魔法少女リリカルなのは 黒騎士の憂鬱   作:孤独ボッチ

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 一応、美海一人オリ主に再編したお話です。
 お試しに書いてみました。
 設定も前回から多少変わっています。

 では、お願いします。


プロローグ

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 私は宮殿を歩いている。

 宮殿だ。

 比喩でも頭の中にあるものでもない本物の宮殿を歩いていた。

 とても苛立っているのが分かる。

 何故、他人事みたいな言い方なのか?

 それは、これが夢だからだ。

 自分でも結構変わっていると思うが、私は二度の転生を経験させられた。

 これはもう終わった人生で、どうにもならない事だ。

 なのに何度も夢を見る。

 目を覚ましたくても、自分の意志ではどうにもならない。

 夢を見る私は、心の中を諦観が支配する。

 夢の中の私が、目的の部屋に辿り着く。

 扉の前を騎士が二人護っている。

 いや、監視していると言った方が適当だ。

 だが、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私の魔法は、こいつ等程度に見破られやしない。

 荒々しく部屋に踏み込んでいく。

「レクシアお姉様」

 目的の人物が振り返る。

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。

 私の妹分で聖王本家の直系の血筋の姫。

 一方、私は聖王選王家の一つとはいえ、外様もいいところだ。

 聖王は一応、選王家から選ばれる事になっているが、ここ何年かは本家が世襲でやって

いるので、実質は選王家等飾りに等しい。

 本来なら、姉呼ばわりされる事など有り得ない。

 でも、私達は仲が良かった。

 鬼子などと不遇な呼び名で呼ばれる姫と、聖王を何代も排出していない枯れた家の五女で

ある私は、偶然か必然か出会い、絆を結んだ。

 だからこそ、ここに来た。

「ヴィヴィ。聞いたよ。ゆりかごの王になるって!?正気なのか!?一度あの王座に着いて

しまったら死ぬしかないんだよ!?」

 そう、ここは古代ベルカの時代だった。

 そして、私はこの子と同じ時代に転生したチート転生者だった。

 一度目の転生した名をアレクシア・レイ・アーデンといった。

 容姿はPARA-SOLの谷田部美海と同じで、私の元の性別は男だったが…()()()()

 あの転生担当はミスばかりだった。まあ、意識も女にしてくれたのは助かったが、お陰で

恋愛感情部分が歪み、男にも女にも興味はなくなってしまった。

 そして、チートのお陰で、ベルカの聖王選王家・国家アストラの最強の騎士であり、将。

 ベルカ全土でも最強と目される存在にまでなった。

 今となってはお笑いだ。

 オリヴィエは、ただ寂しげに微笑んだ。

「お姉様の魔法ならば、ここに入る事など造作もない事でしたね。失念しておりました」

 彼女は、これから聖王のゆりかごに乗る。

 ゆりかごの王になる為に。

 私はコレを知っている。

 だからこそ、引き止めたかった。

「戦争なら、私が終わらせる。ヴィヴィがこんな事をする必要なんてないんだ」

 こんな言葉じゃダメだ。

 今の私が醒めた視線を昔の私に送る。

 いや、こんな事は当時だって分かっていた事だ。

 ただ、言わずにいられなかっただけで。

 案の定、オリヴィエが悲しそうに笑った。

「お姉様の軍は、度重なる出兵で疲弊し切っておりましょう。随分、兵や騎士に損害を出し

たと伺っております。お姉様が、それでご自分を責めておられるのも承知しております」

「っ…」

 オリヴィエの労りに満ちた声に、言葉が続かなかった。

 当時、弱小国である私の国は、聖王本家からいいように使われていた。

 なまじ強かったばかりに。

 潰れるまで使い潰す。

 その意図が透けて見えていた。

 私の我慢も限界というものがある。

 そう思った矢先にこれだった。

 チートを貰って転生したんだから、自分ならやれる!そんな馬鹿な考えは長くは続かな

かった。

 私一人がどれだけ強かろうが、軍で戦う以上、全て護るなど土台無理な話なのだ。

 それが戦略級魔法を使おうが、同じだ。

 私の魔法を警戒して攻めてくる敵は後を絶たない。

 戦略級魔法の恐怖故に。

 必然、誰かが死んでいく。

 だから、せめて身近な人くらいは護りたかった。

「それでも、シュトラに増援を…」

「それは止めて下さい」

 キッパリとオリヴィエが拒否する。

 増援の当てなんて、まともなシュトラくらいしか頼めなかった。

 しかし、今なら分かる。

 シュトラは今、それどころではなかったから。

「シュトラは今、隣国から攻め込まれています。森も焼かれてしまったので行軍も楽に

なっています」

 確かに、最後に聞いた情報では、かなりキナ臭くなっていた。

 私は別の戦線を担当していた為、情報が降りてこなかったのだ。

 そして、森が焼かれたという事は…。

「魔女達の殆どは…」

 殺されてしまったか…。

 あの森には、獣人みたいな特徴を持った魔女達が暮らしていた。私もオリヴィエ経由

で紹介され、仲良くしていた。

 オリヴィエの顔を見れば、察する事が出来た。

「聖王家は、アーデン家の躍進をこれ以上望みません。もうお分かりですよね?」

 分かる。

 アーデンとは、転生した私の旧家名だ。

 使い潰されずに済むように戦い、連勝してたからそろそろだと思っていた。

 そして、この戦いが終わったら、何か理由を付けて私達を潰す事を決めたという事だ。

 それまでは精々利用してやろうという訳だ。

 予想通り過ぎて、眉が寄ってしまう。

「私は護りたいのです。クラウスもリッドも、そしてお姉様も。そして、お姉様はこれ

からのベルカに必要な方です。なんとしてもお救い致します」

 必要な方か…。

 残念ながら、それは貴女も同じだ、とは言えなかった。

 シュトラの坊ちゃんや私にとって必要でも、王家からすれば私同様使い捨てして惜しく

ない存在だったから。

「お姉様。聖王になって下さい。私の様なゆりかごに乗っただけの王ではなく、本当の

ベルカの王に。お姉様だけなのです。民の為に太陽の光と、食事を与えられたのは。

 お姉様は私達の希望です。聖王家とは取引しました。ですので、引く事は出来ません」

 私はこの頃、国土を覆う分厚い雲を魔法でブッ飛ばして、日照時間を強引に作っていた。

勿論、それに加えて気流操作もやっていた。尤も、国土が猫の額みたいなものだから出来た

事だったけど。それで他国に迷惑が掛かっていると分かった後は、鹵獲した禁忌兵器の情報

を読み取って改造する事で、これまた強引に解決。ついでに別の禁忌兵器を改造して、土壌

改善までやっていた。魔力も厳しかったし、流石に自前の時は短時間しか出来なかった。

巨大なCADにしたお陰で、魔法の維持が格段に楽になった。今にして思えば、好き勝手

やったものだ。それに加えて、WEB小説でよくある農業チートを参考に、作物を育て、

保存食を造り、民の為に常備していたのだ。

 オリヴィエはそれを知っていた。

 しかし、聞き捨てならない事を聞いたよ。

「取引したって何!?」

 あの嘘八百の連中と何を取引出来る!?

「私が聖王家の為に戦争を終わらせる代わりに、シュトラやアストラに手を出さない事。

 援助をする事を約束させました」

 今の私は、渋面で目を閉じた。

 オリヴィエは、もう覚悟を決めていた。

 あれから現実にはかなり言葉を重ねた筈だが、それでも決意を覆す事は出来なかった。

 オリヴィエが別れ際、微笑んだ。

 その笑みに、何も言ってやる事は出来なかった。

 それが遠のいていく。

 いつもの展開だ。

 今の私が、諦観と共に見送る。

 

 宮殿が消え去り、陰鬱な雲が覆う大地に昔の私が立っていた。

 夕方だが、この頃のベルカは大体雲に覆われて、薄暗い。

 まあ、ウチの国は少し事情が異なったが。

 隣には、元護衛騎士であったのに、メイドにジョブチェンジした変わり者。

「姫様。聖王本家より使者が参っておりますが…」

 よく知ってるよ。

 因みに姫とは私の事だ。

 王位を継いでも、このメイドは相変わらず私を姫と呼ぶ。

 姫は勘弁してほしい。

 使者のほざくであろう内容も予想が出来る話だ。

 聞きたくないが、聞かないといけないだろう。

 私は一つ溜息を吐いて、歩き出す。

 

「聖王陛下は、お嘆きになっておられます。ベルカの平和への歩みを乱す蛮行を。まさか

降伏を打診してきた国を、陛下の判断なしに滅ぼしてしまわれるとは…。戦を終わらせる為、

ゆりかごに乗られたオリヴィエ陛下が報われませぬ」

 戻ると聖王家の使者が嫌な顔で嗤い、喋り始めた。

 何故、聖王がいるのにオリヴィエが陛下と呼ばれるのか?

 答えは簡単だ。

 元々在位している聖王はいて、オリヴィエはゆりかごの王になった事で名誉職として聖王

扱いされているだけで、オリヴィエに権力が備わった訳じゃない。

 兵器になった王様に政務は出来ないからね。

 だから、こういう事が起こる。

 因みに、私は降伏の打診など受けていない。私が戦っていた国は、最後の一兵まで戦ってやる

といったあの姿勢で、降伏の二文字は思い浮かんですらいなかった筈だ。完全に言い掛かりだ。

 こんな事になるんじゃないかと思っていた。

 連中が真面目に口約束なんて護る訳ないのだ。

「降伏するならば、君等の首だけで収めようと、陛下は仰せになっておられます」

 私の部下達が一斉に立ち上がり、聖王家を非難し始める。

 使者がニヤリと嗤う。

「それでは、最後の慈悲を蹴るというのだな?」

 未だに騒ぎ続けている部下を、私は手を上げて黙らせる。

 今の私が溜息を吐く。

 今も昔も感想は同じだ。

 こっちが何を言おうが、戦争に持ち込むんでしょ?って。

「慈悲?そんなものないだろう。そんな人らしいものは。それと勘違いするな。反旗を翻す

のは私一人だ」

 私は敢えてふざけた言い分に乗っかった。

 私がチートでも聖王家の戦船の数やら、魔導騎士の数やらで勝ち目はない。

 ウチに戦船なんてボロいのが一隻あるだけだ。足しになりやしない。

 唯一勝っているのは、人材の質のみ。

 ウチは騎士団というより山賊の集まりみたいなもんだ。勝つのに手段は選ばないから、対人戦

は強い。物量には流石に押しつぶされるけど、このままいいようにやられる可愛げはない。ない

が、死なせたくない連中だ。

 今の私が冷ややかに昔の自分を見る。

 そんな事言って、思って、何が変わる。

 使者が、侮辱されて顔を真っ赤にする。

「そんな都合のいい話は、通じない!!その程度の分別もないか!!ならば全員死ねばよい!!」

 使者は、捨て台詞を吐いて、プリプリして帰っていった。

 使者を手始めに血祭に上げるという意見もあったが、結局実行しなかった。

 あんな小物ぶち殺しても、なんの慰めにもならない。

 

「皆には、こんな事になって申し訳なく思う。だからせめて生きてほしい」

 私は開口一番にみんなにそう言った。

 重々しく告げた筈なのに、みんなが爆笑した。

 馬鹿な事を言ったとでも思ったのかもしれない。

「いやいや、アイツ言ってたじゃないですか。全員殺すって。戦うしかないでしょ」

 一番のお調子者がそう言うと、全員がテンションの差はあれど頷く。

「一応、考えはある」

 私はそう言うと、聞くだけ聞こうという姿勢になる。

「私を裏切れ」

 全員が沈黙の後、再び爆笑された。

 爆笑されたが、実際あちらも優秀な人材不足だ。

 物量を除けば、使える魔導騎士など少ないものだ。

 ハッキリ言って、ゆりかごと多数の戦船が聖王家の強さだ。

 だが、ベルカは基本、武が尊ばれる。

 腕のいい魔導騎士は、支配を確実にする為にも欲しい。

 私という目障りなヤツを除いて。

 色々と私は聖王家に対して、やらかしたからね。神聖剣強奪事件とか。

 聖王の権威に転んだと思わせれば、案外イケる手段だ。

 民にしても農業チートを知っているから、あちらも確保したいのが本音の筈だ。

 生産力低いから喉から手が出る程、欲しいだろう。

 更に、鹵獲して魔改造した禁忌兵器の数々を手土産にすれば、高い確率で助かる。

 犠牲は少なく出来る。

「御免ですな」

 何故、こんな弱小小国にいるんだ?って感じの宿将が、にべもなく断った。

 大軍を率いて戦う事が得意な男で、万旗将などと呼ばれた男だ。

 ご存知の方がいるかアレだが、爆裂ハンターのザッハトルテに似てる。

 最初、コイツ裏切るんじゃ…なんて疑った時期もあった。

「騎士としての誇りを捨てるくらいならば、死んだ方がマシですな。我等が仕える主は、

ここにおります。皆も同じ気持ちなのです。我等の事は気にせず、意地を通されませ」

 爆笑から一転、みんなが真剣な表情で頷いた。

「それに、ここで助かったところで信用などされないでしょうしね」

 元・騎士のメイドがシレッと痛いところを突く。

 まあ、連中は想像を絶する思考をするから、確かに信用されない可能性もあるか…。

 でも、それなら下った後にでもドロンすればいい。平和が云々言うのなら、大量の手土産

持って下れば、一時的にとはいえ受け入れるだろう。その後、戦場でピリピリしている時が

過ぎ、戦後のどうしても緩んでしまう瞬間を突けば、アンタ等なら幾らだって逃げ延びられる

でしょうに。実力があれば雷帝だったら平然としらばっくれて抱え込むだろうし。

「それに…」

 宿将がチラリと外に視線をやると、外から気合の籠った声が上がった。

 途轍もなく大勢の人間の声。嫌な予感がする。

 私は外を覗き込むと、そこには武装した民が集合していた。

 一揆でも始めるつもりか?と問いたくなる。

「「「アレクシア陛下!!アレクシア陛下!!」」」

 私を見た民が声高らかに私の名を叫ぶ。

「お分かりになったでしょう。裏切った日には我々は彼等に殺されてしまいますよ」

 宿将の声を呆然と聞き流す。

 

 何故、そんなに死にたがる。

 何故、そんなに支持してくれる。

 間違ったんだ、私は。

 時代も考えず、現実だと、現実になったのだという現実から目を背けて好き勝手やった

代償が、このザマだというのに。

 生きていればいい事があるだとか、命あっての物種だなんて気楽に言うつもりはない。

 でも、それでも生きていてほしかった。

 いや、正直に言おう。私の所為で死んでほしくなかった。

 この責任を私は取れないし、取りたくなかった。

 呆れる程の身勝手な話だ。

 それなのに、調子に乗って滅茶苦茶やった。自分はなんでも出来ると錯覚して。

 

「陛下の治世だからこそ、我々は生きてこられました。希望を持つ事が許されたのです!!」

 

 口々に民が叫ぶ。

 耳を塞ぎたくなる。

 叫び出したくなる。

 実際、今の私は声にならない叫び声を上げていた。

 全てが霞んでいく。

 そろそろ終わりに近い。

 

 次に現れるのは、死屍累々の中をただ一人立っている私。

 現れたのは、ゆりかご。

 満身創痍の私にゆりかごから一斉に攻撃が放たれる。

 攻撃が雨のように私に降り注ぐ。

 

『イヤァァァァァァァーーーーーー!!!』

 

 オリヴィエの絶叫が響く。

 

 更に場面が変わっていく。

 

 今度はスーツを着た女が、私に丁寧に頭を下げる。

「申し訳ありません。前任者が転生先を間違えてしまったようです。正しい場所に送らせて

頂きます。貴女は英霊となられました。特典はそのままで、英霊化を特典追加して、お詫び

の代わりとさせて頂きます」

 

 間違いでしたで、済むか。

 

 

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 私は声にならない絶叫を上げて、起き上がった。

 嫌な汗が流れ出ている。

 身体のベトツキがいつもより酷い。

「また…あの夢か…。酷い夢見た…」

 あの夢は、実際に起こっていない現象も、夢の中では起きている。

 オリヴィエが、あの段階で声を上げられた訳がない。

 ゆりかごは酷使され、オリヴィエの意識は殆どなかった筈だ。

 よって、私を殺した事をオリヴィエが認識していたとは思えない。

 あの声は、私の醜い心の産物だという事だ。

 心のどこかであの子に後悔をしてほしいという、身勝手な願望が現れたと思っている。

「クソだな。私は…」

 部下や仲間、友、民を全員死なせた私のどこが英霊だ。

 転生者の担当とかいうあのスーツのクソッタレな言葉が蘇り、私は顔を歪ませた。

 私は稀代の愚者だ。

 そして、現在、強引に転生させられら愚者の名を、綾森美海という。

 容姿は前世のベルカと同じだが、私にヤル気は残されていなかった。

 何もする気力が湧かず、風呂にすら入っていない。

 サッサとくたばった方が、今の両親の為にもいいだろう。

 じゃあ、サッサと逝けと思うかもしれないが、それが出来ない訳があった。

 それには、私の特典が関係している。

 

①魔法科高校の劣等生の魔法・技・技術全て。エレメンタルサイトの強化。再成のデメリット

 破棄。魔法の才MAX(再成のデメリットは、世界の修正で痛みの倍化なしのみ)

 

②剣を複数を浮かせて、達人と大差なく使えるようになりたい。(剣聖操技とベルカで呼ばれる)

 武術の才MAX

 

③ゲットバッカーズの赤屍蔵人の血液能力。レアスキル指定。血界戦線等の技も再現している。

 

④ベルカで英雄となった功績で、英霊化の特典が付けられる。サーヴァントみたいになるらしい。

 興味がないので、確認もしていない。

 

 他にも再現出来そうな技術を再現している。他の魔法・剣技はベルカ時代に現地で努力で習得

したもの。血液中には、ベルカ時代に使っていた武器などがそのまま入っている。

 

 以上となる。

 

 問題は魔法科高校の劣等生の魔法・自己修復術式だ。

 これは、戦闘不能な程の傷を受けると自動的に傷を修復してしまう。

 おまけに魔改造したので性能が上がり、傷を受ける前の状態まで戻してしまうのだ。

 つまり、自傷行為をやっても死ねないのだ。

 赤屍さんの特典も死に辛くなっている要因としてあると思う。

 それにうっかり今生の親に自傷行為でも見られたら、半狂乱では済まないだろう。

 今のところ死ぬ手段は、前世同様に魔法回復が追い付かない程の飽和攻撃くらいだ。

 そんなの原作が始まりでもしない限り、こっちにない。

 周囲の被害を顧みなければ、自殺も出来そうだが、流石に海鳴の街にそこまでの恨みはない。

 諦観と共に溜息を吐く。

 上体を起こしてベットから降りる。

 自分の部屋のドアを開けて玄関へ向かう。

 その途中にキッチンを覗き込むと、今生の母がテーブルに突っ伏していた。

 よその家なら、夕飯を作る時間だが、母が食事の支度に取り掛かった形跡はない。

 精神的に参っているのだ。私の所為で。

 申し訳なく思いつつ、外に出る。

 未練たらしく何か死ねる要素がないか、外をフラフラするのが日課になってしまっていた。

 昼も夜もなく、起きたら外に出ていた。

 原作開始まで困らせなければいいと、頭では分かっていた。

 今生の親は、とてもいい人だ。

 いずれ死ぬなら、死ねばいいと思われていた方が気が楽だ。

 そんな子供なら、死んでも悲しまないだろう。

 今日もあわよくばと思いつつ、無駄な探索をする。

 誰も私を気に留めたりしない。

 もうすぐ公園に辿り着く、道路を渡ればすぐそこだ。そこに横断歩道はないけど。

 私は平然と渡ろうとした。いつも通りに。

 だが、それが阻まれた。

「っ!?」

 突然、腕を掴まれたのだ。

 気配があるから、近くに誰かいるのは知っていたが、まさか私の魔法が通じないなんて思い

もよらなかったのだ。

「ダメだよ!あぶないんだよ!クルマくるんだから!」

 

 振り返ると、そこにはこの世界の主人公がいた。

 

 

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 思わず顔を顰めてしまう。

 私を止めたのは、高町なのはその人だった。

 別に、この子に恨みはないけれど、どうも出会いを喜べない。

 どうもそれは向こうも同じらしい。

「うっ…」

 なのはちゃんは、呻き声と共に顔をクシャクシャにする。

 これには私に心当たりがあった。

 私の臭いだろう。風呂入ってないし。

 今の私は癖毛が伸び放題伸びて髪はボサボサ。風呂にも入っていないので相当臭い筈だ。

 自分じゃ、もうベタベタで不快程度の認識しかないけど。

 子供故の素直な反応。

 思わずといった感じで腕を放し、一歩後ろになのはちゃんが下がる。

 鼻を摘ままないだけ、気を遣っていると言える。

「…こんなことしたらダメだよ!クルマにひかれちゃうんだから!」

「ああ、そうだね。ごめんね。それじゃ」

 私はアッサリと非を認めて謝った。

 こういう時は、サッサと認めて謝ってしまうのがいい。

 横断歩道は確かもう少し行ったところにあった筈だ。

 フラフラと歩き始める。

 今度は流石に呼び止められる事はなかった。

 ホッとしたが、どうも距離を置いて付いてくる。

 なんだ?

 少し考えてみると、当然の答えが浮かぶ。

 同じ場所に用事があるんだよね。公園だし。子供が用事があってもおかしくはない。

 ただ、子供が帰る時間帯に逆に向かってるのが気になるけど、私が言えた義理じゃない。

 それに臭いが酷い私に、敢えて近付く事はないだろう。

 今度はルールを守り公園に入る。

 公園にある幾つかあるベンチに腰掛ける。

 夕日なんて物凄く貴重だ。私はなんとなく夕日を眺める。

 何も考える必要がない時間。

 苦痛なまでに流れが遅い時間を忘れられる瞬間。

 なんだけど、なのはちゃんが二つ隣のベンチに座っている。

 公園は別に小さい訳ではない。もう少し向こうに行けばいいのに。ここが夕日が一番見易い

のに、なのはちゃんは下を向いている。まあ、私みたいな特殊な理由がないと夕日の有難み

なんて分からないか。前世では太陽を求めてかなり苦労したから。私には貴重な景色だ。流石

に魔改造した禁忌兵器でも、日が落ちるまでなんて維持出来なかったからね。

 夕日を眺めていると隣から恐る恐る声が掛けられる。

「あ、あのね。おふろとか…はいってる?」

 余計なお世話だ。臭いならアンタが移れ。

「お察しの通り入ってない。面倒だから」

「……」

 私のにべもない言葉に、なのはちゃんが黙り込む。

 何もする気にならない。まして自分の世話なんて。

 今生の親はいい人だから、私を風呂に入れて身綺麗にしようとするけど、私は拒否した。

 有体に言えば、暴れて抵抗した。私の面倒なんて見なくていい。

 寝ている時でも、接近されれば分かってしまうから、処置なしとして最近は干渉してこない。

 その代わり参っているようだ。申し訳なく感じているから、サッサと施設にでも入れてくれ

ればいいと思う。私の為にケンカなんてしなくていい。私を施設に放り込んで、二人でやり直

してほしいと思う。

「でも、おかあさんとか、おとうさんとか、こまってない?」

 まだ居たのか。

「困ってる」

「だったら、ダメだよ。こまらせるようなことしたら!」

 なのはちゃんの言葉は、まるで自分に言い聞かせているようだった。

「もうそろそろ、困る事はなくなるよ。きっと」

 父は、もう限界っぽい。母もかなりキテいる。

 父は無理に仕事を入れて家に帰るのを遅らせているみたいだし。

 母もどうしたらいいか分からず、途方に暮れている。

 そろそろ話し合いの時期だろう。

 そこで私が頭のおかしい話をして、目出度く施設行きとなるだろう。

「どうして?」

「私が終わらせるからだよ」

「どうしてそんなこというの?」

 しつこいな。

 私は眉を寄せて溜息を吐いた。

「世の中にはね。いなくなった方が上手くいく事もあるんだよ」

「そんなの!まちがってるよ!」

 なのはちゃんは、怒って立ち上がりこっちに来る。

 貴重な時間が台無しだ。

「貴女。誰かを失った事がある?」

「え?」

 いきなりの私の質問に、なのはちゃんが恐れるように怯んだ。

「誰か大切な人を失った事がある?」

 なのはちゃんは暫く黙り込んでいたが、ゆっくりと首を振った。

「私は一杯失くしたよ。大切の度合いに関わらず全部」

「……」

「それなのに私だけ生きている。納得なんて出来ないんだよ」

「おこってるの?じぶんに。あなたのせいじゃないんでしょ?」

「殆ど私の所為だね」

 元を正せば、私の配慮のない好き勝手な行動が元凶だ。

 なのはちゃんは子供の所為か、そんなに大切な人が死ぬ状況に違和感を感じないらしい。

「おはなし。きかせてくれないかな?」

 なのはちゃんが意を決したように言った。

 主人公は、こんな年から主人公らしい。

 でも、この子も明らかに問題を今抱えている。そんな事は容易に察せられる。もう子供

は帰る時間なのに、一人でこんな時間まで、しかも厄介なガキと一緒にいるんだから。

 そんな子に話しても余計な負担が増えるだけだし、何より話す義理もない。

「溺れてる人間同士がしがみ付いてどうするの?一緒に溺れ死ぬだけだよ」

「っ!」

 なのはちゃんは死という単語に反応してビクリと震えた。

 私は溜息を吐いて立ち上がると、なのはちゃんに背を向けて歩き出した。

「あ…」

 背後でなのはちゃんが迷う素振りを見せているようだが、私は立ち止まらなかった。

 結局、私は呼び止められる事なく公園を後にした。

 そういえば、どうして私が分かったんだろう?魔法で存在自体認識出来なかった筈なのに。

 まあ、いいか。どうでも。主人公補正でもあるんだろう。

 

 それが高町なのはとの最初の邂逅だった。

 

 

              3

 

 なのは視点

 

 おとうさんが、お仕事で大怪我をした。

 みんなで出来るお仕事を、始めたばっかりだった。

 それは喫茶店です。

 おかあさんはお菓子作りが得意で、おとうさんは飲み物を作るのが上手い?みたいだった。

 もうすぐ、おとうさんも今のお仕事をやめて、喫茶店をみんなでやろうっていっていたのに…。

 そのさいごのお仕事で、おとうさんは大怪我をした。

 かぞくみんなが忙しくなった。なのはは、ちっちゃいからお手伝い出来なくて、おばあちゃん

のおうちに行くようになった。

 ものすごくさびしい。

 でも、みんな大変なのに、困らせるようなことはいっちゃだめ。

 おばあちゃんは優しいけど、おばあちゃんだからいっしょに遊べない。

 だから、わたしはおともだちと遊びに行くといって出ていく。

 あんまり早くかえると、心配される。遅くても心配される。ちょうどいい時間に、帰らないと

だめ。

 

 きょうは少し遅く帰る。

 おかあさんが迎えに来るのはもっと遅いし、いつも同じ時間に帰るのも心配されるから。

 ちょうど公園をみつけた。

 さいしょは、探検のつもりで、少し楽しかったけど、いまは知ってるところばっかりになって

楽しくない。新しい公園をみつけてもわくわくしない。

 公園のまえの道路で、なんか変なかんじ。

 なんかグネグネしてる。上手くいえないけど…。

 よく見ようとすると、同じくらいの女の子が見えた。

「っ!!」

 思わずビックリしちゃう。

 それよりビックリなのは、その子は横断歩道もない道路を渡ろうとしてた。

 考える前に、そのこの手をつかんじゃった。

「ダメだよ!あぶないんだよ!クルマくるんだから!」

 手をつかんじゃったけど…ベタベタしてる。

 かみがボサボサでお顔がわからないよ。

 

 それにくさい。

 

 なんかキュ~とするにおい。

「うっ…」

 なんか、その子から少し離れちゃった。

 その子はいやな顔するかなっておもって顔を見ると、おこってないみたい。いやそう

だけど。

「…こんなことしたらダメだよ!クルマにひかれちゃうんだから!」

「ああ、そうだね。ごめんね。それじゃ」

 少し悪いなっておもったけど、出た言葉はこんなのだった。

 でも、この子はいいかげんに返事して歩き出した。

 少しむっとしてしまう。

 行く方向は同じ。あとをついていくように公園に入る。

 その子は行くところが決まってるみたいで、どんどん歩いてベンチにすわった。

 わたしも少し離れたベンチにすわる。

 だって、この公園、あんまり詳しくなかったから…。

 うっ、ちょっとくさいの。

 おかあさんもおばあちゃんもいってた。女の子ならみだしなみに注意しなさいって。

 おこられないのかな?

 おもいきってきいてみる。

「あ、あのね。おふろとか…はいってる?」 

「お察しの通り入ってない。面倒だから」

「……」

 この子、あんまりお話したくなさそうだ。

「でも、おかあさんとか、おとうさんとか、こまってない?」

 でも、気になってきいちゃった。

「困ってる」

 平気でそんなお返事。

「だったら、ダメだよ。こまらせるようなことしたら!」

 おもわずおこっていっちゃった。

 わたしだって、みんな困らせないようにがまんしてるんだから。

「もうそろそろ、困る事はなくなるよ。きっと」

「どうして?」

「私が終わらせるからだよ」

「どうしてそんなこというの?」

 その子は、悲しそうなのにスッキリしたようなお顔だった。

 わからないよ。

「世の中にはね。いなくなった方が上手くいく事もあるんだよ」

「そんなの!まちがってるよ!」

 そんなのわたしはいやだ。そんなこと考えたくない!

「貴女。誰かを失った事がある?」

 さっきまでと違うかんじ。

 なんか、おばあちゃんとお話してるときみたいな。

 でも、そんなこと、今きかれたくない。

「え?」

 じぶんでもビックリするくらい声がふるえる。

「誰か大切な人を失った事がある?」

 優しい声で、こわいことをきいてくる。

 でも、この子の目は、ジッとわたしを見てる。

 いやだったけど、首をふる。

「私は一杯失くしたよ。大切の度合いに関わらず全部」

 とし、同じくらい…だよね?

 でも、嘘をついてるようにはおもえなかったの。

 何もいわずに、ただきく。

「それなのに私だけ生きている。納得なんて出来ないんだよ」

 ああ…この子はおこってるんだ。じぶんに。

「おこってるの?じぶんに。あなたのせいじゃないんでしょ?」

「殆ど私の所為だね」

「おはなし。きかせてくれないかな?」

 わたしだって、お話をきくくらいは出来る。

 おばあちゃんがいってたの。お話するだけでもちがうって。

「溺れてる人間同士がしがみ付いてどうするの?一緒に溺れ死ぬだけだよ」

 つめたいこえ。

 お話しようってきもちが、こおりついたみたいにひえる。

「あ…」

 その子は、私のほうを見ないで立って、歩いていっちゃった。

 わたしは、何もいえなくなっていた。

 ただ、その子のせなかを見てただけ。

 わたし…がんばってたのに…あの子から見てもひどいんだ。

 

 あたまのなかで、あの子の言葉がグルグルまわって、何も考えられない。

 気がついたら、公園を出て、おばあちゃんのおうちについてた。

「おかえり。なのちゃん」

 おばあちゃんの優しい声をきいて、なみだが出た。

「どうしたの!?どこかいたいのかい?」

 おばあちゃんがあわてて、わたしのとこまで来てくれる。

 わたしはおもわず、おばあちゃんにしがみついちゃった。

「わたし…しんぱいかけてる!?わたし、みんなのめいわくにならないようにがんばってたの!

でも!わたし…そうみえないみたいで!」

 わたしは、じぶんでも何いってるのかわからないことを、おばあちゃんにいった。

 でも、公園のことは、話したとおもう。

 おばあちゃんは、わたしをギュッとしてくれた。

「大丈夫だよ。なのちゃんは頑張ってる。みんな知ってるから。もっと我儘言っても

いいんだよ。これはね。なのちゃんのしごとみたいなものだよ?おおきくなったら言えなく

なるんだからね。今のうちだけなんだよ」

 おばあちゃんは、優しい声でいってくれた。

 なみだがまた出てくる。もうとまらないの。

「でも、わたしはおばあちゃんだから、なのちゃんの我儘全部は受け止めきれないから、手加減

してね?」

 おばあちゃんは、さいごに片方の目をパチリととじていった。

 たぶん、おとなのひとのジョーダン?だとおもう。

 わたしはなんだか、胸の中が軽くなったみたいなかんじ。

 そうか、おばあちゃんがいってたお話するだけでもって、こういうことなんだ。

 

 わたしは、たぶん足りなかったんだ。あの子にとって。

 わたしはなりたいとおもった。

 今度は、あの子の手をとれる、お話をきいてあげられる人になりたいって。

 

 

              4

 

 :おばあちゃん視点

 

 なのちゃんの言葉を聞いて、随分考えさせられたねぇ。

 随分と無理させてたんだねぇ。無理して明るく振舞っているのは知ってたけど、ここまでとは

想像してなかった。

 まあ、不安にならない訳ないねぇ。父親が生死の境を彷徨ってるんだから。

 こりゃ、桃子に言っとかなきゃいけないね。

 大変なのは十二分に理解出来るけど、このままって訳にいかないしねぇ。

 

 それにしても、なのちゃんが会ったっていう子は、なんなんだろうねぇ。

 なのちゃんが言うには、大勢身内を亡くした子のようだけど…。

 そんな子が近所にいたら、噂になってそうなもんだけど。

 それを差し引いても、児童相談所にでも電話するべき話だ。

 なのちゃんの話じゃ、かなりしっかりした考えを持ってる子みたいだし、虐待されてる子って

印象は不思議とない。全部、自分の意志を持ってやってるようだしねぇ。

 なのちゃんは、嘘だと思わなかったって事は、少なくとも本人はそう思い込んでるって事だ。

 あの子は、優しい子だけど、鋭いところもあるからねぇ。

 まあ、なんにしてもだ。不思議な子供程度なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 昔から、この街はもっと不思議なもんを呼ぶ街だからね。

 

 そんな事を考えていると、桃子が迎えにきたようだ。

 戸がスライドする音がした。

「ごめんなさい、母さん!遅れちゃって!」

 

 さて、バカ娘にお話しといこうかね。

 

 

 

 

 

 

 




 前作と評価があまり変わらないようならば、こっちを廃棄して
 凍結した作品を解凍する事にします。
 まあ、前回は変に実力もないのに捻り過ぎたなと、反省してい
 ますので、今回は素直にいこうと思っております。
 
 なのは視点は最初、平仮名だけで書いていましたが、流石に
 読み辛く、少し漢字を交える事にしました。
 セリフのみ平仮名で対応しています。

 物凄く暗い感じでのスタートで、我ながら大丈夫なのか?
 なんて思いますが、取り敢えず暫くは書いてみようと思って
 おります。
 どうなるか分かりませんが、お付き合い頂ければ幸いです。

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