ラス1で建造時間5時間と出て「ようやく来たか!?」と思いきや陸奥だったときのがっかり感。
もう、
でも2代目響がようやくお迎えできたから良いか。
それはさておき、前回からだいぶ早く投稿できました第21話です。
TEのアニメを見てからこのシーンを書きたくて仕方ありませんでした。
では本編第21話、どうぞご覧ください。
総合技術演習試験場近海 プトレマイオス2 零の私室
武と言う尊い犠牲を払いどうにか機体の元に辿り着き――当初予定していた旋風をやめてデルタカイに乗り込み――完全に寝落ちした霞を連れてトレミーへの避難に成功する。
周りの連中も神宮司軍曹の異常性を察して霞の避難に協力してくれたおかげでかなりスムーズにことが進んだのも大きな一因だ。
ちなみに彼女は隣の仮眠室で未だに夢の中である。
しかしなんて禍々しいプレッシャーを放つんだ、狂犬モード。恐怖だけならBETAを超えたと断言出来そうだったぞ。
冷蔵庫に入れておいたミネラルウォーターを喉に流し込み、ようやく一息入れる。
出来れば早めに戻りたいが、軍曹の状態がいつまで続くかわからない以上ヘタに動きたくないのが本音だ。
最後に目に焼き付いたのは泡を吹いて痙攣している男たちとピクリとも動く気配がなかった博士の姿だった。
「もう少ししてから様子を見に行くか――ん? 通信だと?」
携帯端末から響くコール音を受け、部屋のモニターにセットして応答するとウィンドウに巌谷中佐が映し出された。
ああ、そういえばGステーションから戻る時に通信の暗号コードを教えていたな。
『突然で済まないな、神林中佐』
「問題ありませんよ。それよりどうされましたか?」
『以前に不知火改修計画に出向している部下を試験小隊ごと中佐の下に呼び寄せるかどうかの話をしたのを覚えているかね? その話が正式にまとまり、近い内にアルゴス試験小隊の横浜基地への異動が決定した』
おお、それはありがたい。ようやくTE組と合流出来るのか。
「了解しました。ならば一度、責任者と顔合わせをしておきましょうか」
『一足先に横浜へ呼び出すということかね?』
「いえ、こちらから赴きます。呼び出しを持ちかけたのば自分ですから、最初の顔合わせぐらいはこちらから動きませんと」
『なるほど。そうしたいのなら君に任せよう』
「ありがとうございます。それでは」
通信を終了させ、大きく息をはく。
懸念が一つ減って、楽しみが増えたと言ったところか。
戦力強化にもなって、佐渡島攻略も少しは楽になるはずだ。
明日の朝に武たちは別のヘリで横浜へ戻るはずだから、俺たちはこのままアラスカに向かうか。
「――楽しみだ、とてもとても楽しみだ」
少し機嫌が良くなったが、そろそろ戻らないとな。
霞の枕元にあそこへ戻るとメモを残して少し思案する。
「……こうなったら、賭けに出てみるか」
自室に移しておいた酒の数々を種類に関係なくアルコール度数が高い順に持ち出して小型のコンテナに詰めて行く。確認しに行った時点で神宮司軍曹が酔いつぶれていたならそれでいい。
だがもしまだ動けるようなら毒を持って毒を制すしかない。
すなわち、酔い潰れるまでトコトン呑ませればいいのだ。
酒がなくなるのが先か、潰すのが先か。
これはもはや平和を賭けた戦いなのだ。
「――――行くぞ軍曹。アルコールの耐性は充分か?」
100本近い古今東西の酒を用意し終え、俺は狂犬が跋扈する戦場へと向かった。
――――なお、結末だけを述べれば俺は94本の酒を犠牲にして勝利したと伝えておこう。
詳細? すまないが思い出したくもない。
太平洋 プトレマイオス2 ブリーフィングルーム
死屍累々とした宴会から一夜明け、零が率いるオーバーワールドはアラスカのユーコン基地を目指していた。
その最中、ブリーフィングルームに集められた主要メンバーは今回の目的について聞かされていた。
「プトレマイオスがアラスカの国連軍ユーコン基地に向かっているのはさっき艦内放送で伝えたな。 その理由についてだが、現在アラスカでは俺たちとは別の不知火改修計画が実施されており、帝国技術廠の巌谷中佐の部下が出向している」
「巌谷中佐の? もしや、斯衛軍の篁中尉ですか?」
「お、片桐は知り合いか?」
「ええ。巌谷中佐を通じて何度かお会いしたことがあります」
「なるほど――話を戻すぞ。その不知火改修計画の実施場所が横浜基地に移り、現在担当している試験小隊と俺たちの合同で行われることになった。詳しい内容は省くが、今回の目的はそれについてこれからよろしくと言う挨拶だな」
「でしたら私たちも向かう必要はないのでは?」
「普通は葉月の言う通りだが、アラスカも海を挟んでいるとはいえソ連のBETA勢力圏とは目と鼻の先だ。今回全員で向かうのは不測の事態に備えてと、それが起きた時の対応を目的とするからだ。まあ基地に向かうのは俺だけだから、お前たちは連絡がない限りここで待機だ」
何事もなければそれでよし。万が一があれば対応して、ついでにデータを取るだけである。
「今の航行速度なら明日の昼には着くはずだからその間に葉月、小早川、井吹の3名は旋風に試験実装したシミュレーターモードで訓練を。グラハムとニールは俺と短時間だが飛行訓練を行う。二人には実際に飛んで体で機体特性を覚えてもらうからな」
絢香とグラハムがほぼ同時に「了解」と答えたのを合図に、その日の打ち合わせは終了した。
その折に、零はふと視界に入った端末の日付に目を奪われる。
――もう9月に入るのか。ここまで順調に来たが、これから先も上手く行ってくれるだろうか。
そう思いつつ、零も準備のためブリーフィングルームを後にした。
しかし、全てが順調に進むなどという甘い考えを簡単に認めはしないのが因果の流れである。
例えそれが、結果として良い流れに進んだとしても。
アラスカ湾 プトレマイオス2 ブリッジ
海流の影響で予定より遅れたが、トレミーは無事にアラスカ沿岸部に近い海域についた。
ここからユーコン基地行きの輸送機に乗せてもらって向かうはずだったが、現在既に昼の15時。到着予定時刻は17時以降になるだろう。
デルタカイならここからでも最速で10分とかからないのに、面倒なことだ。
「どうせ遅くなるのなら、先に一報入れておくか」
手元のコンソールで回線を開き、ユーコン基地に繋げる。
ワンコールとたたずに基地のオペレーターが出た。
『こちらは国連軍ユーコン基地オペレーター室です』
「国連軍横浜基地所属、神林 零 中佐だ。XFJ計画の篁中尉と繋いでくれ。承認コードは――」
『コード、確認しました。しばらくおま――――』
「――ん? もしもし? どうした?」
なんだ? 不可抗力で電話が切れたのか?
首を傾げながらもう一度コールするが、今度はうんともすんとも言わなかった。
仕方なく他の番号でユーコン基地に繋げようとするがこちらが知り得る全てのコードが不通に終わる。
「……どういうことだ? 基地の何処にも繋がらないなんて普通じゃない――」
そこまで口にして、脳裏で唐突に何かが閃く。
TE。ユーコン基地。軍用通信回線が軒並み謎の不通。
そして思わず目を向けた先の時計は――15時を少し過ぎていた。
「まさか……いや、いくらなんでも早すぎる。あれはまだ半月後の話だ」
だが余りにも条件が揃い過ぎている以上、とても無関係とは思えない。
可能性があるならば、俺や早すぎる武の介入によって因果に影響が出たといったところか。
下手をすれば他の出来事にも影響しているかもしれないが、確認する手立てはない。
ともかく、今は俺しかいないのでさっきの独り言が誰にも聞かれなかったのは幸いだったが、もし予想通りならマズイことになる!
アラートを鳴らし艦内放送で衛士とパイロットをブリーフィングルームに呼び出し、整備班には全ての機体を実戦仕様に換装するよう指示を出す。
予想に間違いがなければユーコン基地は今――。
国連軍 アラスカユーコン基地 正面ゲート
平和な時間が終わりを告げるのは、交通事故のように突然だ。
ほんの数時間前まで平和な時間が続いていたこのユーコン基地も今は銃声と悲鳴が鳴り響き、建物が黒煙を噴き上げていた。
また何処かで銃声が上がり、人が命を散らす。
そう――人が、だ。
銃が殺めているのは
真っ当な精神の持ち主ならばこの異変をテロリストによる襲撃、もしくはクーデターと捉えるだろう。
今回の場合は、前者であった。
RLF難民開放戦線が国連軍の腐敗をただし、ユーラシアの同胞を、切り捨てられる弱者を救うと掲げていた。
そしてこの正面ゲートでも昨日までの――いや、数時間前までの友に銃を向けた者がいた。
「――こんな、こんなテロなんかで世界が救えるなんて、本当に信じてるのかよ……!」
今にも泣きそうな声でタリサ・マナンダルは自分に向けて小銃を構えている親友、ナタリー・デュクレールに叫ぶ。
大切な友人がテロに加担し、人の命を奪おうとする。それが彼女には信じられなかった。
そのすぐ側で、タリサと共に行動していたユウヤ・ブリッジスはナタリーの行動に違和感を感じていた。
――おかしい。ナタリーの奴、どう考えても喋りすぎだ。何故すぐに殺さない?
逃げるための車は既にオシャカになってしまい、向こうは10人近いMPが銃を構えている。
傍からみれば状況は絶望的ともとれるが、ナタリーは話しを続ける。
まるで、このテロに関する情報を提供するかのように。
「もちろんよ! アメリカ、ソ連、国連の実戦部隊は仲間が乗っ取った。――ついでに、無駄金を食う試作機は全部壊してやるの! あなたたちの機体も、一つ残らずね! とっても素敵でしょ!?」
「――っ! ナァタァリィィィィィィ!!」
怒りに染まったタリサの声が響く。
遣る瀬無い怒りが拳を震わせ、今にもナタリーに飛びかかりそうだった。
――直後、ナタリーたちの背後が轟音と共に爆発した。
「な、なんだ!?」
「ぐわああっ!!」
巻き上げられた瓦礫がMPたちを押し潰し、バリケードのように配置されたトラックが次々と転倒する。
その隙を突き、タリサは一直線にナタリーの懐へと飛び込んだ。
「しまっ――!」
「ぉおらあぁ!」
小柄な体型を活かして一気にタックルを見舞い押し倒す。
タリサが飛び出した時点で同時に動いたユウヤと
「タリサ! 逃げるぞ!」
「待てよユウヤ! 一発殴らないと気が済まねぇ!」
「んなもんは逃げた後でやれ!」
「――ちっ、変なマネすんなよ。ナタリー」
「……わかったわ、タリサ」
ユウヤの指摘に渋々了承しナタリーに小銃を突きつけるタリサ。
ナタリーも抵抗するだけ無駄だと判断したのか、あっさりと――しかし何処か安堵したかのように――指示に従った。
一方ユウヤは目くらましとしてガソリンが洩れた軍用車両に石をぶつけ、火花を散らして燃料に引火させる。
炎の壁が形成され、ユウヤたちの追っ手を食い止める役割を果たした。
――これで少しは時間を稼げる。たが、さっきのは一体……。
思考を始めたところで、不意に何処からかジェット音が聞こえてきた。
何処からかと空を仰ぎ探してみると、前方の空から飛来する二つの機影を見つけた。
「あれは……不知火? 爆撃機に乗っているのか?」
見慣れた不知火の頭部の機体を確認するが、自分が知っている機体とは各所に差異が見受けられた。
不知火が飛び降り、軽くなった戦闘機はさらに加速してユウヤたちの頭上を超えた。
「な、あれは!?」
先頭を行く機体にユウヤは見覚えがあった。
その戦闘機は初めて見た時と同じように急上昇すると、一瞬で真の姿を現した。
巨大な砲門を備えたシールド。長い銃身のライフル。背面のバインダーに備わったコの字型の何か。
そしてV字アンテナにツインアイの頭部。
「――蒼炎の翼!」
両肩に以前はなかった二つのエンブレムが描かれているが、間違いなく自分たちの窮地を救ったあの所属不明機だ。
蒼炎の翼というのは、関節部から青い炎を出し戦闘機に変形することから基地の衛士たちの間で広まった不明機の名前だった。
しかしあのカムチャツカの事件以来忽然と行方を眩まし、様々な国や企業が足取りを追ったが手がかり一つ出なかった。
その機体がなんの因果か、再び自分たちの前に現れた。
その隣で一歩後ろを飛んでいた戦闘機も同じように変形すると、蒼炎の翼によく似た姿を見せた。
違いといえば蒼炎の翼のカラーリングが全体的に白なのに対し、こちらは全体的に黒くバインダーにはコの字型の何かも無く丸みを帯びたシールドにはグレネードのような物が装填されていた。
「――とにかく、今はこの騒ぎを片付けるのが先だ」
直ぐにでも呼びかけたい衝動に打ち勝ち、ユウヤはタリサたちの後を追った。
第21話、いかがでしたでしょうか?
まずナタリーの生存フラグが経ちました。
アニメで死なれたときかなり悲しかったのでどうしても生かしたかった。
さて、ついにユーコンテロ事件編です。
前述にも記したように、ナタリーを生存させるには早い段階での介入が必須でした。
なのでクリストファー少佐の紅の姉妹人形計画は早くも崩壊の兆しを見せています。
え、インフィニティーズ? 出番、あるかなぁ……。
ともあれ、今回はここまで。
次回投稿は筆のノリ次第です。
それでは、また次回にお会いしましょう。