魔法少女リリカルなのは 黒騎士の憂鬱   作:孤独ボッチ

12 / 13
 相変わらず難産で時間が掛かりました。
 それではお願いします。


 


第11話

              1

 

 私はクロノと武装局員の回収を手伝い、アースラに戻っていた。

 このまま、後は宜しくで帰るのも好感度がね。

 碌にないけど、わざわざもっと悪くする必要もない。

「相手は知り合いなのかしら?」

 リンディさんが責めるような視線を向ける。

 実際、責めてるだろうけどね。

「もしかして、そうかもしれないけど確信はないよ。恨まれる覚えはそれなりにあるからね」

 しれっと惚ける私。

 実際、奴とは深い話はしていないから、現段階ではまだ惚けられる話だ。

 私としてもフェイトちゃんの身体乗っ取りという手段で奴が介入してくるとは想定外だった。

「それが本当ならいいのだけど」

「勿論、本当だよ」

 嘘は言っていない。

 確信はあるけど、名乗り合った訳じゃないから。

「まあ、いいでしょう」

 リンディさんは目を閉じて、私への追及を止めた。

 訊いても答えないと分かったからだろう。

「この分だと増員をする必要がありそうね」

「いや、必要ない」

「それはどうして?」

 リンディさんが目を細めて問う。

「数を揃えればいいって相手じゃないからね。あの技量を見たでしょう?腕が並み程度の魔導師何人投入しても意味はないよ」

 これはあわよくば、なのはちゃん達を手伝わせようと目論むリンディさんへの牽制だ。

「……」

 ブリッジ内が静まり返る。

 ここまでハッキリと言われて全員が、少なからずプライドを傷付けたようだ。

 不機嫌な沈黙が場を支配するけど、私は平気で話す。

「で?全部私がやりましょうか?」

「冗談はよして頂戴」

 リンディさんも取り繕う余裕が消えたのか、不機嫌そうにそう吐き捨てた。

 私は、素っ気なく頷いた。

『いやはや、順調に嫌われているようですな』

 バルムンクが嫌味っぽく言った。

 

 これで、あの二人を使おうとかいう思惑も見直す事になるだろう。

 

 

 

              2

 

 ユーノ視点

 

 僕は緊張した面持ちで、レイジングハートで通信相手を見詰めた。

 まだ、フェレット形態の方が楽なので、その姿で向き合っていた。

『それでは返答を聞かせて貰えるかしら?』

 僕は目を少しだけ閉じて開く。

 自分を落ち着ける為だ。

「僕達は最後まで見届けたいし、関わりたいと思います。なのはも同様です」

『命の危険があるのですよ?』

「承知の上です。それに僕達が協力するのはロストロギアの回収です』

 リンディさんが怪訝な顔をする。

 別に違いはないように思われるだろうけど、違いはある。

「そちらが心配しているのは、主にあの女の子の戦闘力では?ただの思念体ならば、なのはが役に立つし、僕もサポートは得意です。なのはの魔力量についてはご存知でしょう?」

 あの女の子もセットで登場しそうではあるけど、それこそこちらの攻めどころだ。

 なのはの魔力量に技量が加われば、どんな思念体であっても封印は可能になる。

 もし、なのはの才能が完全に開花したなら、あの女の子とだって。

 そんな風に思えるくらい凄い。

「僕達が協力するのは、言わば雑用です」

 本来なら、ジュエルシードの回収が主な仕事。

 だけど、今は強力な敵と言うべき子が現れた事で事情が変わった。

 僕達が入り込む余地はある。

『成程、考えたようですね』

 リンディさんが目を閉じて、僕の発言を吟味している。

 メリットとデメリットを天秤にかけているんだろう。

 沈黙。

 もっと言葉を重ねたくなるのを、ジッと堪えて返答を待つ。

『これから、暫く宜しくお願いしますね?』

 リンディさんがニッコリと笑ってそう言った瞬間、腰が抜けそうになるのを根性で堪える。

「ありがとうございます。きっと、役に立ちます」

『ただし、条件が一つ。絶対にこちらの指示に従う事』

「分かりました」

 リンディさんが釘を刺してくるのを、当然とばかりに頷く。

 

 状況次第だけど、と内心で付け加えながら。

 

 

 

              3

 

 リンディ視点

 

 ユーノ君との話し合いが終わり、フッと息を吐く。

「艦長。僕は反対です」

 治療が終わったクロノが後ろに立っていた。

 気付いていたから、驚きはしない。

「もう傷はいいの?」

「御心配をお掛けしました。もう平気です」

 クロノが憮然とした表情で答えた。

 瘦せ我慢しているようではないので、取り敢えず内心で安心する。

 それならばと、クロノの意見に答える事にする。

「そうね。言いたい事は分かるわ」

「だったら何故!?」

「ここで断ったとして、あの子達、きっと勝手に動くもの」

 クロノもそう思っていたのか、グッと言葉に詰まる。

「だったら、こっちがある程度折れた方が安全は確保出来るわ。勿論、関わらせないのが最良だけど、はいそうですかって納得は出来ないでしょう」

 クロノが苦々しい顔で押し黙っている。

 理解は出来ても、納得は出来ない。

 まだまだ柔軟性に難があるわね。

 内心で苦笑いする。

「彼女は怒るかもしれないけどね」

 付け加えるように言うと、クロノの眼が鋭くなる。

「彼女と言うと、あの賞金稼ぎですか?」

 私は頷いた。

「怒りますか?」

 納得し難いと顔全体で表している。

「彼女、随分と捻くれているけど優しい子よ。こっちの心証はよくないけどね」

 ユーノ君が自分達を売り込む際に知った事だが、彼女は徹底的に基礎となる技術と魔力の制御法に重点を置いて教えていたらしい。

 本当にどうでもいいならば、実戦技術を適当に教えればいい。

 地味で効果がすぐに見られないキツイ訓練なんてさせる必要はない。

 その方が長続きするだろう。

 尤も途中からスパルタ式実戦訓練を採用してたみたいだけど、それも差し迫った実戦が控えていたからでしょうしね。

「それに、なのはちゃん達を使わないように釘も刺してきたしね」

 数を揃えればいいというものではない。

 彼女はそう言った。

 それは、遠回しになのはちゃん達を使おうとした私に対する牽制だ。

 彼女には分かっていたのね。

 私達が欲しているものが。

 キチンとした協力者だ。

 欲得に塗れていない志ある魔導師なんて今日日確保も難しい。

 ウチのクルーは、ほぼ志を持ったメンバーで固めているが、全てではない。

 強力な魔力を持った志ある魔導師の協力は、喉から手が出る程に欲しいのよね。

「艦長は、あの二人も引き込む積もりだったのですか?」

 クロノが責めるような視線を向ける。

 強力な敵がいる以上、味方は少しでも多い方がいい。

 まして優秀ならば言う事はないわ。

 あとは覚悟だけだったけど、それもクリア。

「クロノ、貴方もなのはさんに戦闘技術を教えてあげてね?」

「本気ですか…」

 真面目なクロノには嫌な仕事だろうけど、危険なロストロギアの捜索で失敗する訳にはいかない。

 あの子達を巻き込む以上、万全を期す必要があるもの。

 出来る事は全てやる積もり。

 

 世界もあの子達も無事に送り返す。

 

 

 

              4

 

 私は若干不機嫌に訓練風景を眺めていた。

 思わず溜息が出る。

 諦めさせる為にも、厳しくやっていたのにこれじゃ意味ないな。

 クロノの教え方が良いのか、既にバインドまで上手く使えるようになっていた。

 ああいうタイプは出来る事増えると無茶するぞ。実体験だぞ。

 幸か不幸か、あれからジュエルシードは見付かっていない。

 もうフェイトちゃんにくっ付いているのを除けば、残りは10個。

 そのうち幾つあちらが手元に置いてるのやら、といったところだが…。

 それにしてもここまで穏やかだと逆に気持ち悪い。

 何か裏がある可能性があるが、それが分からない。

 魔法的な仕掛けは、ジュエルシードには感染型魔力以外に見当たらない。

 となれば、その場でどうにか出来るのか。

『それにしても、あのような子供まで動員せねばならぬとは、人材不足が深刻なようですな』

 考え事をしていた私に、突如バルムンクが嘲りを含んだ声で言った。

『これなら地上本部とやらの、あの男の遣りようも仕方ない事ですかな?』

 バルムンクの言う、あの男とはレジアス・ゲイズの事だ。

 賞金稼ぎとして本局に出入りしている時に、偶々テレビに映っていた。

 少将へと出世し、淡々と地上本部の行く末を論じていた。

 かなり強硬な政策を話していた。

 要は人材がいなければ、物でカバーしようという話だ。

 ロストロギアの技術を部分利用しようという話だった。

 明らかに危険思想だろう。

 お前等、管理局だろうが。管理しろよ。使うなよ。

 本局からの批判にも眉一つ動かさずに、淡々と反論していたのが印象的だった。

 レジアスの私の印象というのは、いいように利用されて殺された奴だった。

 優秀だったのだろうが、そういったエピソードがあまり出てこなかったのが原因だと思う。

 死んだ筈の親友が生きていた事に動揺したりと、覚悟が決まっている人間には思えなかった。

 まあ、あくまで断片的な記憶を頼りに語っている内容だから、違っているかもしれないが。

 私の観たレジアス・ゲイズは、そんな事で動揺するようなタマには見えなかった。

「どこも人材不足極まれりだね」

 

 そして、追加のジュエルシードがないまま時は過ぎていった。

 

 

 

              5

 

 ジュエルシードが出てこない以上、こちらから捜索しても限りがある。

 何しろ、奴が関わっているのだ。

 下手に探し回っても碌な結末にならないのは、経験則から分かっているので大人しく牙を研いでいる。

 それは、気合が入っているなのはちゃんも同じ事。

 なんだけどもね。

「アンタ!いい加減にしなさいよ!」

 大人しく小学校に通っていた私だが、休み時間に大声を上げて怒るアリサちゃんを目撃した。

 周りは、何事かと様子を窺っている。

 下手に口を挿めない状況にクラス中が緊張に包まれる。

 クラスのカーストトップの諍いだ。

 静観したくなる気持ちも分かる。私もそうだし。

 どうやら、訓練に集中し過ぎてアリサちゃん達を放置気味にしていたなのはちゃんに、アリサちゃんがキレたようだ。

 なのはちゃんは、流石に人助けの為に魔法の訓練をしてて、それどころじゃないとは言えずにいた。

 もう少し、穏やかに問い質す事は出来ませんでしたかね。

 クラスの雰囲気が悪くなったぞ。

 しかも、この雰囲気を放置して二人共出て行きやがった。

 すずかちゃんは、こっちを見て目だけでフォローして!みたいな感じて訴えているけど、噓でしょ?

 自分達で蒔いといて、私に尻拭いさせるとか本気か?

 そして、二人の姿が消えた瞬間に、なのはちゃん以外のクラスメイトの視線が私に集まる。

 これじゃ、弱い出力の魔法で気を逸らす手が使えない。

 少し取り込まれていた私は、既になのはちゃんグループのサブメンバーと認識されていた所為で、後処理はお前やれ的な空気が醸成されていた。

 最悪だ。

 溜息を一つ吐いて、ノソノソと立ち上がる。

 全員の視線に負けて、私はなのはちゃんの肩を掴んだ。

「え?どうしたの?」

 珍しく私からの接触にビックリした顔をするなのはちゃん。

 私は視線で教室の外へ出ようと告げる。

 幸いにも彼女は意図を察したようで、立ち上がり一緒に教室を出た。

 背後で空気が弛緩するのが分かる。

 ちょっとイラッとしたが、無理もないから堪える。

 

 教室から離れ、屋上の入り口へ場所を移す。

 屋上の入り口なら、誰も来ないから連れて行ったのだ。

 屋上は危険なので一般生徒は出入り出来ないから、ここまでくる生徒などほぼいない。

 内緒話をするには丁度いい。

 そもそも、この学校に盗み聞きする不心得者は少ないんだけどね。

「美海ちゃん。それで…」

 あのプールの一件で友達認定されたお陰で名前呼びだ。

 仲良くなる積もりなかったんだけどね。

「喧嘩してたけど、どうしたの?」

 クラスの空気が悪くなるから止めて貰えるかな。

「美海ちゃんは…知ってるから、いいよね?」

 よくないね。

「実はね…」

 なのはちゃんは、ポツポツと話し出した。

 事情は察した通りだった。

「私ね。誰かを助けられる自分になりたいって思ってる。だけど、あんな力を手に入れても全然上手く出来なくて…。最近ね、教えてくれる人が二人出来たんだ。それで出来る事が少しづつだけど、増えてきてるところなの。私はユーノ君、アッ!友達なんだけど!その子や、魔法の品に操られた子を助けたい!だから、練習とかで最近ボケっとする事が多くなっちゃって、心配してくれてるのは分かるんだけど…」

 最後にそう言って、なのはちゃんは黙り込んだ。

「遊ぼう」

「え?」

 私の一言に唖然とするなのはちゃん。

 私の経験からすると、今のなのはちゃんには余裕が足りない。

 そういうのは、重大なミスを招く。

 自身の安全、この街に住む両親の安全の為にも見過ごせない。

 私は、強引になのはちゃんを引っ張ってゲーセンに連れて行った。

 私も凡人時代以来、随分と久しぶりに来たよ。

 格ゲーで大人げなくなのはちゃんを完封し、シューティングゲームでボコボコにされて楽しんだ。

 私は大人だから、何度となく再戦を申し込んでボコボコにされて上げたよ。

 大人だからね。重要な事だから二度言ったよ。

 実戦ではそうはいかないからね。

『明らかに、大人げないですな』

 バルムンクがツッコんでくるが無視だ。

 なんか、なのはちゃんは私の顔まで見る余裕があったようで、視線を感じる。

 その笑みがムカ…微笑ましい。

「うん。来てよかった…」

 なのはちゃんがそんな事を呟いたが、私は聞こえない振りをした。

 日が大分傾いてきたので、お開きにする事にした。

 帰る時のなのはちゃんには、少しだが本来の笑顔が戻っていた。

 まあ、こんなもんかな?

「今日はありがとう。アリサちゃんやすずかちゃんとも話してみる」

 なのはちゃんは、そう言って帰って行った。

 

 なんで、私がこんな事してんだろうか…。

 

 

 

              6

 

 なのは視点

 

 訓練の事、操られた女の子の事、私の事、ユーノ君の事。

 色々考える事が多過ぎて、ボンヤリする事が多かったのが原因だと思う。

 勿論、訓練の疲れっていうのもある。

「アンタ!いい加減にしなさいよ!」

 アリサちゃんを怒らせてしまった。

 アリサちゃんが怒るのも、心配してくれているからだと分かっているけど、正直に全てを話すのは難しいの。

 魔法の事なんて、どう説明していいか分からないし…。

 結局は、何も言えないままアリサちゃん達を帰らせてしまった。

 全然、足りない自分自身に落ち込んでいると、いきなり肩を掴まれてビックリした。

 掴んだ人を見て余計にビックリした。

 だって、美海ちゃんだったから。

 お友達になってからも、あんまりお話出来なくて、避けられてるのかな?って気にしてたから。

 黙って引っ張って行かれて、連れてかれたのは屋上の扉の前。

「美海ちゃん。それで…」

 どんな用なのか、気になって訊いてみる。

 美海ちゃんは、あんまり表情に感情を出さないけど、今日はなんか機嫌が悪そうだった。

「喧嘩してたけど、どうしたの?」 

 もしかして、心配してくれてるのかな?

 表情があんまり変わらないから分かり難いな。

 でも、美海ちゃんはプールの時に私のバリアジャケットを見てるし…。

 多分、魔法も見られてる。

「美海ちゃんは…知ってるから、いいよね?」

 話せる人って、ユーノ君くらいだし…。

 こうして相談出来る人って、いなかったんだな…。

 私は上手く言えたか自信はないけど、私の心の内を話した。

 アリサちゃん達が私を心配してくれているのは分かってる。

 でも、相談するのは躊躇っちゃう。

 美海ちゃんは、それを黙って最後まで聞いてくれた。

 それで一言。

「遊ぼう」

 え?どういう展開で、そうなったのかな?

 また、強引に引っ張って行かれた先は、ゲームセンター。

 美海ちゃん、こういうところに来るんだ。

 ちょっと意外。

 まずは、格闘ゲームのところに座らせれる。

 え?私、やった事ないよ?

 あわあわしているうちに、一方的に負けちゃったの。

 やり慣れてる?

 少しずつ私も慣れてきたけど、全然勝てないよ。

 動きが読まれてるみたいに、攻撃が当たらない。

 唸っていると、美海ちゃんが立ち上がった。

 帰るの?

 今度は、飛行機?で戦うゲームに座った。

 弾は色々選べるんだ…。

 うん。こっちはクロノ君と訓練してるし、なんとかなりそうかな!

 美海ちゃんは強かった。

 でも、マルチタスクと空戦シュミレーターを使ってるから、応用出来てる。

 ゲームの中の飛行機は、クロノ君に比べれば遅いし私の動きより遅いけど、ミッド式(私の使う魔法は、こっちよりなんだって)の私には相性がいい。

 一つ一つの弾がコントロール出来る訳じゃないけど、凄く弾が広がってくれるから弾の物量で相手の動きをコントロールする。

 成果は出てるんだな…。

 私達の周りにいつの間にか人だかりが出来ていた。

 美海ちゃんは、もう一回と何度も挑んできた。 

 意外と負けず嫌いなんだと知れて、なんだか嬉しかった。

 美海ちゃんの事が少しは分かったから。

「うん。来てよかった…」

 終わった後、頭は疲れてるのに、身体は軽かった。

 なんだか、自分が凄く力が入ってたんだって気付いた。

 分かってた積もりだったけど、全然分かってなかったんだね。

 全部話せなくたっていい。

 もっと、アリサちゃんやすずかちゃんと話そう。

「今日はありがとう。アリサちゃんやすずかちゃんとも話してみる」

 別れる時に、私は美海ちゃんにそう言った。

 美海ちゃんは、少しだけ頷いてくれた気がした。

 それだけ聞くと、美海ちゃんはアッサリと私に背中を向けて帰っちゃった。

 

 不愛想だけど、優しい友達だ。 

 

 

 

              7

 

 なのはちゃんのガス抜きした数日後、アリサちゃん達とは無事に仲直りしたようだ。

 素直に謝罪があったそうな。

 どこ情報かというと、すずかちゃんである。

 わざわざ私に報告に来てくれた。

 別に必要なかったんだけどね。

 感謝する彼女に私は一つ頷いただけ。

 それだけで満足気だった。

 楽でいいけど。

 

 そして、帰り道に事態は動く。

 沈黙を守っていたジュエルシードが発動したのだ。

 同時に8つも。

 しかも都市部での事だった。

 明らかにあんな場所には存在していなかった事を考えると、奴めばら撒いたな。

 サウンドオンリーで管理局から連絡が入る。

『もう気付いていると思いますが、ジュエルシードが発動しました。かなり高密度の魔力反応です。魔法文化のない世界では危険な程です。すぐに対処する必要があります。最悪の場合、次元震の発生もあるでしょう』

 リンディさんが、相当焦っているのが声だけで分かる。

 普段、魔力に触れない人が高密度の魔力に触れると体調を崩す可能性がある。

 慣れないエネルギーに感覚が刺激されるからである。

 下手をすると、そのまま昏倒する事も起こり得る。

「ジュエルシードを隔離する準備は?」

 私は声だけ変えて、それだけ訊く。

『武装局員は既に出動。クロノの式で結界を張ろうとしていますが、困難を極めています。空間が安定していないみたいなの』

 既に次元震の兆候が出ているって訳だ。

 それなら結界を張るのも、梃子摺るのも頷ける。

 簡単に言えば、結界は空間を弄る魔法だ。

 故に、空間が安定しない状態での結界の構築は難しい。

 だが、そのまま放置する選択肢はない。

「分かった。私が張る」

『…出来るの?』

「出来る出来ないじゃない」

『お願い』

 緊急時の判断の早さは流石と言える。

『なのはさん達も向かって貰っているわ』

 最悪だな。

『リニス、現場へ急行。多分、出てくるよ』

 私はリニスに念話を飛ばす。

『…分かりました。今度こそ、助け出します』

 リニスの決意に満ちた声が聞こえて、溜息が出そうになった。

 なんで、全員面倒を抱えているんだろうか?

 私の言えた義理じゃないけどさ。

 頼むよ、なのはちゃん。色々な意味で。

 

 さて、パーティーのお誘いだ。

 

 

 

              8

 

 地獄絵図とは言わない。

 本当の地獄絵図を見たから。

 でも、これは酷い。

 管理局が一般市民の誘導に頭を痛める必要はなさそうなのは、あの人達にとっては幸いだろうけど。

 大規模地震だよ。

 もう警察や消防が避難誘導を開始している。

 流石は日本だ。

 お蔭で管理局も大助かりだろう。

 全員、死にそうな顔だけども。

 なのはちゃんは既に現場にユーノ共々到着し、ジュエルシード封印しようと飛び回っている。

 ユーノの支援があってギリギリの模様。

 普通のジュエルシードではない為に、封印する為の狙いを定める時間を与えてくれない。

 だって、光の柱から赤い触手がうねうねしてて、ちょっと間違うと薄い本の世界に突入しかねない。

 実際は絞殺されるだろうけど。

 どっちにしても十八禁だ。

 連携の必要な作業には、まだまだ参加させられないだろうから、これは当然の役割分担か。

 うっかり目撃されたりしなきゃいいけどね。

 黒歴史が更新される事になるよ。

 一般市民には光の柱や局員は見えてないけど、霊感とかある人なら見えてる可能性も無きにしも非ず。

 一刻も早く結界を構築する必要がある。

 不必要に未知のエネルギーを見せびらかす事はない。

 私はクロノに近付いて、肩を叩く。

 クロノが不愉快な顔を隠しもせずに振り返り、黙って場所を譲った。

 それに倣って、他の武装局員達もゆっくりと後退する。

『ここで失敗したら赤っ恥ですな』

 バルムンクが揶揄するように言った。

 喧しいわ。

『リニス。ちょっと集中する。ガード任せた』

『お任せ下さい』

 リニスは念話で気合十分に応えた。

 空間の振動を感じ取り、その振動が最も安定した瞬間を捉える。

 ゆっくり広げるのは不可能。

 一気に一瞬で世界を塗り替えなければならない。

 唾棄すべきチートでも役に立って貰おう。

 8つのジュエルシードが同時起動している所為で複雑ではあるが、この程度で泣き言を漏らす程落ちぶれてはいない。

「3…2…1…起動」

 その瞬間に空間が音を立てて変わった。

 8つのジュエルシードを結界内に隔離する事に成功した。

「こんなにアッサリと…」

 誰かが呆然と呟いた声が聞こえたが、特に反応はしなかった。

 私にしてみれば…。

『大分戻ったとはいえブランクは深刻ですな。まだ全盛期には届きませんな』

 バルムンクがやはり余計な感想を漏らす。

 そんな事、私が一番わかってるよ。

 魔法は遜色ないと思っていたけど、振動を読むのに時間が掛かり過ぎだ。

 ウンザリしてきたな。

 サッサと使う必要がない環境を整備する必要がある。早急にだ。

「やはりね。君は腑抜けたよ。喝が必要なようだね」

 決意を新たにしていると、フェイトちゃんの声が聞こえた。

 上を見上げると、丁度空間を斬り裂きフェイトちゃんの姿をしたアレが現れた。

 フェイトちゃんに寄生するという恥知らずの癖に、大口を利くな。

『フェイト…。今、助けます』

 リニスがフェイトの姿をした奴に飛び掛かろうとしたその時、黒い物体がリニスの進路を妨害する。

『アルフ!!』

 闇堕ちしたアルフが黒い毛を逆立ててリニスを威嚇する。

『いいでしょう。どれだけ成長したか見て上げましょう』

 リニスは静かな声で言った。勿論、念話で。

 アルフは聞いてないのか、聞こえないのか無反応。

 そして、黒と白が高速で交錯した。

 私もそれをボウっと見てる訳にはいかない。

 だけどね。管理局御一行から注がれる視線がウザいんですけど。

 疑い確定みたいな顔してるよ、皆さん。

 ユーノの反応はフェレットなのでよく分からないが、ボケっとしているところを見ると驚いているんだろう。

 サポート真面目にやれ。

「レクシアさん?」

 なのはちゃんの驚いた声が聞こえるが、今は相手をしている暇はない。

 それより、身体を動かしなさい。

 

 私は無言でフェイトちゃんの姿をした奴を睨み付けた。 

 

 

 

              9

 

 なのは視点

 

 やっと反応したジュエルシードは今までにないくらい危険な場所に危険な反応をしていた。

「早く対処しなければ、次元震が!!」

 局員の人達が、必死にジュエルシードを空間ごと隔離する結界を張ろうとしてるけど、なかなか張れない。

 次元震ってなんなんだろう。

 響きからして、なんか危険そうだなんて思ってたけど、ユーノ君の説明で甘く考え過ぎてた事が分かった。

 世界ごと壊れちゃうような危険な現象なんだって!!

 しかも周辺の世界も巻き込むくらいに。

 全身から嫌な汗が噴き出る。

 早く封印しなきゃって頑張ってるけど、撃つ時間が稼げない。

 少しでも狙ったり、チャージしたりしようものなら攻撃があちらこちらから仕掛けられるの。

 ユーノ君のサポートがなきゃ、墜とされてたと思う。

 早く1つでも封印しなきゃいけないのに!

 下の光景を見て益々慌てる。

『なのは!落ち着いて!』

 ユーノ君から念話が届くけど、ユーノ君の護りもあんまり持たないからゆっくり落ち着いていられない。

 そこへレクシアさんが到着して、アッサリと結界を張っちゃった。

 やっぱり凄い。

 何人も魔導師が決壊を張ろうと頑張って無理だったものを、すぐに張っちゃったんだから。

『おそらくは膨大な経験からくる絶技です』

 レイジングハートが解説してくれる。

 センスだけに頼っちゃダメってよく言われたもんね。

 焦った気持ちが落ち着いていく。

 よし!私も頑張る!

「やはりね。君は腑抜けたよ。喝が必要なようだね」 

 不吉な気配がどこからともなく現れる。

 いつの間にか、あのジュエルシードに乗っ取られた子が空中に浮いていた。

 クロノ君やリンディさんが、知り合いじゃないかって疑ってたけど、知ってるのかな?

 でも、ロストロギア?って人じゃないし…。

「レクシアさん?」

 私は思わず声に出して言っていた。

 だって、レクシアさんが見た事もないくらいに、険しい顔をしてたから。

 その感情は怒っているのとも少し違う。

 あれは…。

 

 そんな事を考えていた直後、黒と白の動物が激しくぶつかり合った。

 

 

 

              10

 

 フェイトちゃんの姿をした奴は、不敵に嗤った。

 前回でバルディッシュを飛ばされて、逃げ帰ったから無手だ。

 因みに、バルディッシュは私が回収して持っていたりする。

 奴が手をオーケストラの指揮者のように気取って振ると、ジュエルシードが一斉に不吉な輝きを放つ。

 なのはちゃんや武装局員が、あまりの眩しさに目を瞑る。

 私は、そんな事くらいで眼を逸らしたりしない。

 相手は最悪の悪魔なんだから。

 光が収まるとそこには紅い8つの首を持つ龍が鎮座していた。

 物凄い大きさで田舎のビルなんて余裕で見下ろしていた。

「さて、決戦の前の軽い準備運動だ」

「後なんてやるか」

「そうだといいんだけどね。嘗ての君は傲慢で美しかった。だけど、今はどうだい?死んだ魚の方がまだましといった感じの幽鬼だ」

 思わず笑ってしまう。

 コイツに傲慢なんて言われるとはね。

 しかし、死んだ魚とは言い得て妙だ。

 屑の癖に上手い事を言う。

 奴が手を大仰に翳すと、紅い光が収束し杖が姿を現した。

「やはり、これくらいじゃないと調子が出ないからね」

 私も血液中から埋葬剣を取り出す。

 埋葬剣・オルクス。

 私が前世で使っていた魔剣の一本だ。

 この件は私にとっても前哨戦だ。

 サッサと終わらせたいところだ。

「いくぞ?」

 私も埋葬剣を構える。

 

 そして、光が激突する。

 

 

 

 

              11

 

 なのは視点

 

 レクシアさんの感情が正確に分かる訳じゃない。

 でも、あれはきっと良くないものだ。

 私には、まだ理解出来ないもの。

 そして、レクシアさんとあの女の子の戦いも始まった。

 魔法と剣の物凄い激突。

 今は、まだ全然足りない。色々なものが。

 でも、今やれる事を全力でやる。

 それがきっと私の道に通じてる。

 私は、五本の首を持つ龍の前に立つ。

 今までにないくらいに強い思念体。

 武装局員の人達やクロノ君が龍の周りを包囲する。

 私は一人じゃない。

 ユーノ君やレイジングハート、それにクロノ君達管理局の人達がいる。

 そうだよね?美海ちゃん。

 だから、絶対に勝つ!

「力を貸して、レイジングハート」

『貴女が望むなら』

 龍が8つの口から一斉に光線を撃つ。

 私は散開し、龍に立ち向かっていく。

 

 厳しい戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 




 戦闘は次回にやる事にしました。
 大きく展開すると言った事に嘘は…ないですよね?
 もうじき無印最終決戦開始です。

 次回は苦手な戦闘回なので、これ以上の時間が掛かります。
 懲りずにお付き合い頂けれ幸いです。


 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。