さて、今回は00ユニットの調律がメインとなっています。
今日に間に合わせるために駆け足で書き上げたので急展開、描写不足、誤字脱字が予想されますが、どうかご容赦ください。
それでは本編第34話。どうぞご覧ください。
国連軍横浜基地 地下19F 香月夕呼の研究室
「――先生! さっきの話は本当ですか!?」
慌ただしく部屋の扉を開け放って現れた武に夕呼は不敵な笑みを浮かべる。その表情を見て、武は先ほどの連絡が本当だと確信した。
「本当よ。あんたの言葉で言うなら、マジってやつね。もうすぐ神林も来るはずだから、もう少し――「博士、お待たせしました」――来たわね」
タイミング良く入室してきた零に気分を良くし、夕呼は二人を引き連れてその部屋を目指す。そしてやってきたのは、鑑純夏のシリンダールーム。
部屋の前で一度止まり武は高鳴る鼓動を落ち着けるように深呼吸をし、零は静かに夕呼の合図を待つ。
「白銀。あんたが入室した瞬間から、00ユニット――鑑純夏の調律が始まるわ。やり方はあんたに一任するけど、二日以内に調律を完了させなさい。でないと、後々の手札に大きく影響するわ」
「ということは、以前お話ししたODL浄化のローカル化は間に合わなかったということですか」
零の言葉に夕呼はため息交じりに頭を押さえる。その様子から相当頭を絞ったらしいが、作成には至らなかったのだろうというのが見て取れた。
「本当ならその手立てを確立させてからの方がよかったんだけど、悔しいことに浄化機関の解析が全く進んでいないのよ。下手に反応炉をいじって機能停止なんて、目も当てられないわ」
「やはりこちらが思うよう事は運びませんか……。武、気合いを入れていけ」
「あ、ああ」
「じゃ、行くわよ」
それを合図に夕呼はシリンダールームへと足を踏み入れ、零たちもそれに続く。続いて二人が目にしたものは空になったシリンダーと、その前で三人を待っていた霞、そしての隣で何処か焦点が合わない瞳で床を見つめる00ユニット――鑑純夏がそこにいた。
「――純夏ぁっ!」
これ以上こらえることができなかったのか、武が声を上げて駆け出し、純夏へと抱きつく。しかし彼女はされるがままに体を揺らし、やがてなにか思い出したかのようにぽつりとつぶやく。
「……タケル……ちゃん…………」
「そうだ、俺だ! 俺はここに――!」
「タケル、ちゃん……タケルちゃ……あ、あぁぁぁあああ!!」
「純夏!?」
突然発狂したように頭を抱えて叫び出す純夏に、誰もが身構えた。そして純夏は頭を抱えたまま頭を振り乱し、武の腕の中で暴れ、叫ぶ。
「ぐっ!?」
そして零の中に流れ込む、強烈な感情の波。
愛しさ、悲しさ、恐怖、絶望、怒り、憎悪。
それぞれが混ざりあって不協和音となり、ノイズを起こして頭に響く。
――これが……今の純夏の状況か……! 対してニュータイプ能力が強くない俺でこれなら、感情の機微に鋭いカミーユやバナージではどうなるんだろうな……ッ!
ノイズに苛まれながらもどうにか持ち直し、再び零は前を向く。武が必死になって純夏を抑えるが、感情の激しさは増すばかりであった。
「BETA……殺す! タケルちゃんを殺したあいつらは……殺さなきゃ……! 絶対に……あいつら…………だけ、はああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「まずい! 白銀、下がりなさい! 今のままじゃ逆効果だわ!」
「け、けど……!」
「博士に従え武! ここでダメになったら元も子もない!」
「……くっ!」
悔しさを噛み殺し未だ暴れる純夏から離れると、入れ違うように霞が純夏に抱きついて鎮静化を図る。
純夏の対応を霞に任せ退室すると、頭に響くノイズが激減し、零はようやく一息つけた。
そのとなりではやるせない怒りをぶつけるように、武が壁を殴りつける。
「くそっ! せっかく純夏に会えたのに、またこれじゃあ……!」
「落ち着きなさい、白銀。調律は始まったばかりよ」
「……はい。けど、時間もないと思うと、正直気が気でないです」
ぎりっと奥歯を噛みしめる武を横目に、零は壁にもたれかかりながら既に別の手立てを模索し始めていた。
――あの感情の殻に覆われた純夏へダイレクトに武の声を届けるのは厳しいな。原作では時間をかけて感情を戻していたが、今回は諸事情により時間がほとんどない。武がニュータイプやイノベイターだったらサイコフレームやトランザムバーストで直接呼びかけることができるんだが――
「…………ぃ、零!」
「ん、すまん。考え事をしてた、なんだ?」
「あんた、さっきから顔色が悪いわよ? どうかしたの?」
どうやら他人の目から見ても不調なのが分かるほど疲れているらしく、零は予想以上の状態だと肩をすくめながら先ほど感じたことを明かす。
「……先ほど鑑を見たとき、彼女の感情がダイレクトに俺の頭に響いてきました」
「純夏の、感情が?」
武が何故、という表情をすると夕呼は何かに気づいたように尋ねる。
「あんたがニュータイプだから、かしら?」
「可能性は十分あります。ニュータイプの特徴の一つとして、相手の感情を感じ取る力があります。人によってこれが強く感じられるかどうかの個人差はありますが、正直言って俺はそこまで高い方ではありません。ですが、そんな俺にもはっきり感じられるほど彼女から強い思念を感じました。そして感じた感情のほとんどが、BETAに対する憎しみに染まっていました」
「じゃあ、俺の声はそれをどうにかしないとだめだってことか?」
「お前もニュータイプ、もしくはイノベイターだったらまだやりようはあったかもしれないな」
「イノベイター? ニュータイプとは違うものなの?」
「おや、教えていませんでしたか」
夕呼から初耳だという返答を受け、ならばと零は解説をする。
「ニュータイプと同じく人類の革新の一つとされるもので、共通する能力として他者との精神感応能力と近未来の状況を予測する力があります。なのでもし武がどちらかに覚醒していれば、やりようがあったのですけど」
「今からこいつをどっちかに仕立て上げれない?」
「無茶言わんで下さい。一朝一夕で人類が進化出来れば、それこそ戦争なんて起こりはしませんよ。ですが素質があれば、何かしらのきっかけで覚醒することは十分にあり得ますが」
戦争を経て覚醒したアムロ・レイやシャア・アズナブルがその最たるものだと心の中で加え、補足を続ける。
「一応、人工のニュータイプとされる強化人間という人種がいますが、正直言ってこれは非常に不安定な要素が強いです。人格の変貌が当たり前にあってちょっとしたはずみで暴走なんてことも十分にありますし、コストと時間がかかるくせに安定させる前に精神が崩壊なんてこともあるのでお勧めはしません」
「なによ、それじゃ使えないわね」
わずかでも可能性があれば、と思っていた夕呼だが、リスクを聞いた時点でその発想を取りやめた。
一方で零は今までの話をまとめ直し、改めて方法がないかを考え始めていた。
――さっきはああ言ったが、強化人間となって感覚を鋭敏化させ感情を伝えると言う手はありだと思う。だがやはり時間という問題がある以上、即興でそれと同等の成果を上げるには資材も道具も――
「……いや、可能か?」
零は思い出した。自身の
もし武がこれを克服できればより深い意識へ向けて声をかけることも可能だろうと試算するが、やはり使用するものがものだけに提案するのが憚られる。
「なにが可能なんだ? 零」
先ほどこぼれた言葉を拾った武が尋ねると、零は僅かに逡巡して教えるだけ教えることにした。
「即席で強化人間をニュータイプに近い状態に仕立て上げるのは、不可能ではないってことだ」
「え、でもさっき時間とコストかかるって……」
「俺のガンダムに搭載れているシステム――
「どっちにしたって博打ってことね。 ちなみに、強化人間を元の人間に戻すことはできるの?」
「時間をかければ不可能ではありません。何よりGステーションの機材を使えば、より確実かつ短期間で可能でしょう」
「なるほど。……白銀、あんたはどうする?」
流れとはいえリスクとリターン。もしもの時の対処についても提示された。成功すれば純夏を戻す手段の幅がぐっと広がり、失敗すれば計画に大きな支障をきたすことになるだろう。
安全策で行けば時間をかけてやる方が最も確実だろう。しかし時間をかけられないことを考えれば、試しでもやってみると言うのもありだ。
武は目を閉じて逡巡し、そして腹を括った。
国連軍横浜基地 第90番格納庫
零は今しがた運び込んだ機体――愛機ガンダムデルタカイのコクピットでシステム設定を行っていた。
これから行われるのは武による
やり方は
うまくいけば武の感応波が増幅され、感情の奥底にいる純夏へとその思いを届けさせることができる。あまりにも賭けの要素が強いが、武は彼女を戻すためなら使える手段は何でも使うとして
それでも零がリスクを考慮したため危険だと判断、もしくは5分経過しても00ユニットに変化が見られなければ強制終了すると言う条件が付けられている。
『うまくいくと思うかしら?』
「確率でいえば、そう高くはないでしょう。ですが、想いがシステムを上回ればあるいは」
『想いがシステムを、ね」
ドラマティックな答えに夕呼がどこか楽しそうに繰り返すと、零は設定を終え声を上げる。
「――武、準備はいいか?」
「いつでもいいぜ」
コクピットに隣接したキャットウォークで頭にコードをつけた武が応えると、彼の視線の先にいた霞が導くように純夏を武の前へと進ませる。
やがて手を伸ばせば届く距離まで近づき、割れ物を扱うようにゆっくりと抱きしめ零に向かって頷く。
「
スイッチを押された瞬間、デルタカイの関節部から青い炎が噴出する。同時にシステムが対象者を強化人間に仕立て上げるべく、その脳へと侵入する。
「ぐっ……! なんだ……体が……熱い……!」
「武! システムの感覚は無視しろ! 自分の抱く感情を、負の呪縛にとらわれた鑑にぶつけろ!」
システムからもたらせる感覚に戸惑った武だが、零の言葉で芯が通り腕の力を込める。
「純夏……っ! 俺がわかるか!?」
「……タケル、ちゃん…………ぁ、あああぁぁぁああぁあ!!」
武の呼びかけに純夏が反応するが、再び忌まわしい記憶がフラッシュバックして絶叫を上げる。
その感情を、武と零が同時に感じ取る。流れ込んでくるものは、やはりBETAに対する恐怖と憎悪だ。
「ぐっ……! す、純夏……ずっとこんな感情に包まれていたのか!?」
2回目の世界でプロジェクションによってどんなことが行われたのかを感じていた武だが、彼女からもたらされる感情はそれを見た時の比ではない。
そんな中で、武は幾重にも覆われた殻の先にその姿を感じた。
怯え、悲しみ、そして自分を求める少女の姿を。
「殺してやる! なにもかも全部全部全部! 壊れてしまええええええ!!」
「クソ! 武!」
「わかってる!」
痛いほど感じる純夏の感情の殻。その奥に向けて、言葉と共に意識を突っ込ませる。
――システムの介入が鬱陶しいけど、純夏のこの状態に比べれば!!
濁流のような感情を突き進み、精神を削られる感覚を受け、意識が飛びそうな勢いに逆らってそこに至る。
「純夏! 俺はここにいるぞ!」
「……!? タ……ケル…………ちゃん? ……いや、BETA……いやああああぁぁぁぁぁぁ!」
「怖かったな……辛かったな……寂しかったな……一人にさせてすまなかった。けど、おまえをもう一人になんか絶対にさせない。俺の思っていることが分からないなら、俺が全力で教えてやる! 拒否権はねえ!」
叫び、暴れる純夏をがっちりとホールドし、武は全身全霊を込めてたった一言を伝える。
「純夏――――俺はお前が好きだ!」
瞬間、純夏の身体が大きく震え、動きが止まる。
「たとえBETAにめちゃくちゃにされても、人でなくなったとしても、俺は鑑純夏と言うたった一人の少女を愛している! 誰もが否定しようと! 誰もが認めなくても! お前は俺が命をかけて守り抜くと決めた大切な人だ!」
「ぅあ、ぁ……ぁああ…………」
「もうそんな
「た……ける……ちゃん…………」
ビシィッと、何かがひび割れる音が上がる。
それはまるでひな鳥が卵から生まれるように連鎖的に、そして祝福するような温かい感情が溢れだす。
「もう一度言うぞ! 純夏――愛してるぞ!」
「たける、ちゃん。タケルちゃん、タケルちゃん! タケルちゃぁぁぁぁぁぁん!!」
背中に腕が回され、武を離すまいとギュッと力が込められる。
二人はお互いの名を呼びあい、存在を確かめる。
その心に殻はなく、蒼天のように澄んだ世界が広がっていた。
本編第34話、いかがでしたか?
疲れてるせいかな、ゴリ押し感が否めない……(震え声
最近ISを題材にした新作を書きたい衝動に襲われておりますが、どうにかこちらを優先させて書くことができました。
ISの作品は一応この作品が終わってからと考えておりますが、一体いつになるやら……
それでは、今回はこの辺りで。また次回の投稿でお会いしましょう。