魔法少女リリカルなのは 黒騎士の憂鬱   作:孤独ボッチ

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 かなりの時間が掛かりましたが、毎度言っていますが折れていません。
 それではお願いいたします。


 


第8話

              1

 

 やっぱり魔法少女になったか…。

 甲冑…まあいいか、同じだし。姿のなのはちゃんを見て眉間に皺が寄る。そし

て、元凶たるユーノを睨み付けると、フェレットが小さく悲鳴を上げる。ついで

になのはちゃんも悲鳴を上げていたが。

「これは一体どういう事?」

 私は冷ややかにユーノを問い質した。事情は概ね理解している。私のミスも影

響している事も承知しているが、言わずにはいられない。

「一般人の、しかも子供に魔法を与えるなんて」

「すいません…」

 流石に自分の仕出かした事に自覚はあるようで、ユーノは素直に謝罪の言葉を

口にした。なのはちゃんは、不味い流れを感じたのか庇うように慌てて声を上げ

る。

「責めないであげて下さい!私が…」

「そうだね。私が貴女の存在にもっと早く気付いて結界内から放り出していれば

良かった。私にも責任はある」

「あ、あの…そうじゃなくて…」

 なのはちゃんの声を遮り、私は言ってやった。

「こうなったら仕様がないか。魔力を封印して、今の事を忘れて貰う」

「ええっ!?」

「ちょっと待って下さい!」

 私の決定に二人がそれぞれ声を上げる。

「異論があるの?貴女、そんな力持ってどうするの?日常的に使う積もり?」

 私は気を籠めて言葉を発する。それに中てられてなのはちゃんの抗議が止ま

る。軽い気持ちで持つべき力じゃないと私は思っている。彼女の力は。

「…そんな事する積もりはありません!ただ、放って置けないんです!」

 私の気に中れば、大抵の人間が反駁出来なくなる。それなのに、彼女は言い返

した。流石はこの世界の主人公といったところか。

「ユーノの事?なら、私がどうにかするよ。仕事でもあるし」

 会ったばかりの彼女にユーノの手助けをする義理などない。

「それもあるけど…あんな、危ないものがいるって知ってて何もしないなんて出

来ません」

 出来ないのは覚えているからでしょうが。だから忘れさせるって言ってるの

に。私の表情から納得していないと察したのか、なのはちゃんの表情が曇る。

「……正直に言います。私、誰かを助けられる自分になれて嬉しかったんです。

前の私じゃ、誰かを護る事も助けて上げる事も出来なかったから…。誰かに手を

差し伸べて上げられる人になりたいんです!」

 私は溜息を吐いた。今だから分かる。それは順序が違うのだ。手を差し伸べる

のに力はそれ程重要ではない。まずは強い心が必要なのだ。

「そういう感情に覚えがないとは言わない。でも、それは魔法がなくても出来る

事だ。寧ろ、芯の強さの問題。優しさを間違えない事が重要なんだよ」

 この子は誰かが傷付くところを見たくないんだろう。魔法に拘ってしまったし

まっているのは、ユーノが傷付くところを夢を通してみてしまったから。街が破

壊される可能性を体感してしまったからだ。要するに私やユーノのミスって事

だ。

 こんな事がなく魔法の力を得たのなら、彼女も封印に同意してくれただろう。

今なら、自分に何かが出来る。そう感じさせてしまっては説得は難しい。

「マスター。記憶を消すのはいくらなんでも乱暴ではありませんか?」

 強引に記憶を消す事を考慮しだした事を察したのか、リニスが口を挿む。

「じゃあ、貴女はこの子に戦闘させろと?」

「そうは言いませんが…」

 懇願する視線をなのはちゃんから感じて、私は溜息を吐いた。確かに許可なく

他人の記憶を一部抹消するのは乱暴ではある。もしかしたら、また日和見すれば

ミスを招くかもしれないが、リニスからも猶予を与えるべきとでも言いたげな視

線を受けて保留する事にした。

「分かった。取り敢えず、判断は保留する。けど、これだけは覚えておいて。力

は人を護る為に必要になるけど、それ以上に厄災を招くんだよ」

「厄災…」

「悪い事が起きるんだよ」

 なのはちゃんは少し理解が追い付かないといった感じで悩んでいた。

「本当に君に必要な力なのか、それを振るう事で失われるものについて、考えて

返事を今度聞かせて貰う。悪いけど、納得いかない場合は記憶と魔力は封印す

る」

「…分かりました。考えます」

 私がこれ以上譲歩しない事を察したのか、なのはちゃんはしょんぼりと返事し

た。

「あと、これが重要。あれは感染型魔力の特性を得ているものがあるみたいだか

ら、見付けても決して触れない、戦わない事。身体をいいように扱われたくなけ

ればね」

 ユーノがそれを聞いてブルリと震える。それはそうだろう。なのはちゃんの馬

鹿魔力が破壊に転じれば、被害は災害レベルに広がるからね。

「あと、ユーノ。貴方が責任をもって監督する事。私も出来るだけのフォローは

する。デバイスで通信すれば連絡が付くようにして置くから」

「は、はい!」

 ユーノは素直にそれは引き受けた。それと、なのはちゃん達にあの状況の危険

性を伝えて、注意を促す事も忘れずに行った。

 

 私はそれだけ言うと結界を解いて、リニスを連れて姿を消した。 

 

 

 

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 すぐに離れたのは、感染型魔力対策をする為だ。全てのジュエルシードが感染

しているかは不明だが、対策をしないなどという選択肢はない。

 感染型魔力の強味は、対象に魔力を潜り込ませればウイルスのように増殖し対

象を意のままに操る事が出来る点だ。感知も難しく、精密に調べなければ本来で

あれば、いいようにやられてしまう。だが、タネが分かっていれば、その魔力パ

ターンから感染を阻害する魔法式の構築が可能なのだ。

 なのはちゃんの選択がどういうものであれ、感染型魔力の対策は彼女に施して

おかなければならない。

「どういう決断をするんでしょうか?」

 リニスが呟くように言った。

「それは彼女にしか分からない。それにリニスには彼女に気を配る余裕などない

でしょうが」

 私の容赦のないセリフに、リニスが黙り込む。

 それになのはちゃんの答えは、危険が迫っている時にどうにかする力を得たか

ら手放したくないというものだった。要約するとそういう事だろう。それではダ

メなのだ。

『左様。未熟者ならば、尚の事あちこち手を出さん事だ。困った事になるぞ?誰

かのようにな』

 バルムンクが余計な事を喋った。余計なお世話だ、この野郎。一番の原因がほ

ざくな。腹が立ったので無視してやる。

 

 感染型魔力に未知の戦力。一筋縄じゃいかない。

 

 

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 なのは視点

 

 あの黒い服?の女の人が去って行くのを見送って、私達も帰る事にした。

「ごめん。なんか折角協力して貰ったのに…」

 フェレット君?が申し訳なさそうに私に言った。

「そんな事ないよ。あの人の言っている事も、なんとなく分かるから…」

 あんなに強い人がいるなら、私は要らないのかもしれない。それでも素直に引

き下がれなかった。この魔法という力があるから強くなれる訳じゃない。なんの

武術もやってないけど、お母さんが強い人であるみたいに。

「ああ!そう言えば、自己紹介してなかったよね?僕はユーノ・スクライア。考

古学が専門だけど、魔法も結構使えるから!防御とか!」

「あのバリアみたいなやつだよね!凄いよ!」

「え、そ、そうかな…」

 ユーノ君が照れたみたいに頭を掻いた。フェレットの姿でやるとなんか違和感

が…。

「私は高町なのは!小学三年生!ウチは喫茶店やってます!」

「喫茶店かぁ。今の僕じゃ、ちょっと入れないかな…」

「ああ!大丈夫だよ!家は別だから!ちょっと内緒にしないといけないかもだけ

ど!」

「それ、大丈夫なの?」

 見付からなければ…大丈夫、だよね?私達はお互いに不安を誤魔化しながら、

私の家に向かって歩いた。ユーノ君は私の肩に乗ってたけど。

 

 家に着いて、コッソリと引き戸を開けて中を覗いても家族が待ち構えている様

子はないみたい。私はユーノ君に唇に指を当てて静かにするようにジェスチャー

すると、ユーノ君は何度も頷く。緊張してるみたい。私もドキドキする。許可な

しで勝手に飛び出したからなぁ。

 コッソリと抜き足差し足で中に滑り込む。玄関の戸に触れる直前に。

「こんな時間に出歩くのは感心しないぞ」

 突然、後からお兄ちゃんの声がしてビックリして飛び上がっちゃった。それで

も、ユーノ君は背中に隠す事に成功している。咄嗟にしては上出来だよね。

「あれ?何?この子」

 後からやっぱり突然にお姉ちゃんの声がして、気が付けばユーノ君を取り上げ

られていた。

「ああ!駄目だよ!」

「もしかして、フェレットかな?うわ~!可愛い!」

 私は返して貰おうとするけど、お姉ちゃんは全く聞いていなかった。ユーノ君

はお姉ちゃんに奪われた時に変な声を上げてたけど、幸いお兄ちゃん達には聞か

れてなかったみたい。ユーノ君はぎこちない感じで普通の動物のフリをしている

けど、なんだか可哀想になってくる。

 

 お兄ちゃん達に連れて行かれて、お父さんとお母さんにも怒られた。言い訳の

しようもないよね。私はユーノ君が偶然知り合った女の人のペットで預かる事に

なったと一部本当の事を話した。みんな一応は納得してくれたからよかった。

 

 お姉ちゃんは早速ネットでフェレットの飼い方を検索していたけど、ユーノ君

の目が死んだ魚みたいになってたのは、気の所為じゃないと思うの。

 

 

 

              4

 

 感染型魔力を解析する手掛かりは既に入手してある。封印したジュエルシード

だ。既に手にしたジュエルシードに異常はなかった為解析し損ねたが、今回は感

染した現物がある。そこから慎重に解析作業を進める。

「やっぱりと言えばやっぱりか…」

 感染型魔力などというレアなものを持っている奴等、そうそういるものじゃな

い。全く、闇の書に引き続き因縁を引っ張り過ぎだ。

「どうかしたのですか?」

 解析結果を見て呟いた私に、リニスが首を傾げつつ訊いてくる。

「ああ。昔、何度殺しても飽き足らない奴が居てね。そいつと一致したんだ」

「ええっ!?」

 アイツがまだ性懲りもなく舞台に上がるというなら、やってやる。丁度、殺し

足りないと思っていたんだ。知らず知らずのうちに口元に笑みが浮かぶ。

「美海。また悪い顔をしてますよ?」

 放って置け。

「兎に角、ソイツが相手なら対抗術式は目を瞑っても出来上がる。手間が若干省

けると前向きに考えておこう」

(まあ、後ろ向きよりはマシでしょうからな)

 バルムンクが真面目ぶって言ったが、絶対に馬鹿にしているだろう。呼んだ事

に後悔している。

「兎に角、対抗術式を組み上げるよ」

 私はそれだけ言うと、外界からの声をシャットアウトした。集中力を極めれ

ば、これくらいは簡単に出来るからね。

 

 徹夜する事なく術式は完成した。

 

 

 

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 そして、次の日の夜。

 何故、夜になったかは簡単だ。私も学校だったからだ。サボると親が泣くから

だ。そういった訳で、なのはちゃんにデバイス(今はまだユーノのものだけど)

に対抗術式を組み込む予定だったが、予定が更に変更された。何、大した事じゃ

ないんだけど。

「キィシャァァァーーーーー!!」

 私の目の前に、地球上には存在しない巨大な怪鳥がいるってだけだから。

 

 なのはちゃんに会う積もりで連絡しようとしたが、丁度ジュエルシードの起動

を確認した為に予定を中止して向かうと、既に怪鳥が羽を広げて飛び立とうとし

ていた。私は即座に封鎖領域で余人を完全に排除する。この前の失敗を教訓に視

線を巡らせて人が居ないか念入りに確認する。お陰で向こうの迎撃態勢が整って

しまった。奇襲で一撃で済ませようと思っていたが、そうは都合よくいかない。

 私は舌打ちすると血液中から剣を取り出し、問答無用で剣を振り下ろした。鮮

血が飛び散るが、致命傷ではない。鳥の姿であるだけに空中でかなり自由に動け

るようだ。咄嗟に翼で態勢を変える事で、私の斬撃を避けたようだ。奇襲になら

なかった時点で予測出来た事だ。慌てる事なく着地する。感染型魔力の気配は若

干だがある。浸食のスピードが違うのは、受けた魔力量の違いだろう。

 

 そこで、怪鳥の威嚇に繋がる訳だ。

 

 怪鳥は怒りに満ちた眼で私を見ているが、私にしてみれば感染の危険もないデ

カいだけの鳥に威嚇されてもなんとも思わない。怪鳥はこっちが全くビビッてい

ない事が分かったのか、実力行使に出た。空中に飛び上がるとクルリと身体を横

に回転させると羽根が矢のように颶風を纏い雨のように地上に降り注ぐ。私は慌

てる事なく剣を軽く振ると、羽根は私に届きそうなものは全て斬り落とされた。

 周りに着弾したものは、威力故に爆発したかのような衝撃と土砂を撒き散らし

たが、私は鬱陶しいとばかりに空いた手で軽く土煙と土砂を払う仕草をした。そ

れだけで視界がクリアになる。怪鳥が驚いたように高度を取ろうとするが、足に

絡まった紅い糸・空斬糸がそれ以上の上昇を防ぐ。手で払った時に既に空斬糸を

飛ばしていたのである。私は不敵に笑うと、空いた手の指をクイッと動かした。

 すると、怪鳥の足が切断される。それと同時に、飛び上がった私は一瞬で怪鳥

の眼前にいた。

「願いを叶えたところ悪いね。私に見付かったのが不運だったと諦めてくれ」

 言い終えると同時に銀の剣閃が複数走る。それだけで鳥がアッサリと解体され

た。零れ落ちようとするジュエルシードを掴み、封印する。

 

 さてと、それではなのはちゃんのところへ行くかな。と思った瞬間。

 

「ジュエルシードが!?」

 リニスが声を上げるが、勿論私も理解している。ジュエルシードが複数同時に

起動した事に。

「くっそう!!」

 私はリニスと手分けして飛び上がる。

 

 それから公園で触手男を殴り倒し、大量の黒いスズメバチを駆除した。リニス

の方は、暴走する牛を仕留めた。なのはちゃんが動き出す前に。

 それもこれも…。

『ユーノ。その子動かしたら串に刺して丸焼きにするから』

『ひぃ!!』

 という念話での交渉の結果だったけど。

 

 そして、終わった頃には深夜になっていたが、なのはちゃん宅に押し入りデバ

イスに対抗術式を強引ブチ込み、ユーノに説明しておくよう釘を刺して帰宅し

た。因みに良い子はお寝んねしていたよ。流石に深夜まで起きていられないよう

だ。

 

 それにしても、今まで見付からなかった癖して、なんでいきなり忙しくなるん

だ。

 

 

 

              6

 

 ジュエルシードが一夜にして前回含めて7つゲットした。あんまりよく覚えて

いないが、これは海に落っこちてた分くらいは回収したんじゃないかな。後半楽

になったと前向きに考えよう。でないとやってられない。

 子供の身体は夜更かしに弱いようで、かなり朝がキツイ。結局はなのはちゃん

から結論を聞けていない。よくある時間切れでサッサと封印措置を目論んでいた

が、謎の修正力でなのはちゃんへ時間が与えられていると邪推してしまう。流石

にジュエルシードを短期間にここまでばら撒く理由はないだろうから、奴は関

わっていないだろうが。今日こそは何がなんでも答えを聞きに行くぞ。

 そんな事を考えて欠伸を噛み殺していると、カーストトップ集団が入場してき

た。なのはちゃんも欠伸している。ユーノの話だと、頑張って起きていたようだ

が寝落ちしたようだ。深夜といっても丑三つ時だったしな。始終眠そうにしてい

たなのはちゃんを見て、アリサちゃん達が心配していた。本人は大丈夫と言って

のほほんとしていたけど。

 

 授業が全て終了し、放課後。

 私としてはアリサちゃん達と別れた瞬間が狙い時である。今日で終わらせる。

 その決意を持って放課後は粛々と帰り支度を済ませる。が…。

 

 キィィイィーーーーーン。

 

 なんだ、このタイミングは。なのはちゃんもハッとしたように反応する。嫌な

予感がするな。そっと目の端でなのはちゃんを確認すると、アリサちゃん達に何

やら謝りながら駆け出して行ってしまった。ヤバい。決断が早過ぎだろう。対抗術式は組み込み済みだけど、私は答えが出るまで戦うなっていったよね?愚痴っ

ても仕様がない。

 

 私も行くか。

 

 

 

              7

 

 なのは視点

 

 ジュエルシードは意外に近くで発動したみたい。音の感覚でなんとなく分か

る。分かるようになっていた。下手をすれば学校の中かもしれない。戦うなって

言われてる。あの人が居れば私は要らないのかもしれない。でも、ここで知らな

い振りをして帰る事は出来なかった。

 

『考えて返事を今度聞かせて貰う。悪いけど、納得いかない場合は記憶と魔力は

封印する』

 

 あの人はそう言った。答えはまだ出てない。それでも、今困っている人が居る

なら、手を差し伸べる力があるなら、私は手を伸ばしたい!

『なのは!頑張ってくれるのは嬉しい!嬉しいけど、取り敢えず止まろうか!せ

めて僕が行くまで待って!お願いします!!』

 ユーノ君の必死過ぎる念話が聞こえてきたけど、お願いは聞けない。私の頭の

中でこの前の危険な怪物?がハッキリと思い出せるから。あれがこの近くで暴れ

たらアリサちゃんやすずかちゃん、学校のみんなが危ない!

『待てない!学校の近くみたいだし、待ってたらこの前みたいに暴れるかもしれ

ないんでしょ!?』

 ユーノ君が言葉に詰まるのが分かったけど、謝る余裕は私にはなかった。

『分かった…、でも、気を付けて。僕もすぐに向かうから!』

『ごめん。ありがとう!』

 私に取り敢えず預けられたレイジングハートを取り出す。今はネックレスみた

いに首から下げているから、すぐに取り出せるの。

「レイジングハート!力を貸してくれる?」

『貴女がそれを望むなら』

「お願い!」

 レイジングハートが答える代わりに力強く輝く。

『スタンドバイ レディ』

 丁度、人目に付かないところにきたところで光に包まれる。あの時と同じだ。

 聖祥の制服と似た服に変わり、手には杖になったレイジングハートが握られて

いた。それを確認すると飛び上がった。すぐに靴にピンク色翼が出てきて、私は

空の上にいた。何も言わなくても、ここまでフォローしてくれるレイジングハー

トは優秀なんだろう。そして、すぐに異変を発見する。やっぱり近かったんだ。

 なんか羽が生えた黒い犬が神社のある方の森から飛び出して、真っ直ぐにこっ

ちに飛んでくる。もう目が合ったし、気付いてるよね。

『パターン検知を実行します。感染型魔力を5%確認。対抗術式を起動します』

 ああ!ユーノ君が言ってたやつだ!乗っ取られないようにする為の魔法だって

言ってた。身体にピンク色の光が灯ると、すぐに消えていしまう。これでいいみ

たい。

「それじゃ、いくよ!」

『承知しました』 

 レイジングハートの形が変わり、前に使った大砲を撃つ形態になる。ピンク色

の光がレイジングハートに集まる。それを察したのか、急に黒い犬が物凄い速さ

で左右に忙しなく移動し始める。照準が定まらない!

『焦らないで下さい!当てれば勝てます。ギリギリまで狙って下さい!』

 レイジングハートの言葉に私は流れ出る汗も気にせずにジッと狙いを定める。

 黒い犬はドンドン接近してくる。実際は多分もっと速い。でも、集中する事で

周りがゆっくりと動いているように見える。いい感じ。

 

 今。

 

 照準が定まった瞬間にレイジングハートの引き金を引く。

『シーリング』

 大砲みたいな力の塊が柱みたいに飛んでいく。黒い犬はこっちから見ても

ギョッとしたみたいに目を見開いてる。

 

 当たる。私はそう確信した。

 

 でも、直撃寸前に黒い犬が()()()()()。文字通りの意味で、今度は

こっちが驚いた。散らばった黒い犬は、もう犬の形はしてなかった。気持ち悪い

蛇みたいなものに翅が付いたものが押し包むみたいに襲ってくる。私は慌ててレ

イジングハートを構え直して撃とうするけど、頭の中に響いた声で止まる。

『なのは!落ち着いて!きっとコアであるジュエルシードを封印しない限りそれ

は止まらない』

「ユ、ユーノ君の声が聞こえる!?空耳!?」

『いや、これは念話だよ。待ってて、今結界で隔離するから…』

 あれ?なんか中途半端に途切れたような?なんて思っている間にも蛇みたいな

のが次々襲い掛かってくる。避けきれなく何度かレイジングハートに張って貰っ

たバリアにぶつかると、何かの力が働く。

『対抗術式を発動しました。無効化に成功』

 背中がヒヤリとする。そういえばあの人が言っていた。操られてしまうかもし

れないと。それを止めてくれたんだと分かった。

「ありがとう!」

『お気になさらずに』

 でも、このままじゃどうにもならない。

 

 悩んでいると、あの夜みたいに何かが世界を覆い尽くした。

 

 

 

              8

 

 私、レクシア。今、貴方の後にいるの。

 ユーノが、冷や汗を流して私の張った封鎖領域を見上げている。後ろを見ない

ようにしているようだけど、別に私は今回に関しては怒っていない。何しろ私も

止められなかったしさ。あそこで私がデバイスに通信を入れても彼女は無視した

だろう。だから、周りに気付かれないように急いだが、流石に戦闘が始まってし

まった。結界もなしに。一応、ここまで来てるって事は止めてはくれたようし今

回は仕様がないと思っておく。

「そんなに身構えなくても、何もしないよ」

 私の声にユーノがヘナヘナと地面に突っ伏した。メンタルの弱い奴だな。呆れ

て見ていると、突然ユーノがバネでも入っていたのかってくらいにピンと立ち上

がった。

「ああ!そうですよ!なのはを!」

「分かってるよ。あのままじゃ埒が明かないからね」

 なのはちゃんは頑張っていた。デバイスに護られているとはいえ、何度も攻撃

を受けているのに怯まずに戦っている。なってないけど。さて、片付けるかとか

思ったら、なのはちゃんが驚きの行動に出た。探知魔法を使用したのだ。いくら

デバイスが優秀だからって、いきなりノリで使えるもんか?なのはちゃんの馬鹿

魔力で探知はすぐに終了するが、だから一直線に勝利とはいかない。あちらも分

身体を盾に本体を護り、空いた分身体はなのはちゃんに攻撃を仕掛けている。そ

の所為で照準がズレるみたいで直撃に至らない。まあ、このまま見学って訳にい

かないからね。私はシルバーホーンを血中から取り出すし構えた。その間にもう

なのはちゃんは複数の誘導弾を曲がりなりにも発射するなど異常な成長を見せて

いた。もう応援要らんような気がするけど、まあいいか。私も誘導型の魔力弾を

複数撃ち込む。なのはちゃんの制御の甘い弾を弾き命中させたり、彼女の射線を

邪魔している分身体を一撃で片付ける。さあ、空いたよ。

「レイジングハート!」

『シーリング』

 なのはちゃんはその機を逃さずに封印砲を本体に叩き込んだ。

「馬鹿魔力もここまでくると偉大だ。術式デバイスに丸投げでもここまでなんと

かなるのか」

 ユーノが私の思わず言った本音に苦笑いする。

『普通なら、綻びがあればそこから破られますからな。あの馬鹿みたいな魔力の

厚みがあってこその封印ですな』

 バルムンクが、ディスってるのか褒めているのか微妙な事を血中で言った。

 

 私達がそんな勝手な評価を下していたが、当然本人は私達に気付いている。当

たり前だけどね。手を出したんだから。ジュエルシードを回収し、彼女はゆっく

りとこちらに降りてくる。

「あ、あの!ありがとうございました!それから…すいません」

 

 一応言い付けは覚えていた訳か。付ける薬はないな。

 

 

 

              9

 

「さて、君の答えを聞かせて貰えるかな?」

 私は彼女が降りてきたと同時に問うた。それが約束だったからね。随分と時間

が過ぎてしまったくらいだ。時間があった所為か知らないけど、なのはちゃんの

顔には不思議と前に見た時の悩みのようなものは消え去っていた。あの戦闘で何

か悟りでもしたのか?

「このままユーノ君の力になろうと思います」

 なのはちゃんはきっぱりとそう告げてきた。私は溜息を吐いた。こうなるとな

んとなく察していたからだ。

「貴女の言う事は分かります。なんとなくだけど…。ウチも武術をやってるか

ら。お父さんが怪我をしたのも武術を仕事にしてる部分があったからだし、危険

なものを寄せ付けるって事は少し分かります。でも、私は後悔したくないんで

す。このままユーノ君を助けたいんです。一度、手を差し伸べられた手を伸ばせ

なかったから。貴女の言う通り心の問題でした。でも、だからこそ伸ばせるなら

伸ばしたいって思ったから!記憶を失くしても、私はきっと後悔だけ残り続ける

気がするから!だから!」

 なのはちゃんなりに一生懸命に言葉にしたんだろう。説得出来ないような気が

していた。彼女はどこかオリヴィエに似ている。

 

 会ったオリヴィエは既に両の腕が無かった。それでも彼女は武術の習得を目指

した。私は一度言った事がある。彼女の未来を多少なりにも知る者として。

「貴女が武術をやる必要はないんじゃない?貴女の他に王子・王女は山ほどいる

んだ。期待もされていない貴女がやらずとも他がやるでしょう?」

 そう敢えて冷たく言ったが、オリヴィエは微笑んで首を振った。

「心配して頂いているのは分かっていますよ?レクシア姉さまは優しさが隠せな

いですからね。でも、私も民の血税で生きている身。他ならぬ私自身が義務を全

うしたいのです」

 これの一点張りだった。そのうちに私は根負けしてオリヴィエに義手を贈った

のだ。

 

 そのオリヴィエと嫌な事に顔付きがそっくりだ。透明な決意に満ちた表情。確

かに私がなのはちゃんの記憶を消し、魔力を封印したとしても無駄なのかもしれ

ない。私がサッサとそれが実行出来なかったように、よく分からない謎の修正力

で結局は彼女は戦うのかもしれない。それに考えてみれば面倒というだけで、な

のはちゃんが戦おうがどうしようが、彼女自身の勝手だ。譲れない事案だったら

徹底して抵抗する積もりではあるが、これは譲っても別に構わないように思えて

きた。

「捨て身なんて、どんな馬鹿にも出来る。自分の身の安全と危険物の回収する

事。それが出来ると?それに心の強さは鍛錬でって訳にもいかないよ」

 ここは重要だ。

「心の強さも、私自身の安全も、大切な人達の安全も、ユーノ君の願いも全部や

ります!それが私の答えです!」

 だから、心は鍛錬で完全にどうにかならないっての。言っても無駄かね。

「それは英雄ですら到達出来ない領域だ。それで出来ると言い張る積もり?」

「やります!!」

『私も協力させて貰います』

 デバイスまで後押しし出したよ。

「だから!戦い方を教えて下さい!」

 まあ、そうな…。ええ!?私が教えるの!?フェイトちゃんの件もあるから、

そんなに構えないんだけど!リニス、怒るかね。まあ、こっちも容認するって言

うなら、それなりに手を貸さないと無責任過ぎるかね、流石に。

 

 こうして私は、この将来の無敵少女の先生にされたのだった。

 なお、遅れて駆け付けたリニスには文句は言われなかったとだけ言って置く。

 

 

 

 

 

 




 なのはちゃんゴリ押し成功。
 美海はなのはの師匠役もやる羽目になりました。アドバイス程度ですけど。
 なのははオリヴィエと頑固さが同じくらいと判断し、美海は引いてしまい
 ましたね。彼女が忠告を聞き入れなくても、最終的に美海にとってどうで
 もいい事です。操られないよう手を打った段階でいいと思った次第です。
 美海は精神面が退行気味ですね。武術の腕は戻ってきていますが、剣王時代
 の精神に追い付いていない事に気付いていません。

 次回も時間が掛かると思われますが、気長にお付き合い頂ければ幸いです。



 
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