世界の名はアザトース   作:風になれ

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バステトは見つけ出す

「しっかしお前さんも大変だねぇ、仕事を終えたらまた仕事って」

 

 私の前でそう言うカーリーは、先ほど頼んだメロンソーダをストローで飲んでいる。

 私は今、電脳都市ドリームランドのオフィス街の中にある喫茶店のテラスにいた。

 喫茶店内にあるあけられた時計の両の針は12の数字を指している。

 そこで私がある存在を待つために座って待ってたら、偶然やってきた休暇中らしいラフな格好の我が同僚件友人である彼を捕まえて、雑談と愚痴混ぜ合わせながら話していた。

 決して喫茶店でサボっているわけではない、それだけは断じてちがう。

 

「で? 今回の仕事は何なんだっていうんだ?」

 

 メロンソーダを飲み終わったのか、カーリーが仕事について聞いてきた。

 

「人探しよ、人探し」

「人探し~? このドリームランドでか?」

 

 今現在、この世界へやってきている人間はおおよそではあるが10億人は超えているらしい、そんな中から一人の人物を探すというのは砂漠に埋もれた一粒の砂粒を探せと言われているようなものだ。

 とてもではないが見つけられないだろう

 

「ログインリストから検索するとかできないのかよ?」

「ログインIDすらわからないのに?」

「うっわ、何そのクソゲーは」

 

 ログインIDというのは、この世界にやってくる際に作られる名前のことだ。

 一度作られれば変えることのできないという代物で、個人を探す場合は普通はこれをリストで検索すればすぐに発見できる……のだが、今回はその名前すらわからないというのだ。

 目印のない探し物など、無茶ぶりにも等しい。

 だが、神は、というか我が上司は手掛かりは一つ手に入れてくれていた。

 コンソールを開いてある画像データをカーリの顔の前に飛ばす。

 そこには腰まで届く銀色の髪に、紅玉(ルビー)ような輝く瞳を持った白のワンピースの少女の姿が映し出されている。

 

「女の子アバター、しかもえらい美少女だな、誰かのオーダーメイドか?」

「かもしれないわね、ま、それはともかくとしてこれが唯一の手掛かりよ、この写真をもとにして、とりあえず間で選んだここら辺を探らせてるの」

「勘って……相変わらずだな、それに探らせるっていつものでか?」

「そ、いつものよ」

 

 私たちがそうこう話していると、テーブルの下からから声がした。

 それは、私にとってはとてもなじみのある声で、私はしゃがみ込みんでテーブルの下にいる声の主を持ち上げた。

 それは、灰色の毛並みを持つ一匹の猫だった。

 といってもこの世界では、動物は専用のエリアにしか存在しない、ならばこの猫は何なのかといえば私の使い魔ような存在だ。

 

「にゃぁ」

「おーよしよし、1号おつかれさま……よっし幸先がいいわね」

 

 私は猫を抱きしめて、集めてきた情報を共有する。

 傍から見れば、猫を抱きしめるOLに見えるだろうか。

 

「この光景を見てるとセキュリティネームに偽り無しって感じだな」

「やめて……結構恥ずかしいんだからそれ」

 

 セキュリティネームというのは、この世界でセキュリティに所属している人物の中でも結構なスコアを稼いでいる人物に与えられる異名というか称号のようなものだ。

 一応栄誉ある物ではあるのだけれど、改めて言われるのはいささか気恥ずかしい。

 

「そのようすだと、さがし人は見つかったみたいだな」

「ええ、私の勘とこの子たちのおかげでね」

「相変わらずスゲーなお前の勘は」

 

 勘、いわゆる第六感というもの、私はそれが普通の人よりいいらしい。

 現実の世界で、天気予報が晴れだといっている日に、傘を持って行った方がいいなと思ったら本当に雨が降ったり、テストなんかの選択問題は一度も間違えたことはなかった。

 もちろん感は普段の生活だけではなく、私の命を何度も救ってくれたこともある。

 ゆえに、私は勘というものを大事にしている。

 

「ほんっとうらやましいもんだ……行くのか?」

「ええ、仕事だからね」

「そっか、じゃ、私はここで優雅な休暇を満喫することにするわ、がんばれよ()()()()!」

「だからその名前で呼ぶな!」

 

 そうして、私は手を振る友人を置いて喫茶店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここらへんだと思うんだけど……」

 

 一号の情報をもとに私がやってきたのは、オフィス街にある噴水広場だった。

 先ほどまでいた喫茶店より少し離れた場所にあるこの場所は、この世界でも働くという、私を含んだ哀れな社会人たちがよく集まる憩いの場の一つだ。

 実際に今も私以外にもスーツを着たアバターが、お昼時という事情もあってサンドイッチやおにぎり片手にベンチでランチタイム中だ。

 

 私も使っている医療カプセルという存在があるおかげで、現実の肉体で栄養補給などする必要はが無いのだけれど、やはり人間という存在は食というものを忘れられない様で、この世界で食べるという行為を行っている。

 日本をはじめとする世界の様々な科学者と料理人が作り上げた味覚データは本当に素晴らしい。

 

「あれかな……?」

 

 噴水のそばににたたずむ少女の姿が見えた。

 写真通りの美少女の姿で、噴水から出ている水が少女の存在を幻想的にに彩っているように見える。

 

「ちょっといいですか?」

 

 アバターは美少女でも、中身がそれ以上の年齢ということもある。

 なので近づいて普段通りに話しかけたのだけど、その返答というのか彼女はこちらを見つめてきた。

  

「えっと……なにか?」

 

 何も言わずただただこちらを見つめてくる彼女に、そう聞き返しても、彼女は何も変わらず見つめてくるばかりだった。

 

「……」

 

 そのまま5分ほど経っただろうか、彼女は一度にっこりとこちらに笑いかけると突如として走り出した。

 

「あっちょっと!?」

 

 急に走り出す少女を追いかける。

 この世界では、アバターの身体能力というものはエリアごとに制限がある。

 ドリームランドにある子のオフィス街では、身体能力は現実通りに設定されている、なので、大人と子供の歩幅の差ですぐに追いつくと思ったのだけど、少女は休憩にやってきたのだろうサラリーマンの集団の中へと入っていった。

 

「すいません! 通してください」

 

 それを追って私も集団の中へと入っていく、黒のサラりーマンのカーテンをかき分けて追いかける。

 だけど、いつの間にか少女の姿を見失ってしまっていた。

 

「うっそでしょ!?、あんなに目立つ見た目してるのに見失う普通!」

 

 黒のスーツと真っ白なワンピースだ。

 相反する色では明るい色のほうが目立つ、なのに見つからない。

 途中で服装を変えたのかとも思ったけれど。あんな人の集団の中コンソールを開いて着替えるなんて至難の技だ。

 

「でも、そう遠く入ってはいないはず……なら」

 

 人の群れを抜けて、路地裏へ移動する。

 一人で見つからなければ、ほかの目も使うまで。

 

「ここら辺には……よし」

 

 手を前にかざしてコンソールを開く、そしてその中にあるセキュリティ専用の項目を開く。

 そこには1から5の数字が割り振られた猫のアイコンがある、私はそれをタッチして起動する。

 すると、私の前に5匹の猫が現れた。

 この子たちはセキュリティ特権で使用できる探査プログラムだ。

 外見などは個人の好きな外見にできるため私は猫の姿にしている。

 

「行け!」

 

 私の指示で5匹の猫たちは動き出し、先ほどの少女を探し始める。

 空を飛んで。

 うん……何度も見ても不思議な光景だけれども、姿形が猫なだけで実態はプログラムなのだ突っ込んではいけない。

 飛んでいった猫たちを確認してから私は空中に6つのウィンドウを開く。

 5つのウィンドウには先ほど飛んでいった猫たちから送られてくる映像が、もう一つには猫たちの居場所を示すマップが表示されている。

「さーて、どこにいったのかな?」

 噴水方面や先ほどのサラリーマンの集団の中にはワンピースの姿はなかった。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「3号、今出ていったサラリーマンを追って」

 

 違和感を感じた私は、近くを飛んでいた3号に指示を出し追わせる。

 そのサラリーマンはそのままビルとビルの間にある資格に入っていくと、()()姿()()()()()()()()()()()()

 

「こいつ……ログアウトもせずアバターいじってやがる」

 

 この世界では服装などはすぐに変えられるのだが、アバターデータとなると安全面の関係で気軽に変更できない。

 最低でもログアウトしてから変更しなければいけないのだ。

 一見不便かもしれないが、これも安全面のためである。 

 人間の脳というものは結構柔軟なものだけれども、普段とは違うものを感じてしまうと違和感というものを覚えてしまう。

 それが少しの時間であれば問題はないだろうが、それが何日も続くと現実の生活にも支障が出てしまうのだ。

 まぁ、現実を捨てて”自分の好きな姿でこの世界で生きていく”、という者たちも少なからずいるのだけど。

 それに、ログアウトもせずにアバターデータを変更できるということは十中八九ハッカーかクラッカーということになる。

 

「本当は穏便に連れていくつもりだったけど――手荒く行きましょうか」

 

 私はマップを元に少女のもとへと急いで向かった。

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