Muv-luv Over World   作:明石明

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政治パートって大変です。
腹の探り合いとても黒いです。
そして執筆中の内容が意味もなく消えたらテンションだだ下がりです。


第5話

国連軍横浜基地 第90番格納庫

 

 

 自他共に認める天才、香月夕呼は今し方搬入された機体に興味を抱かずにはいられなかった。

 しかしそれよりも重要なことが先に控えているため、少々歯痒い思いをしているのもまた事実。

 そしてその元凶とも言える男が搬入された機体――デルタプラスのコクピットからワイヤーラダーで降り立った。

 

 

「感謝します、博士」

 

「礼なら別にいいわ。それより早くあんたたちのことを教えなさいよ。特に神林」

 

「ご指名に応えたいところですが、先に武の話を聞いてやってください。こいつは博士の研究だけでなく、日本帝国にとっても非常に重要な情報を持っています」

 

 

 自分以上に重要な情報を持っているとして武に目配せをし、説明を促す零。

 その意図を察して、武が答え始める。

 

 

「先生が言う通り、俺は因果導体です」

 

 

 それを皮切りに、武は自分の周りで起こったことを全て話した。

 自分が10月22日を基点にループを繰り返すこと。

 一度目の世界で12月24日をリミットにオルタネイティブ5が発動してしまったこと。

 2度目のループで第5計画を防ぐため行動し、未来が変わったこと。

 元の世界への数式の回収。米国の手引きで起こされたクーデター。トライアルでの神宮司まりもの死。佐渡島での戦いの後に起こった横浜基地防衛戦。そして、桜花作戦。

 夕呼は終始無言であったが、所々で表情に変化はあった。

 特に親友が自分の策で死んでしまったと聞いた時は、見るからに手に力が入るのがわかった。

 

 

「なるほど。確かに聞き逃せない情報ね、特に00ユニットからオリジナルハイヴに情報が筒抜けになるというのは」

 

「しかし、00ユニットがなければ戦力的に辛いのもまた事実です。俺は確かに強力な機体や武器を保有していますが、調整中のものもあるので全部が全部使えるわけではありません。しかもそれ以前に、使いこなせる人員がいなければ話になりません」

 

 

 零の発言を聞き、武は少し前から思っていたことを聞いた。

 

 

「なあ、零。お前が持ってるので一番強力な機体ってなんだ?」

 

「調整中のを含めても、いま一番強力なのは俺のガンダムだな。武器だけで言えばそれすら凌駕するものがあるが、BETAと一緒に機体の腕もぶっ壊れる可能性が高い。かと言って元々それを使っていた機体を作ろうにも材料の精製から入る必要があるから時間がかかりすぎる」

 

「強力でも使い勝手の悪い武器はいらないわよ。 ところで神林、ガンダムって何よ」

 

「以前博士にジムのデータを送りましたよね。あれは試作MS、『ファーストガンダム』をスペックダウンさせて量産向けに調整された機体です。そしてガンダムは、俺の世界では歴史の大きな転換期に必ず現れた機体です。しかも状況によっては讃えられる英雄であれば、討つべき堕天使なんて表現されたこともあります。そしてその全てが一騎当千であり、機体によっては過剰すぎる火力を持ったものまであります。それこそ一発の砲撃でそれなりに大きな島一つを消してしまうほどの」

 

「お、恐ろしいな……」

 

 

 慄く武を余所に、夕呼は零に質問を重ねる。

 

 

「ガンダムについてはわかったわ。今度はあんたのことを教えなさい。あそこにあたしたちがいるのがわかった理由も全部よ」

 

 

 

国連軍横浜基地 第90番格納庫

 

 

 さて、ようやくこの質問か。

 俺はあらかじめ用意しておいた設定を思い返し、説明を始める。

 自分が人類の革新者、ニュータイプであること。

 そこに至る過程で、多元世界(Gジェネ)で戦い抜いたこと。

 その最後の戦いが終わった後、この世界を救って欲しいという強い想いを聞き、この世界にやってきた。

 話の内容ほぼ100%が嘘であるが、リーディングも効かず真実を知るのがこの世界で俺しかいないので何も問題はない。

 

 

「なかなかに反則な存在ね、あんた」

 

「これでも、部隊の中では最弱でしたよ。周りが化け物揃いだったことは否定しませんが」

 

 

 呆れる香月博士にそう返すと、武が納得したように頷いた。一度シャアとやり合っただけあって理解も早かったようだ。

 さて、と俺は切り出す。

 

 

「以上が俺が話せる全てです。そしてそれらを踏まえた上で、俺たちは博士に協力しようと思っています」

 

「見返りは? 神林は前に聞いたけど、あれは本心かしら」

 

 

 疑り深いな。まあ、こんな破格の申し出をされたら普通勘繰るよな。

 

 

「本心ですよ。違う世界とはいえ、命かけて護った地球が滅亡の危機にあるとなれば傍観なんてできませんし」

 

「俺はみんなを守ることができれば。地球の解放は、そのついでに出来ればいいです。ですから先生は、計画完遂のために俺たちを利用すればいいんです」

 

 

 おい武、俺は利用されてもいいなんて一言も言ってないぞ。 まあ、利用し利用されるつもりだったから結局は同じか。

 香月博士は疑惑の目を向けていたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「なら、あんたたちがあたしの駒として相応しいかテストさせてもらうわよ。白銀、あんた突撃前衛長だったんでしょ? 実力を見せてもらえるかしら」

 

「その程度なら、お安い御用で」

 

「それから神林。あんたはあたしをGステーションってところに連れて行きなさい」

 

 

 予想通り。そして俺は、その発言の瞬間を待っていた。

 

 

「いいですけど、それなら一つ条件があります」

 

「条件? 何よ」

 

 

「Gステーションに行くなら日本帝国の重鎮、具体的には政威大将軍煌武院悠陽殿下も御同行願います」

 

 

 これは予想外の要求だったようで、博士だけでなく武まで呆気に取られていた。

 しかしこれはこちらにとって大事な事である。早い段階で殿下との繋がりを確保し、帝国領内に戦艦を収められるドックの建造を許可してもらいたい。そのための見返りとして技術提供や食糧支援は惜しまないつもりだ。

 

 

「……それは必須事項と受け取っていいかしら?」

 

「無論です。そのためにも会談の場を設けてくれませんか? いつまでとは言いませんが、出来るだけ早く」

 

「……いいわ、やってあげる」

 

「契約成立ですね」

 

 

 これで会えることは確実だろう。

 流石に殿下が単身で来ることはない。少なくとも護衛に月詠大尉と紅蓮大将、参謀に鎧衣課長。後はオブザーバーに珠瀬事務次官と榊総理大臣あたりが来るはずだ。

 後は如何に早く会談して協定を結び、帝国と横浜の戦力を強化出来るかだな。少なくとも甲21号――いや、11月11日のBETA侵攻までにはある程度戦力を整えておきたい。

 そして大事なのがここで207訓練部隊に『死の8分』を経験してもらうことだ。

 これを逃せば少なくとも207Bの初陣は甲21号、もしくは防ぎきれなかった場合のクーデターになってしまう――って、ちょっと待て今って確か!

 

 

「博士。つかぬ事を伺いますが、今の訓練兵たちは総合評価演習はもう実施されましたか?」

 

「2週間後の予定だけど、それがどうかしたの?」

 

 

 セーフ! 今が夏の評価演習の時期だってことを完璧に忘れていたがまだ間に合う!

 

 

「先ほどの武の話を元に俺なりのプランを考えていたんですが、必須条件が今回の演習で207Bが合格することなんです。初陣が甲21号では余りにもプレッシャーが大きいのと、新技術の慣熟に費やす時間を減らしたくないというのが理由です。ただでさえ少ない時間を、こんな事で無くすのはもったいなさ過ぎる」

 

「確かに。ならまた俺が訓練兵として混ざった方がいいか?」

 

「愚策だな。今のお前を訓練兵に放り込むなんて時間の無駄だ、まだ特別教官の方が効率がいい。権力の力とか訓練兵へのお手本とかやりたい放題だぞ、階級によるが」

 

「時間の無駄はあたしも好きじゃないわ。白銀、さっさとシミュレータールームに行くわよ」

 

 

 博士が踵を返し、エレベーターへと向かって行く。それに倣うように、俺と武もその後を追う。

 いや、さっきは本当に危なかった。

 俺からすればここはゲームの世界だが、セーブやロードなんて都合のいいやり直し機能は存在しない。

 時間を有効に使うためにも、207B分隊には必ず合格してもらわなければ。

 

 

 

国連軍横浜基地 シミュレータールーム

 

 

「変態ね」

 

「変態ですね」

 

 

 博士と意見が一致する。目の前のモニターでは、国連カラーの不知火が凄まじい速度でハイヴ内を突き進んでいた。

 しかし、その動きは変態と呼ばれるのに十分な機動を見せていた。

 迫り来るBETAはほぼ全て無視。ただひたすら前に進むために足場がなければ着地点のBETAを一掃し、時には天井を蹴り、挙げ句の果てにはBETAを踏み台にしてまで進んでいた。

 信じられるか? 旧OSでコレなんだぜ……。

 

 

『ダメだ、XM3じゃないからデルタプラスでやったみたいな機動ができない』

 

 

 んなことやらんでいい。

 

 

「あいつ、そのXM3とやらがあればもっと動けるとでも言うの?」

 

「間違いないでしょう。初めて触ったMSで、すでにこれ以上の機動をやってましたから」

 

「……変態ね」

 

「変態ですね」

 

 

 やがて推進剤と弾薬を使い切り、長刀が折れたところで自決用のS-11が作動しシミュレーターが終了した。

 

 

「ふぅ、どうですか? 先生」

 

 

 さっきまで動いていたマシンから強化装備を身に付けた武が姿を現し、こちらまでやってくる。

 

 

「あんた、MSで戦った方が早いんじゃないの?」

 

「いえ、操作はやっぱり慣れた戦術機の方がいいですね。それに、XM3は絶対に必要になります」

 

 

 XM3が必要というのは俺も同意見だった。

 XM3が搭載された機体は無い機体と比べると天と地ほどの差があるし、武が戦い続ければ他の衛士が使った時に役立つ。どう考えてもMSという全く別の技術を一から習うより明らかに早い。

 

 

「とりあえず、あんたの実力は分かったわ。精々こき使ってあげるから、覚悟し時なさい」

 

「お手柔らかにお願いしますよ」

 

 

 武が苦笑いして両手を上げると、ちょうどシミュレータールームの扉が開き何処かで見た女性が現れた。

 

 

「博士、ご依頼のものをお持ちしました」

 

「あら、ありがとう。ピアティフ」

 

 

 ああ、ピアティフ中尉だったか。

 博士に二つの封筒を手渡すと、彼女は何事もなかったかのように退室した。

 

 

「それじゃ、二人とも。 受け取りなさい」

 

 

 武と揃ってたった今届けられた封筒を受け取る。先に武が開けたので覗き込むと、見出しに辞令と書かれていた。

 

 

「ちょ、俺大尉ですか!?」

 

 

 慌てるその手には、確かに大尉の二文字が記された書類があった。

 

 

「なによ、不服なの?」

 

「イヤイヤ、高すぎませんか!?」

 

「そうか? 実力的には何ら問題ないと思うぞ」

 

 

 言いつつ、俺も自分の封筒を開けて中身を確認する。

 見出しには武と同じ辞令の文字。

 で、肩書きが特別開発部門開発長で階級は臨時中佐か。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………ファッ!?

 

 

「こ、香月博士! 俺が開発長にして臨時とはいえ中佐とか一体なんの冗談だ!?」

 

「妥当な階級よ。あんたにはこれからやってもらうことが山ほどあるから、階級は高い方が良いに決まってるじゃない」

 

「イヤイヤイヤイヤ! 開発長はともかく階級は少佐ならまだ納得できるが流石にやり過ぎではないか!?」

 

「あんたさっき白銀に言ったじゃない、実力的には何ら問題ないって。あたしもあんたの持つ技術を鑑みればこれぐらいがちょうどいいって判断したのよ」

 

 

 ブーメランキター!

 

 

「諦めなさい。あんたは既にこの横浜の魔女と契約したのよ?」

 

「……そーでございました」

 

 

 おかしいな、途中まで俺の思惑通りに進んでいたはずなのに、いつの間にか自分から生贄の祭壇に上がっていたようだ……。

 

 

「零」

 

「なんだ、武」

 

「ザマァ」

 

 

 満面の笑みでそんなことを言ってきた武へ、とりあえず俺は一発殴ることにした。

 

 

 

日本帝国 帝都 帝都城 謁見の間

 

 

 限られた者だけが許される日本帝国政威大将軍殿下、煌武院悠陽との会談。

 その限られた人物の一人が今、彼女の前にいた。

 トレンチコートを纏っている男は真意を読まさない笑みを崩さず、ただ悠陽の言葉を待つ。

 

 

「それで、鎧衣。火急の件とはなんでしょうか」

 

 

 男――帝国情報省外務二課課長鎧衣左近はようやく口を開いた。

 

 

「実は先ほど、香月博士を通して殿下に御目通りを願う者がおりまして。ただその人物は異世界からBETAを滅ぼすために来たと申しているのですよ」

 

「異世界、ですか?」

 

 

 鎧衣は「はい」と頷き、続ける。

 

 

「私も博士が研究がうまくいかずついそんなことを口走ったのかと思ったのですが、渡された資料を見てはその可能性も否定できなくなりましてな」

 

 

 そう言って取り出される数枚の用紙。

 鎧衣から差し出されたそれを受け取り、悠陽は一字一句逃さず目を通す。

 最初は落ち着いて、しかし徐々に驚きを隠せなくなる。

 

 

「ここに記されていることは、誠なのでしょうか?」

 

「少なくとも、博士はこれが本物であると判断されたようです。またこの資料の提供者、神林零と名乗る者はこの巨大人工衛星『Gステーション』に我々を招き入れる用意があるそうです」

 

「……真耶さん。どう思いますか?」

 

 

 悠陽は側に控えていた従者の月詠真耶大尉に問う。

 

 

「は。私見と致しましてはふざけていると切り捨てたいところですが、あの香月博士がこのような判断をされたとあれば、真実である可能性は高いかと」

 

 

 それは悠陽も同意見だった。

 そして彼女の提唱する理論をある程度であるが理解しているため、ほぼ間違いないだろうと考えた。

 僅かな沈黙の後、悠陽は決意する。

 

 

「鎧衣、その神林殿と一度お会い出来るように動いてもらえますか?」

 

「殿下、それはつまり……」

 

「はい。私は信じてみようかと思います。 ――真耶さん。この資料の写しを技術廠第壱開発局の巌谷中佐に渡していただけますか?」

 

「御意」

 

「鎧衣、そなたにも苦労をかけます」

 

「いえいえ。殿下の願いとあらば、喜んで」

 

 

 ――さて、この神林零という人物はこの国にどのような影響を与えるのかな。

 

 退室した鎧衣はそんなことを思いながら、若き政威大将軍のために行動を始めた。




Gステーションに殿下や先生を連れて行くのはもう少し先になります。

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