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プトレマイオス2 MSデッキ
ええい! あの因果導体は化け物か!
機体に繋がれた小さなモニターで繰り広げられるデルタプラス一機とザクⅡ ”100機” による荒野での地上戦に、俺は頬を引き攣らせながらそう思わざるを得なかった。
なんせ初めてMSに乗る男が、たった数十分で歴戦のパイロットと渡り合える実力を見せているのだ。
いくら軍人として身体を鍛えていたり、戦術機の衛士として前線に出ていたとしてもちょっとおかしい。
思わず初めてガンダムに乗ったアムロを彷彿させられたね。もしかしたら中の人繋がりの因果が流入したのかもしれない。
『零! こいつスゲーよ! XM3みたいに良く動くし、機動性も不知火が可愛く見えるぜ!』
いや、お前の方が普通にスゲーよ。
機体性能に大きな差があるとはいえ、実はあのザクの中にコレン・ナンダー軍曹とノリス・パッカード大佐のデータを使った機体もあった。
だというのに、あいつはビームライフルで牽制してからのウェイブライダーによる突撃やビームサーベルでのカウンターでその2機を撃破するという戦いぶりをみせた。
――これだけ強いなら、あれを出してみるか。
ちょうど全部のザクが撃破されたのを確認し、外部端末からある機体とパイロットデータを呼び出す。
「武、次の機体でラストだ。もしこれに勝ったら、お前にチーターマンの称号をくれてやる」
『なんだ、その褒めてるのか貶してるのかよくわからない称号は』
「今のお前が十分反則だからだ。行くぞ」
一方的に話を切り、次の戦闘を開始させる。モニターでは荒野に二つの機影が存在し、一つはデルタプラスで、もう一つはアンテナをつけたザクだ。
――ただしそのザクは、かの赤い彗星の専用機。
そしてパイロットは宇宙世紀0093の地球に隕石を落としたニュータイプ、シャア・アズナブルその人だ。
プトレマイオス2 MSデッキ デルタプラスコクピット
武が駆るデルタプラスの前に現れたのはまたもザク。
しかし今度のは今までのと比べ明らかに異質。
武装事態に変化は見られないが、カラーリングが緑ではなく赤、頭部にはアンテナと見るからに個人のために用意されたカスタムタイプだ。
――こいつ、なんかヤバそうだな。
ゲームで良くあるボスキャラみたいな感じを受け、武はいつでも動ける体制でビームライフルを構えようとする。
瞬間、赤いザクは彗星の如き速さで距離を詰めてきた。
「な、はや――ぐぅ!」
いきなりショルダータックルをもらい後方へ吹っ飛ばされるが、あらゆるスラスターを使って素早く制止させる。
「なんだ今の!? 他のザクと全然ちがーー!」
落ち着く間も無く鳴り響くアラート音。カメラを前に向けるが、そこに敵機はいない。
映っているのは、地面に作られた不自然な黒い影。
「上か!?」
気づいた時には既にマシンガンの雨に晒されていた。シールドで防ぎながら後退しつつビームライフルで応戦するも、予定調和のように全て紙一重で回避される。
その間もマシンガンは放たれており、銃身が脚部に向くと弾はその動きをなぞるようにズレーースラスターに直撃した。
「のわっ!? 脚が!」
爆発を起こした脚部に気を取られた瞬間、ザクマシンガンからヒートホークに持ち替えたザクはそれを逃すことなく、全力の一撃をデルタプラスのコクピットに叩き込んだ。
プトレマイオス2 MS
「――なんだよあの機体。強すぎるんだけど」
納得いかないと言った風に出てきた武のために、俺はネタバラシをしてやる。
「あれは赤い彗星と呼ばれるエースパイロットにしてトップクラスのニュータイプ、シャア・アズナブルの専用機だ。推進性能は通常のザクに比べて30%増しだが、初めてその速さを見たオペレーターはテンパって通常の3倍早いと錯覚した。そしてパイロットはその機体を使っていた頃から約13年後の本人」
「あれで30%増しって、まるでXM3を積んだ撃震みたいだな。いや、それ以上に衛士の実力が違いすぎた。 あれがニュータイプの力か」
ニュータイプについて何か納得したように頷く武に、俺は自分が感じていることを補足する。
「ニュータイプと言えど、元は同じ人間だ。確かにニュータイプは強いかもしれない。けどな、ニュータイプだから強いってわけでもない。それがなくても強い奴はいるし、そういう奴に限って特に心が強い」
平和のためにテロリストとして戦ったガンダムのパイロット。
好きな女の子を守り抜くために戦ったガンダムのパイロット。
他にも特別な力を持たずとも強い連中はたくさんいた。
……まあ、一部おかしなベクトルで強い奴らもいたが。
「MSは拘束具です」と言い張るような連中を思い起こしながら、新たなシミュレートデータを選択する。
「武、今度はこれやってみるか?」
そう言って見せた内容は空中で360度全方位から飛来するビームを、時間切れになるまでひたすら避け続ける訓練プログラムだ。
ガンダムXでガロードが特訓してたアレである。
「……いやいや、なんだよこの鬼畜な訓練は。これこそニュータイプしか――「ニュータイプでないお前より年下の少年が、これを凌ぎ切ったと聞いてもか?」――!」
途中で遮られた言葉の内容に驚く武だが、その顔は直ぐに変わった。
「いいぜ、やってやろうじゃねえか」
年下の子供に負けるというのが我慢ならないのか、強気な炎を瞳に宿して武はまたデルタプラスへと入って行った。
単純なように見えるが、あの負けず嫌いな精神は必ず大きな力になるだろう。
しかし、後の横浜基地で俺はちょっぴり後悔することとなった。
その負けず嫌いが、オールドタイプでありながらニュータイプばりの反応と直感で自分を追い詰めてくるなど、この時は知る良しもなかったのだから。
国連軍横浜基地
その日、香月夕呼は何処か落ち着きがなかった。
研究がうまくいかないのは――悔しいが――何時ものことだが、まるで時間が早く過ぎるのを待っているようにそわそわしていた。
傍からみれば男性とのデートの時間になるのを待つ女性に見えなくもないが、本人からすればそんな甘い事情ではない。
「……いよいよ、今夜ね」
一週間ほど前、自分のパソコンにハッキングを仕掛けてきた謎の人物がいた。
自らをイレギュラーと名乗り、異世界からやって来た存在と言う。
それを裏付ける資料が送られてきたため、夕呼は自身が提唱する理論に基づき、この人物が本当に異世界から来たと判断した。
少なくとも、敵対するのに自分の重要な手札を明かす奴はいない。
別な思惑があるのかもしれないが、こっちにとってプラスになるのなら特に突っ込んだりする必要もない。
ただし、こちらに銃を突きつけるような真似をするならば――
「……どのみち、実際に会わないと正確な判断ができないわ。 社、あなたも来るのよ」
「はい……」
夕呼のそばにいた銀髪の少女、社霞は頭のウサ耳を揺らして頷いた。
この少女がいる限り、一部の人間以外はその思考が嘘か誠か隠すことはできない。
彼女の能力は、これから会う者に対しても重要な判断材料になるのだ。
約束の時間まで、あと6時間。
日本帝国 国連軍横浜基地近郊 柊町
夜の帳が下りた廃墟を進んでいた俺と武は、2種類の家の前にいた。
一つは廃墟の街にしてはかなり綺麗な状態の家。
もう一つは、撃墜された戦術機に押し潰された家だ。
綺麗な家の表札には白銀と。
潰れた家の表札には鑑とあった。
――本来なら、10月22日のここから始まるんだよな。だが既に『おとぎばなし』は幕を開けた。あとは紡ぎ、駆け抜けるのみだ。
武も何か新しい決意でもしたのか、一度力強く頷くとこちらへ向き直った。
「もういいのか?」
「ああ。行こうぜ」
多くを語らなかったが、その顔からは強い信念が感じ取れた。
さすが3周目。精神的な部分が強くなっているな。
ちなみに武は最初から着ていた制服で、俺はグレーの連邦軍の制服になっているな。
個人的には青い制服の方が好きだが、今回の行動では目立ちすぎる。
長居は無用としてその場から歩き出し、やがて坂の上に巨大なレーダーがある施設が見え始めた。
国連軍横浜基地だ。
俺は武を連れ、あらかじめ決めていたルートを突き進む。もちろん誰かに見つかるようなヘマはしないし、今の緩い横浜基地なら熱探知レーダーもロクに監視していないだろう。
ちらっと武に目をやると、見るからに渋い顔をしていた。まあ、この空気を改善するために取られた手段で恩師が死んだんだ。そりゃ苦い顔の一つもするだろう。
これも早急に解消する必要があるが、残念なことに解消する手立ては今のところ思いつかない。
ガフランを大量投入したら流石に慌てるだろうが、それなら最初から俺が乗り込んだ方が早い。
とりあえずこれは、横浜基地に出入りできるようになってから考えよう。
予定通り誰にも見つかることなく、裏にある丘にポツンと立っている木の元に辿り着く。
まだ近くに誰もいないが、キッカリ約束の5分前。あの香月博士が大事な約束に遅れるなどあり得ない。ならば先に来てこちらを観察している可能性がある。
不意に、誰かに心を覗かれているような感覚を受ける。
……なるほど、霞にリーディングさせてから接触する気だったか。
しかし残念ながら俺にリーディングは効かないし、ニュータイプの力でどこにいるかも違和感を辿れば分かってしまう。
「? どうした、零」
尋ねる武を手で制し、違和感の元――一際大きな木の幹に体を向ける。
「誰だ? 俺の中に入ろうとするのは」
国連軍横浜基地近辺。
約束の時間の5分前に現れた二人の男。
一人は訓練兵の制服だが、もう一人はグレーの服を着ていた。
先に着ていた夕呼は足元に座って身を隠している霞に小さく頷き、あらかじめ指示しておいたことをさせる。
リーディングによる相手の真意の確認。これが彼女の決定の大きな判断材料となっている。
今まで何度も彼女の力で最善の判断を下してきたし、それは今回も同様だと夕呼は考えていた。
しかし突然、霞の小さな体がびくんっと震えた。
「社、どうしたの?」
「…………ん」
「え?」
「グレーの服の人、読み取ることができません」
「!?」
夕呼に激しい衝撃が走った。
グレーの男がリーディング対策をしており、こちらの手札を封じていたのだ。
――ということは、あの男がイレギュラーって訳ね。
そしてその考えは、離れたところから聞こえた声で確信へと変わった。
「誰だ? 俺の中に入ろうとするのは」
ばれているのなら、もはや隠れる理由はない。霞を立たせ、共に姿を晒す。
訓練兵は驚いた表情をし、グレーの男――イレギュラーは表情一つ変えることなく夕呼たちを見据えていた。
「直接でははじめまして、香月博士。イレギュラーの神林零です」
「聞かせてもらえるかしら、何故あたしたちが隠れているとわかったの?」
「その前にもう一人、こちらから紹介したい人物がいます」
イレギュラ――ー神林零が促すと訓練兵が前に出た。
「お久しぶりです、先生」
「あたしは教え子を――「『教え子を持った覚えはないわよ』」――!」
再び夕呼を激しい衝撃が襲った。
当初彼女は、自分に接触を求めてきた人物にさえ注意すればいいと思っていた。
だがこの時点で彼女はその考えを破棄した。
相手は自分の予想を遥かに上回る強力なカードを何枚も携えてきたのだ。こちらの手札では捌き切れないと判断し、一度心を落ち着けて訓練兵に体を向ける。
「あんた、何者?」
「俺は白銀武。先生といまのやりとりをするのは、俺の主観で2度目です。もっとも、前回と比べて2ヶ月以上早いですけど」
その発言に夕呼は違和感を感じた。
白銀武が言うには今のやりとりは2回目で、一度目は2ヶ月後にあったと言う。
――ならこの白銀ってのは未来から来たとでも言うの? ……ん? 白銀武?
そこまで考え、夕呼はある可能性に行き着いた。
異世界人がいるのだ。ならばそれが居ても何ら不思議はない。
「白銀、と言ったわね。あんた、まさかとは思うけど……因果導体だとでも言うの?」
その発言に、目の前の二人はニヤッと笑った。
「香月博士、ここから先は人に聞かれると少々マズイ。基地へ招き入れてくれませんか? それと、俺の機体を回収したいので大型トレーラーを一台貸していただきたい。こちらがざっと入手した横浜基地の図面では地下に巨大な格納庫があったはずだ。そこに搬入させてもらいたい」
「そこまでお見通しって訳ね。 いいわ。確かにここで話すことではなさそうだし、あたしもMSには興味あるわ」
「感謝します」
夕呼が基地に足を向けると、二人は着いてくるように後ろについた。
――さて、この二人の存在。あたしにとって吉と出るか凶と出るか。
思わず頭を抱えそうになるのをどうにか堪え、夕呼はこれからする質問の内容を見直すことにした。
前回のあとがきに記しましたが、この武ちゃんは超強気以上になるとステータスが狂ったように上がります。
今回シャアザクに負けたのはイベントによる仕様です。