マクロスプラス reverberation of Sharon 作:gad
惑星アクア。地球から離れた星でとてつもなく離れた星であるこの星では、地球とは違う星空が輝いている。もちろん星座が違う、見える星も違う。そのためアクアでは、毎年自分が作った星座を競い合うコンテストまで開かれている。
そんなアクアの天文事情の中で、最も大きく、高性能な天文台、タレス天文台にユーリたちは来ていた。ユーリたちがアクアに上陸した時間は、アクア標準時で午後4時。丁度薄暗くなり始める時間であり、そして彼らが天文台に到着したころには周りは暗くなっていた。
望遠鏡は9mの口径、過去の地球に存在したといわれる大望遠鏡に匹敵する大きさを持ち、学術研究する人々も数多く忙しそうに動き回るこの天文台。そんなところにまどかはユーリを連れてきたのだった。
「どう、ここがアクア最大の天文施設、タレス天文台よ。大きいでしょ」
「うん。こんな大きな観測施設。地球にはもう残されてないし、フロンティアは船の観測設備が担ってたから見たことがないよ」
「ちなみに、これ。もとは台長の個人的な施設だったらしいわよ。どんだけ星が好きなんでしょうね」
そう、この天文台は、台長の個人資産でつくりあげた施設なのだ。それを聞きユーリはさらに驚く。これだけの設備を個人で準備するなんてどんな熱意があったのだろうか。
派手に驚いているユーリだが、さらに驚くこととなる。当たり前の用にまどかたちが入場していくのだ。
「え、こういう設備って普通一般人ははいれないんじゃ?」
「いえ、ここは一部は一般開放されていて観測機器も自由に使えるのよ」
「昔はおねえちゃんとよく来たね。おじさんまだ元気かな?」
まどかの説明の通り、一般人でも自由に予約をすれば高性能な観測機器で星を見ることができるのだ。このような星を見れる設備は、子供に人気だったためまどかたち姉妹もよく来ていた。そんなところに久しぶりに行くまどかではあるがとても楽しそうな顔である。
「だから、ここに連れてきたのよ。いくら宇宙を飛ぶ私たちでもゆっくり星を見るなんて機会、あんまりないでしょ」
「ああ、確かに。バルキリー乗りは位置把握の一環としてデータ照合するぐらいだからなあ。で、予約はしていたの?」
「もちろんです。お姉ちゃんが来るって聞いて、すぐに予約はとっておきましたよ。お姉ちゃんはここが一番好きだから」
このように姉妹の連携もうまく取れており。ユーリたちは入館してあっというまに受付をすますことができた。そのまま受付に案内されながら観測室へと歩いて行く3人。わくわく感を隠せない子供のような表情を3人ともしていた。
こんな3人を見て、うれしそうな受付嬢。彼女もまた星を愛する人の気持ちがわかるのだろうか。型通りの案内ではなく、観測機器のそれぞれをわかりやすく案内し、星をさらに楽しんでもらえるようにとガイドをする。
そんな受付嬢に案内された、楽しい天文台の見学も終わりいよいよ待っていた観測室に3にはついた。
「予約された1時間、たっぷり星をお楽しみください。」
との言葉をもらった3人。一時間しかない予約時間だが、それを3人で楽しめるよう、モニターに望遠鏡の映像を写し、さまざまな星を楽しげに眺め始める。
青白く輝く星、血のように赤い星、さまざまな星雲、そして銀河。ユーリたちがただ使う観測データではない、人々が美しさを感じる星々を彼らは楽しんでいた。
「お姉ちゃん、あの星。昔おねえちゃんのすきだった星じゃない?」
「ええ、そうよ。アルタイル。きれいに輝いているあの星を小さいころにみつけて、ずっと観測日記をつけてたりしたこともあったわね。」
「星の観測日記?どんなのなんだ。あんまり想像がつかないんだけど」
「空気の揺らぎで瞬いてたり、少し暗かったりしたのを私の勝手な感覚でつけてただけよ。懐かしいわ」」
とこんな風にまどかの好きな星だったり、ユーリの故郷であるフロンティア船団が向かう銀河中心部をながめたりと彼らは、天体観測を楽しんだのだった。
このように楽しげに星を見ていた彼ら3人であったが、1時間という時間は短い。あっという間に時間は流れ、終了時間になってしまった。
「あら、もうこんな時間。もっと続けたいけど、仕方ないわね、帰りましょう」
「ああ、もう遅いしな。ホテルの予約もあるし戻るか」
と帰ろうとした3人。そんなところにノックの音が響いた。
「ここにまどかちゃんが来ていると聞いたのじゃが、あっておるかの?」」
しわがれた男性の声。その声を聴いてまどかは驚く。過去何度も遊びに来ていた時によく聞いた声だったからである。ドアを開けて、年配の男性に入るように促すまどか。その顔は懐かしさに満ち溢れていた。
「エドガー台長?エドガーおじさんですか?」
「もうおじさんもきつい年になったがのう。そのエドガーで間違いはないぞい」
この年配の男性こそ、この天文台を作り上げた台長、エドガー・ラサールであった。
白髪の髪に眼鏡、城井ひげを蓄えた姿。70近くの老人である。この老人は、子供の見学者や常連との交流を楽しむ好々爺であった。もちろんまどかやすみれもこのエドガーに星を見せてもらっていた。
「5年ぶりですね。お久しぶりです。」
「いやあ、大きくなったの。背も体も。しかも男連れとは…。5年は長いのう」
うれしそうに相手をするまどかとそしてそんなまどかをからかうエドガー。孫と祖父の語らいのように見える温かい情景である。
「もう、おじさんったら。彼はそういった関係じゃありません。れっきとした仕事の相棒です。」
「そうかそうか、相棒か。で、どうしてアクアへ帰ってきたのじゃ?結婚報告かの?」
「だからおじさん。私は新統合軍のパイロットとしてアクアに赴任しのよ。で、彼はそのバディ。村雨ユーリよ」
さらにからかい続けるエドガー。若いころから楽しいことを見つけては、気難しい友人とも付き合ってきた彼にとって、小さいころから知っているまどかをからかうことは非常に簡単なことであった。そんなエドガーに対して、まどかも笑いながらも反論をする。
しかし、そのまどかの仕事を聞いて、エドガーの表情が変わった。
「パイロット。そして相棒のう…。わしも若いころは空を相棒と飛んでいたことがあったなあ」
「エドガーさんもパイロットだったんですが。どんな機体にのられていたんです?」
その過去を思い出すようなエドガーに向けてちょっと置いてけぼりだったユーリが質問をする。その質問を聞いてさらに過去を思い出すエドガー。まどかもすみれも見たことがない台長の姿がここにあった。だがそこは、好々爺。すぐにいつもの彼に戻る。
「おぬしはやっぱりパイロットじゃな。そういってどんな機体に乗ってたか興味を持つとは。まどかちゃんとは気が合うじゃろ」
「まあそれなりには、ですけど」
「それなりにお姉ちゃんと気が合う人って少ないけどね」
ユーリの答に茶々を入れるすみれ。事実その通りなのだが、顔を赤くする2人。そして2人を見て笑うエドガー。
「ふぉっふぉっ。仲好きこと良い事かな。さておぬしの質問に答えてなかったの。わしが乗っていたのは、VF-0、統合戦争のころレーダー迎撃士官としてじゃ」
その言葉に3人はとても驚いた。統合戦争のころのバルキリ-。もう伝説に近いレベルの戦いであるからだ。リンミンメイが活躍したといっても現実のものとはとらえられないぐらいの世代である3人からすると、過去というものではなく物語としてとらえてしまう戦いになっているのが統合戦争であり、VF-0なのである。
「となると、あの鳥の人とかも知ってるんですか。おじさんは?」
その言葉に驚き、現在ヒットしている統合戦争を舞台にした「鳥の人」の小説に関して聞いてみるすみれ。それにエドガーはさらに驚きの答を返した。
「ああ、あれは半分以上儂の手記じゃ。わしが見たことを伝えたかったんじゃ。あのとんでもなく不思議で、残酷で、美しかったあの出来事を後世に伝えたかったんじゃ」
この言葉を返した後、エドガーはまた遠くを見つめだした。先ほどと同じように過去を思い出し、消えた友人やその恋人のことを思い返したのだった。そんな老人を見て何と言葉をかければいいかわからなくなった3人。その沈黙の中にさらにエドガーは続ける。
「そういえば嬢ちゃんたちには教えてなかったのう。わしがこのアクアに来たのはその時の真実が見たかったからじゃよ」
「真実?それはなんなんです?」
絵空事の一つと思っていた伝説の生き証人が語る真実。それは誰もが知らない真実である。その真実を知りたいと思うのは聞いたユーリだけではなかった。
「さてのう。まあつまらない昔話を聞かせてしまったな。まどかちゃん達わかいもんには関係ない昔話じゃ。まあ一言だけまどかちゃん達に言えることは、相棒を大切にしなさいってことかの。さて、わしも馬にけられて死にたくないし、退散させていただくよ」
しかし、その質問には答えなかったエドガー。最後には茶化して去って行ったものの何か遠くを見つめてる表情は最後まで消えなかった。そんなエドガーが去って行くのを3人はただ見ているだけだった。
突然のエドガー台長との邂逅があったものの、天体観測を楽しんだ3人。少しは『真実』というものに気になりながらも天文台を笑顔で後にした。星を見て、アクアの素晴らしさを伝えれたまどかの笑顔、そしてともに笑いあうユーリ。そんな彼らの後ろを歩くすみれ。幸せそうに去っていく彼らを遠くから見つめながらエドガーはつぶやいた。
「シン、お前もあんな風にサラさんと仲良くやれているよな…?マオちゃんも俺もずっと心配しているんだぞ」
その呟きに返す言葉はない。ただ星空が彼の白髪を照らすだけであった。