Muv-luv Over World   作:明石明

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新年あけましておめでとうございます。
ここ数日でお気に入りが一気に増えて驚きを隠せない作者です。
今年も更新を続けられるよう努力しますので、よろしくお願いします。




第9話

国連軍横浜基地 神林零の執務室

 

 

「……ふぅ、こんなもんか」

 

 

 手元のデータで戦術機に転用しやすい武器と機体技術を大まかにまとめ、内容を確認する。

 初めは戦術機シミュレーションでMSの武装をそのまま使ってみようとしたが、やはりプログラムの壁にぶち当たりロックオンや残弾確認ができない致命的欠陥が発生した。

 しかも修正なんてしようのものならバカみたいな時間がかかる。

 というわけで、戦術機が使用することを前提にした新しいビーム兵器を開発することにした。

 それに当たってまず武器のピックアップと、戦術機の強化改修プランを組んだ。

 原作を見ていても思ったが、この世界は武装よりも機体性能を重視しすぎている。

 BETAを殲滅するなら使い手によって戦果にバラツキが出る戦術機を強化するのではなく、誰が使っても同じぐらいの戦果を挙げられる火器を用意すべきだ。

 せっかくS-11という高威力の爆弾があるのに、これを自決用にしか使ってないのだ。他にも使い道はあるだろうに。

 

 BETAの最大の武器は圧倒的物量だ。それなのに一体ずつちまちま倒してたら、弾薬も推進剤もすぐなくなるのは自明の理だ。

 だから俺がまず提唱するのはーー圧倒的火力による広範囲殲滅である。

 この戦術は周りがBETAしかいないという限定条件があるものの、火力にモノを言わせたゴリ押し戦法だ。

 分厚い弾幕を維持出来れば、いかにBETAの物量といえど耐え切るのは難しいだろう。

 さっき例に挙げたS-11だって、打ち出すタイプの地雷として使ってみればかなりの効果を発揮できるはずだ。

 

 発想の観点は米国とあまり大差ないが、だからと言って武装を全てライフルやキャノンで固めると言ったことはしない。それだけで済むなら人類はまだまだ余裕ある戦いを続けているからな。

 高火力の射撃一辺倒ではなく、そのままハイヴに突入して近接も十分にこなせるというのが理想形だろう。

 ひとまず序盤でBETAの数を一気に減らせる機体として、試しに撃震をベースにガンダムヘビーアームズ改(EW)のダブルガトリングと全ミサイルコンテナを装備させてみた。

 流石に全体重量は半端じゃないほど重くなったが、既存の戦術機から見ればあり得ない弾幕形成能力を有する機体へと変貌した。

 

 一番の弱点は機体重量と弾薬のコストだな。ただ重鈍にみえる通り、火力と防御力は今までの撃震の比ではない。

 どうせ修正によって武装を削ることになるだろうが、ひとまずこの改造プランを撃震・轟火(ごうか)と命名しよう。

 次に支援車両である戦車の強化だ。

 機動力は申し分ないが、砲弾を一発撃つ度に足が止まってしまうという欠点がある。

 

 ならば足が止まらないで撃てるように改造すればいいじゃないか。

 そこで参考にしたのがモビルタンクという異色ジャンル代表、ヒルドルブだ。

 見た目は戦車にMSの上半身を乗せただけに見えるが、それを格納した高速移動形態へと変形する。何より戦車でありながら両手を兼ね備えているので、マニピュレーターを調整すればMSの武装がそのまま流用できる。

 つまりビームライフルは言わずもがな、強度やエネルギーの問題をクリアすればバスターライフルだって撃てるという訳だ。

 しかもこれはほとんど戦車を操縦するような感覚なので、衛士としての適性がない人でも操作が可能となる。

 ……どう考えても生まれてくる世界を間違えたな、ヒルドルブ。

 後は小型種に群がられた時の対策として車体の淵にベズ・バタラみたいなビームブレードを展開できるようにしよう。

 これだけでは根本的な解決にはならないが、走るだけで敵を倒せるのは大きいだろう。上からの攻撃には死ぬほど弱いが、元々前に出る機体じゃないからしかたないな。

 開発コード名は……ひとまずTX01としておくか。

 

 あとは通常の戦術機で使用するライフルだが、ここでは通常で使用する36mm弾と120mm滑腔砲の両方を搭載した突撃砲が主流だ。

 ならばギラ・ドーガのビームマシンガンを改造して継続性を高め、なおかつ瞬間火力を強化したMS版突撃砲を作成しよう。

 近接武器はビームサーベルとアーマーシュナイダーで十分だろう。冥夜あたりはガーベラストレートみたいな実体剣の方がいいかもしれないが、持たせてやるのはまだ無理だな。

 あとは頭部にバルカンポッドをとりつけたり支援武器としてマイクロミサイルと長距離ビーム砲を作りたいが、武器の衝撃に耐えられるような機体の改造も必要になるな。

 

 

「……プランは幾つか上がっているが、衛士の意見が欲しいな。特に不知火」

 

 

 これに関しては防御力よりも機動力を重視した改造プランを立てている。

 というか戦術機の対BETA戦では、どう考えても胴体部の被弾=絶望的状況一歩手前としか思えない。

 ならば当たらないように動ける機体を開発する必要があるのだ。

 フルバーニアンみたいな胸部スラスターでの180度緊急後退とかあったら回避で絶対役立つはずだ。

 強力なパンチを持つことで定評のある要撃級の一撃も真後ろに下がって余裕です……あれ、これって実は実用性高くないか?

 戦術機も逆噴射制動で真後ろに下がることは出来なくはないけど、咄嗟の入力や跳躍ユニットが損傷していた場合うまくいかない可能性がある。だがこれなら少ないリスクで急後退が可能だ。

 あとは補助スラスターを脚部や肩に増設すれば急回転も加わってさらに機動性が上がる!

 パーツの関係で各部が巨大化するが、これは今後の課題だな。

 しかしいいぞ! 回避力の向上は生存率の向上に繋がる! 回避手段は多い方がいいに決まってるからな!

 レーザーに対してビームコーティングが有効ならばなおよろし!

 

 

『中佐。グラハム・エーカー大尉、ニール・ディランディ中尉が到着されました』

 

「おっと、了解した。俺の部屋まで案内してくれ」

 

 

 ピアティフ中尉の通信で上がりかけたテンションを抑え、来客を受け入れる準備をする。

 さあ、果たしてこちら側に来てくれるだろうかね。

 

 

 

国連軍横浜基地 滑走路。

 

 

 輸送機から降り立ち、ニールは面倒臭そうな顔で基地を眺める。

 

 

「……来ちまったよ、魔窟とやらに」

 

 

 アメリカを経由して何時間も空の上にいたためただでさえテンションが落ちているのに、自分が魔女の窯の中に片足を突っ込んでいると思うとテンションがさらに乗で下がりそうだ。

 

 

「さっさと会って帰りたいもんだ……ん? 輸送機がもう一機だと」

 

 

 別方向からやってきた輸送機を発見しなんとなく眺めていると、顔に大きな傷跡がある金髪の男が現れた。

 認識してから数秒、ニールは驚いた。

 

 

「アフリカのグラハムじゃないか。あいつも呼ばれたのか?」

 

 

 自分の名前が聞こえたのか、グラハム・エーカーはニールを発見するなりまっすぐに向かって行った。

 

 

「まさか、よもやこの極東の地で貴官に会えるとは。 欧州最高スナイパー、ニール・ディランディ中尉」

 

「おやま。アフリカのエースと名高いグラハム・エーカー大尉に覚えられているとは、光栄ですね」

 

 

 差し出された手に握手で返し、挨拶を済ませる。

 

 

「楽にしてくれて構わんよ。しかし、何故貴官がここに? 私も人のことを言えた義理ではないが、貴重な戦力を減らす余裕は欧州にはないはずだが」

 

「基地司令を通して出頭命令が出されてね。部隊は離れたくなかったが、命令とあっちゃ下手に断れなくてな」

 

「私も似たようなものだ。 ――しかし極東の最前線に位置する基地だというのに、ここの空気は後方だと言わんばかりだな」

 

 

 厳しい視線を基地に向けるグラハムにニールは同意する。目と鼻の先にハイヴがあるというのに、まるで遠い国だと思っているようにここの空気は緩んでいた。

 

――こんな基地じゃ、BETAに攻められたらあっという間だぜ。

 

 衛士の練度はその意識によって大きく変わる。

 中途半端な気持ちでいればいざ戦闘になったら動揺し、すぐに命を落とす。少なくとも、自分たちがいた場所ではそれが当たり前だった。

 それに当てはめた場合、二人からすればこの基地はそう長くないように思えた。

 そこへ国連軍中尉の階級をつけた女性が二人の前にやってくる。

 

 

「グラハム・エーカー大尉、ニール・ディランディ中尉ですね。私はお二人のお迎えに上がりました、イリーナ・ピアティフ中尉です」

 

「ご苦労、中尉」

 

「ピアティフ中尉。俺たちは何も聞かされずに来たんだが、何か知らないか?」

 

「申し訳ありません、私はただお二人をお呼びした神林 零中佐の元にお連れするようにとしか」

 

 

 ピアティフの返答に眉をひそめるグラハム。

 基地司令を通して通達された有無を言わさぬ出頭命令。それを出したと思われるのがこの基地の実質的最高権力者の香月夕呼ではなく、名も知らぬ一人の中佐からだという。

 

――神林中佐、最大限に警戒する必要があると見た。

 

――中佐なのに将官である司令に命令で俺たちを呼べる奴か。 こりゃヤバそうな予感がしやがる。

 

 偶然にも似たようなことを考えた二人は、先を行くピアティフに導かれるまま基地内へと向かった。

 

 

 

国連軍横浜基地 神林零の執務室

 

 

「よく来てくれた。 俺が国連軍横浜基地所属の民間協力者、神林 零臨時中佐だ」

 

「国連軍アフリカ戦線所属、グラハム・エーカー大尉であります」

 

「国連軍欧州戦線所属、ニール・ディランディ中尉であります」

 

 

 二人は驚いた。自分たちが最も警戒すべきだと認識した人物が、まだ自分たちと対して変わらない年齢の男だったのだ。

 しかも中佐とは聞いていたが、まさか民間人だったとは予想の斜め上をいっていた。

 

 

「さて、堅苦しいのはここまでだ。楽にしてくれ。話し方も喋りやすいようにしてくれて構わない」

 

「お、それじゃあお言葉に甘えて。 単刀直入に聞かせて欲しい、中佐。どうして俺たちを呼び寄せたんだ?」

 

「その質問に答える前に、二人はこの機体に見覚えはないか?」

 

 

 そう言って零が取り出したのは、見たことがないはずなのに不思議な既視感を感じる写真だった。

 ツインアイの頭部にV字のアンテナをつけ、白と青のカラーリングを基調とし胴体の背にあるコーン型のなにか。

 そして右腕に装備された大きな剣が目を引く特徴的な戦術機だった。

 

 

「なんだ、こりゃ」

 

「見たところ近接戦闘に特化させた戦術機のようですが、このようなタイプは見たことがありません」

 

「……わかった。では先ほどの質問に対する返答だ、ディランディ中尉。 半年でいい。二人とも、俺に手を貸して欲しい。無論、可能な限りの報酬を用意しよう」

 

 

 その発言に、グラハムとニールは奇しくも同じ疑問を感じた。

 部下になれという命令ではなく、手を貸して欲しいという依頼。

 民間協力者故に軍での命令に慣れていないだけかと思ったが、この男からはそのような感じはなかった。

 

 

「中佐、これは引き抜きとかそういう話ではないのか?」

 

「確かに俺は二人を引き抜こうと考えているが、命令としてではなく協力してもらうのに貴官らを呼んだんだ」

 

「では何故、基地司令を通して出頭命令を出したのですか? 臨時中佐とはいえ、そこまで権限があるとは思えません」

 

 

 グラハムの質問に少し逡巡し、零は口を開く。

 

 

「実は俺はある開発計画に関わっていてな。その中で部隊を設立することになったんだが、俺の要望に応えられそうな人間がなかなか見つからなかった。そんななか二人の存在を知ったんだが、場所が遠く呼び寄せるのに時間がかかると判断した。そこで極秘計画の責任者に掛け合い、その権限で出頭してもらうよう手配してもらった」

 

「なら、なおのことその権限で部下にした方が早かったのでは?」

 

「確かに命令で組み込むのは簡単だが、俺は俺のやり方で人を集めようと思っていた。だから一度、二人と直接話をして協力を取り付けようと考えた」

 

「……ちなみに聞くが、何を開発しているんだ?」

 

 

 ニールの質問にふふん、と笑い、零は机の上から幾つかの書類を持ってくる。

 先ほどまで考えていた機体と武器の開発プランだ。

 

 

「現行で使用されている戦術機の強化と、新兵器の開発が俺の仕事だ。たださっきも言った通り使いこなせそうな衛士が二人以外見当たらなかった。一応身内に使いこなせる奴はいるんだが、そいつは別の仕事で手が離せなくてな」

 

 

 説明する零を他所に、二人は立案プランに驚きと疑問を感じていた。

 スラスターの増設はまだ分かる。

 だがビーム兵器とはなんだ?

 アラスカで電磁投射砲の試験をしている、という噂は聞いたことがある。しかしこのプランにあるものは明確に異質なものだった。

 

 

「なんだこりゃ、あんたは妄想の武器を作ろうってのか?」

 

「……中佐、あなたは何者ですか?」

 

 

 その質問に零は小さく笑う。

 

 

「二人とも、異世界って信じるか?」

 

「異世界って、ファンタジー小説とかの題材でよく使われるあの異世界か?」

 

「まさか、あなたがその異世界からきた存在というのですか?」

 

「そうだ。これはまだ一部の人間しか知らないが、時が来たらある程度の情報を世界に公開しようと思っている。そして近日中には日本帝国政威大将軍、煌武院 悠陽 殿下を俺の本拠地に招待するつもりだ。その時には二人も来てくれないだろうか? 俺が作ろうとするものが妄想からできたものではなく、根拠ある開発であることを証明するために。そして何より、俺に協力するかどうかの判断材料にするために」

 

 

 真っ直ぐに投げかけられた言葉。少なくとも虚勢や冗談には聞こえない力強さが感じられた。

 

 

「――少し、考える時間を頂きたい」

 

「同感だ。こんなもんを見せられたら流石に判断がつかねえ」

 

「了解した。ではしばらくこの基地でゆっくりしてくれ。ちなみにこのフロアは横浜基地の中でもトップクラスのセキュリティ制限がある。何かある時は内線で呼んでくれ」

 

 

 そのまま零にエレベーターの元へ案内され、地上へ上がる。

 当てもなくブラブラしていると、不意にグラハムが口を開いた。

 

 

「中尉。神林中佐は、君にとってどう写ったかね?」

 

「正直言えば胡散臭いな。ただ嘘を言っている様子もない。おまけにあのビーム兵器や機体の改造プラン、もし本当ならBETA戦に革命が起こるぜ」

 

「同感だな。そして交渉次第では、その成果を我々の部隊にも渡してもらうことも可能だろう」

 

「……そうだな」

 

 

――あの中佐は可能な限り報酬を用意すると言った。なら実戦配備の際に優先して回してもらうことも出来るはずだ。アイルランドを解放出来るなら、使えるものはなんでも利用させてもらうぜ。

 

 零との会話を思い出し、ニールは目的のための大きな分岐点がすぐそこまできているのを感じた。




家庭版ガンダムEXVSFBがついに今月末発売ですね。
プレマで好きな曲が流せると聞き、最近シンのためにデスティニーを練習し始めました。

しかし かくとうが うまくいかない!

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