Muv-luv Over World   作:明石明

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こちらでは大変お久しぶりです、作者の明石明です。

多重クロス作品を優先して投稿する中、続きの投稿を求めるメッセージを何度かいただきまして、とりあえず出来てる分だけ投稿に踏み切りました。
3000字程度の短い内容ですが、どうかご容赦ください。

それでは本編第35話、どうぞご覧ください。



第35話

国連軍横浜基地 プトレマイオス2 零の私室

 

 

 結論から言えば00ユニット――鑑純夏の調律は、無事に完了した。

 精神的にも一般人のそれと同様に安定し、BETAという単語には嫌悪感を示すものの、以前のように発狂じみた行動をとることもない。

 何より武と再会できたことがよほど嬉しいのか、安定直後からトレミーのメディカルルームに入るまで彼にべったりだった。

 

 

「無事に済んで何より、ですね」

 

「全くね。 これで面倒な条件は、ほぼクリアされたと言ってもいいわ」

 

 

 武のメディカルレポートと00ユニットの稼働レポートを読みながら俺と博士は安堵をつく。

 ここまで安定しているのであれば、あとは予定通り反応炉の通信機能を破壊してBETAのネットワークから切り離すだけだ。そこからは武が前の世界で得た情報を元に対策を取り、第5計画の手札を削り取った上でクーデターをどうにかする。これさえ終わってしまえば後は佐渡島を奪還して第4計画とオーバーワールドの戦力を改めて世界に知らしめ、オリジナルハイヴ攻略までこぎつけるのみだ。

 数日中には招集をかけた3人も来る予定だし、そろそろ鎧衣課長からの返事も来るはずだ。懸念事項があるとすれば、こちらの情報を明かしたことで第5計画の連中が先走って暴走しかねないということだな。特にオーバーワールドの技術と戦力を、G弾ちらつかせながら接収しようとする未来が容易に想像できる。

 まあそうなった場合、こちらとしても然るべき対応を取らせてもらうだけなんだが。

 

 

「通信機能の破壊はこの後すぐに行うけど、あんたはどうする?」

 

「アラスカから呼んだ面子の中に、プトレマイオスの指揮を任せようと思っている男が居ましてね。部隊の連中を交えて、少し話をしようと思います」

 

「確か……グルーデックとか言ったかしら? 大丈夫なの、引き込みとか能力とか」

 

「少し調べてみましたが、むこうがこちらにつくには十分な理由がありました。 彼はBETAの欧州侵攻の時に、妻子を失っています。軍に志願したのも、奴らに対する復讐が発端のようです」

 

「よくある話ね。それで、能力的にはどうなの?」

 

「数年前まで欧州を中心に前線の指揮を執っていたようです。さらに先のアラスカでもテロリストの使用する戦術機を、歩兵を指揮して携行火器の使用で撃破に成功しています」

 

「へぇ、やるじゃない。確かに、前線指揮官としては優秀みたいね。いいわ、あんたに任せる」

 

 

 手元の資料をテーブルに置き、博士は入れ替えるようにコーヒーに口をつける。彼女の顔に笑みが浮かんでいるのを察してもらえるように、ここで出しているのは合成のモドキではなく天然のコーヒーだ。

 

 

「それと、あの二人はどうなの?」

 

 

 どの二人を指しているのか、言われずともわかった。

 別に用意した資料をデスクから取り出し手渡すと、内容を見た博士は目を丸くした。

 

 

「それを見ていただければわかると思いますが、ビャーチェノワ少尉の細胞に関してはGステーションの医療ドックに丸一日預けてしまえば、あとは定期的に細胞を活性化させる薬を飲ませるだけで数ヶ月後には健全な人間と変わらない肉体を得ることができます。シェスチナ少尉の場合はビャーチェノワ少尉とブリッジス少尉、そして社がいれば問題ありません」

 

「……なんでもありね。あんたの本拠地」

 

 

 渡した資料はクリスカの肉体を治療するにあたって必要な措置、時間をGステーションの医療システムに割り出させたものだ。正直、もっと時間がかかったり面倒な手順を踏むかと思ったが、Gステーションの医療ドックはそのスペックを知れば知るほどとんでもない物であった。

 強化人間やエクステンドなど薬物投与で強化した人間を完璧に治療したり、クローニングによってテロメアが短いラウ・ル・クルーゼやレイ・ザ・バレルの老化の進行を常人と同じにしたり、果てには我らが師匠こと東方不敗の病すら治療することが可能という代物だ。流石神様印の治療施設というべきか。

 

 

「で、これを見てる限りじゃまたGステーションに行かないとダメなんでしょ? いつ行くの?」

 

「現在、武の専用機とその兄弟機をあそこで建造しています。それを取りに行くタイミングで、一緒に連れて行こうと考えています」

 

「白銀の専用機とその兄弟機?」

 

「ご存知の通り、武が操る戦術機の機動は並の機体では機体の方が先に悲鳴を上げます。それは旋風でも同じなので、こちらが持てる技術を使いあいつの操縦に耐えられる機体を一から作りました」

 

「兄弟機を作った意味は?」

 

「頭抜けた性能を持った機体を与えたとしても確実に生還できると断言できませんし、万全の状態でオリジナルハイヴ攻略を前提にするならやはり最低でもエレメントは必須。加えて俺は兄弟機が圧倒的な火力で雑兵を薙ぎ払い、最終ターゲットを武の操縦技術でもって仕留めにいくという構図を思い描きました。圧倒的な火力を持たせた理由は、万が一確認されていない新たなBETAと遭遇しても一撃で屠ることを前提にしたためです」

 

 

 未確認のBETAと挙げているのは、オリジナルハイヴに出現した母艦級のことだ。2回目の世界で武はあ号標的の撃破を優先したため母艦級の情報を持っていないようだったし、かといってあいつが知らないのに俺が知っていたらそれこそ矛盾が生じる。なので新種が出てきても即排除、という事も念頭において兄弟機――GLの建造を行った。

 

 

「圧倒的な火力の具体的な威力は?」

 

「最大解放でデルタカイのシールドに搭載されたハイメガキャノンを上回る、と言えばご理解いただけますか?」

 

 

 かつて女神さんがデルタカイの能力を大幅に引き上げてくれたが、最大火力はサテライトキャノンやツインバスターライフルには及ばなかった。

 しかし機体スペックは相変わらず現存するすべての機体のトップに君臨しており、専用機を得た武にもそうそう後れを取ることはないと自負している。ただし、伸びしろの具合ではどうなるか全くわからないので油断していると足元を救われそうだ。

 それはともかく、戦闘映像でハイメガキャノンの威力を思い出して想像したのか、博士は少し真剣な表情を浮かべ質問する。

 

 

「戦術機にそんな過剰火力が本当に必要なの?」

 

「火力不足で手詰まりになるよりは良いかと思いますが。それに環境汚染を引き起こさないビーム兵器なので、G弾や戦術核よりは気負わず使用できます」

 

「暴走、もしくは強奪されたらどうするの?」

 

「暴走された場合はGステーションのメインシステムからアクセスして、外部から強制的にシステムをダウンさせます。強奪に関しても正規の衛士のバイオメトリクスがなければ起動すらしないようにしますので、こちらも問題はありません」

 

「武器を奪われて使用される可能性は?」

 

「武器のグリップと機体の手のコネクタがかみ合わなければトリガーを引くことすら出来ないようにしています。よしんば使用できるようにしたとしてもエネルギーを機体に依存しているのでパワー不足に陥ったり、撃った時の反動が強すぎて機体が耐えられないでしょうけど」

 

「……わかったわ。建造を取り消せとは言わないけど、敵に利用されないようにだけ徹底しなさい。あたしからはそれだけよ」

 

「了解しました」

 

 

 残ったコーヒーを飲み干すと博士は資料を残して退室した。おそらく武と純夏を連れて、反応炉の方に手を加えに行ったのだろう。彼女とは少し話をしてみたかったが、こちらも予定が押している。片付けてから、改めて会いに行ってみるか。

 

 

「まずは、グルーデックを探すところからだな」

 

 

 グラハムたちと行動するように言いつけてから既に日を跨ぎ、外では朝日が顔を出していた。

 起床ラッパも鳴っているころだし、いるとすれば食堂かこの特別開発区画のどこかになるんだが……人に聞きながら探すか。

 連絡を取れるように端末を持たせておけばと思いつつ、俺も資料を片付けて部屋を後にするのだった。

 

 

 




本編第35話、いかがでしたでしょうか?

今回の内容はクリスカの治療とGLについての説明&懸念事項についてでした。
本当ならグルーデックさんまで話をこぎつけようかと思いましたが、長い間離れたせいかどう書いていいかわからず結局次回に持ち越してしまいました。
次の投稿もいつになるかわかりませんが、時間とアイデアができ次第投稿していこうと思います。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

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