魔法少女リリカルなのは 黒騎士の憂鬱   作:孤独ボッチ

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 随分と長い時間が掛かってしまいました。
 まさか、もっと時間が取れなくなるとは…。
 少しずつでも書いていますので、諦めては
 いません。

 では、お願いします。


第3話

              1

 

 恭也視点

「恭也!美由紀も久しぶり!」

 スクールに到着するなり、フィアッセは相変わらず独特のテンションで迎えてくれた。

 美由紀は流石に女同士だけあって、手を握った後にハグしている。

 流石に恋人が居て、男である俺にはアレは出来ん。

 女二人で再会を喜び合っているのはいいが、本題から聞いた方がいいだろう。

 ここにはイリアさんやアルバートさんだけじゃなく、もう一人知り合いがいるし、

関係者と思しき人物もいるからだ。

「フィアッセ。久しぶりだ。再会をもっと喜びたいところではあるが、話を聞かせて

貰えないか?」

 フィアッセも笑みを消して、静かに頷いた。

 遺産を譲るように脅迫を受けた事、それがエスカレートして遂に爆破事件まで起き

た事を聞いた。

 事前にある程度の事は聞いていたが、詳細を説明して貰った。

 脅迫文の文面からすると次は実力行使があるかもしれない。

 俺達にも協力出来る事はあるだろう。

「分かった。俺達も微力ながら協力させて貰う」

「勿論、私もだよ!」

 俺に続いて美由紀が答える。

 だが、俺達の知り合い二人は渋い顔だ。

 知り合いのうちの一人は、分かる。

 エリス・マクガーレンはプロのボディーガードだ。俺達のようなアマチュアに

しゃしゃり出て欲しくないだろう。

 小さい頃に一緒に遊んだ仲だが、それと仕事は別物だろう。

 だが、アルバートさんは何故だ?

 父さんも俺達の実力は説明した筈だが。やはり実績のない若造は不安なのか?

 それなら、時間を掛けて証明していくより他ない。

 一人だけ知らない人物が居るが、捜査官か何かか?

「ああ!紹介するね!こちらお父様の学生時代の御友人でMr.ギル・グレアム」

 紹介された人物は、笑顔で手を差し出す。

 俺は握手に応じる。

「ギル・グレアムだ。特殊な案件のコンサルタントをやっている者でね。今回、友人

の危機と聞いて駆け付けたんだ。宜しく頼むよ」

 グレアム氏はアルバートさんと歳が同じとは思えない程、若く見える。

 おそらくは、鍛えられた肉体の所為だろう。

 握手してみて分かったが、使う得物は棍か棒といったところだろう。

 身のこなしも格闘術の心得があるのは間違いない。

 それに纏う雰囲気は、まるで歴戦の軍人といった感じだ。

 訓練でそういう軍人とも出会うが、彼等と似た雰囲気をこの人物から感じる。

 あくまで似ているだけで、そのものではないが只者ではないな。

「こちらこそ、若輩者ですが、全力を尽くします」

 俺がそう言った瞬間に、こちらを見透かすようにジッと俺の眼を見た。

 それもすぐに消えて、笑みが戻る。

「ふむ。力が入り過ぎている訳でもなく、事態を理解していないが故の楽観もない。

 アル。そう心配せずとも大丈夫だろう」

 アルバートさんは、益々渋い顔をした。

「いや。シロウの子供達を危険に巻き込むのが問題なんだよ。ギル」

 アルバートさんの言葉で納得した。

 父さんの怪我の事を、今もアルバートさんは気にしているのか。

「父の怪我は仕事での事です。お気になさらなないで下さい。フィアッセは護り

切って見せましょう」

 俺は自分達の意思をハッキリと伝えた。

 アルバートさんは、それでも顔が曇っていた。

 御自分も怪我で杖なしでは歩けなくなったのに、友人とはいえボディーガードに

気を遣ってくれるとは、と苦笑いする。それがアルバートさんなんだが。

 美由紀の方は話を俺に任せ、荷解きを行っている。

 美由紀が俺の刀を渡してくるのを、礼を言って受け取っていると、今度はエリス

の顔が険しくなる。

「Mr.グレアム。これのどこが問題がないと?」

 エリスが鋭い声で言う。

 言われたグレアムさんは、平然としていた。

「うん?彼等の剣の事かね?」

「そうです!今時、刀だなんて!」

「逆に訊くが、何が問題なのだね?」

「なっ!?」

 確かに今の武器の主役は銃だ。刀は時代遅れと言われても仕様がないとも思う。

 だが、アッサリと何が問題だと言われたのも初めてだ。

 大抵の人間は、俺達の武器を見て最初は侮るもので、そういった対応に慣れて

いた。

「別に現代戦闘から言えば、刃物は銃に主役の座を譲っているが、役に立たない

訳ではないだろう?それどころか、剣の達人は恐るべき存在だよ。間合いに入ら

れたら手が付けられない。それにフィアッセ嬢を護るにも近接戦のエキスパート

は役に立つだろう。本来なら、護衛をやるなら危険な場所に行かせない事が重要

だが、フィアッセ嬢の場合、それは無理だろう。ならば、危険人物を近付かせ

ない事が重要になる。それでも掻い潜るなら、それは確実を期す為に相手は彼女

にギリギリまで近付く事になる。つまり彼等の間合いであり、彼等の独壇場という

訳だよ」

「っ!」

 エリスが言葉に詰まる。

 こうも理路整然と俺達が有効に使えると説明されては、彼女も何も言えなかった

のだろう。

「それに丁度良かった」

「丁度良かった?」

 アルバートさんが思わず訊き返す。

「私からも人を出そうと思っていたからね。入っておいで」

 グレアムさんが扉に向かって声を掛ける。

 すると、扉が勢いよく開いた。

 ボディーガード達が思わず懐に手を伸ばす。

「どうも~!」

 活発な感じの女性が、緊迫した空気を物ともせずに入って来る。

「紹介しよう。義理の娘でリーゼロッテ・グレアムだ」

「気楽にロッテって呼んでいいから!」

 呆気にとられる俺達を尻目に、フィアッセの手を握りブンブン振り回している。

 流石のフィアッセも押され気味だ。

「おいおい。義理の娘!?」

「ああ。結婚は出来なかったが娘は居るんだ。因みに双子だからもう一人いるぞ」

 友人であるアルバートさんも知らなかった事のようだ。

「おいおい!聞いてないぞ!」

「言う機会もなかったからな。取り敢えずはそういう事だ。この子もフィアッセ嬢

の護衛に就くからな。先に近接戦の得意な人間を就ける説明が出来てよかった。

 この子も腕は確かだ。安心してくれ。なんなら試して貰っても構わないぞ?」

 この言葉にエリスが前に出る。

「それでは試させて貰いましょうか」

 エリスは鋭い視線でグレアムさん達を射抜く。

「いいよ!」

 エリスとは真逆にロッテさんは気楽そうに笑っている。

「恭ちゃん…」

 美由紀が俺の耳元で囁く。

 分かっている。俺は黙って頷く。

「んじゃ、行くよ?」

 ロッテさんは言った瞬間に、スッとその場から消えた。

 正確には消えたと錯覚した。

 無拍子!

 ロッテさんはエリスが銃に手を伸ばしたその時には、彼女の首筋に手刀を突き

付けていた。

「はい。チェックメイト」

「なっ!?」

「君さ。銃に頼り過ぎだよ。近接戦も、もう少し鍛えないと痛い目見るよ?」

「くっ!」

 エリスは悔しそうに降参した。

 エリスが弱い訳じゃない。ロッテさんが強過ぎたんだ。

 アレだけ自然に動くとは。

 飄々としているが、間違いなく達人級の腕前だ。

「エリス君は、全体の指揮もあるだろう。美由紀君、だったかな?彼女とロッテで

フィアッセ嬢の護衛をメインにやって貰おう。女性同士の方が何かといいだろうし

な。エリス君も手が空き次第、フィアッセ嬢の護衛に回ると言う感じでいいだろう」

 最早、反論の声はなかった。

 もうグレアムさんが仕切るような形が出来上がっている。

 この人も食えないな。

 

 だが、この二人は何者だ?

 軍人に近いが違うように思う。

 強いていうなら香港警防の人間に近い。

 それに、イギリスで警察関係のコンサルタントなんて聞いた事がないが…。

 

 

              2

 

 グレアム視点

 

 あれからアルには散々薄情だなんだと言われたが、私としても流石に真実は言え

ない。彼女が猫の使い魔だなどとは。

 私にとっては娘だが、娘と地球で紹介する訳にはいかないから出来れば説明は

遠慮したいのが本音だった。だが、友人の娘の安全には代えられない。

 だからこそ義理の娘と言ったのだが…。

 これでも文句を言われるのも仕様がない。

 あれから今日到着した若者達と一緒にティオレの墓に行き、不義理を心の中で

詫びた。

 どうもエリス嬢と高町兄妹は、何かあるようで知り合いという割にピリピリして

いた。主にエリス嬢がだが。

 あれから若者同士で色々とあったようだが、エリス嬢もプロだ。

 すぐに切り替えたようで安心した。

 美由紀嬢は、まだしっくりときていないようだったが、仕事には支障はなさそうだ。

 そして、フィアッセ嬢が本格的にコンサートツアーに向けて行動を始める。

 といっても、色々と並行して活動するようだがね。

 

 護衛の鉄則である対象を危険な場所に行かせない、立たせないは前回説明した通り

無理なので、不審者をフィアッセ嬢に近付けないが重要になる。

 私もエリス嬢と共に行動する。

 フィアッセ嬢の護衛に関しては、ロッテに美由紀嬢がメインで行っている。

 本日は劇場の視察が予定されている。当然、フィアッセ嬢は延期はしない。

 マクガーレンセキュリティの実動員達は、もう先行して劇場内の危険の有無を確認

している最中だ。

 私とエリス嬢も当然、護衛達も今から行く劇場の構造は頭に叩き込んでいる。

 車を護衛達が先に降りて、周辺を警戒しつつフィアッセ嬢の移動動線を確保する。

 そして、狙撃対策の為にロッテと美由紀嬢がフィアッセ嬢の左右を固めて素早く

目的地の建物に入り、残りの面々も素早く予め決めてあった配置に就く。

 エリス嬢が車に合図を出すと、素早く車が走り去った。

 爆弾騒ぎがあった以上、車を止めたままにして置くのは危険だ。

「警備員は快く協力してくれたのかね?」

 私は、エリス嬢の歩調に合わせて早足で歩きながら訊く。

「劇場の支配人が話の分かる人でしたから、スムーズに済みました。警備室にもウチ

の人員が入っています」

「では、益々気を引き締めて行こう」

 爆弾対策はしている。不審者対策もしている。だが、それでも万全はない。

 身内や関係者がなんらかの事情や、欲によって内通者になってしまう事はあるから

だ。そうなれば、やった対策は意味を失うかもしれない。

 常にベストを尽くす事、それしかないのだ。

 エリス嬢は、私の言葉にやや不満気に頷いた。

 仕切られているようで気分が悪いだろうが、我慢して貰うしかない。

 エリス嬢の視線は、それでも前を行くフィアッセ嬢を追っている。

 といっても、視野を広く持ち、周りも警戒している様子だ。

 流石に若くして、その業界で名が売れてているというだけあるな。

 

「ありがとうございました」

 劇場の支配人との話は、スムーズに終わった。

 どうもこの視察はコンサートの方ではなく、卒業性のコンサートを開催する会場に

なる場所で、学園長であるフィアッセ嬢が自ら出向いたようだった。

 フィアッセ嬢が支配人と握手を交わす。

 そして、予定通りに出ようとした時だった。

「もしや、Miss.フィアッセ・クリステラでは?」

 エリス嬢が、フィアッセ嬢の盾となるような位置に素早くさりげなく移動した。

 フィアッセ嬢の左右を固めるロッテ、美由紀嬢もいつでも動けるように備えている。

 この二人は、声の人物の接近に気付いていた。

「これはMr.オースティン。いついらしたのです?」

 支配人が驚きの声を上げる。

「明日、劇団が使うでしょう?私が金を援助しているのですよ。それでリハーサルを

やるというので見学しようと思いましてね」

「ああ!あの劇団は、そう言えばそうでしたね!失礼いたしました」

「いやいや、いいんですよ。突然押し掛けたのは事実ですしね。そしたら、かの有名

な世界の歌姫の姿があるじゃないですか!思わず声を掛けてしまったのですよ」

 その男は、あまり印象に残らない容姿をした中年男で、一見無害そうな紳士だ。

 どうも来たのは偶然だと言っているが、どうにも臭う男だ。

 行動の端々に作為的なものを感じる。さりげなくやっているが、印象に残らない

ように心掛けているのが分かる。しかも相当慣れている。

 世界の歌姫の前に態々現れて置きながら、印象に残らないように注意するというの

は、どうにも解せない。こういった男は、犯罪者でいえば知能犯に多いタイプだ。

 勿論、違っている可能性もある。

 だが、次元犯罪者と長年対峙し続けた勘が警戒を促している。

 勘と言っても馬鹿にしたものではない。経験に裏付けされたものなのだから。

 この男から魔力の気配はない。

 こちらで犯罪を犯している現地犯罪者か、さもなければリンカーコアを封印して

隠しているのか、そこまでは判断出来ないが近寄らせていい相手でもなさそうだ。

「はじめまして、Mr.オースティン。フィアッセ・クリステラです」

 男が手を出して握手を求める。

 フィアッセ嬢は握手に応じようとしたが、私は止めた。

「Mr.グレアム?」

 フィアッセ嬢が驚いたように私を見上げるが、それに応えずに男に鋭い視線を

送る。

「済まないが、腕に何を仕込んでいるのか見せて貰えないかな」

「「「っ!?」」」

 男本人も驚いている。

 エリス嬢は既にいつでも銃を抜けるようにしている。

 男は慌てたように手を上げた。

 その拍子に腕から紙が飛び出す。

 私は慎重にそれを拾い上げると、紙を見た。

 私は表情を変えずに、エリス嬢に渡す。

 エリス嬢は紙に書かれた文に目を通すと、男を睨み付けた。

「え!?何!?」

 フィアッセ嬢が戸惑ったような声を上げた。

「行こう。フィアッセ。次の予定があるだろう?」

「う、うん」

 エリス嬢が、肩を怒らせてフィアッセ嬢を引き摺るように連れて行った。

 支配人は、突然の展開に付いて行けずにオロオロしている。

 男の方は、誤魔化し笑いを浮かべて支配人に帰る旨を伝えると、そそくさ

とその場を離れて行った。

 男の書いた文面は食事の誘い。

 だが…。

『アリア。この男をマークして置いてくれ』

『分かりました』

 下心があるというだけならいい。

 だが、アレは随分とわざとらしく感じた。

 まるでこれ以上のものがないと示すように。

 故に、私はアリアにこの男をマークして置くように命じた。

 私は逃げるように去って行く男の背をチラリと見て、フィアッセ嬢達の

後を追った。

 

「あの少し…」

 丁度みんなに追い付いた時、フィアッセ嬢が申し訳なさそうに口を開いた。

 成程。

 エリス嬢がロッテ達に目配せすると、二人は頷いた。

 

 お手洗いの方向に消えていく三人を見送ったその後、悲鳴が上がる。

 私はすぐに悲鳴の方へ向かおうとしたエリス嬢を押し止めた。

 銃の腕前はいいのだろうが、反射的に助けを求める声の方へ行ってしまうのは、

まだ若いな。好ましくはあるがね。

「君はフィアッセ嬢を」

「…分かりました」

 そして、私達は二手に別れて走り出した。

 

 

              3

 

 美由紀視点

 

 フィアッセがお手洗いに行く途中で、何か声が聞こえた気がして立ち止まる。

 フィアッセも聞こえたのか立ち止まった。

「ほら、早く行った方がいいよ?」

 ロッテさんが私達を急かすように言う。

 ロッテさんには聞こえなかったのかな?

「あの、何か聞こえませんでしたか?」

 フィアッセは気になるのか、ロッテさんに訊く。

「これだけボディガードがいるんだよ?無線に何も情報が上がらないんだから大丈夫

だよ」

 ロッテさんはなんでもないようにそう言った。

 まあ、確かにそうだけど…。

 ロッテさんは笑顔で私達の背をグイグイ押してくる。

「早く済ませて、合流すればいいって!漏れちゃうよ?」

「そんな事しません!」

 フィアッセは顔を真っ赤にして、小声で叫ぶという器用な事をやっていた。

 

 お手洗いの前まで来ると、ロッテさんと私は同時に足を止める。

「ロッテさん」

「うん。だね」

 お手洗いの中から複数の気配が感じられる。

 念入りに建物内はチェックしていた筈だ。

 複数の気配だけなら、誰か入っているんだろうで済む。

 でも、微かに殺気が漏れている。明らかに変だ。

「まあ、万全とはいかないもんだよ。美由紀ちゃん、フィアッセちゃんを頼むよ?」

 ロッテさんは、変わらぬ笑顔だが、笑顔の質が変わっている。

 獲物を狙う獣のような鋭い眼光になり、ギラギラした笑みだ。

 ロッテさんは気負った様子も見せずに、獰猛な笑みを浮かべてお手洗いの中に消えた。

「さあ!変態さん達!出ておいで?」

 中でロッテさんの声が響くと同時に、ドアが蹴破られるような音と共に複数の気配が

ロッテさんに殺到する。複数の奇声が上がる。

 そして、打撃音と人が崩れ落ちるような音が立て続けに聞こえたと思ったら、物音が

消えた。

「美由紀ちゃん!」

「はい!どうしました?」

「入口空けてくれる?」

 私は返事と共に、フィアッセと一緒に入り口から離れた。

 直後、人が次々と投げ出されて行く。

「っ!?」

 フィアッセが驚いて硬直する。

 何せ、人がゴミ袋みたいに投げ出されてるんだから、驚くよね。

 ロッテさんがお手洗いから出てくる。

「うん。フィアッセちゃん、いいよ。入っても」

「ああ…はい。ありがとうございます…」

 いつもは人を振り回す側のフィアッセが、今はどう言っていいか分からず戸惑って

いる。結構レアな光景かも。

 私はロッテさんが強いと知っているので、驚きはないけど。

「ロッテさん!美由紀さん!フィアッセさんは!?」

 男性のボディーガード・デニスさんが銃を握り締めて走って来る。

 彼はエリスさんの左腕なのだそうだ。

 因みに、右腕は年配の経験豊富そうなピトックさんなんだそうだ。

 なんにしても、彼が裏切る事はまずないようなので、取り敢えず警戒は低めでいい。

「ああ!見ての通り無事だよ」

 ロッテさんが逸早くデニスさんに答える。

「そうですか!よかった!不審な物音がして駆け付けたんですが…ってなんですか!?」

 デニスさんが床に転がっている人達を見て、ビックリする。

「ああ、暗殺者かな。薬で操られてる捨て駒だから尋問は無駄だと思うけど、警察に

引き渡してくれる?」

「は、はい!」

 デニスさんは、すぐに無線で応援を呼ぶ。

 そこにエリスさんが到着する。

「これは!」

「フィアッセちゃんは無事だから!大丈夫!中の安全も確認してあるし」

「そうか…」

 エリスさんはホッとした顔を一瞬していたが、すぐに複雑そうな顔になってしまった。

 ロッテさんが活躍した事に何か思うところがあるのかな?

 私達は(ロッテさんを含めて)あんまり歓迎されていないみたい。

 

 私達だって別に遊びでやってる訳じゃないんだけど…。

 私は、恭ちゃんみたいに物分かりよくなれないよ。 

 

 

              4

 

 恭也視点

 

 劇場内を見回っていく。

 要所の警戒はボディガード達が担当している。

 だから、俺は劇場内の巡回をランダムに動き担当する。

 別にエリスやグレアムさんに指示された訳じゃない。自分に出来る事を探したまでだ。

 何もないなら問題はない。

 そんな事を考えた直後、女性の悲鳴が聞こえた。

 やはり何もなしはないのか!

 俺は素早く悲鳴の方へ向かうと、そこにはショットガンを持ったパンクロッカーの

ような恰好をした男がいた。銃の先には女性がいる。

 男の様子は明らかにおかしい。

 まずは銃の無力化だ。

 俺は、御神の歩法である神速で踏み込みと同時に一気に間合いを詰め、刀を一閃した。

 男は腕を斬られ鮮血が舞うが、案の定男が銃を取り落とす様子はない。

 そもそも痛みを感じている様子がない。やはり麻薬の類を使っているな。

 俺は慌てる事なく、銃を抱え込み女性から銃口を逸らすと、刀の柄頭で肺と横隔膜に

衝撃が伝わるように打ち込んだ。空気を全て吐き出し、呻き声を上げて男が倒れる。

 ショットガンが床に滑り落ちる。

 倒れたからといって油断せずに、ワイヤーで拘束する。

 その瞬間、頭上で何か影が走った気がした。

 一瞬、そちらに注意を向けたが、影は文字通り影も形もない。

 それより、確認すべき事がある。

 女性の無事を確認すべく、顔を上げた瞬間、俺は驚愕する。

 女性が、いつの間に拾ったのか、こちらにショットガンを向けていたからだ。

「っ!」

 咄嗟に動こうととしたが、それより速く影が俺を追い越して行く。

 女性の手が天井に跳ね上げられる。銃弾が天井を穿つ。

 女性が反応するより速く、銃が魔法のように手から離れ、女性の身体が宙を舞う。

 驚異的な反応で叩き付けられる前に受け身を取ったが、アッと言う間に抑え込まれ

腕を極められて拘束された。

 それをやったのは、グレアムさんだった。

「大丈夫かね?」

 グレアムさんは息も乱さず平然と俺に尋ねた。

「ええ。助かりました」

 俺は素直に礼を言った。

 グレアムさんは微笑むと、未だ拘束を解こうと暴れる女性の意識を刈り取る。

 後からこちらに来る足音が複数接近して来る。

 いずれもボディガード達だ。

 それでも女性の一件があるので警戒し、いつでも動けるように備える。

 結果からすれば、杞憂だったようだ。

 二人はボディガード達によって連行され、警察に引き渡された。

 俺は、それを黙って見送った。

「あの女性、薬を使われている様子もありませんでした。油断しました。これではエリス

の言う事に文句が言えませんね…」

 思わず漏れてしまった弱音に、グレアムさんは俺の肩を強めに掴む。

「気にするなとは言わない。だが、これからどうするかを考えなさい。君はまだ若いのだ。

 取り返しのつく失敗なら、次に活かせばいいのだ」

「そうですね。みっともない姿を見せてしまいました」

「それに君の眼は正しい」

「え?」

「あの時点では、彼女は被害者だったのだ。いや、今も被害者なのだよ」

「どういう事です?」

「人を操る手段は薬だけではない、という事だよ。どういう事かは私も分からん。だが、

私は君より離れた位置で見ていたから、分かる。彼女は本当に怯えていたし、君が来て

ホッとしていたよ。だが、突然変わった。原因は分からんがね」

 グレアムさんが俺ではなく、別の所を見ながら話している。

 俺もそちらを見ようとしたが、すぐにグレアムさんは俺の方へ向き直ってしまった。

 一瞬、窓に猫がいたように思ったが、まさかそれが気になった訳じゃないだろうしな。

 俺は思考を切り替えた。現実の問題へと。

「それでは、いつ誰がどういう行動に出るか分からないと?」

「そういう事だね」

 俺の冷汗塗れの顔を平然と見返し、グレアムさんは淡々とそう言った。

 この人は不安にならないのか?

 修羅場の違いの一言では、納得する事は出来なかった。

 俺はそれをグレアムさんに問い質す気だった。

 だが、それは結果的に先送りする羽目になった。

 

 何しろ、エントランスで爆発が起きたのだから。

 

 

              5

 

 アリア視点

 

 お父様の命で、あのオースティンとかいう男を追跡する。

 建物の屋上を猫の形態のまま追う。

 お父様の考えは当たっていると思う。

 なんというか存在感が無さ過ぎる。人混みに紛れてアッサリと見失いそうだ。

 金持ちの癖に歩きなんてね。

 魔法の気配はないけど、どこか不自然な印象を感じる。

 人混みにいくら紛れようと、私を振り切る事など本来出来る事じゃない。

 でも、時々見失いそうになる。

 本当に見失う事などないけれど。

 その違和感の正体も時機に分かるだろう。

 こちらも気取られないように慎重に距離を置いて追跡している。

 

 気が済んだのか、オースティンが人気のない方に歩き出した。

 何度も周囲の気配を探っているのが分かる。

 やっぱりね。堅気じゃなかったわね。

 いくらフィジカルではロッテに劣るとはいえ、私もそこら辺の奴に負けるような実力

じゃない。後ろをキョロキョロしていなくても、それくらいは分かるのだ。

 それに、今までは人混みの中でノイズがあって分からなかったが、コイツはリンカー

コアを持っている。凄く微力だけど。それがサイキックという形で現れているんだろう。

 本来なら専用の機器がないと分からないレベルだが、邪魔なノイズが無ければ、魔法

を最も得意とする私なら気付ける。

 こっちではごく稀にいる存在だ。

 魔法を使う事は出来ないが、一種のみサイキックという形で力を発揮するという人間が。

 でも、これならフィアッセ嬢の方がリンカーコアが大きいわね。

 ドングリの背比べみたいなものだけど。

 気を抜いていた積もりはない。

 だが、突然背筋に悪寒を感じる。

 本能に従い、その場から跳び退く。

 今まで私がいた場所に高速の魔力弾が通過する。

 魔導師!ハイディングした上で直前まで私に攻撃を悟らせない技術。並じゃないわね。

 遮蔽物を取ったが、安心は出来ない。

 これ程の腕を持っているなら、ヴァリアブルバレットくらいは熟すだろうし、物質透過

で私だけを狙い撃ち出来るかもしれない。

 相手の攻撃を警戒しつつ、オースティンの位置を探る。

 相手の位置に私は下品にも舌打ちしそうになった。

 どうも人気のない場所から大通りに出て、タクシーに飛び乗ったようだ。

 狙撃手を探ろうとしたまさにその時、青白い稲妻が走り爆発音が響く。

 魔法だ。だか、明らかに狙撃手とは違う。

 何!?私は慌てて爆発地点にサーチャーを飛ばす。

 そして、見た。タクシーが黒焦げになっているのを。

 おそらくはそうだろうと予想はしていたが、やはりタクシー内では男が黒焦げになっていた。

 だが、運転手は無傷で放り出されていた。私に捕捉される前に口封じした?

 咄嗟にそんな馬鹿な考えが浮かんでしまう程、思い切りがいい行動だった。

 狙撃手は逃亡を手助けしていた。そして、魔法は別となれば答えは一つしかない。

 答えはアッサリと現れた。

 私の傍に人が降り立った。

 人の姿だが、私には分かる。同じ使い魔だ。人化しているだけだ。

「管理局の使い魔ですか?」

「ええ…」

 使い魔の質問に私は誤魔化しは諦めて正直に告げた。

 使い魔の口調が断定だったからだ。ハッタリではないくらいは分かってしまう。

「ロストギアの回収がしたいなら、あっちをなんとかする事です。随分と用心深いようで、

狙撃手の方は仕留められませんでしたよ」

「……」

 オースティンを殺したのは、この使い魔。

 この使い魔は、おそらくはフィアッセ嬢達のいうリニスだろう。

 何故姿を現した?

「貴女も邪魔はしない事です。死にたくなければね」

 その場を離れようとする使い魔に私は一歩踏み出すが、そのまま動けなくなってしまう。

 

 彼女はとても悲し気な顔をしていたから。

 

 

              6

 

 リニス視点

 

 遂に人殺しにまで手を染めるまで墜ちた。

 最早、プレシアの目を覚まさせる事も、フェイトやアルフに会う事も叶わない。

 私に意思決定がない以上、殺されるのを待つのみだ。

 幸か不幸か、管理局であろう勢力が関わっている。

 捕縛ではなく始末する事を選ぶだろう。

 私に出来る事は、出来るだけ早く始末を付けてくれる事を祈るくらいだろう。

 私の脳裏にあの日の記憶が蘇る。

 主人であったプレシアの秘密を知ったあの日から、約束の日は遂にやって来た。

 フェイトは見事な空戦技術を遺憾なく発揮し、自分の作成したターゲットを全て

ノーミスで撃ち抜いた。アルフもフェイトをよく補佐した。

 この年では有り得ない成果であり、大人と比べても遜色ない実力だ。

 もう私に教えられる事はない。

 本来ならば誇らしい気持ちでいたかったが、これからのあの子の行く末を思えば、

素直に喜ぶ事など出来ない。

 だが、私はプレシアの使い魔だ。

 余計な事は口に出来ない。

 私は歯を食いしばって、全てを話してしまいそうになる自分を抑えた。

 教えたところで傷付けるだけなのに。

「どう?リニス!」

 フェイトは笑顔で地上に降り立ち、私に駆け寄りそう言った。

 私は笑顔を無理やり作る。

「完璧です。私に教えられる事はもう何もありませんね」

「そんな事ないよ!リニスの教え方が上手かったからだよ!これで母さんも喜んでくれる

かな!?」

「ええ…きっと」

 私は彼女の秘密を知った。

 だからこそ言える。プレシアが喜ぶとすれば、使える手駒になった事のみだ。

 そして、私はその片棒を担いだのだ。

 許して欲しいとは言いませんよ、フェイト。

 罪の告白さえ出来ずに、この世を去る私を恨んでくれて構いません。

 せめて、最後には貴女が救われる事を祈っています。

 

 契約破棄の条件は術式に組み込まれている。

 私は自分の仕事が終わったと感じた瞬間、強烈な脱力感に見舞われた。

 フェイトやアルフの前から怪しまれる事なく、立ち去れた事だけが幸いだ。

 遂に人化を維持する事も出来なくなり、通路に横たわる事になった。

 何一つ救えずに、主人の目を覚まさせる事も叶わず、死ぬ。いや消滅するだろうか。

 私もまた造られた存在なのだから。

 終わりを諦観と共に受け入れ、目を閉じた時、その声は聞こえた。

『お前を救ってやろうか?』

 頭蓋骨に響く大きく耳障りな声が聞こえた。

 私に返事をする余裕はない。

『返事は出来ぬか。ならば、頷け。対価はお前の労働だ。悪くはあるまい』

 私は頷かない。

『私が力を取り戻せば、お前の元主もあの小娘も救える。私は世界そのものとなる事が

出来るのだから』

 これで声の正体も察せられた。

 私がプレシアに言われて集めたロストロギアの一つに、心当たりのある物があった。

「神に…でもなれる積もりですか…」

 馬鹿馬鹿しい。ロストギアといえども万能ではない。

 プレシアの倉庫がそれを物語っている。

 あそこには、プレシアの目的に使えなかった物が無造作に放り込んである。

 無視してもいいのだが、私は掠れた声で辛うじてそう言ってやった。

「貴様が手を貸すならな」

 話にならない。

 私は、そう思った。

『残念だ。貴様になら理解してもらえると思ったのだがな。この怒りが、この憎しみが。

 俺を手に入れながら、あの女は私をゴミ扱いしやがった。お前もゴミのように捨てら

れた。怒れ、憎め、復讐しろ。なに、仲良くやれるさ、きっとな。仕返しや復讐とは、

甘美なものだぞ?私がそれを貴様に教えてやろう』

「っ!?」

 突然何かに巻き付かれ、取り込まれた。

『心配するな。約束は護ってやるさ……可能な限りな』

 

 気付けば私は命令に縛られた奴隷に成り下がっていた。

 願わくば、速やかに止めて貰う事を願う。

 それくらいしか、私には出来ないのだから。

 

 

              7

 

 グレアム視点

 

 私達は爆発音がした方へ走る。

 目的地はすぐに判明した。

 何しろ、劇場のエントランスが見事に吹き飛んでいたのだから。

「これは…」

 あの残骸は、おそらく車のフレームの残骸だろう。

「車に爆弾を積んで、突っ込ませたようだね。怪我人の確認を急ごう」

「ええ、そうですね」

 恭也君の行動は素早かった。

 先程のミス(というには酷だが)は、既に切り替えが出来ているようだ。

 将来有望な若者だな。

 この世界に魔法はないのだから過度に気にする必要はない。

 あれはアリアの報告によれば、ロストロギアを狙う者の仕業のようである。

 あの使い魔の言葉を信じるならだが、おそらくは嘘ではないだろう。

 狙撃に精神魔法も使う術者とは。

 おそらくはオースティンを使って、劇場内の人間に術式を紙か何かの媒体で仕込んだ

のだろう。全く疑われない手紙を出して、不審に思われないようにする手際は手慣れた

ものだ。術式さえ仕込めば、それを頼りに遠隔でも魔法の効果を及ぼす事が可能になる。

 それに即座に気付き追跡した上で、オースティンを始末した使い魔も相当だが。

 しかも運転手を巻き込まず、オースティンのみを殺している。

 随分と優秀な魔法の使い手だ。どこの魔導師の使い魔なのか、いやそれともだったのか。

 どうも本人の意思で使われている訳ではないようだし、早くこっちもなんとかしたい

ものだ。

 第二の車が突っ込んでこないか警戒しつつ調べる。

 結果は、怪我人はいるようだが全員掠り傷程度で済んでいた。

 理由は簡単だ。不審車両が向かって来るのを察知した護衛達が自分達を含めて、早々に

退避したからだ。

「運転手はどうしたのかね?」

 私は現場に居た護衛の一人に事情を訊いていた。

「済みません。衝突の寸前に車から脱出したようで…今、追跡しているのですが…」

「見失ったかね?」

「…はい、おそらくは…」

「では、もう捕まらないだろう。人員を戻した方がいい」

 これはもう決まりと言っていい。

 どこかから内部情報が漏れている。

 でなければ、車に爆弾を搭載して突っ込ませるなどという手段は取れない。

 ロストロギアも厄介だが、こっちも厄介だ。

「あの…子供がこんなものを持ってきましたが…」

 別の護衛が私達に手紙を差し出す。

 便箋の刻印を見て恭也君の顔が険しいものに変わる。

 不用意に手を伸ばす彼の手を掴んで止める。

「安全確認は済んでいるのかね?」

「い、いえ。すいません。まだです」

「っ!!」

 恭也君の顔が苦いものに変わる。

「では、安全の確認をしてから内容を教えてくれるかな?あと、エリス嬢にも報告して

くれないかな」

「はい!」

 手紙を持って来た護衛は、慌てて走って行った。

 では、訊いて置くか。

「で?あの手紙に心当たりが?」

 若いが実力のある恭也君が冷静さを欠く程だから、よく知る相手という事だろう。

 彼は、どうするか悩む様子を見せたが、教えてくれた。

「便箋の刻印を見たでしょう?黄色いクローバーに鎌の意匠。直接は知りません。しかし、

俺に、いや、俺達家族にとって因縁のある相手です」

 彼は事情をポツポツと話してくれた。

 彼の剣の師であり、父親がアルの護衛をしている時に、襲撃した相手が使っていた刻印

なのだそうだ。そして、爆弾を届ける役割を担ったのは、幼い頃のエリス嬢だったと。

 成程、アルが渋る訳だな。事情を知れば納得だ。

 エリス嬢が高町兄妹と微妙な関係なのも納得だ。

 私は、それを聞いている最中もジッと彼を観察していた。

 万が一、恨みに呑まれているならば危険だからな。

 だが、恭也君は憎悪ではなく、闘志を燃やす。

 かなりの因縁のようだが、憎悪でないのは救いだな。

 仮に彼が復讐を考えているようなら、彼を外さなければならないからな。

 私の言えた義理ではないがね。

 

 若く未熟な彼が復讐に囚われていないのに、自分がそれに憑りつかれている事に苦い

ものが口の中に広がった。

 

 

              8

 

 ???視点

 

 いやはや恐ろしい。

 管理局が管理外世界だというのに出張っているとはね。

 どこかで見た顔だと思えば、有名人じゃないか。

 最初は仕込みの一つを使って、危険な剣士の一人も潰して置こうとしたが、失敗して

しまった。

 流石は有名人といったところか、魔法を大して使っていないにも拘らず、大した

腕前だ。

 それを確認出来ただけでも、よしとしないといけないだろうな。

 いや、脅威はそれだけじゃない。

 ロストロギアの使い魔も恐ろしい。

 この世界では使える男だったのだが、なんの躊躇もなくアッサリと私の部下を殺した

な。表の顔としても、小細工をするにしても便利だったんだが、代わりを探す必要が

あるな。極小とはいえ、リンカーコアを持ち、サイキックという形で認識を曖昧に

する奴で、尚且つ小細工も得意な奴の代わりを探すのは大変だがね。

 それでも奴と一緒に殺されるよりマシだろう。

 一歩間違えば、私も危うく捕捉されるところだった。

 あの派手な殺し方も警告か何かかな?

 だとすれば、私も危うく黒焦げになるところだった訳だ。

 そんな事を考えつつも、自分が雇った男の電話を聞いていた。

『挨拶は済ませた。次に決行するぞ』

「ああ、頼むよ。報酬の念押しならいらないよ。仕事さえキチンとして貰えればね」

『結構だ。実に結構だ。それにしてもアンタは顔が広いな。あのスライサーまで雇う

とは』

 私も現場で観察したが、あの剣士は危険だ。油断すると火傷するだろう。

 魔法を使えないからと甘く見たよ。

 始末出来なかったのだから、こちらでケアしないといけない。

 だからこそ、今回声を掛けた。

 向こうも腕のいい剣士と殺し合いがしたいと言っていたから、二つ返事でOKして

くれた。

『気難しい男で使い辛いらしいじゃないか?』

 面白がるように男は言う。

 お前も十分に使い辛い男だがな。

 まあ、裏社会の人間で腕に自信のある奴など、みんなそうだ。

「別に協力し合う必要はない。君と彼、それぞれ自分の仕事、目的を達成すればいいさ」

『そうさせて貰おう』

 そう言って、彼ことクレイジーボマーは電話を切った。

 

 扉が静かに無音で開く。

 そちらに目を遣れば、白尽くめの男が静かに私の前に立っていた。

 背には白い布でグルグル巻きになった巨大なものを背負っている。

「待っていたよ。スライサー。必要な書類は揃っている」

 私は驚きもせずに、書類を机に滑らせる。

 彼は、自分の目の前にまで滑って止まった封筒を黙って受け取った。

 そのまま去って行くと思った彼だが、そのままの位置で動かない。

「どうしたのかね?」

 私はゆったりと彼に訊く。

「クレイジーボマー、ザ・ファン。奴を雇ったのか?」

 表情に変化はないが、若干声に不満が混じっている。

 盗み聞きしていた事については何も言わない。

 私は彼の懸念を理解した。

「なに。彼に君の邪魔はさせないさ。それ以前にしないだろうね」

「アンタがそう言うなら、そうなんだろうな。犯罪コンサルタント」

 私はニヤリと笑った。

 別に私がそう名乗った訳ではないが、いつの頃からか、そう呼ばれるようになった。

 確かに私はコーディネートする事が多いからな。

 互いの目的を達成するのに必要な事をやっているうちに付いた名だ。

 まあ、こんな二つ名で信用が担保出来るなら安いものだ。

 

 さて、私も彼等を使ってロストロギアを頂くとするか。

 かのロストロギアには意思があり、霊脈を使ってこちらを探っている事は分かった。

 種が分かれば、やりようはある。

 私は、世界を手に入れる術式を組み込んだデバイスを握り締めた。

 

 だが、この時の私はとんでもない化物が参戦し、何もかも引っ繰り返す事になると

は夢にも思わなかったのだ。

 

 

              9

 

 え~と、随分と久しぶりな気がしますが、転生二度目の綾森 美海です。

 もうすぐコンサートの日がやって来る。

 それも今生の両親と一緒に聴きに行く。 

 自分が思いの外、楽しみにしていた事が驚きだ。

 愛情とは重要なものであると、何度も自覚させられる。

 あれ程、死を求めていたのに現金なもので、今は両親と一緒に穏やかに暮らせる日々

を尊いと思っているのだから。

 今回のコンサートが、いい思い出になればいいと思う。

 いくらなんでも次の人生はないだろうし、自分の地獄行きは決まりだろう。

 そんな私でも、この人達の為に生きてもいいと思ってしまう。

 身勝手で最低だけど、今生の両親の望む限りは多少は頑張ろうと思う。

 ベルカ時代に大切だった人達には会えないだろうけど、私が地獄に送った連中には会う

だろう。その時は、自慢の一つもしてやろう。

 

 今からどんな歌声なのか楽しみだ。

 ベルカ時代は、音楽を楽しむなんて暇なかったからさ。

 

 

              10

 

 士郎視点

 

 恭也から国際電話があった。

 その内容は驚くべきものだった。

 私とアルバートさんの因縁の相手が、フィアッセを狙っているというのだ。

『裏で何かが起こっているのは、間違いないと思う。だけど、俺達は引かないよ』

 恭也の声は決然としていて迷いがない。

 憎悪や敵討ちなど考えているようなら、無理矢理手を引かせる積もりだったが、どう

やら翻意は難しいようだ。

「恭也。分かっているだろうが…」

『分かってるよ。フィアッセの身の安全が第一だ』

「それでいい」

 もう既に分かっていると承知で私は言った。

 こういう事はキチンと口に出して言わないといけない。

 ボディーガードは依頼主の身を護るのが仕事だ。

 失敗して引退を余儀なくされた私のセリフではないが。

『コンサートなんだけど…』

 恭也が声を濁す。

「勿論、聴きに行く。お前達が居るんだ。大丈夫だろう。それに自分達だけ安全圏に

いるというのも、な。私は見届ける事にするよ。なのはや桃子の事なら心配ない。

 引退したとはいえ、家族くらいは護ってやるさ。私はお前の師匠だぞ?」

 桃子やなのははどうするか考えたが、桃子は兎も角、なのははフィアッセの歌を

知らない。家族同然の間柄なのに、一人知らないというのも、どうかと思うしな。

『気を付けてくれよ?相手は爆弾を使うし、今回も子供を使っているから』

「ああ、分かった」

 そして、恭也は電話を切った。

 

 穏やかに、フィアッセをなのはに紹介したかったが、少し派手になりそうだ。

 ただ家族同然の人を紹介するだけなのに、何故こんな困難が付いてくるのか。

 私は一人、溜息を吐いた。

 

 

 

 




 主人公、少しだけ出しました。
 次回にはいよいよ日本へと舞台が移ります。
 彼女が大いに活躍する!筈です。


 
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