Muv-luv Over World   作:明石明

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どうもこんばんわ、投稿が今までで最も遅くなってしまった作者です。
お待たせしました、新作に続いて最新話の投稿です。
今回から文章の書き方を少しだけ変更しました。多少は見やすくなったかと思います。
さて、今回は以前より作中で上がっていた『SS』の情報が明らかになります。
これを見た後もしかしたら『GL』の名前が容易に想像できる方が大勢いるかもしれませんが、それは胸中に収めてください。

それでは本編第29話、どうぞご覧下さい。


第29話

国連軍横浜基地 地下19F 通路

 

 

「―――つまり、あの警報はお前が仕組んだものだったのか」

 

 

 腫れた頬を冷やしながらジト目で睨んでくる武に「ああ」と返す。

 

 

「以前から基地の空気について問題が上がっていたからな。香月博士や基地司令に依頼して今回の騒動を起こさせてもらった。実際、効果は目に見えて出てきただろ?」

 

「そりゃそうだけど」

 

 

 釈然としてなさそうな武だが、実際基地の空気が大きく変わっているのであまり強く言えないようだ。

 調子に乗った少尉たちへの行動に加え、突如として発生したBETA出現警報。あれ以降基地内ではシミュレーターの稼働率が大幅に上がり、各訓練施設や演習場、さらにはブリーフィングルームまで予約待ちが目立つようになった。

 ちなみにあの時の少尉たちは少し前に半月間訓練兵扱いの処分が下された。また事が事なために現在上では転属の話も上がっているが、これも近いうちに確定する話だろう。

 それにあの騒動の後なので報復とかは考えにくいが、もしそれに準ずる行為に及んだ場合はそれこそ衛士としての資格をはく奪されることも間違いない。

 

 閑話休題。

 

 しばらく歩いてやってきたのは俺に割り当てられた執務室だ。

 今回、武を呼んだのはあるデータを見せるためでもある。

 慣れた手つきでカードキーを差込み扉のロックを解除し入室する。

 

 ――――同時に、俺の思考が一瞬フリーズした。

 

 

「やあ、神林中佐。失礼させていただいてますよ」

 

「……何してんですか、鎧衣課長」

 

「見てわからないかね? 白銀大尉。コーヒーを飲んでいるのだよ。ああ、ご安心ください中佐。これは私が持参したものなので」

 

「そういう問題ではないと思うんですがね」

 

 

 ――何故か鎧衣課長が応接ソファーでコーヒーを片手に寛いでいた。

 というか部屋はロックをかけていたはずだがどうやって侵入した?

 

 

「それは企業秘密というものですよ。いや、この場合は秘密技術と申すべきでしょうか」

 

「心を読まないでいただきたいですね。 それで、わざわざここまでご足労いただいたご用件はなんでしょう?」

 

 

 武を応接ソファーの空いたスペースに促しつつ、俺も自分の執務席に腰掛ける。

 

 

「香月博士には先ほどお知らせしたことなのですが――――帝国軍部にて戦略研究会が発足されました」

 

「戦略研究会……それって!」

 

 

 武の驚いた声を継ぐように、俺もその正体を口にする。

 

 

「沙霧大尉たちのクーデター軍が発足されましたか」

 

「その通りです。米国の諜報員が接触したと言う情報はまだありませんが、それも時間の問題でしょう」

 

「となると、殿下には出来るだけ早く復権していただく必要がありますね」

 

「そのことで少々足元の掃除に難航しておられるようでして。私も微力ながらお手伝いさせていただいているのですが、これがなかなかに汚れが頑固でして」

 

「なるほど」

 

 

 Gステーションで渡した資料があればだいぶ捗るかと思ったが、思った以上に難儀しているようだな。

 しかしそこをどうにかしないと何も始まらない。後は、沙霧大尉たちが抱いている榊総理のイメージを払拭しないとな。

 

 

「了解しました。こちらでも打てる手は打つようにしますので、殿下にはそのようにお願いします。ああ、あと以前お話した帝国領内に整備ドックの建造をさせていただく話についてこちらで候補を絞りましたので許可の有無を確認してもらえますか? 場所は――――ここの地下に建造するつもりです」

 

「……ふむ、心得ました。必ずお伝えしましょう」

 

 

 それだけ言い残して鎧衣課長はコーヒーを飲み干すとカップを懐に仕舞いお辞儀をひとつして退室していった。

 

 

「零。整備ドックの建造って、どこでやるんだ?」

 

「いろいろと候補を絞ったが、横浜基地から遠すぎずかつ危険も人気も人気少ない場所を考慮した結果ここになった。あとは殿下の許可が下りればうちの連中を動員して一気に形を整える」

 

 

 地図を引っ張り出してその名を指し示すと、武は「へぇ」と声を漏らした。

 

 

「式根島の地下か。けどここも避難している人がいるんじゃないのか?」

 

「そこは事前に調査してある。あそこにも確かに人は住んでいるが、避難している人はほとんどいない。交通の便が悪い離島だから配給も滞りやすく、リゾートならともかく戦時中の避難には向いていない土地だ」

 

 

 ただでさえこの辺りの島より東は逃げ場がないというのに、その逃げる選択肢を狭めるような避難は正直迂闊としか言いようがないだろう。

 

 

「さて、それより本題に入ろう。 ――――武、お前をここに連れてきたのは見せておきたい機体があるからだ」

 

 

 そう言って俺はあらかじめ出力しておいた資料を隠し金庫から取り出し、武の前で広げてみせる。

 

 

「お前の専用機の設計データだ。以前聞いた要望に加えてこの前の演習データを元に調整を入れ、現在Gステーションで急ピッチで建造中だ」

 

「俺の専用機?」

 

「そうだ。戦術機――に分類すべきかわからないが、名目上は戦術機初のガンダムタイプだ。形式番号、TSMS-01GSS。開発コード名――――ガンダムシルバーソル」

 

 

 型式番号にMSが入ったり名前や見た目が完全にガンダムだが、機体の特性上俺は戦術機に分類している。

 装甲のカラーリングがすべて白銀でまとめられており、この機体が人類の未来を照らす太陽となってもらうべく色合いと合わせてシルバーソルと名付けた。

 とはいっても、見も蓋もない言い方をすればさまざまなMSのデータや技術を流用して戦術機の技術と組み合わせただけのような代物だ。

 まず胴体はνガンダムの物を参考にしつつ胸部ダクトの上にマシンキャノンを増設。コクピットはもちろん戦術機の管制ユニットと同じものに作り変えているが、νガンダム同様コクピット部にサイコフレームを組み込んである。欲を言えばもう少し積みたかったが、時間やラインの問題でコクピットの分しか用意できそうにない。

 また動力にミノフスキー式核融合炉を使用し、ブースターとビームサーベルが搭載されたランドセルのすぐ下にはプロペラントタンクを兼用させた跳躍ユニットを取り付けることで余裕を持って長距離を移動できるようにした。

 両腕はユニコーンガンダムのビームトンファーを組み込み、肩アーマーには空間戦を想定してHi-νガンダムと同じスラスター機構を導入。また、腕部のビームトンファーはキュベレイのビームサーベルからヒントを得て出力を調整しエクシアのようなビームバルカンを撃てるように改造。

 両脚の裏にνガンダムのようなブースターを増設し機動力を向上。両サイドアーマーはスラスターを残しつつ実体剣の対艦刀を装備。

 一番の問題となるであろう関節部にはMFの技術に加えてストライクフリーダムのようにPS装甲素材製内部骨格部材を導入。しかし金色になるのが気になるので各部に用意した余剰電力は熱エネルギーに変換して各部に組み込んだ放熱板を経由して放出させることにした。放熱板についてはこのあと説明するだろう。

 また外付けの増設ユニットにより追加ブースターと共にハイパーランチャーが携行可能。火力の向上にも成功している。

 専用のビームライフルは旋風で使用しているマルチビームライフルと同じシステムの物だが、冷却機能やエネルギー効率、そしてマシンガンモードの連射性能が圧倒的に上だ。なおシールドはνガンダムと同じものが採用されている。

 頭部は個人的な趣味で申し訳ないが、見た目はまんまカラーリングを変えたフリーダムガンダムだ。アンテナ部分だけそのままにしてフェイスカバーを白に、各部センサーをグリーンに統一した。他の変更点は頭部のバルカンがビームバルカンに変更したくらいか。

 ――そして一番の特徴がリミッターを解除した機能、『オーバードライブモード』だ。ユニコーンガンダムのNT-Dのようにランドセルが展開しスラスターが増設され推進力が上昇。さらに頭部のセンサーがすべて緑から赤に変わり各部装甲とリアアーマーも展開しブースターや放熱板が露出する。全力機動こそ本家NT-Dの数段は劣るものの、反応速度はもちろん加速性能はトールギスにも匹敵するだろう。

 なお、高性能の冷却装置や放熱板も組み込んだおかげでオーバードライブの稼働時間は10分近く続く。また、各関節に溜まった熱エネルギーは冷却装置が追いつかなくなると自動で装甲下の放熱板が展開されるようになっている。

 無論、バイタルチェックが働いてパイロットが危険だと判断されれば機能は強制定期に停止するようになっている。クールタイム後に機体、パイロットともに問題がなければまた使用可能となるが、武の腕を考えれば余程のことがない限り使う機会はそうそうないだろう。

 基本スペックは俺のガンダムを除けば現行で稼動しているどの機体よりも勝っていると断言できるが、難点と言えば増設ユニットがなければ大型の火器を携行できないところだろうか。

 ここまで挙げれば察してもらえるだろうが、この機体は通常開発で行えば相当な時間がかかってしまう。技術的にもそうだがサイコフレームを揃えるだけで一月かかってしまうのだ。

 PS装甲素材製内部骨格部材に限っては関節部分だけに限定したので必要数を揃えるのにそれほど時間をかけずに済んだ。おかげでただでさえ頑丈なMF技術の関節がさらに強化される形となった。

 

 

「すげぇ……。これが本当に、俺の機体になるのか?」

 

「いらないなんて言うなよ。もう開発は始まってるから後戻りはできないし、これと対になる機体を120%生かすにはお前が乗らないと意味がない」

 

「対になる機体? こんな化け物みたいなスペックを持つ機体がもう一つあるのか?」

 

「ああ。こっちも開発は始まっているが、詳細はまた機会が来たら教えてやる。 とりあえず今はその仕様書を頭に叩き込んでおけ。シミュレーターの方は残念ながらコクピットに新たに追加予定のボタンやスロットルがないから導入できなかったが、実物を使ってのシミュレーターなら……コクピットだけなら一月半もあれば出来上がるからそれで訓練してくれ」

 

 

 追加ボタンはいざという時に増設ユニットや跳躍ユニットをパージさせるための物だったり、スロットルは機体の出力をセーブさせるためのストッパー的役割を持つ物だ。

 ある程度の音声操作も受け付けるようにもするが、機械が受け付けなかった場合も考慮してこういう措置を取ったわけだ。

 

 

「了解した。シミュレーターが使えるようになったら教えてくれ」

 

「安心しろ、真っ先に教えてやるから。 あとわかっていると思うが、仕様書は厳重に保管しておけ。いざとなったら破棄しても構わないから」

 

「そうならないように努力するよ。 じゃ、またな」

 

 

 仕様書を一緒に渡した大きめの封筒に納めて武が退室したのを見届け、俺は端末を起動させながら今度は引出しから資料を取り出す。

 こちらはデータベースから絞り出したトレミーのクルー候補たちの情報が収まっている。以前アラスカですれ違ったグルーデック少佐を筆頭に、新たに見つかったオペレーターや整備要員、操舵要員の名前と経歴が記されている。

 

 

「これで最低限の頭数はそろったわけだが、オペレーターと操舵要員がこの二人なのは、因縁と言うかなんというか」

 

 

 思わず苦笑いして3枚の写真を取り出す。

 最初の写真は整備要員、アストナージ・メドッソのソックリさんだ。スパロボなどの影響でずっと生存している印象があったが、よく考えればこの人も逆襲のシャアで戦死していたなぁと発見時には思ったものだ。

 そして2枚目3枚目の写真を並べて、思わず口元がゆるむ。

 オペレーターの名前はエイル・フィールという女性で、操舵要員の名前はリュート・ベティッシュという元衛士の男性だ。

 名前だけなら普通の衛士やオペレーターで片づけただろが、その写真が俺を引きとめるのに十分すぎる代物だった。

 エイル・フィールはガンダムOOで戦死したクリスティナ・シエラ――通称クリス――にそっくりで、リュート・ベティッシュは同じくガンダムOOで戦死したリヒテンダール・ツエーリ――通称リヒティ――にそっくりだったのだ。

 ほどほどに眺め終えてメールのソフトを開き、各方面へ出頭依頼のメールを送る。

 そちらが終わったら今度は別の端末からGステーションの開発システムに接続し、調整状態だったアッガイを使えるように指示を出し、さらに可能な限り水中用MSを開発させる。あとミンチドリルも5,6本生産させておくとしよう。

 さあ、準備は着々と進みつつある。あとは不測の事態に備えて資材のストックを貯めておいたり、部隊の練度をあげていこう。

 細かな調整を済ませたのを確認し、俺は次なる一手の相談を博士に持ちかけることにした。

 ズバリ、俺の存在公表とOOユニットの情報漏えい防止策の相談だ。




第29話、いかがでしたでしょうか?

長々と説明を書いていると尺稼ぎな感じがしてどうにも釈然としません・

それはさておき、今回の話でトレミーの配属要員がこんな感じで出揃いました。
艦長:グルーデック
副長:不在
通信:エイル(クリス)
操舵:リュート(リヒティ)
整備:アストナージ
ゲスト:不在

霞はまた別の機会に操舵要員となりますので、決してリストラになったわけではありません。(と言うかさせません)
また、クリスとリヒティは本名が分からなかったので作者がオリジナルで名前を付けました。

さて、今回MLOWの最新話をあげたわけですが、新作の方が執筆がはかどってしまっているのでこちらの更新がまた遅くなってしまう可能性があります。
連載を一本に絞ることができないダメな作者ですが、これからもよろしくお願いします。

それでは、また次回にお会いしましょう。

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