マクロスプラス reverberation of Sharon 作:gad
惑星アクアの朝は、霧雨で始まる。テラフォーミングの一環で、水分を空気中に拡散するための時間として、朝が最も効率がいいためだ。その霧は首都全体を包み、ミストシティと称されるほどの朝が一つの目玉となっている。
ある観光客は、何も見えないと怒り、ある観光客は幻想的だという。自然を失った人類にとっての霧に対する感覚は、多種多様であった。
こんな霧に包まれた、アクアの首都マイヤのホテルの一室にユーリは宿をとっていた。地球の士官学校では自然現象の一つとして教育を受けたものの実物を見るのは初めてであり、霧を体験しようといそいそと朝の準備を進めていた。
この日もまどかと合流して、アクア案内を受ける予定ではあったが、この日は昼から合流となっていた。
「ふぁあああ……、しっかし眠い……」
寝ぼけ眼ながら、なぜか早起きをしてしまう不思議な自分に驚きを感じつつ、納得もする。自分の初の任地でもあり、そして相棒の故郷であるこの惑星に興奮を隠せない自分がよくわかっていたのだった。
そんな風に微妙な興奮状態の彼の下に、一本の電話が入ってきたのは朝食を済ませえてすぐのことであった。
「グエンドリンと申します。村雨少尉。貴君に新しい命令が発令されました。至急ニューラングレーへ出頭してください」
いきなり要件をまくしたてる連絡嬢の声、それに驚くもののすでにフロントに基地からの電話と聞いていたユーリ。すぐに返答する。
モニターには金髪に眼鏡と一体化にも有能風秘書といった感じの女性が映し出されている。
「了解です。至急とは0900で大丈夫でしょうか。」
「ブリーフィングは0915からです。まあ、初の任務ですし、それ相応の態度を示したほうがよろしいかと」
説得力のある声。そして、アドバイス。ユーリののボケ眼はすぐに吹き飛んでいるr。
現在の時刻は、0800。基地までの時間はタクシーを拾って30分ほどの距離ともうほとんど時間はない。だが一応まどかにも同じ指令が出てるか確認する時間はあるし、所準備を整える余裕もある。
「アドバイスありがとうございます。急ぎ準備し、そちらへ向かいます。」
「では、ブリーフィングでお会いしましょう。少尉」
それを最後に通話は終了した。ブリーフィングに出るレベルの人が通常連絡役となることは普通ではないことだが、それほどの緊急事態ということである。しかも新人を呼び寄せるのに使うなんて本当にあまりないことである。
「これはやばいことが起こってるな…とんでもなく」
そうつぶやくと、とりあえずまどかに連絡をつなぐことにしたユーリ。器用に着替えながら、備え付けの電話を使う。そのコールは予想通り早いうちにとられた。
「ユーリ。やっぱり連絡きたのね。しかし妹との休暇だっていうのに気が利かない。」
ディスプレイ上に現れた不機嫌そうなまどか。すでに彼女は軍服に着替えているものの本当に負のオーラに包まれていた。長髪の後ろからはすみれもみえるが少し自重しているようだ。
あまり上への文句を言わない彼女が怒るのも珍しいのだが、やはり家族との休暇は何にも代えがたいものなのだろう。
「まあ、しょうがないよ。僕らは軍人なんだから」
そうなだめながらも、彼女と同じ思いをユーリも持っていた。休暇と思っていたものがなくなるだけではない、もったいなさというものを感じていたのだ。
その感覚はともかく、何が起こったのか。そしてどのような任務が与えられるのかが問題であった。
「で、僕はどうやって基地へ向かったほうがいい?やっぱりタクシーとかしかないか。」
「いや、そこは気にしなくていいわ。父の車を借りてそっちへ向かうから。まあすぐ着くから待っていなさい」
「了解、じゃあ準備して待たせてもらうよ。しかし僕らの機体ってどうなってるんだろうね…」
そして、出撃する場合でもVF-171が直っているのか。それが最大の問題だった。特にまどかの2番機は中破と言っては過言でもない損傷を受けているのだ。そうそう新しい機体ももらえる当てもないため、どのような指令が出ているのかさらに疑問が深まる、
そんな風に任務の先行きに不安を覚えたときであった。空気を変える明るい声が電話に混じった。
「お姉ちゃんもユーリさんもなんだか渋い顔してるなあ。まあ恋人たちの時間が終わるって悲しいよね」
「すみれ!!こんな時にからかわないでよ。」
「はーい。でも二人ともモニター越しで暗そうに会話しすぎ。そんなんじゃお姉ちゃんらしくないよ」
微妙な雰囲気となった彼らの雰囲気。それを砕いたのは先ほどから後ろで静かにしていたすみれであった。まどかとは違い空色のかわいらしいワンピースに身を包んだ彼女。そんな彼女の機能と同じような明るい雰囲気は彼らの緊張を少しだけほぐすことができた、、
「確かにそれもそうね。こんなところでわけもわからず悩んでいるなんて私らしくもなかったわ。さあ、ユーリ。今から行くから急いで準備しておきなさい」
「そうだね。何もわからず悩んでも仕方ない。了解。急ぎ準備する。待ってるよ」
「そうそう、そんな感じで二人でぱぱっと仕事してデート感覚で終わらせてきてね。今晩は見せたいものもあるし、がんばってね」
少しだけよくなった雰囲気。それを煽るすみれ。そして
「わかったわ。すみれ」
「了解。すみれちゃん」
声の合った応答をする2人。そんな二人の表情は先ほどよりはやわらかである。
そのよくなった雰囲気にすみれは満足げに頷き、最後に一言すみれが呟き通話は終了した。
「うん、生きて帰ってきてね。ユーリさん。お姉ちゃん」
そう、生きて帰れたらひとまず家族はうれしいのである。
こんな風にユーリたちが基地に向かう準備を進めている中、ニューラングレー基地はとてつもない緊張感に包まれていた。昨日のゴーストのロスト事件後、有人偵察機RVF-171が持ち帰った記録映像から恐ろしい事実が判明したためである。
「何…今回の相手にはゴーストをつかえないだと!」
「はっ、オルビー大佐。偵察情報によりますと強力なジャミングにより、ゴーストの電子頭脳は混乱。制御不能に陥りそこを狙撃された模様です。」
基地司令のオルビーは忌々しげにモニターをにらみ部下の報告を聞き続ける。ゴーストが、襲撃ポイント予測されたところに急行したのち、突然挙動が止まる映像を見ながら、事態の深刻さに衝撃を受けている。
「だから私は、統合本部にアクアにも優秀なパイロットと機体が必要だと叫び続けてきたのだ。無人機だけでは、本当の危機には到底対応ができないと言ってきたではないか」
自身がVF-11を駆り、再統合戦争とも言われた内乱を生き抜いた彼は、パイロット不要論にまた流れ始めた軍本部に常に異議を唱えてきていた。だからこの無人機撃墜事件は、予測していたことでもあり歯がゆい事態であった。その怒りのためか禿げ頭からは湯気が立ち上っているかのように見える、
そんな本部と衝突ばかりしている司令を抑えるため統合作戦本部から送られてきた副司令も焦っていた。またこれで本部に文句をつけるであろう大佐とそれを抑えきれない自分の評価が落ちてしまうからだ。しかも新兵器の試験運用直前ということもあり、あわててもいた。
「で、エルフ中隊はどうした!!マルティン中佐!!」
「はっ。新人含め15名。昨日の警備に出ていたもの以外の戦闘経験あるものを集めております。」
副司令・マルティンはリストをモニターに表示し、過去のパイロットの戦闘経験も再生する。適当な海賊と戦ったものから、大佐と同じ内戦を潜り抜けた猛者、またユーリたち初陣を飾ったばかりのもののデータが上から下に流れていく。
「しかし、実戦経験あるものは15名だけとは…平和はいいがパイロットがシュミレーターと訓練だけでは育たんだろうに…」
データを見て、複雑な表情を見せる大佐。だがこの不満はアクアだからこそでもある。田舎だから海賊もはぐれゼントラーディも出会うことがなく、そういう基地に優秀なパイロットはほとんど派遣されない。
「それは仕方がない事です。大佐。それよりこの15名と戦闘経験のないものの優秀な20名。全パイロットの半数をこの作戦に投入する。それで問題ないでしょうか。大佐。」
「ああ、では細部は貴官と参謀に任せることとする。」
マルティンは、何とか自分のペースに持ってこようとする。その努力は報われオルビーもあとはマルティンに任せ、作戦室から出て行った。
「しかしうるさい御仁だ。このジャミングもあの計画さえ実施できていたら問題なく処理できたというのに。過去の遺物はこれだから困る」
そう悪態をつき奈良も中佐は、部下を呼び作戦案を固めていく。その作戦は無人戦闘機による戦略理論を専門としていた彼からは、完璧な作戦であった。ただ有人戦闘としては、一部疑問が残る作戦ではある。そのため部下から不安の声が上がる。
「副司令。これは一部隊に負担を課せすぎでないでしょうか。全体貴官率は95%とでていますが、この2機だけは30パーセントを切っていますよ」
金髪のオペレーター・グエンドリン大尉の高い声が皆の気持ちを代弁して副司令に投げかけられた。生存率30%とは作戦実施前に出でてはいいはずのない数字だからだ。
「さて、この中央の5機。こいつらの突入後のかく乱戦法がまず軸だ。これが敵陣の形を把握、そして引き寄せて殲滅。昔の釣野伏といった戦法だ。こいつらさえ仕事すればあとは楽勝だ。勝たないほうがおかしいのだから心配はいらん」
その戦法は一撃離脱を狙う風に見せかけた突入隊2機。これが敵から徹底的にマークを受けつつ、周囲から狙撃隊3機がそれを支援し、味方のほうに誘導。引きずり出された敵に集中砲火を浴びせるというシンプルな作戦だ。おとりの2機は非常に危険だが勝率は確かに高いといえる。
「そういった問題ではないのですが…」
だが、彼女が問題としている生還率の点は中佐は気にしていなかった。勝てる作戦と楽に勝てる作戦は違うものである。それを中佐は理解しているのかが彼女には不安であった。
「問題ない。無人機でできることなら有人機でもできると大佐もおっしゃってるではないか」
マルティン中佐は、そういって作戦会議を打ち切り、席を立つ。彼の言うとおり勝てる作戦ではある。だが、わざわざ帰還率の低い作戦を余裕がある現在やる必要はないはずである。
「中佐。再考を!!」
「しつこい!!お前は俺の上官ではないだろう。さっさと人員を選べ」
そう言い残し去っていく中佐。その背中は自信ありげではあったが、その後ろを参謀室の多数の目が突き刺すように見ていた。そして彼女たちは自分たちのできる最大限の努力として、一番帰れる2人を探すこととなる。
「隊長のリード少佐と組んでもっともいい奴はだれだ!!」
「今から全隊員にシミュレートかけます。20分で済むかと」
「くそ、あのおやじ。兵士の命なんだと思ってやがる。」
そして15人+20人の組み合わせを重ね続けること22回目。新人ある2人の名前がリストに乗る。
「アリス小隊の新入りの二人か。まあ連携はできるだろうが、さすがに無理だろう…
」
「まあ試すだけ試すのよ。…でもよくてリード&村雨45%。かなりいいわね」
「リード&河野…おお47もいった。今までで一番いいではないか。」
まどかの数値がトップの数字である。この組み合わせで行こうかと作戦部はリードまどかセットを中心に作戦構築を考えていく。だがその流れに少しだけ違和感が発生する。
「急造だからやっぱり揺らぎのポイントが多いな。安定はしない」
そう、リードとまどかの連携はデータ不足もありシミュレート上でも時折とんでもなくうまくいかないときが発生する。それを減らすのが作戦案だが、やはりうまくいかない部分が発生する。47の時もあれば38の時もある。生還率が200回の試行の中でも安定しないのだ。
そんなときある大尉の発言がすべてを変えた・
「そういえば元の2人で組み合わせてなかったな。揺らぎも少ないだろうし、試してみます」
そして、ユーリとまどかの2人のシミュレート。前回の襲撃のデータや士官学校の訓練データがまとめられたデータをもとに作戦シミュレートが始まる。そして作戦部は予想外の数字に驚くのであった。
「おい。これ間違いじゃないのか。こんなに高いのおかしいんじゃ」
「いえ、200回試行してゆらぎは3%。生還率からしてもこの2人が一番ね。これでいきましょう」
モニターには生還率57%。3回やればギリギリ2回は返ってこれる数字が輝いていた。