Muv-luv Over World   作:明石明

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どうもこんばんわ、こちらでは一月ぶりの投稿となってしまった作者です。

最近また仕事が忙しくなって執筆する暇がありません。おまけに半年前に購入した仕事用ノートPCがお亡くなりになり金銭面でも多大な被害を受けてしまいました。

そんな戯言はさておき、第33話です。
ここから大きく話を動かせたらなぁと思っています。
それでは一月ぶりの本編第33話、どうぞご覧ください。


第33話

国連軍横浜基地 特別機密区画 ブリーフィングルーム

 

 

 食事を終えてアラスカから来たメンバーとオーバーワールドのメンバー全員がいることを確認し、零はさっそく今後の予定と不知火弐型の改修内容の説明を始めることにした。

 

 

「――まず初めに説明するのは、兼ねてから諸君らが知りたがっているオーバーワールドの技術の出所についてだ」

 

 

 その質問を待っていたかのように、アルゴス小隊のメンバー――特にユウヤは神経を集中させてその続きに耳を傾ける。

 

 

「狂言と一蹴するかもしれないが、はっきり言おう。オーバーワールドの機体には、異世界の技術が使われている」

 

「……は?」

 

 

 異世界の技術。その言葉にユウヤは思わず間の抜けた言葉を漏らし、後ろに座っていたタリサは「何言ってんだこいつ」と胡散臭いものを見たような表情になった。

 無論こんな言葉が出るなど予想をしなかったのは彼らだけでなく、若干戸惑いながら最前列の席に座っていた唯依がおずおずと挙手をして発言する。

 

 

「あ、あの……中佐。それは、冗談か何かでしょうか?」

 

「否。俺は至って本気だ。そして俺自身も、異世界からその技術とともにこの世界に来た」

 

「ふ……ふざけんなよオイ! 散々引っ張っておいて、そんな答えで納得できるかっ!!」

 

「お、おいユウヤ落ち着け! 相手は上官だぞ!?」

 

 

 馬鹿にしているとしか取れない説明に切れて席を立ったユウヤだが、ヴィンセントの言う通り零はこの場において最も階級が高い存在だ。

 相手が自分より高い階級の持ち主であることに変わりはない事実を突き付けられ、ユウヤはギリギリと奥噛みしながら着席する。

 

 

「まあ、それが普通の反応だ。だが実際に電磁投射砲を扱ったことがある貴官ならわかるはずだ。俺たちが使用する武器がそれとは比べ物にならないものであり、あれだけの威力を持った兵器が出回るには相当な時間と技術が必要だということには」

 

 

 その言葉に同意したのは、自身もシミュレーターで電磁投射砲を使用したことがある唯依だった。

 確かに電磁投射砲ですらようやく実機の試作が完成したばかりであり、改良の余地がいくらでも見受けられる代物だ。

 しかし零が持ち込んだ武器はそれより取り回しが良く、そして威力も非常に高い。さらに機体も今までと異なる改造の不知火に加え、全く異なる概念で設計されたMSというものまであるという。

 不知火はともかく、フレームどころか概念までが新規設計の機体などそれこそ簡単に作れはしない。第一、戦術機が誕生して30年近く経った現在で新たに完全新規設計の、しかも既存の機体を遙かに凌駕するものなど一体どうすれば作れるのだろうか。

 だがここに――非常に非現実的ではあるが――異世界から流入したという話になればまた違ってくる。

 異世界となれば文字通りこことは異なる世界だ。BETAがいない平和な世界。もしくはBETAに襲われながらも撃退に成功した世界。逆に敗北してしまった世界。考察すればそれこそキリがないだろう。

 そんな世界の一つからやってきたとなれば、この男が言うことの辻妻が合う。

 

――しかし現物を目の当たりにしているとはいえ、未だ信じられんな。

 

 それでもやはり実感が沸かないのは仕方のないことだろう。突然沸いたのを目撃したり、似たような境遇をたどってきたのであるならば別であるが。

 

 

「なお、このことはオーバーワールドに所属するものは全員承知しているし、衛士の一部はそれを信じてもらうため宇宙空間にある俺の本拠地まで連れて行っている」

 

「う、宇宙? 本当ですか?」

 

 

 まさかの地球外からやってきたという事実にステラが信じられないといった風に尋ねると、彼女の隣から返事が返ってくる。

 

 

「ああ、本当だぜ。俺とエーカー大尉も連れて行ってもらったが、ありゃこの世界の物じゃないって証明には十分だ」

 

「うむ。技術レベルは、軽く見積もっても100年以上の開きがあるだろう」

 

 

 アフリカ戦線のエースと欧州切ってのスナイパーの言葉にアラスカ組はほとんど呆然とし、Gステーションに行ったことのないオーバーワールドのメンバーはプトレマイオス2の技術力からそれぐらいならありそうだと納得していた。

 

 

「ま、機会が巡ってきたらお前たちも連れて行ってやる。 さて、俺の話はここまでだ。何か質問は?」

 

 

 話を進める零だが、誰もがどんな質問をすればいいのかと戸惑っていた。

 そんな中、一つの腕がスッと挙げられる。

 

 

「……質問しても、よろしいでしょうか?」

 

 

 先ほど零に噛みついたユウヤだ。

 

 

「ああ、何でも言ってこい」

 

「……中佐以外にも、異世界とやらから来た人間はいるのですか」

 

 

 その問いに零は「ふむ」と顎に手を添えて考える素振りをすると、僅かに間をおいて答える。

 

 

「それについては不明だとしか答えられないな。俺が拠点とともにこの世界に来た時には、作業用ロボットを除いて俺以外の人間は誰もいなかった。だが、ブリッジス少尉のその可能性は決してゼロじゃない。俺という前例がいるのだから、他にも別世界から流れ込んだ奴がいてもおかしくはないからな」

 

 

 既に似たような存在がいるのだが、それこそ知るのは一握りの人間だけでいい。

 頭の中でそうつぶやき、他に質問がないと判断するとプロジェクターを起動させる。

 

 

「では早速不知火弐型の改修作業についての説明に入る。全員、事前に配布した資料は手元にあるな?」

 

 

 誰からも声が上がらないのを確認し、表紙を開くように指示を出す。

 

 

「ここで実施する弐型の改修作業は、ソフト面とハード面の両方を行う。このソフト面の改修に関してはここ横浜で作られた不知火・旋風の方でも行う予定で、簡潔に言えばこれだけでも戦術機に革命をもたらす代物だ」

 

「ソフト面の改修だけで、ですか?」

 

「そうだ。ハッキリ言おう。この新OS、XM3は反応速度が従来のOSと比較して約30%向上し、『コンボ』『キャンセル』『先行入力』の機能を備えている。さらに特徴として、このOSによる動作硬直がなくなるという大きな利点がある」

 

 

 零の説明にアラスカ組だけでなくオーバーワールドからも驚きの声が上がる。

 Gステーションでその概要を知らされていたグラハムとニールからすれば今さらのようなものかもしれないが、改めて戦術機乗りとしての観点で見てもそれはまさに革命的な代物だった。

 この硬直が排除されるだけで、いったいどれほどの衛士が救われることだろうか。しかも説明の続きを聞けばこのOSは動かせば動かすほど動作パターンを学習し、さらにデータリンクの共有で戦術の幅を大きく広げることが出来るという。

 中でも『キャンセル』の機能は、硬直排除に次ぐほど有用な機能であることがこの場にいる全員には容易に想像できた。

 そしてダメ押しで見せられる一つの模擬戦映像。一機の不知火が7機の不知火を次々と撃墜していくものだ。

 説明の通りに硬直もなく、まったく淀みない動きは衛士の腕も相まってそれだけで弐型を超えているのではないかと思わせる。

 

 

「素晴らしい……。これもやはり、中佐が考案したものですか?」

 

 

 技術者としての血か、はたまた衛士としての血が騒ぐのか、唯依は興奮しながらも務めて冷静に問う。

 しかし零から返ってきたものは、まさに予想外の返答だった。

 

 

「いや、これを考案したのは俺ではなくこの一機で戦っている不知火に搭乗している衛士だ。プログラムこそ、さる方の助力を得て作ったがな」

 

「なっ!? そうなのですか!?」

 

 

 これには流石に唯依も驚きを隠せなかった。

 今までのことがあっただけに新OSも零が開発したものだと思い込んでいただけに、告げられた言葉は予想を大きく上回った。

 話を聞いていたユウヤも同様で、再び画面の不知火を注視する。

 

――革新的なアイデアを持っているだけでなく、腕まで一流ってことかよ。

 

 零とはまた違った、新たな天才の出現にユウヤは奥噛みした。米国、アラスカを通じてかなり腕を上げていると自負していただけにそれを軽く上回る存在に嫉妬せずにはいられない。

 そんな彼を余所に、零は次の説明へと移行する。

 

 

「続いて弐型のハード面の改修項目についてだが、これを見てくれ」

 

 

 画面が切り替わり、新たに映し出されたのは弐型のシルエットにいくつものチェックが入れられた図面だった。

 今までの弐型と違い旋風と同じ担架付きバックパックを装備し、腕部と脚部に新たな機構を加えることで戦況に合わせて装備を変えられるハードポイント・システムが追加されている。

 

 

「これを見てもらえばわかると思うが、新たな弐型は戦況に応じて装備を換装させられるようにした。具体的には最初に高火力に特化した砲撃装備で出撃し、状況に応じては継戦力に特化した装備に切り替えて前に出るといった具合だ。各装備にジェネレーターを搭載し、機体に接続することで稼働時間の向上も視野に入れている」

 

「なるほど、以前見せていただいたストライクガンダムやインパルスガンダムのようなものですね」

 

「コンセプトとしてはその通りだな。 ストライクとインパルスが何なのか知りたいものは、後で簡単なデータを片桐に渡しておくからそれで確認してくれ」

 

 

 付け加えるようにそう告げ、弐型の隣に三種類の換装装備を呼び出す。

 それぞれに砲撃戦に特化したL装備。中~近距離戦に対応させた万能型のM装備。そして近接戦に特化したS装備とコメントが打たれていた。

 L装備はGP-02サイサリスMLRS装備型の多連装ロケットシステムを背負わせ、肩にバスターガンダムの連装ミサイルポッドと脚部にミサイルランチャーを装備している。さらに両腕部にはヘビーアームズのようなナイフが仕込まれており、いざというときはそれで近接戦を行うことも可能だ。

 M装備は基本兵装が旋風とそう変わらないが、改良されたバックパックのスラスター増設により旋風と比べ約10%ほどの機動力の向上が図られAGEシリーズのように腕部と脚部を丸ごと交換できるようになっているため、被弾状況によっては丸ごと交換するだけで再出撃が可能となっている。零としてはVガンダムのように三つのパーツから構成するようにできればと思っていたが、コストや戦術機としての観点など諸々の事情によりお流れとなった。

 そしてS装備は頭部と両腕にバルカン砲が搭載され、さらに両腕はGNソードのように折りたためるソニックブレイドを持たせられている。背部の担架には従来通りの長刀や突撃砲が装備でき、腰部の両側にはソニックブレイドをナイフサイズまで小型化させたものが取り付けられている。そして奥の手として零は脛の部分に74式近接戦闘長刀の技術をオーバーワールドが独自に改修し切れ味を強化したものを備えさせ、インフィニットジャスティスのビームブレイドのように蹴りで相手を切断することを可能にした。ただし当初はガーベラストレートの技術を使用しての設置を考えていたが、こちらもコスト事情でお流れとなった。

 

 

「――とまあ、ざっくりと説明すればこんな感じだ。基本的に全形態共通で初期状態は素手だから、携行装備は好きなものを持ち込める。L装備で長刀を持つもよし、S装備でガトリング持ち込むもよしだ」

 

「質問をしてもよろしいですか?」

 

「なんだ、ブレーメル少尉」

 

「この94セカンドに狙撃向けの装備はありますか?」

 

「そっちは現在、135mm対艦ライフルをベースにしてAPFSDS弾も撃てるように開発中だ。長距離射程の武器なら180ミリキャノン砲もあるぞ」

 

「中佐ー、S装備の腕についてるソニックブレイドって取り回しの邪魔になるんじゃないっスか?」

 

「安心しろ、マナンダル少尉。これは必要に応じて取り外しができ、そのまま空いてる手に装備することも可能だ」

 

 

 投げかけられる質問に淀みなく答えていると、不意に零の通信機からコール音が発せられた。

 質疑応答を中断し画面を見てみると、そこに表示された内容に零は眉をひそめる。

 

 

「すまない、急用ができた。詳しい話の続きはまた後日に行うので、今日と明日は割り当てられた宿舎でゆっくりしてくれ。オーバーワールド各員は、いつもの作業や訓練に戻ってくれ。エイノア少佐は、俺から連絡があるまでしばらくグラハムたちと行動してくれ」

 

 

 素早く指示を出しブリーフィングルームから退室すると、人気のない場所へ移動しつつ零は再び通信機の画面を確認する。

 

 発信者 香月 夕呼

  緊急回線使用

 

――緊急回線を使ってまで俺に連絡とは……なにかあったのか?

 

 未だ鳴り続けるコールに対して応答し、通信機を耳に当てる。

 

 

「お待たせしました、博士」

 

『神林、大至急あたしの部屋まで来なさい。白銀も呼んでるから、迅速によ』

 

「武まで? 何かあったのですか?」

 

 

 まさか武が知る以外の何かが起こったとでもいうのか?

 BETAの侵攻か? それともクーデターがらみか?

 

 

『安心しなさい、あんたたちにとってこれ以上ない朗報だから』

 

「朗報?」

 

『ええ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――00ユニットが完成したわ』




本編第33話、いかがでしたでしょうか?

ようやく00ユニットの起動直前までこぎつけることができました。
調律に関してはおそらく次回で終了するかと思います。
これでようやく次の段階に進める……のか?

ともあれ、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

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