最近小説投稿サイト暁さんとのマルチにしようか絶賛迷走中です。
それはさておき、今回も引き続きユーコンテロ編です。
思っていた以上に話が厚く、予定していた当初よりも話が長くなりそうです。
ともあれ本編第23話、どうぞご覧ください。
国連軍 アラスカユーコン基地 アルゴス試験小隊ハンガー
零がガンダムデルタカイに乗り込んだのと同じ頃、ユウヤ・ブリッジスは不知火・弍型の微調整をしながらたった今出撃していった零について考えていた。
初めて助けられた時に教えられた通り日本人だったが、国連軍の中佐だと言うのは流石に予想外だった。
しかも新型や改造機と思われる不知火を引き連れてだ。
――新型はともかく、不知火は俺たちの開発に対するあてつけか? ……いや、考えるのは後だ。まずはこの騒動を終わらせよう。
「ブリッジス少尉、少しいいか?」
「ん? どうした、クリスカ」
気持ちを切り替えるとタイミングよくF-15Eに乗り込んだクリスカ・ビャーチェノワから通信が入る。
しかしその表情は何処か優れないようにも見えた。
「あの神林と言う中佐、普通じゃないようだ」
「普通じゃない? まあ、あんな機体に乗っている時点で普通じゃないのはわかるが――」
「いや、もっと根本的に、人間として一線を画しているような……」
「人間として? どういうことだ?」
「……すまない、戯言だ。忘れてくれ」
軽く頭を振って通信を切るクリスカ。しかし、彼女の中では今だに零に対する疑問が渦巻いていた。
――リーディングが出来ないと言うことは私とイーニァについて知っているからか? 仮にそうだとしても、いったい何処で処置を受けた?
「ビャーチェノワ少尉! 出撃準備が完了したぞ! ただし推進剤が80%ほどしかないから注意しろ!」
思考の海に沈みかけたところでヴィンセント・ローウェルの声に気づき、はっと顔を上げる。
どうやらユウヤより先に出撃のようだ。
「了解した。 クリスカ・ビャーチェノワ、出る!」
――まずはここを凌いでイーニァに合流する。全てはそれからだ。
思考を切り替えたクリスカは迷いを排除して戦場へ身を投じた。
国連軍 アラスカユーコン基地 アルゴス試験小隊ハンガー付近
初撃のロング・メガ・バスターで一機目のF-16の頭部を破壊すると俺はライフルを手放し、続いてシールドからビームサーベルを引き抜いて両腕両脚、両跳躍ユニットをV字で一気に斬り落とす。
他の三機がフォーメーションを立て直そうと一瞬動きを止めたが、それを逃すほど俺は間抜けではない。
まず一番遠い敵に向けてバルカンを射出し、結果を見ずにブーストをふかし一気に接近。近くの敵機2機を手にしたビームサーベルですれ違いざまに足、腕の順にいただき、そのままバルカンを食らってふらついた相手の後ろを取りライダーキックをお見舞いし地上へと蹴り落とす。
残りの2機がこちらに振り向いて突撃砲を向けるが、直後に背後から放たれた突撃砲にやられて爆散する。
見ればF-15Eが最初に落とした機体から突撃砲を奪って攻撃したようだ。
『ご無事ですか? 中佐』
「感謝する、ビャーチェノワ少尉」
狙っていた武装と敵衛士の情報源が減ったが仕方ないか……あれ、そう言えばこの機体に敵の衛士って乗ってたっけ?
まあいいや。いたならそれでよし、いないならいないで武装だけいただこう。
「少尉、その機体に衛士はいるか?」
『――いえ、無人機のようです」
「そうか、ならここに来た敵は全部自立駆動か……。少尉、武器の確保を頼む。俺はこのまま篁中尉たちのところへ向かう」
『了解しました』
ビームサーベルを収納してライフルを回収すると、俺はもう一つの一団に向けて機体を飛ばす。その先でさらに二手に分かれた敵の片方が突撃砲を撃ちながらこちらに迫る。
「ハッ! 遅すぎるぞ木偶人形!」
ロング・メガ・バスターで腕と頭を吹っ飛ばし、ライフルを左手に持ち替えながらサーベルを抜き肩から先と肘から先をそれぞれ切り飛ばす。すれ違うと共に振り向いて跳躍ユニットにバルカンを叩き込んで機動力を奪うのも忘れない。
もう片方のグループをチェックすると、葉月の旋風が右手にビームサーベルを、左手にビームライフルを持って残りのF-16を行動不能に陥れていた。
『中佐、敵機の沈黙を確認しました』
「よくやった、武器を奪ったら速やかに機体を破壊するぞ。遠隔操作で自爆でもされたら厄介だ――お、グラハムたちも来たか」
指示を出して間も無く敵を突破して来たグラハムたちがやって来た。
戦力も揃いつつあるし、しっかりと装備が整えられればあとは正面突破だ。
国連軍 アラスカユーコン基地 中央司令部
今回のテロにおいて主だった作戦の実行部隊リーダーであるヴァレンタインから命令系統を引き継いだクリストファーは、部下からもたらされる情報に作戦が順調に進んでいるのを実感していた。
――しかし神の計画とやらも、こうも簡単に進むと味気ないものだな。
獣のような笑みを浮かべてモニターを眺め自身の目的へ着実に近づいているのを感じていると、不意にコンソール席の部下からどよめきが走った。
「どうした、貴様ら」
「しょ、少佐。西側ハンガー地区に向かっていた自立駆動機8機が全滅しました。交戦したのはアルゴス試験小隊と思われるのですが、その……」
「なんだ? ハッキリ言え!」
「ハッ、未確認ではありますが、あの『蒼炎の翼』がいるとの情報が……」
「『蒼炎の翼』だと?」
その噂は聞いたことがあった。
一月ほど前、カムチャツカ補給前線基地に突如として現れ、基地に仕掛けてきたBETAを単騎で全滅させたと言う謎の戦術機だ。
空中でレーザーを避け、光学兵器を使用し、関節部から蒼い炎を吹き、そして戦闘機へと変形すると言うまるで妄想の中の機体だ。
クリストファー自身も話を聞いた当初は「そんな機体があってたまるか」と一蹴していたが、もし本当に噂通りの機体であるならば――
「フン、面白い。奴らはメインディッシュとしていただこう。しばらく泳がせておけ」
その指示は自分が負けることなど微塵もないと言う絶対的自信があった。
数や力量を考慮しても圧倒的に分があるのは自分の方だと彼は確信していたからだ。
しかし、彼は知ることになる。
この世界の戦力を基準で分析した上での確信など、あれの前ではチリ紙のように消し飛ぶだけだと言うことを。
国連軍 アラスカユーコン基地 アルゴス試験小隊ハンガー前
自立駆動のF-16から突撃砲を計18門入手した零たちは全周警戒をしつつ円陣を組んで作戦会議を開いていた。
「――まずは部隊を二手に分ける。補給及び情報収集のA部隊と、A部隊を動きやすくするためのB部隊だ。A部隊の隊長は篁中尉とし、副官は崔 中尉とする。なお、編成はその二人に加えアルゴス小隊全員とビャーチェノワ少尉の計7名。オーバーワールドはB部隊として行動し、俺を隊長としてエーカー大尉を副官に据える。何か質問は?」
「中佐、私は原隊に復帰したいのですが」
「原隊復帰は構わないが、単機での活動は認めないぞ、ビャーチェノワ少尉。――A部隊、何か案はあるか?」
「中佐、イーダル小隊のハンガーならばここから迂回して行ける位置にあります。森の中を突っ切るので、発見もされにくいかと」
「中佐。私はブリッジス少尉の案を採用しようと思いますが、よろしいでしょうか?」
「隊長である君が決めたならそれでいい。ただ目標地点に到着したら連絡をくれ。――そう言うわけでビャーチェノワ少尉、少し回り道になるが構わないな?」
「ありがとうございます」
「よし、これより行動を開始する。いいか、誰一人として欠けることは許さないからな。これは最優先命令だ」
『『『了解!』』』
「よし、作戦開始だ。オーバーワールド、全機続け!」
部隊が二手に分かれ、零が率いるB部隊はイーダル小隊のハンガーと逆方向の地点を目指して出撃する。
同時に、零はこの後の流れを記憶の海からサルベージしようとしたが、どうにもうまく思い出せないでいた。
――確かユウヤたちが補給を終えた後にBETAが出てきて、インフィニティーズが光線級の殲滅に乗り出したんだよな。イーダル小隊……と言うかイーニァと合流したのもそれくらいか。クソ、クリストファーがどのタイミングで出張ってきた思い出せない。出来れば先にSu-47を無力化しておきたいんだがな。
「中佐! 9時方向から接近する機影あり! 数は12!」
「フ、温いな。フォーメーションM1で迎撃する! 5分以内に殲滅出来なかったら戻った時に全員で腕立て100回だ!」
「「「了解!」」」
零の指示で各々がポジションに移る。
零とグラハムが前衛になり、その後ろに絢香、秋生、光がきて最後尾にニールが着く。
本来ならば隊長が前衛に立つべきではないのだが、零の持論は部隊の初陣こそ隊長が先頭に立つべきだと言う物だ。
「さて、オーバー2、ニール・ディランディ。狙い撃つぜ!」
デュナメスがGNスナイパーライフルを構えて先制する。
遠距離からの狙撃に何も出来ないまま一機目のF-16が撃墜される。
「オーバー1、グラハム・エーカー。迎撃する!」
デルタプラスが敵の砲撃に合わせて素早く左手にしたライフルを撃ち放つ。
「こちらオーバー4、小早川 秋生。仕掛けます」
「オーバー5、井吹 光。攻撃を開始します!」
グラハムたちの口上を聞き、同じように宣言しながら秋生と光の旋風が攻撃を開始する。
「……オーバー3、葉月 絢香。行きます」
そして絢香が空気を読んで宣言したのを聞き、零は口元を緩ませた。
「よし。オーバー0、神林 零。障害を駆逐する!」
自身も高らかに口上をあげ、ロング・メガ・バスターで射線に重なった敵を撃ち抜いた。
国連軍 アラスカユーコン基地
テロリストの男性衛士は戦慄していた。
彼は奪った機体で基地の人の命を欲望のまま狩り散らし、絶対的強者になった気でいた。
実弾は全て自分たちの物。良くて模擬弾しか持っていない相手などただの動く的。牙を失った獣。一般人に至っては泣いて喚いて懇願したところで殺されるしか未来がないただの弱者としか捉えていなかったのだ。
しかしここに来て、その衛士はちっぽけな自尊心を完膚無きまでに破壊し尽くされた。
――なんだ……なんだあれは、なんなんだあれは!?
また目の前で仲間の機体が爆散する。
相手にしている部隊の倍の機体数で挑んだにもかかわらず、3分も立たないうちに7機が撃墜された。
近づこうにも光学兵器の弾幕に阻まれ、同じく弾幕で対抗しようものなら遠距離からの狙撃で狙い撃ちにされる。
そして何より、唯一二つのエンブレムをつけた機体の動きが速すぎた。
オートロックオンが間に合わず、トリガーに指をかける頃には既にロックが外れているのだ。
「チクショウ! こんなバケモノ共の相手なんかできっか!」
メチャクチャに弾をばら撒きながら残った僚機を盾にし、男は逃亡を計る。しかし、突如鳴り響いたアラートで背筋が凍った。
自分の盾となる味方機はまだ4機残っていたはずだ。幾ら何でもすぐにやられるわけがないと男は考えていた。
――そ、そうだ。このアラートはシステムの誤作動だ。こんなオンボロの機体に乗ってんだから異常があるのが普通なんだ。でなきゃこの俺があんな雑魚どもに後れを取るはずがなーーがはっ!」
だがそんな浅はかな考えを嘲笑うかのように、突如機体が大きく揺れ肺の中の空気が押し出される。
数度咳き込んで機体状況を確認してみれば、あの先頭にいた白い機体に頭部を鷲掴みにされていた。
しかもいつの間にか四肢は切断されており、いわゆるダルマ状態であった。
「ひぃっ!? た、たすけ! ころ、ここころされ……!」
緑のツインアイが向けられ、男は恐怖のあまり操縦桿をガチャガチャと激しく動かす。
しかし機体は何も出来ない。ただ足をもがれたアリのように、醜く身をよじるだけだった。
「さて。お前が最後なわけだが、何か言い残すことはあるか?」
接触回線を通じて白い機体の衛士から通信が入る。
みっともなく震えながら、男は叫んだ。
「た、頼む! 見逃してくれ! あんたらに協力するから! 命だけは、命だけは助けてくれ!」
「ふむ、助けて欲しいか……」
白い機体の衛士――デルタカイに乗っている零は少し間をおいてから口を開く。
「ところで、お前はそうやって同じことを言った人を見逃したのか?」
「へっ!?」
「見逃したのかと聞いているんだ。どうなんだ?」
「も……もちろん見逃しました! だからどうか、命だけは!」
「……そうか」
声色が緩くなり、男は助かる希望を感じた。
「――ふざけるなよクズ野郎」
「へ?」
男が間抜けな声を上げた瞬間、管制ユニットの中が光に満ちた。
国連軍 アラスカユーコン基地
捉えた敵機の管制ユニットをビームサーベルで貫き、引き抜くと同時に放り投げる。
クソッタレが。何が「見逃した」だ。明らかに殺しまくっているのがバレバレで虫酸が走る。
数瞬遅れて爆散した機体を見て、思わず悪態をつくが、直ぐに気持ちを切り替えて周囲を探索する。
……ふむ、特に目立った反応は無しか。唯依姫たちが目的地点にたどり着くまでまだまだかかるはずだから、もう少し暴れるか――憂さ晴らしも兼ねて。
まだ腹の中を渦巻く苛立ちを解消すべく、俺は仲間を引き連れて次の場所へと移動した。
第23話、いかがでしょうか?
次回にようやくイーニャが出せそうな気がします。
ただ引き抜き云々はまだ話が固まっていないので今回は見送りになりそうです。
あと感想でもありましたが、零が不在時のトレミーの艦長については既に候補者がいます。
今のうちから誰が来るか予想してみてください。
それでは今回はここまで。
また次回にお会いしましょう。