番外ネタは仕上がり投稿しますが、本編とは全く関係ない話になります。
ともあれお待たせしました、第19話です。
前回の予告通りの内容は詰め込んだつもりですが、楽しんでいただければ幸いです。
それでは、本編をご覧ください。
国連軍横浜基地 A-01専用ブリーフィングルーム
A-01と武のシミュレーター戦から――幸いにもお互い訓練兵用強化装備から逃れた――一夜が明け、ヴァルキリーズの面々は夕呼の指示でブリーフィングルームに集まっていた。
その彼女たちの面持ちから緊張がみて取れるが、仕方のないことだろう。
あの不知火と新兵器の開発者から話がある。
あれだけのモノを作り上げた開発者だ。どんな人物なのかは彼女たちには想像もつかなかった。
それから程なくして部屋の扉が開き、夕呼が一人の男を連れて現れた。
「全員揃ってるわね。 さっそくだけど、こいつが昨日の不知火の開発者よ。神林、あとよろしく」
「多忙なのはわかりますが、丸投げするのが早すぎやしませんかね」
苦笑しながらもA-01の前に立つ零。夕呼はそれを見届けるとさっさと退室してしまった。
「さて、初めましてだな諸君。民間協力者として出向している特別開発部門開発長兼、独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』隊長の神林 零 臨時中佐だ。君たちのことは博士を通じて知っているので自己紹介は不要だが、何か聞きたいことがあるなら答えられる範囲で回答しよう」
「……では、あの不知火とその装備は中佐が開発されたと伺いましたが、本当でしょうか?」
部隊を代表して質問したみちるに「うむ」と頷き、持ってきた資料の冊子を配布する。表題には不知火・旋風 A-01仕様と書かれており、それを見た一部のメンバーは指示を受ける前に冊子を開いて食い入るように目を通し始めた。
その光景にまた苦笑し、零は他のメンバーに冊子を開くよう指示を出す。
「君たちには今後あの不知火の改造機、不知火・旋風で戦ってもらうことになる。旋風の本体については性能をセーブさせた物が日本帝国の一部にも提供されるものの、装備については君たちと雲泥の差がある。具体的には4ページ目に書かれた一覧の比較を見てくれ」
全員が一斉に指定された項目を確認すると、自分たちが使う旋風にのみビーム兵器が用意され、スペックも帝国仕様と比べ約15%も上だった。
しかも既存の不知火と比較すれば約35%も上と圧倒的な性能差がある。
無論、XM3が標準搭載なので操作性に大きな変化もない。
ビーム兵器は近接装備のビームサーベルにそれぞれグレネードを備えたカートリッジ式の複合ビームライフルと複合ビームマシンガン、そして現在製造中のBETA一掃向けに広範囲高火力のビームバズーカに長距離射程のハイパー・メガ・ランチャーが用意されていた。
「実機は人数分が完成するまで数日ほどかかるが、シミュレーターには搭載済みだからそっちで武装特性を掴んでくれ。特に長刀と同じ感覚でビームサーベルを使えば勢い余ってみっともない姿になるからな。――さて、ここまでで何か質問はあるかな?」
「はいはいはーい! こんなスゴイの作った神林中佐は何者でしょうか!? そこのところをじっくりしっかりお願いします!」
「落ち着いて質問せんか馬鹿者!」
勢い良く質問した千早をゲンコツで黙らせ、みちるは咳払いを一つする。
「中佐、部下が失礼を」
「なに、構わない。それで真咲少尉の質問についてだが――君たちは俺が異世界から来た人間だからこれらの開発に繋がった、といえば信じられるか?」
突然告げられた一言に呆然とし、理解するのに数秒を要する。
おずおずと沙羅が挙手して質問する。
「あの、中佐。それは本気で仰っているのでしょうか?」
「まあいきなりこんな話をされて信じろと言う方が難しいだろうが、アラスカで試験中の電磁投射砲より小型で使い勝手のいいビーム兵器や既存の戦術機を遥かに凌駕する改造技術。XM3こそ博士の研究成果から派生して誕生したが、今までの科学力ではあり得ない物がたった数日で幾つも出現したんだ。何処から湧いて来たかを考えた時、この世界より技術がすすんだ異世界から流れ込んで来たと考察すれば辻褄が合わないか?」
「では中佐が本当に異世界から来たとして、あなたは何故この世界に来たのですか? まさかこの異性体に攻め込まれた世界を救う救世主になるとでも?」
「何故この世界に来たのか、か……それは俺からしても偶然としか言えないな。だがこの世界の状況を知り看過できないと判断したからこそ、俺はここにやって来た。それでは不満かな? 宗像中尉」
「……いえ、了解しました」
どこか釈然としないまま美冴は返答し、それ以上考えるのをやめた。
「よし、では今後の訓練内容についてだが――」
全員分の実機が組み上がるまでシミュレーターによる旋風と武装の慣熟訓練と武装の細かな部分の説明をし、午前中は静かに流れていった。
国連軍横浜基地 通路 特別機密区画方面
A-01へ訓練と武装の説明を終えた俺はピアティフ中尉からの報せを受け特別機密区画前へと向かっていた。
と言うのも、殿下との契約内容にあった人材の受け入れのためだ。
巌谷中佐と紅蓮大将が厳選し必要とあらば『Need to know』を確実に守れる技術者と衛士たちと言うことなので、即戦力として十分に期待できるだろう。
やがて目的地が見えてくると、区画入り口の門前にピアティフ中尉を含む人だかりが見えた。
「すまない、中尉。あとは俺が引き継ごう」
「はい。失礼します」
対応していたピアティフ中尉は敬礼とともにキビキビと去っていた。
さて、と一息入れて一団に目をやると、代表と思しき男が一歩前に出る……って、こいつは!?
「か、カタギリ!?」
長身に眼鏡、長い髪を高い位置に結っているその男の姿はビリー・カタギリと瓜二つであった。
「おや、中佐とは初対面の筈ですが?」
「あ、ああ、申し訳ない。知り合いによく似ていたものだったのでつい」
「そうですか。 日本帝国技術廠、第壱開発局より出向の片桐 裕司 大尉です」
「国連軍横浜基地所属の民間協力者、神林 零 臨時中佐だ。特別開発部門開発長と独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』の隊長を兼任している」
どちらからともなく握手を交わすが、表情に出さないものの今だに困惑の色が強い。
まさか死んだ人間のそっくりさんだけでなく生存している人間のそっくりさんまでいるとは……。下手すると炭酸みたいな濃いキャラまで出て来そうだ。
「私を含め技術廠より出向した者が12名。残り3名が帝国陸軍からの出向となります。詳しくはこちらの名簿をどうぞ」
「感謝する。では早速、衛士3名は前に出て来てくれ」
呼び出しに応じて現れたのはミドルヘアの女性と三つ編みの男。そしてショートヘアの……少女? いや、男物の制服を来ているから男か? まあ名前を聞けばだいたいわかるか。
「帝国陸軍より出向致しました、葉月 絢香あやか 大尉です」
「同じく、小早川
「同じく、井吹
「あ、ああ。これからよろしく頼む」
クソ! 名前まで紛らわしいぞ井吹中尉! こうなったら強化装備を着用して貰うまで待つしかないか!?
本当にどっちなのか気になるところだが、一つのことに集中しすぎても不味いので簡単な注意事項を説明し職場へと案内する。
特別機密区画の格納庫に入るなり、片桐や衛士組から感嘆の声が上がる。
入り口から順に旋風、デュナメス、デルタプラス、デルタカイの順で並んでおり、彼らにはまず旋風の整備を担当して貰い俺が問題ないと判断すればMSの整備もやって貰うつもりだ。
ちなみに現段階でMSの整備はハロと博士から凄乃皇の整備兵を何人か回してもらって行っている。
「まず整備班の諸君には順次組み上がる予定の不知火の改造機、不知火・旋風の整備と調整を行って貰う。また、俺の判断によってはもっとレベルの高い機体の整備を依頼することがあるので、各員の働きに期待させて貰う。なお、片桐大尉には初めからオーバーワールドが保有する専用機の整備も担当して貰う」
「了解しました」
「そして衛士組には専用機を与えるつもりだが、能力選考としてしばらくは旋風に搭乗して貰う。なお、異論は一切認めないからそのつもりで」
「感謝します、中佐」
三人を代表して葉月大尉が礼をする。
現在稼働中の機体で彼女たちを乗せる機体はどれになるやら、実に楽しみだ。
――なお、名簿で確認したところ井吹中尉はやはり男だったことを明記しておこう。
国連軍横浜基地 PX
整備班に明日からの予定を伝え、俺は片桐と衛士3人組を連れて少し遅めの昼食を取りに来た。
適当にメニューを選び席を探していると、基地内ではあまり見ない組み合わせを発見した。
「お、零……っと、そっちの人たちは?」
武を筆頭に霞、グラハム、ニールがトランプに興じていた。状況から察するに内容はポーカーだろう。
「日本帝国軍から出向して来た新しいメンバーだ。右から片桐大尉、葉月大尉、小早川中尉、井吹中尉だ。――で、こっちが207訓練部隊特別教官の白銀大尉、香月副司令の助手の社少尉、オーバーワールド所属のエーカー大尉とディランディ中尉だ」
武たちに紹介する流れで片桐たちにも紹介する。
比較的スムーズに話が進んでいくと思っていると、葉月大尉が一瞬だが顔をしかめた。
ふむ、確か視線がグラハムに差し掛かったあたりだな。
おおよその理由は考えられるが、真意は本人から聞くしかないな。
「ちょうどいい、各員で少し交流を図ってくれ。ああ、武は話があるからこっちにこい」
トレーを置いて移動し、離れた位置からグラハムたちを眺めつつ話を。
「武。さっきの葉月大尉の表情、みたか?」
「あ、やっぱりなんかあったのか。エーカー大尉たちの紹介の時だけ少し嫌そうに見えたんだけど――ん? どうした、霞」
ついて来た霞が何か言いたそうに武の袖を引く。
小さく頷くと、うさ耳を揺らしながら口を開く。
「あの人から、少しだけ怒りの色を感じました」
リーディングしたのか。本来なら無闇に使うなと言いたいところだが、今回は目を瞑っておこう。
「理由はアメリカ人だから、だろうな。先のG弾の無断使用や安保理の一方的破棄とかで反米意識が根強いから無理もないかもしれないが、アメリカ人だからと言って全員があれを良しとはしていないんだがな」
「この基地でその価値観が変わってくれたらいいんだけどな。 ――あ、そうだ。明日から207訓練部隊が総合技術演習で南の島に行く。それで俺も先生の付き添いで基地を離れることになった」
「お、いよいよか」
ここでなんとしてでもB分隊の少女たちには合格してもらわなければならない。だが武の表情から相当な自信が読み取れることからチームワークの改善に成功したようだな。
しかし、南の島か。
このイベント、利用できそうだな。
その後飯をかっ喰らって葉月大尉たちにシミュレーターでの訓練、グラハムたちに専用機の慣熟訓練をするように指示を出し、俺は地下19階へ足を向けた。
国連軍横浜基地 特別区画 ブリーフィングルーム
「諸君、南の島に行くぞ」
主要メンバーのグラハム、ニール、裕司、絢香、秋生、光に招集をかけた零が開口一番そう告げる。
突然の発言に全員が呆気にとられる中、絢香が恐る恐る挙手をする。
「中佐、発言の意図が理解しかねます」
「うむ、早い話が南の島に遊びにいって交流を深めようと言うわけだ。俺たちはこれから苦楽を共にする仲間だ。ならば互いのことをもっとわかり合い、信頼関係を築いていくべきだ」
「……仰ることは分かりますが、なぜ南の島なのですか?」
「簡単な理由だ。いま白銀大尉が面倒を見ている訓練兵たちが総合技術演習を受けることになってな、それに便乗させて貰うことにした。なお、整備班を含めた全員が行く許可を副司令から得ているので、辞退は出来ないからな。むしろやらせん」
納得いかないと言った風にしぶしぶと着席する絢香。それを見届け、零は満足そうに頷く。
「ま、これから厳しくなる戦いに向けての景気付けだとでも思ってくれ。少なくとも飯くらいは良い物を用意して行くからな」
「へぇー。それは楽しみですね」
「南の島……。まだ天然の魚がいそうだ」
他の衛士の光、秋生は既に行楽モードにはいっており、絢香は頭を抱えそうになった。
「ところで、中佐。移動はもしやアレを使用するのですか?」
「おそらくグラハムの想像通りだ。移動時間も有効に使うべきだし、いずれ乗ってもらうつもりの艦だ。彼らには目的地に到着するまで旋風の組み上げと今までの技術に対する既成概念との決別をしてもらう」
「既成概念との決別って、何をさせるつもりなんですかっ」
「言葉通りの意味だ、葉月大尉。聞くより体感してもらうのが一番早いだろう」
「技術に対する既成概念との決別……技術者としては、非常に気になる一言ですね」
「楽しみにしてくれ、片桐大尉」
着々と話が進んでいく中、絢香はこの部隊でやっていけるのだろうかと深いため息をついた。
第19話、いかがでしたでしょうか?
本来なら新キャラの紹介といきたいのですが、諸々の事情により今回は見送らせていただきます。
ついに乙女座の盟友カタギリーーーーの、そっくりさんが出て来ました。
名前の元ネタはカタギリの声優をやってたうえだゆうじ氏です。
あの人の声を聞くたびにクロウさんが頭をよぎります。
Z2破界篇であった金をばら撒くシーンが何故か冒頭の一言の次に印象的です。(ボイス無いのに
さて、南の島へバカンスに向かうこととなったオーバーワールド。
そこで零は絢香にあることを尋ねることに。
次回、第20話は「絢香の胸中」、「乙女座、盟友を得る」、「焼肉戦争」のテーマでいきます。なお、予告テーマと本編内容が一致しない場合がございますが、ご了承ください。
また、本編より先に番外が入る可能性もあります。ご容赦ください。
それでは、また次回にお会いしましょう。
ところで作者、艦これで難関とウワサされていた2-4に挑んだのですが、非常にアッサリと攻略してしまい困惑しています。
あそこは本当に難しい場所だったのでしょうか……。
ちなみに編成はこんな感じでした。数字はレベルです。
電改 68
陸奥改 59
赤城改 43
加賀改 41
金剛改 39
比叡改 49