのことを想います。

 私のことをたくさん、たくさん、助けてくれるきららのことを。

 大切で、愛しい、きららのことを。

「早く帰ってこないでしょうか…」

 きららの香りに包まれていたら逢いたくなってしまいました。

 でも、今日も遅いのでしょうか…

「きらら…」

 私は祈りを込めるようにそのリボンにくちびるを押し当てます。早く帰ってきてくれるように、と。

 リボンの紅い色は外の色が深くなるに連れてくすんでいきます。

 でも、その香りだけは更に、更に、深まっていくよう。きららが本当にいるかのように。

 だから…私のくちびるはそのリボンから離れられませんでした。ずっと、ずっと…

 

 

 

◆海、とても青くて…

 

「海、好きなの」

 4月の海、その言葉は少し冷たい海風に流れて溶けて、でも、その想いはとっても胸にしみて、

「この、広くて、すべてを受け止めてくれるような、そんな海…」

 潮風に揺れる長い髪、わたしはくせっ毛だからその長い髪が少しうらやましかったり。

「そんな海をはるかも好きになってくれたら嬉しいわ」

 こちらを振り返るみなみさん。わたしが海のない県から来たって聞いて連れてきてくれて。

 髪は海のきらきらに映えるようにもっときらきらに見えて、

 風になびくのもとっても絵になっていて、見とれちゃってた。

「ね、はるか」

 みなみさんが一歩、近付いてくる。

 砂を踏む裸足も白くてうらやましいなぁって。

 海はずっとあこがれだった。

 生まれたところは海からずっと遠くて、夏休みくらいしか連れて行ってもらえなかった。

 大きな海を初めて見た時は本当にびっくりしちゃった。

 だから、中学校が海のそばでとっても嬉しかった。

 ずっとあこがれていた青い海、いつも夢に見ていた白い砂、そして、海に縁が深いみなみさん。

 わたしがみなみさんに憧れるのは、もちろんお姫様みたいに素敵なところも、とてもやさしくて暖かいところもだけど、海に縁が深いこともだったのかも。

「はるかも海のこと、好きになってくれる?」

 少しだけ、心配そうな音が混ざるみなみさんの声。

 風はやさしく、わたしたちを包んでくれる。

 わたしはただ、じっと、みなみさんを見つめたままで何も言えなくて…

「好きになってくれたら、嬉しいわ」

 念を押すような言葉、わたしはゆっくりうなずいた。

 みなみさんはとても綺麗で、その奥に見える海の青があまりに綺麗すぎて…わたしはずっとみなみさんの瞳を見つめながら…

 

 

 

◆これからたくさんの記念日を

 

 赤い、紅い、その瞳。

 あたしは時々、その瞳に吸い込まれるような気持ちになる。

 それは、その瞳があたしをとらえて離さないから、かも。

「きらら? どうしたのです? 私のことをそんなに見つめて」

 あたしの名前を呼ぶその声も甘くて好き。

 吸い込まれそうな瞳、甘い声、全部好き。

 なんて、言えるわけないから、あたしはその言葉を飲み込んで、

「なんでもないよ」

 って答えるだけ。

 そのたびにトワっちの声は少しだけトーンを落として、

「そうですか…」

 って出てくる。

 本当は言いたいけど、無理だよね、こんなこと。

 まさか、一国の王女様に恋をしているなんて、バレたらどうなっちゃうかわからない。

 色々な人から妨害されちゃうのかな? それとも、引き離されちゃう?

 もしかしたら、転校させられちゃう?

 考えると後から後からあたしの頭の中はなんか変な考えで沢山浮かんできちゃう。

 頭を軽く振ってその変な考えを追い出して。

「なんでもないからね」

 もう一度、あたしはトワっちに伝える。

 トワっちの表情は少し曇って、ちょっと気を悪くさせちゃったかなって反省。

 でも、そんなトワっちも可愛くて、あたしの胸はときめく。

「そういえば、こんなものをつくってみたのですよ」

 表情を戻して、棚から取り出したトワっちの手には小さいホールケーキ。

 沢山装飾されていて白いホイップがとても綺麗に飾り付けられてる。

「どうしたの? とってもおいしそう」

 あたしの言葉にまたトワっちの表情が曇る。

 まずったって思うけど、トワっちの求める答えはどうしても出てこない。

「えっと…」

「100日…」

「え?」

 あたしはその100日という数字に何も思い浮かばない。

 100日前…あたしはもうすでに入学していて、プリキュアもしていて…なんだろう?

「初めて逢ってから100日です」

「え…」

 トワっちの答えを聞いてもあたしには思いつかなくて…

 それが顔に出ちゃったのか、トワっちの顔がまた曇ってきちゃう。

 こんなトワっちは初めて見るけど、どう考えても気分を悪くしているよね。

「も、もしかして…」

 それでも、あたしは記憶をたどって、

「トワイライトとして逢った時から?」

 その言葉にトワっちは嬉しそうな顔をして、

「はい、その通りです」

 笑顔を取り戻すトワっち。

 その笑顔にあたしは胸がキュっとなるのを感じちゃう。

「初めて逢った、っていうのかな…」

 だって、あの時はあたしたちは敵として出会ったわけだし…

「それでも、きららと生まれて初めて逢ったことには変わりないです」

 トワっちはお皿も用意して、フォークも用意して、包丁で切り分けようとしてる。

 あたしは椅子に座ってトワっちが切り分けていくのを見てた。

 綺麗な手つきで切り分けるのはやっぱりプリンセスっぽくて、見えない距離を感じる。

「どうしました? きらら」

 あたしはまた変な考えが浮かばないように頭を振って、

「なんでもない」

 そう言葉をかける。

 その手を見ながらあたしは頭の中で考えを巡らせる。

 こんな、記念日ではなくて、もっと素敵な記念日を沢山作りたいなってことを。

「…ううん、もっと、トワっちと素敵な記念日をたくさん作りたいって思って」

 あたしの珍しい本音。

 返ってきたのはトワっちの少し驚いた顔。

 それも、すぐに変わる。

 あたしの大好きな優しい笑顔に。

 

 

 

◆年末の素敵なごあいさつ

 

 それは、いつもは私の家族と、マナと、マナの家族にしか伝えたことがない言葉だった。

 一年の終わりのいつものご挨拶。

 特にマナには、心から、そうなってもらえるように、想いを込めて毎年伝えてきた言葉。

「よいお年をね、マナ」

 小さいときは大人たちが使っているのを真似て意味が分からずに言っていたけど、意味を知り、私はその言葉を伝えるのがとても素敵なことだと思うようになって、さらに特別な言葉に思えるようになって、毎年とても楽しみになった。

 毎年一回の特別の言葉。

「よいお年をね、マナ」

 ここ最近はどちらかの家で夜遅くまで起きていて、ちょうど年が変わるか変わらないかの時に伝え合うようになった。

 そうやって、私たちの仲が良くなるにつれて伝え方も変わって、それはとても幸せで。

 でも、今年は違っていた。

 近所の神社、私とマナだけじゃない。

 ありすも、まこぴーも、亜久里ちゃんも、レジーナもいる。

 沢山の仲間と迎える初めての年越し。

 沢山の人々の沢山の笑顔、幸せな空気があふれる参道。

 私たちはたくさんの笑顔で他愛もない話をしていた。

 それは、今年あったこと、楽しかったこと、これからのこと、本当に他愛のない話。

 でも、そんな、他愛のない話に私は幸せを感じていた。

 こんな素敵な年越しがあるなんて。

 そう思いながら、私はおしゃべりに興じていた。

 

 ふいに、周りが静かになる。

 私たちもおしゃべりを止める。

 場所の整理をしていた係の人の言葉がマイク越しに響く。

 残り30秒、カウントダウンがわずかずつ始まる。

 うれしそうな顔でカウントダウンに参加する亜久里ちゃんとレジーナ。

 私はマナの服の裾を軽く引く。

「どうしたの?」

 マナは顔を向けて小さくささやく。

 私はその顔に笑顔を向けてささやく。

 残り10秒、大きな笑顔を向けて、

「よいお年をね、マナ」

 私の言葉にマナも笑顔を向けてささやいてくれる。

「よいお年をね、六花」

 お互いの笑顔が重なったとき、カウントダウンが終わる。

 私たちは笑顔を重ねたまま、新しいご挨拶。

「今年もよろしくね、六花」

「私こそ、よろしくね、マナ」

 お互い笑顔を交わしながら、私は思っていた。

 今年の末も、来年も、ずっとこうやって笑顔でいられたら。

 そんな、願いを。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。