Muv-luv Over World   作:明石明

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第3話

プトレマイオス2 ブリッジ

 

 

 MSデッキから武をメディカルルームに移し身体検査を行い、その間に俺はともに現れた封筒とメモリスティックを確認した。

 結論からいえば、あれはおっさんから俺宛に送られたものだった。

 封筒の内容は日本帝国内にいる米国工作員と、米国の狗と成り下がった売国奴のリストだ。

 つまり、事を円滑に進めるために使えということなのだろう。

 思わず例の数式かと思ったが、そんな都合のいい話はなかった。

 しかし何故こんなものを送ったのか? それを考えていると、メモリスティックに答えがあった。

 一つだけあったアプリケーションを起動するとビデオ電話のようなものが起動したが、映像に映ったのはおっさんではなくその上司を名乗る気の強そうな美人だった。

 なんでも本来なら転生先はチェンジ出来たはずなのに、それをおっさんは自分が送りたかったから誤魔化したそうだ。

 思わずブチ切れそうになったが、上司さんの真摯な謝罪とおっさんーーもとい、クソ野郎の処遇を聞いてどうにか鎮火した。

 しかも謝罪として今回のリストと、俺のデルタカイの性能を大幅に上げてくれたので上司さん改め女神さんに最大限の感謝をした。

 しかし再転生については、半年以上の期間を置かないとエネルギーが溜まらないので待って欲しいとのことだった。

 だが元から桜花作戦までは確実に留まるつもりでいたので、それは然程大きな問題ではない。

 それよりも気になったのが、今回の武のループだ。

 2ヶ月以上早く来たと告げるが、女神さんもこればかりはわからないとのことだった。

 可能性としては消える直前だったシロガネタケルの心残りを感じ取った世界が、彼のために世界を救える可能性が高い世界へと送ったのではないのかというものだ。

 もしそれが本当なら、この世界はもうオルタネイティブの『あいとゆうきのおとぎばなし』ではない。新たな可能性を秘めた『おとぎばなし』のひな型ということだ。

 やり方次第で最高の、もしくは最悪の結末を作り出すことができる。

 まあどんな『おとぎばなし』になるかはわからないが、俺という反則的要素がいる以上、最悪な結末にする気なんでサラサラないがな。

 

 

「――おっと、メディカルチェックが終わったか」

 

 

 モニタに映し出されたのはあの姿のまま治療ポッドから出てきた武だ。

 全体的に目立った異常はなし。体つきは兵士として鍛え上げられたそれだとわかることから、最低でも2週目以降であることが感じ取れる。

 

 

「個人的には、3周目であってくれた方が協力しやすいんだがな」

 

 

 2周目の武ではまだ未熟な部分があるためそれのサポートにも回らなければならないし、なにより下手をすればBETA捕獲イベントが発生してまりもちゃんがパックンチョされかねない。

 それだけは何としても、どんな手を使っても回避しなければ最高の結果には成り得ない。

 

 

「ま、ここで考えても仕方ない。起きたときにでも聞くとしよう」

 

 

 差し当たってはまず、あの顔を直に拝みに行くとするか。

 

 

 

プトレマイオス2 メディカルルーム

 

 

 まぶたの裏を刺激する明るい光に若干顔をしかめながら、白銀武はゆっくりと目を開けた。

 

 

「――ん、ねみぃ……って、どこだ此処」

 

 

 見慣れぬ風景に少し戸惑い、思わず起き上がり首をキョロキョロと動かす。

 何時もの自分の部屋ではなく何処かの医療施設のような空間だが、何故ここにいるのか皆目見当がつかなかった。

 

――確か俺は夕呼先生と霞に見送られて元の世界に……って、あれ?

 

 

「なんで、覚えてるんだ?」

 

 

 自分は既に因果導体ではないはずだ。元の世界に戻ったのであれば、何も覚えていない。

 ならば何故覚えているのか。

 そこまで考えて、唐突に思い至った。

 

 

「まさか、戻ってきたのか?」

 

 

 そう考えた彼にこみ上げてきた感情は絶望ではなく、歓喜。

 一度目は力が足りなかった。

 二度目は覚悟が足りなかった。

 だが今は、それらも持ち合わせている三度目だ。

 ならば、自分がすべきはただ一つ。

 

――今度こそ、みんなを救う! 一人も欠けることなく、絶対に!

 

 強い決意を持って寝ていた場所から立ち上がる。

 差し当たってまずは――。

 

 

「……横浜基地に行かないと不味いんだけど、マジで此処どこだ?」

 

 

 今自分がどこにいるのか把握しようとすると、見計らったように扉からプシュッと音がした。

 

 

「おっ、お目覚めのようだな」

 

 

 現れたのは20歳前後の若い男。

 白いズボンに青い軍服のようなものを纏っているが、階級章らしきものは見当たらない。

 髪と肌の色から日本人であると推測できるが、少なくとも自分の知り合いにこのような男はいない。

 

 

「まずは自己紹介だ。 俺は神林零。世界レベルの異邦人だ。タメ口で零と呼んでくれ」

 

「あ、白銀武です。 俺も武でいいです。えっと、世界レベルの異邦人って?」

 

 

 聞きなれない言葉についてたずねると、男――神林零は「うむ」と言って頷く。

 

 

「簡単に言ってしまえば、異世界の住人だ」

 

 

 

プトレマイオス2 メディカルルーム

 

 

 俺の回答に目の前の男――白銀武は愕然とした表情になった。

 

 

「異世界って、まさかあんたも因果導体なのか!?」

 

「因果導体? 違うな。 俺は強い想いに呼ばれ、自分の意思でここに来た」

 

「強い、想い?」

 

「俺は元の世界ではニュータイプって呼ばれる人間でな。普通の人より精神感応が強いんだ。ある戦闘が終わって直ぐ、この世界をBETAから救って欲しいって声を感じとり、導かれるままこの世界にきた」

 

 

 言ってる内容はほとんど嘘だが、この世界を救いたいという感情は本当にある。

 

 

「なら、あんたは俺の味方ってことでいいのか?」

 

「目的と利害が一致するなら、そう受け取ってもらって構わない。ちなみに今俺が掲げる目的は、地球圏からBETAを完全に駆逐すること。ただそれだけだ」

 

「……そうか。なら少なくとも、俺たちは敵同士ではなさそうだな」

 

 

 何処か安心した風に、武は若干表情を和らげた。

 

 

「さて、まずは今後の予定について説明しよう。ブリッジまで着いてきてくれ」

 

「了解。 ちなみに、此処どこ?」

 

 

 メディカルルームを見渡す武をみて、そういえば教えてなかったなと思い出す。

 

 

「ここは現在の俺の母艦、プトレマイオス2の艦内だ。そして現在、香月夕呼博士と接触すべく横浜基地に向かって海中を移動中だ」

 

「へぇー、先生に会いに横浜基地に行くのか」

 

 

 なるほどと言いながら頷く武だが、突然動きを止めて小さく首を傾げる。

 

 

「……なんですと――――!?」

 

 

 俺の発言に気づいたのか、驚愕と動揺がたっぷり含まれた叫びを上げた。

 

 

 

プトレマイオス2 通路

 

 

 移動しながら互いの話をしていると、このシロガネタケルは3回目のループでやってきたシロガネタケルだそうだ。

 因果の収束で他のシロガネタケルの力を取り込んでいる可能性もあるが、この際それはどうでもいい。

 重要なのは、俺が手を貸すべき主人公のシロガネタケルと言う存在がこの『未知なるおとぎばなし』にいるということだ。

 ブリッジでも思ったが、この世界は俺の立ち回り次第で最高にも最悪にもなりえる。

 ならば俺は、武にとって最高の結末を手にするのに必要なモノを揃えてやるだけだ。

 この世界の主人公はあくまでシロガネタケルだ。間違っても俺じゃない。

 俺は主人公に足りない後一手を補う存在であればいい。

 そうこうしているうちに目的地に到着する。ブリッジに足を踏み入れると、武は目の前の光景に目を輝かせた。

 まあ、無理もないか。こんな数世紀先の世界の技術を目の当たりにすれば心が踊るものだ。

 内心でくつくつと笑い、モニターに進路を表示する。

 

 

「俺たちの現在地はここ。明日の昼には横浜基地近海に到着するが、香月博士との接触はその日の夜だ。場所は基地の裏手にある丘の上。上陸は基地から十分離れた海面からMSで発進。基地から10キロ離れた森に機体を隠してから徒歩で移動する」

 

「MSって、零たちの世界にある戦術機……っと、ロボットだったよな。どんなのがあるんだ?」

 

 

 質問の回答に今回持ってきた機体のうち、デルタプラスのデータを見せてやる。

 始めは普通に読む武だが、段々とその目が開いていく。

 

 

「な、なあ。このスペック、マジか?」

 

「ああ、マジだ。ちなみに俺の愛機はこれの完成形態とも言うべき機体で、性能もそれより格段に上だぜ」

 

 

 ただでさえ強かったのに、女神さんのおかげでチートっぷりが凄まじいが。

 

 

「スゲェ……。ビームとかバルジャーノンの世界だけかと思ってたぜ」

 

 

 引き合いにバルジャーノンを出す辺り武らしいな。

 また内心でくつくつと笑い、ふと思いついたことを提案する。

 

 

「シミュレーターで一度操作してみるか?」

 

「いいのか!?」

 

 

 食いつき早ぇ。

 

 

「機体に戦闘データがあるから、MSデッキに行くぞ」

 

 

 再び連れ添ってブリッジを後にし、MSデッキへと向かう。

 移動しながらデルタプラスの機体特性や武器の仕様などを教えていくと、唐突に武が尋ねる。

 

 

「なあ、零。MSの技術を戦術機に流用することって出来ねえかな? もし出来れば、人類は今以上に戦える」

 

「それは俺も考えているが、実機がないと何とも言えないな。第一、武器そのものを使うことが出来ても、その弾数とかロックオンを管理させるプログラムを組む必要がある。俺としては間違いなくそれが一番面倒だと思う」

 

「零はできないのか?」

 

「俺はソフトよりハードを設計する方だな。仲間にいいプログラマーがいたから、ソフト関係はそいつらに任せっぱなしだ」

 

 

 中の人繋がりでお前ができそうな気がするが、まあ無理だろ。

 

 

「うまくいかないもんだな」

 

「世の中、そんなもんだろ」

 

 

 俺の返しに武は「確かに」と納得し、そのままMS関連へと移った話はデルタプラスのコクピットに着くまで続いた。




キャラクター紹介

神林零

機体
ガンダムデルタカイ

アビリティ
ニュータイプLv3
熱血LvMAX
底力LvMAX
機械技術LvMAX

初期ステータス
射撃:25
格闘:25
反応:28
守備:24
覚醒:11
指揮:7
魅力:9

神の力で転生してマブラヴの世界に来た男。
転生補正でニュータイプの力を手にするが、能力自体はそこまで強くはない。
名前の元ネタは戦闘妖精雪風の作者、神林長平と、同作主人公の深井零より。


白銀武

アビリティ
因果導体LvMAX
超強気以上で、ループした回数がステータスに乗算される。
格闘、射撃、反応、守備+10
超強気以上でクリティカル率+10%

恋愛原子核LvMAX
マスター時、味方女性の反応値+20、クリティカル率+10%
ただし、自機に向けての攻撃に限りクリティカル率100%
味方女性のMPが毎ターン30上昇(範囲制限なし)
同グループに特定キャラが全て揃っていた場合、覚醒と指揮を除く全ステータス+20
ただし、特殊アビリティ修羅場が発動し初期MP値とSAN値は-50される
なお、このアビリティは削除不可

エースLvMAX
身軽LvMAX

初期ステータス
射撃:23
格闘:28
反応:25
守備:23
覚醒:0
指揮:5
魅力:15

ご存じの恋愛原子核。
今回は2周目が終わって直ぐループしました。
オリジナルアビリティは付けるとしたらこうかな? と思ってつけてます。

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