ようやく書き上がり、ホッとしています。
それでは宜しくお願いします。
1
この世界の主人公・高町なのはちゃんと出会って、数日経った頃だった。
遂に来るべき時がきた。
私の部屋に両親が姿を見せて、話があるという。
私の心境はといえば、安堵と少しの不安だった。
安堵の方は説明は要らないだろう。負担となる私をパージして二人が人生をやり直す決意
をしたという事だ。ホッとするというものだ。
だが、不安も少しある。離婚するとか言い出したら、それだけは止めさせないといけない
けど、原因である私が言えた事ではない。
まあ、頑張って説得してみよう。
そんな事を考えながら、フラフラとリビングへ向かう。
今更説明が要るかアレだが、ウチは一軒家である。
今生の父は、結構な高給取りのようで結婚と同時に土地と家を購入した。
勿論、ローンのようだが、別に苦にならないようだ。
家を出ていく私には、意味のない事だけど。
リビングに入るとそこには家族以外の人間がいた。
うん?児童相談所の職員とか弁護士には見えない。
だって、モロに外人だったから。
2
私に気付くと、その外人は立ち上がって笑顔を浮かべた。
「この人は、ヒルダ・ヒューズさんというんだ。お父さんの上司だよ」
色々な感情がごちゃ混ぜになった顔で、今生の父が外人さんの紹介をしてくれた。
何故、上司がいるの?遂に来るべき時が来たと思ったけど、外したか?
私も曲がりなりにも王様をやっていたから、表情に出すような真似はしなかった。
ヒューズさんとやらにも、読まれていない筈だ。
あっちは顔は笑顔だったが目は笑っておらず、私は懐かしさを覚えた。
決して、いい思い出じゃないけど。
向こうはこちらをジッと観察している。
私は前世の経験から、いつもと変わらぬ態度を貫いた。
そのうちに父から椅子に座るように言われて、私は大人しく従った。
「実は…ね。これからの事を話し合いたいんだ。僕自身も…判断が難しくてね。それで
ヒューズさんに相談したら、同席してくれると言うんで、居て貰う事にしたんだ」
父が余裕のない顔で私と母に話し掛ける。
母の方はといえば、あまりいい顔はしていない。
そりゃ、家のゴタゴタを他人に晒したくないだろう。
父としては、自分一人じゃ抱え込めなくなって、誰かに助けてほしかったんだろう。
これも原因である私が、どうこう言えた話じゃない。
父が深呼吸して息を整える。
「美海。君は頭のいい子だ。だから、訊きたいんだ。美海が何を考えているかを」
頭がいい子の評価は、どこから出たのか不明だが、普段の態度から何かを察したのかも
しれない。それにしても随分と直球できたな。
遂に来た。
直球の質問より、その事が私の頭の中を占めていた。
母もヒューズさんも私を見ている。
想定外の人物もいるが、まあいい。
「私には前世の記憶がある」
単刀直入に言った。
案の定、両親の顔が歪んだ。
ヒューズさんは相変わらずこっちをジッと観察している。
ヒューズさんは兎も角、両親は差し詰め、何を馬鹿な事を言い出したんだってところだろう。
何を考えてるのかを問うて、返ってきた言葉がこれだ。
何故、話してくれないとも思っているだろう。
こんな事を言い出したら、他人事なら頭の病院を勧める。
ここが畳み掛けるところだ。
「いや、待ってくれ」
「関係する事なので、最後まで聞いて下さい」
私は父の言葉を遮る。
そして、私は前世の生い立ちを語った。
更に前の凡人だった事までは、要らないだろうから流石に話す積もりはないけど。
3
私が生まれた時、もう既に意識があった。
稀に赤ん坊の頃の記憶があるという子もいるというし、別に構わないだろう。
私がきつかったけど。転生の特典が大盤振る舞いされた理由も明らかになった事もある。
そこは古代ベルカだったからだ。凡人じゃ、厳しい世界だ。
しかも、私は女になっていた。意識も女に変わっていたのは幸いだった?
そこで私は人生初の体験として殺されかけた。理由は簡単、虹彩異色の子供じゃなかったから。
父は私の眼を確認し、激昂した。何しろ持っていた杖で私を殴り殺そうとしたんだから。
その場に居た側近達に止められて、事なきを得たが、母は何をしていたかといえば、傍観して
いた。何もしなかった。我が子を護る気もなかったようだ。その時、私は嫌でも分かった。
この両親に期待出来ない。
動けるようになるまで忍耐の日々が続いた。
動けないからといって、何もしなかった訳ではない。
この日々で、情報収集を可能な限り行った。赤ん坊だから、不用意な発言をする奴がいてくれ
たお陰だ。
私は貧乏国・アストラの第五王女である事。私に五人の兄がいて、姉が四人いる事。
聖王に選ばれる資格のある血筋である事。血が薄まり、聖王の証となっている虹彩異色の者が
生まれず、不始末を連発し、領土は全盛期の五分の一にまでに落ち込んでいる事などが分かった。
不始末は血の所為ではないだろうが。
そんな事を毎日のように愚痴るメイドさんしかいない段階で、うちの国はヤバかった。
無双とか、考えてる前に生き残れといった現状だった。
動けるようになると、すぐに私は自己鍛錬を開始した。遊んでいる余裕も姫の嗜みなんて、
そっちのけで、やり始めた。
少し、マシに動けるようになった私は調子に乗って、外へと繰り出した。
そこで私は貧乏国とは、どういう事かを思い知らされた。命が軽いのだ。それも途轍もなく。
そして、私は平和ボケした元・日本人。本気で命を奪いにくる人間に私は竦み上がった。
後で分かった事だが、ウチは何時反乱起こされても文句の言えない状態だったのだ。
そりゃ、殺気立ってるし、なんでもやるよ。
だからといって殺されたくない。死に物狂いで逃げ切り、一人でやる事の限界を知った。
私には師匠が必要だ。
それで探し当てたのが、聖王の剣術指南をしているという剣の館の存在だった。
そこでならと、意気揚々と
こんな詰んでる国に未練はない、ってものだ。
剣の館で修行する際には、試しの儀という試験のようなものがある。
そこで私はボコボコにされた。散々な結果に、こりゃ落ちたな…と落ち込んでいると、意外な
事に、修行が許された。
私をボコボコした師範代のパナメーラ師の下で、更にボコボコにされる日々。
パナメーラ師は、剣の館で唯一の女性の師範代である。私の担当になったのは、そういう理由
だった。
ここで私は心身共に鍛えられ、一応の及第点を貰えるまでになった頃である。
国元で私の兄・第三王子が問題を起こした。
バカ王子のお約束・初夜権の行使である。まあ、それが何かは説明するまでもないだろう。
読んで字のごとくだ。剣の館の女性陣が激怒したのは言うまでもない。そして、私がなんとか
してこいという展開も言うまでもなかった。
師であるパナメーラ師の命令で、私は帰郷した訳だが、それはそれは楽しい里帰りとなった。
冷ややかな対応はデフォ。口を開けば、嫌味と叱責のオンパレードである。当然だけどね。
一応、剣の館に入る時、私の身元を調べたようで王宮には一報を入れたそうだが、勿論、誰の
許可も得ていない。それは文句も怒りもあるだろう。
そして、対処は私に投げられた。アッサリと。それは何故か。みんな身内を手に掛けるのを
嫌がったのだ。汚れ役等、誰も引き受けたくなかったのだ。それで丁度帰ってきたドラ娘に、
押し付けたという訳だ。素早い対処が求められる状況で何をやっていると言いたかったが、私に
何かをいう権利はない。
本来なら、ここで王様になる為に競争相手減らしたるかい!となりそうだが、ウチにそんな
旨味は存在していないのだ。最早、どうしてまだ存続しているんだ?のレベルだ。
バカ王子は、バカだが、腕はそこそこだったようだ。
何しろ、踏み込んだら民=兵士のウチの国で、家に入り込んだ挙句、家族一人を除いて皆殺し
とかやっていたんだから。エロい王子がどんな人を残したか、想像にお任せする。
ただ、バカ王子を殺すのに、私はなんの罪悪感もなく一瞬で殺したとだけ言って置く。
部屋の惨状だけは、今も頭に再生出来る。これが私の見捨てたものだった。
要は他の連中と私、なんの違いもなかったのだ。曲がりなりにも私は王族で、食事に困った事
もないし、訓練する時間さえ取れた。それは私が民と違って余裕があったからだ。そして、その
余裕は民の上に成り立っていた。それを私はチラリとも思い浮かばなかったのだ。
後悔しても、もう遅い。ある意味、手遅れとも言える。
しかし、このままでいい訳がない。
私は、この騒動の後、剣の館に修行を中止する事を告げた。
だが、剣の館の館主・剣匠は、パナメーラ師を派遣してくれたのだ。
剣匠は私の剣の腕を惜しんでくれたのだ。武の才MAXである事を、負け過ぎてて忘れていた。
私はそれを有難く受けた。
そして、やれる事から始める事にした。
優しさや思い遣りなんてものは、余裕がなければ生まれない。そんな事を言ったヤツがいた。
至言である。だから、少しでも負担を減らしてやらなくてはならない。
まずは資金作りだ。国の金など使えないから、自分の資金を作る必要があった。
他国の貴族向けに、日用品をWEB小説から見繕い、造って売ったのだ。
それと並行して、信用出来そうな人物を探す事。協力者は絶対に必要だった。
発言力ないからね、私は。
石鹸等は、貴族でも上級貴族くらいしか使えなかったから売れた。あとは富裕層にも。
協力者もなんとか見付かって、協力を取り付けるところまで漕ぎ着けた。幸いにも小さい頃
から一緒に居てくれた騎士が味方をしてくれたから、なんとかなった。
信用がないのは辛い。
次は資金を作った伝手で、ジャガイモとサツマイモを探した。
ビックリする事に、ウチの国、作ってなかったんだよ。ジャガイモも?って思ったよ。
だから、似た作物を見付けて貰って、自分で育てて食べた。民の前で。
最初は奇異の眼で見られたが、出来上がった物を蒸かして食べて見せたら、興味を持ってくれ
た連中がかなりいた。目敏い者は、気付いたのだ。芋の利点に。
税で過剰に持っていかれないように、色々と暗躍したものだ。
それが功を奏して、民が食べる分の確保は出来た。取れる税は取りたい連中との交渉は、神経
が擦り減って疲れたものだ。
この時には、見付けて置いた協力者も活躍してくれた。やはりWEB小説は偉大だ。
後は資金を使って傭兵を雇用し、治安維持に当たった。勿論、私も率先して参加した。
まあ、傭兵だから勝手を遣らないように監視の意味もあった。
当然、鍛錬という名の拷問も継続していた。
そんな時、世界の情勢がキナ臭くなり始めた。
アルハザードがベルカに本格的に介入し出し、聖王家にも使者がチラホラ姿を見せるように
なったのだ。
そして、決定的な出来事が起きた。
アルハザードが提供した禁忌兵器が使用されたのだ。アルハザードは関与を否定したが、
そんな事を心の底から信じている奴はいなかっただろう。
これを機にベルカは戦争へと突入していく事になる。
ウチの国だけは平和なんて、ご都合がある訳もなく。聖王家の尖兵扱いで使われた。
私は当然の如く大車輪で働かされた。必死に戦っている間に、気付けば家族モドキが随分と
死んでいた。顔も大して知らない連中の死に悲しみはなかった。
そして、遂に聖王が小王国の幾つかに出兵命令を下した。アストラを総大将として。
碌に戦う術がない兄・姉・父に代わり、私が総大将として送り込まれる事になった。
分かっていたが、碌な連中じゃない。
聖王の檄を聞く為に、態々聖王のいる宮殿まで足を運ぶ手筈となった。
正直、そんな事をしている場合じゃないと思うのは、私だけだろうか。
いよいよ初陣となったが、所詮は小娘。
指揮はザッハトルテ似の宿将・カイエンが執る手筈だった。
私は戦場で無様を晒さない事を要求された。
カイエンの指揮は見事だった。なんであんな国で仕えているのか、意味が分からない程だった。
万旗将の二つ名は伊達ではない。名の由来は万の戦旗を指揮出来る男だからだそうだ。
凄過ぎて逆に参考にならない…筈だったのだが、何故か理解出来た。
そして、カイエンより早く相手の軍の綻びに気付き、そこを突く事で手柄を上げてしまった。
そう、上げてしまったのだ。
禁忌兵器は、私の魔法で分解し破壊した。あったら馬鹿が使いたがるに決まっている。
論功行賞で私は悪目立ちした。周囲がやっかむ程に。
その夜、私に刺客が放たれた。私は襲撃を躱すうちに導かれるように聖王の宝物庫へと逃げ
込んでいた。そして一本の剣と
初代聖王しか扱えなかった意思のある神剣が、私を使い手として選んだのである。
それが私にとっての真の始まりだったのかもしれない。
バルムンクに関しては揉めに揉めた。聖王でもない小娘が選ばれたんだから当然だ。
バルムンクの意志は固く、覆せないと知った聖王と取り巻きのお歴々は、苦虫を嚙み潰したよう
な顔で、私に対する褒美の追加として
話を聞いていた聖王は笑顔だったが、目は笑っていなかった。
その後、私に対する当たりが方々で強くなったのは当然の流れというものだ。
戦いが一段落しても、戦乱は収まる気配を見せず、雨後の筍のように戦を始める国が多発した。
いずれも小国だったが、持っていた兵器から煽った犯人はバレバレだった。
アルハザードの暗躍があったのは、今回も確実だったが証拠は掴めなかった。
神聖剣を持つ私は、もう戦を避けられなくなっていた。
次々と戦場に送り込まれ、戦う日々が何年も続いた。
この間に、信頼してくれる仲間達、部下達が集まり始めた。
気が付けば私は十四になっていた。
誕生日のその日に私は剣の館で秘奥を授けられ、一人前の騎士と認められた。
戦場を渡り歩く日々の中で、バルムンクが呼び寄せているのか、魔剣だの聖剣だの貰ったり、
拾ったりする機会がやけに増えた。これも特典の影響だと気付くのに大分掛かった私は悪くない
と思う。そんな特別な剣がゴロゴロあったら可笑しいでしょ、普通。
私が十七になった年、重要な出会いがあった。
とある小国の女王と側近の騎士二人、それに転生してきた闇の書の主と友人になったのだ。
戦線の状況が芳しくない場所へ派遣され、そこで戦っていたのが彼女達だった。
なんで闇の書が?と思ったが、最早気にしても仕方がない事と割り切った。
闇の書の主の
穏やかな性格で決して戦闘向きの奴じゃなかったけど、芯の強い男だった。
女王と騎士、それに彼は、私と歳が同じだった事もあり、すぐに意気投合した。
彼女達と彼、私を含めて五人で馬鹿もやった。結構楽しかったが、ガッカリする事もあった。
守護騎士達だ。実は私は守護騎士ファンだったのだが、連中は何も喋らず、打ち解ける事も
しようとしなかった。彼がどんなに親しく接しようと、にべもない反応。
この時には、私は闇の書というより、彼を自力で助ける事を考え始めていた。
私は闇の書を
私の特典でも闇の書の初期構造など分からず、今の構造からバグを切り離しても、正常に
動作するようにアレンジする事に方針を変更した。
はやてのように幼い身体の時に転生してきたのではない所為か、はたまた彼の潤沢な魔力と、
経験の所為か分からないが、彼は蒐集がなくとも一年は何事もなく過ごしていた。
それでも私は、はやての事例を知っているだけに、急いでアレンジ案を検討した。
流石に一朝一夕にはいかず焦りばかりが募った。
そして、一年が過ぎた頃、彼の容態は急変した。
寧ろ今まで無事だったのが、不思議だったのだ。
アレンジ案は漸く半分目途が付いたところだった。
私は友人の女王に、アレンジ案を完成させる為、暫くの間来れない事を告げると、彼女は言葉
短く頼むと言った。
あと一歩のところで完成しない。彼の衰弱は危険領域に突入していた。粗忽者の騎士(友人)
は遠いだろうに、頻繁に私のところに進捗状況を確認に来た。
時間がない。
だから、私は最後の手段に出た。
守護騎士に蒐集を秘密裏にやって貰うように依頼したのだ。
彼ははやてと違い、魔導の心得がある男だ。時間稼ぎにはなる筈だ。私は必死に頼んだ。
だが、守護騎士の返答はNOだった。
曰く、命令されていない。
曰く、死にたくないなら、早くやればよかった。
曰く、他人を想って死にたいなら、死なせてやれ。
最後は、私の言葉を黙殺が具体的な答えだった。
はやての為だったら、あんなに必死だったじゃないか!はやての時は勝手にやってたじゃない
か!彼とはやての何が違う!彼だって守護騎士を家族として扱っていたし、色々世話も焼いて
いた。なのに、なんなんだ!?
その思いを込めて、私は言葉の限り守護騎士を罵倒した。
守護騎士達は私を醒めた目で見ていた。
その瞬間、私の中の幻想は完全に崩壊した。もう、こいつらはどうでもいい。
確かに、お前等は人間じゃないよ。プログラムだ。
私は、そう言って背を向けた。
守護騎士の過去は知っている。今よりずっと前の時代のベルカの戦乱時代に生まれ、辛い想い
もしてきたと、今なら冷静に考えられる。だが、この時の私にその余裕はなかった。
尤も、今も私はあの連中が嫌いだが。
私が無駄な時間を浪費した間に、女王の国では危機が迫っていた。
女王の国と隣国が緊張状態に突入したのだ。原因はアルハザード。隣国の王は欲望を刺激され
ものの見事に、思い通りに動いたのだ。
知らせを受け取ったのは、全てが終わった後だった。
何故、その事が頭を支配した。
小国が使用する事で改良された禁忌兵器を相手に、女王は戦いを挑み、彼は衰弱した身体を引き
摺って突入し、闇の書を暴走させた。禁忌兵器を道連れに。
女王達は、ベルカを救う為、暴走を身をもって止めた。
魔導王の二つ名を持つ女王だから、そういう手段があったのだろう。
後に分かった事だが、女王は聖王にも私にも救援を依頼していなかった。
小国ながら名声のある魔導王は、聖王家にとって邪魔だった。救援は無視されるか送ると言う
だけで何もしないのが分かっていたのだろう。それに女王は私を巻き込むまいと決めたのだ。
聖王家の方は、私が調べたところによると、積極的に相手側にアルハザードを仲介した形跡すら
あった。そして、まだ使える私に彼女達の危機は知らせなかった。
なんだ。これは。私達は駒か?実験動物か?
静かな怒りが私を支配した。
部下達がいなかったら、聖王家に一人でカチコミしに行っていただろう。
内政も成果を上げ始め、漸く国内が落ち着き出した頃だった。
内政といっても、部下達が干渉した結果で部下達の成果だったけどね。
その年、父が遂に逝った。心労が祟っての事だったらしい。悲しみはなかった。
友達を失くした年、身内が戦で極端に減った影響で、私が次代の王座に就いた。
嬉しくもなんともなかった。
物騒な玩具でハッスルした小国が大体一掃され、大国が領土を吸収する事で戦乱が沈静化した。
そして、五年の歳月が過ぎた。
勿論、その間、戦いがなかった訳じゃない。敗残兵が盗賊と化して各地で暴れ回っていた
のを討伐する事はしていた。
私は内政に力を入れつつ(主に部下がやりました)、保存食の溜め込みと、どうにか農業が
出来る環境を確保する術を考え、鹵獲した玩具を改造したりして弄っていた。
某・村人さんではないが、飢饉どんとこいくらいの気持ちでいないと、今の時代は生きて
いけないだろう。
そんな時、私は聖王に呼び出され、王宮に向かった。
用向きはなんて事はない。戦勝記念の宴というどうでもいいものだった。
笑顔で探り合いと嫌味、取り入る為のよいしょにうんざりした私は外に出た。
腐った空気より外の空気の方がおいしい。
そんな私の眼に子供がうろついているのが見えた。
随分と頼りない歩き方だった。気になった私は、その子供に声を掛ける事にした。
その子供を見て、動きがぎこちない理由を知った。この子には両腕がなかったのだ。
そして、その子供こそがオリヴィエだった。
母を探していると言っていたが、オリヴィエの母は既に亡くなっている。探しても会えない
のだ。私は視線を合わせて、話し掛けた。母はもうこの世にいないと。
随分と叩かれた。随分と器用に足や身体・頭を使って器用に暴れた。それを甘んじて受けた。
子供になんて事をと思うかもしれないが、見付かる事のない母を探し続ける事の方が悲しい
じゃないか。
私は叩かれながら、オリヴィエを抱き締めた。
それ以来、私はオリヴィエに王宮に行く毎に会いに行った。最初のうちはいい顔をされな
かったが、少しづつ心を開いてくれるようになった。純粋に嬉しかった。
オリヴィエは、私の事を姉と呼び始めたのは、この頃だったと思う。本来なら選王家の末席の
私が姉呼ばわりされる事はあり得ない。
だが、同じく鬼子として家族に見放されていたオリヴィエにとっては、私が一番家族に近く
なっていたのだ。私にとっても今生では家族と呼べる人間はいなかったから、私は二人の時のみ、
その呼び方を許した。
それから六年の歳月が流れ、オリヴィエはシュトラという国に留学する事が決まった。
厄介払いである。
それが分かっていても、オリヴィエは笑顔で楽しみと言っていた。
私はオリヴィエに腕を贈った。
オリヴィエは色々な飾り腕(義手)を試したが、どれもオリヴィエには扱い辛い代物だった。
そこで私は、某・錬金術師が使う義手のような五本の指まで動く、関節の動きもリアルに
再現した腕を造ってプレゼントした。使い易いと喜んでくれた。
オリヴィエは、ポツポツと手紙をくれた。
何故、念話じゃないかって?オリヴィエの拘りみたいなものがあったようだ。
手紙にしても、ベルカの郵便なんて事故に遭いやすい。確実性がないのに、オリヴィエは手紙
が好きだ。だから、私も付き合った。
オリヴィエは、向こうで友達が出来たらしい。
シュトラの王子と旅の学生だとか。向こうでは実家と違い、よくしてくれているようで楽し
そうだ。私も忙しい合間を縫って、遊びに行った。王子は兎も角、学生の方は黒のエレミアとか
いう物騒な奴である事が分かったが、どうも力の制御が出来るらしく、付き合って危なくなさ
そうでホッとしたものだ。二人共、楽しく話が出来る程度に、私も仲良くなった。シュトラ王と
も意見交換などさせて貰い、随分と参考になった。聖王より人間が出来ていた。
だが、穏やかな生活は終わりを告げる。
今までの事がそよ風だったと思うくらいに。
小国が併呑され、次は大国同士の衝突が始まったのだ。
世界大戦と言っていい有様だ。
すぐさま私は戦場に出される事になった。
オリヴィエ達の事は心配だが、今は自分の国を心配する必要があった。
大国同士の戦いは、アッと言う間に小競り合いから、本格的な武力衝突へと発展した。
私は国の舵取りをしながら、戦をするというアクロバットに挑む羽目になった。
戦火は禁忌兵器の本格投入によりベルカの気候に及んだ。
殆ど太陽が顔を見せなくなったのだ。
分厚い雲に覆われ、太陽の熱は遮られ、気温が低下していく。
太陽が差さなければ、作物への影響は甚大だ。
備えと言うのは偉大である。
保存食を切り崩しつつ、とんでもない方法で太陽の光を確保する為に、戦場と国を行ったり、
来たりする日々。試行錯誤が続き忙しく、死にそうだが、私はもう見捨てる事等出来なかった。
この頃から、方々で戦争の被害になった難民がアストラに流れてくるようになった。
あまりキャパがない国に大量の難民を受けれる事は出来ない。
難民の対応と、自国の手当、戦場での戦いで、更に忙殺されている間に、私は何度目かの後悔
をさせられる事になる。
私がその凶報を受け取ったのは、カイエンとローテーションで自国に戻った時の事だった。
オリヴィエが聖王のゆりかごを起動する王になると。
原作でなんとなく知識で知っていたが、不覚にも忙し過ぎて失念していたのだ。
私は急いで王宮に向かった。
止めなくては。それだけしか頭になかった。
だが私は、翻意させる事は出来なかった。
不甲斐ない。何もかも捨て去る事は出来ず、私は妹を死地に追いやってしまった。
私は身の丈に合わない程のものを抱え過ぎていた。説得など出来る筈もなかったのだ。
あの子の乗るゆりかごを私は見送らなかった。
一刻も早く、戦いを終わらせる為に。あの子に私が出来る事などそれくらいだった。
早く終われば、あの子の疲弊も減り、もしかしたらと甘い事を考えていた事もある。
私を邪魔に思う者がいても、知った事ではない。私は諦める事が出来なかったのだ。
そんな私の声望は、私の与り知らぬところで高まっていた。私の予想を超えて。
私はチートの限りを尽くして、自分の受け持ちの国を倒した。
降伏勧告を何度も無視され、致し方がなかった。
だが、その直後、聖王家から難癖を付けられた。
こちらが、降伏の申し出を無視し、平和への道程を閉ざしたというのだ。
私を潰したがっていたのは、知っていたが、もう少し先だろうと思っていた。
だが、待ちきれなかったようだ。
私は、最早どうにもならない事を悟った。
いくらなんでも戦船を大量に投入し、物量戦を挑まれれば勝てはしない。
味方してくれそうなところは、どこも戦の最中か、余裕がない。応援はない。
ならば、少しでも生かそうと私は思った。
可能なら、私一人の首でどうにかならないかと。
しかし、民達が義勇兵として全員、押し掛けてくるなど誰が予想出来るだろうか?
ここでも説得に失敗した私は、絶望的な戦いに挑むしかなくなった。
信頼した仲間、小さい頃から一緒に居てくれた人、こんな私を信じて付いて来てくれた部下が、
次々と倒れていくのに、私だけが特典で怪我が無くなり、相変わらず剣を振るう。
気遣う余裕などなかった。嘗て味方だった兵を殺す。
自分が何をやっているのか分からなくなった。
啖呵を切って格好を付けるのは、誰の為だ?
そして、姿を現した。妹の乗るゆりかごが。
私は、その飽和攻撃により死んだ。
思えば、私が何かを護り抜けた事などなかった。
こうしてクソみたいな私の人生が終わった。
そして、更なるクソな事態が待っていた訳である。
4
私はおふざけを抜いて、殺伐とした部分を強調した生い立ちを語り終えた。
父は、脳の許容量を超えたらしく額に手を当てている。
母は顔を下に向けたまま硬直し、動く気配はない。
ヒューズさんだけが、ジッと私を見詰めて考え事をしているようだった。
「「……」」
無言の両親。
「今話してくれた事だけど、証明は出来るかな?」
両親でさえ言葉がない中、ヒューズさんは果敢にも質問してくる。
「例えばどんなものを?」
「その世界には魔法があっただよね?魔法を使ってみてくれるかな?それとも転生?
したから無理?」
ヒューズさんの質問に、私は一瞬だけ考える。
魔法を使ってみせるのは簡単だが、ここはもう少しインパクトがある力の方がいいかな?
私は軽く頷いた。
「では、少し変わったものを」
私はそう言って、指を少し傷付けた。
両親がギョッとする。その直後、両親が手を伸ばすのを、大丈夫と手で止める。
プクリと血がドーム状に盛り上がり、そこから血が不自然に流れ始めた。上に向かって。
両親とヒューズさんが息を呑む。
みるみるうちに血液が剣となった。
赤屍さんのブラッディソードだ。
それを軽く振って見せる。
鋭い風切り音がする。
リクエストの魔法とは違うが、違いなど分からないだろう。
「これでいいですか?なんなら違うのも使いますけど。いかにもなのを」
ヒューズさんは目を閉じて、首を振った。
「いや、いいよ。成程、完全な妄想という線は消えたよ」
まあ、普通はそう思うだろう。
「それで、君はどうしたい?」
両親が思わずヒューズさんを見る。
「私は施設に行きます。施設には迷惑を掛けてしまうかもしれませんが」
勿論、力を使う気はないが、親しくなる積もりはない。
まあ、赤の他人であるなら、気は楽だ。
「なんで施設へ行きたいの?祿郎君達じゃ、不満かな?」
因みに父は祿郎。母は紗枝という名前だ。
意外にしつこいな。
「気味悪いでしょ?私は必要とあれば、人を殺せます。なんの躊躇もなく。今まで子供らしく
なくて困惑したでしょ。原因は今言った事です。メンタルは子供ではないんです。御二人には
申し訳なく思いますが、これが私なんです。何も法に触れる事を遣る積もりはありませんが、
いざとなれば…。分かるでしょ?その時、せめて迷惑が掛からないようにしたいんです」
施設なら知らせる必要はないし、何より向こうは仕事だろう。
「それも君の本音の一部ではあるだろうけど、それだけじゃないでしょ?君は幸せになる気が
ないんじゃないかな?」
「「っ!?」」
両親が弾かれたように私を見る。
「君は淡々と話したつもりかもしれないけど、僅かな反応までは消せないよ。君は自分に強烈
な怒りを抱えているね?自分が許せない。違う?」
「……」
「祿郎君から相談された時、確かに子供らしくないと思ったよ。祿郎君も奥さんも、口には
出さなくともそう感じている印象だったしね。君は今、敢えて何をするか分からない危険な
存在であると、殺伐とした人生を語った。実の兄を殺した事とかね。でも、言葉とは裏腹に
君は暴れても、
両親はハッとなって私を見ている。
「君は過去を淡々と語ったけど、殺伐としていただけじゃない。君は大切な人達を精一杯護ろう
としたし、国民も護ろうとした人だった。君は優しい子だ。だから矛盾が生じる。離れていく
ように仕向けても、酷い事が出来ない。ここが嫌だという理由に説得力が生じない。第三者が
いなければ、追い詰められていた二人は、君を手放したかもしれないけどね」
そう、もっと手っ取り早い方法はあった。
だけど、私にはそれが出来なかった。こんな私にも愛情を持ってくれている人を、出来るだけ
傷付けたくないなどと甘い事を考えてしまったから。
「だから、敢えて言うよ。君は
ヒューズさんの言葉に、私は顔を顰めた。
「言って置くけど、これは厳しい言葉なんだよ?」
確かに難しい事だ。
ヒューズさんは、私の反応に首を振って答えた。
「物事に絶対なんて、本来ない。だからこそ、その努力は大変なものになるよ。でも、君はそれ
をやらないといけない。君の命は、大勢の血によって成り立っているんだから。今もね」
「支社長!!」
父が声を上げるが、ヒューズさんは父を見なかった。私をジッと見ている。
この人、支社長なんだ。と関係ない事を、私は考えていた。
「君には勝手に捨てられるものなんてない筈だよ?でも、納得しないのも分かるよ。そこで、
どうかな?少し考える時間を作ってみたら…。ウチに来ない?」
は?
私は内心でそんな阿保な感想しか出なかった。
どういう展開だ?
「少し距離を置いて、お互い考えてみるというのも大切だよ。私は他人という意味では、施設
と変わらないよ。それにこんな酷い事を言う奴だ。気兼ねはいらないよ」
彼女の落としどころは、ここのようだ。
「…ダメ」
初めて母が口を開いた。
「何が?」
ヒューズさんが訊いた。
「貴女の仰る事は、間違っていないんだと思います。すぐに整理する事は出来ません。でも、
ここで私達が何もせずに見送ってしまったら、もう戻れない気がするんです」
そこまで言って、母は少し言葉を切った。
「何かに苦しんでいるのは…気付いてました。魘されていたし…。でも、何も訊けなかった。
多分、恐れていたんだと思う。拒否される事が。本当は私達が訊くべきだった。臆病でごめん
なさい」
私は首を振った。
無理もない。寧ろ、自分達と血しか繋がっていない子供なんて、本当に自分達の子か不安に
なり、恐れても仕方がない。
「仕方がない事です。異常なのは私なんです」
だから、離れたとして、戻れなくても仕様がない事なんだ。
だが、突然、母に抱き締められた。
「ごめんなさい…。私達を想ってくれていたのに、気が付いて上げられなくて…」
違う。救いたかったのは、自分自身だ。
この事に関しては、議論の余地はない。
「美海。私も一緒に頑張っていきたい。間違ってしまったけど、遣り直させてほしい…」
父が、決死の覚悟を決めた人と同じような顔で、頭を下げた。
普通なら、こんな前世の記憶を保持して異能まで有している子供なんて、簡単に受け入れられ
ない。それは恰も別の子供が自分の腹を借りて生まれて来たような、嫌悪感を感じるだろうから
だ。私は前世を語る事で、終止符を打つ積もりだった。なのに、ヒューズさんという人が、ブチ
壊しにしてしまった。
落としどころなど、とんでもない。
これこそが狙っていた事だったのだ。
ヒューズさんは、飽くまでも私が自分の為に行動していた事に気付いていた筈だ。それなのに、
私を愛情深い子供に仕立て上げ、貴方達が躊躇するなら、この子を連れて行くと脅したのだ。
思考力が鈍化している両親には、さぞ効いただろう。
そして、こんな事を言われてしまっては、私も拒否は難しい事も読まれていた。
私は、この人達を拒否出来ない。
平和な世界で、私も随分と思考が雑になっていたようだ。
溺れている人間の思考など、碌でもないのだ。
命を絶つ術を見付ける、と思っていたんだから雑なのは当然か。
だが、母の温もりは非常に懐かしく。私が前世で失くしたものだった。
それだけに申し訳なさで一杯だった。
5
ヒューズ視点
私は溜息と共に部下の家を出た。
我ながら、あんな事しか言えなかったのかと自己嫌悪で一杯だった。
でも、通り一遍の実感の伴わない言葉では、あの子は行くところまで行ってしまう。
そんな危うい子だった。
そして、私は汚い大人らしく弱みに付け込んだ。
「ヒューズ支社長、今日はありがとうございました」
今出た家の主・綾森祿郎が出てきて私に頭を下げる。
「いや、要らないよ。あまり力になれなかったからね」
「そんな事は…」
私は祿郎君の言葉を手で遮った。
「寧ろ、ここからがだよ。君達が試されるのは。まさか彼女が君達の愛情に感激したとでも思って
いないだろうね?」
祿郎君も、冷静さが戻ってきた頭で感じていたんだろう。彼は黙り込んだ。
彼女が感じたのは、抱え込んでしまったという忸怩たる思いだろう。
「私はトラウマを刺激して、彼女が
あの子は恵まれた環境にいたのに、それを投げ捨てた。
その環境こそ、国民の上に成り立っていたのに気付かず、彼女は投げ出した。
その事に彼女は強引に気付かされた。剣の館の人達も、それに気付かせる為に彼女を送り出した
のだろう。彼女は見捨てたものの正体に気付かされた。そして、彼女は拒否が出来なくなった。
そして、拒否が出来なくなった彼女は、抱え込んだ者を大切な人を護ろうして、護れなかった。
それが、受け入れる事への恐怖も植え付けられてしまった。
だからこそ、彼女にこの夫婦を抱え込ませた。
決定的な破滅を少しでも先送りにする為に、彼女のトラウマを利用したのだ。
でも、希望はある筈だ。
「ここからは時間が掛かる事だ。君達が証明するんだ。抱え込んだとしても失われないものがある
事をね。私も出来る限り協力する積もりだよ」
それが私に生じた責任だ。
「はい。ありがとうございます」
彼は前の彼のようにいい顔に戻っていた。腹は括れたようだ。
「これからは、毎日キチンと帰って上げなさい」
彼は無言で頭を下げた。
6
なのは視点
あれから、お母さんは私をおしごとに連れて行ってくれるようになった。
おてつだいは、あんまりできないけど、ちょっとでもお皿をはこんだりとか、させてもらえる
ようになった。うれしい。あんまりうまくできないけど、おばあちゃんのいえにいるときより、
うれしい。
おばあちゃんがおかあさんにたのんでくれたみたい。
ありがとう。おばあちゃん。
それからすこしたって、病院から電話がきた。
おとうさんがめをさましたって!
よかった!ほんとうによかった!
オリ主の前世語り。
ダイジェストで端折ってお送りしました。
こんな事やってるの、あんまりいないだろうなと思います。
ノート見ながら、書いていて、ヤバいと思いました。
これ、3万字くらい行くぞ?と。
必死に縮めました。
三歩進んで二歩下がるの執筆状態。
我ながらヤバいな。
まだ、原作にはいきません。
名前の出なかった人達は、後に出てくる予定となっております。
出来事も語られていない点は、ありますので機会がありましたら
その時に。
次回も気長にお待ち頂けると幸いです。