マクロスプラス reverberation of Sharon 作:gad
「おばあちゃん、何でおじいちゃんはいつまでも眠っているの」
黒髪の少女は妹と一緒に、小さなベランダでおやつを食べながらそんなことを聞いていた。岩の惑星といわれるこの星だが彼女の父たちの努力もあり、涼しげな風がベランダを吹き抜けている。とても気持ちのいい午後のおやつの時間だ。
「それはね、まどかちゃん、おじいちゃんは地球で悪い歌に眠らされてしまったの」
そんな楽しげな時間だが、彼女の祖母は、彼女の飲み物を持ってきながらさびしげに答えた。小さな彼女から見て何時も元気だったおばあちゃんが、ちょっと怖い顔をしている。
少女はそこに気付くとちょっとだけびっくりしながら、おやつに集中することにした
「じゃあ、私が歌って起こしてあげる、おじいちゃんとも遊びたいよ」
しかし、彼女の妹は違った。歌を歌うのが大好きな2つ下の妹、歌で眠らされたなら歌で起こせばいいじゃないという考えなのだろうか。そんなことを提案したのだった。
おばあちゃんも笑って、その提案に乗っていた。そんな笑顔を見ながら、彼女も歌ってみるのもいいかなって思うようになっていた。
フォールド空間に入ると人は夢を見るといわれている。なぜかわからないが、過去のちょっとした思い出だったり、悲しい記憶がよみがえるのもよくあることである。そんなことに思いをはせながら大恋愛をフォールド前にするフォールドラブとやらも一部の移民船団では流行語になっていたりもする。
まどかも懐かしい夢を見て、故郷を感じながらユーリとの約束の場所、第3食堂へと向かっていっていた。
ユーリもちょっとした夢を見ていた。父が作る翼に乗って空を駆け回りたいと思った日のことなのか、母と一緒に乗った高機動型観覧船の思い出だったりとちゃんぽんしたような夢だったのだが。彼もまた、過去を思い出し、懐かしさを感じていた。
こんな風にフォールドアウトした直後は、気合を入れてフォールドしているクルー以外はほとんどがちょっとぼけている状況だった。夢見心地だったり、集中力が途切れやすかったりと、ヒューマンエラーが発生しやすい状況なのだ。
つまり、よからぬものが何かをたくらむのにもってこいのチャンスだったりするわけである。
そんな不穏な雰囲気をブリッジでは警戒している中、ユーリとまどかは約束通りに第3食堂で落ち合うことができた。ちなみにこの移民船の規模では、食堂の数は30ほどもあり、時に約束の場所を間違えてしまう人もいる。
「ユーリ、いい夢見れた?」
「まあまあ。ただまだ慣れる気はしないよ、まどかはどうだった」
「私もそこそこ懐かしい夢を見たわ。妹と歌ったなんてもう何年前だったかしら」
このような感じでお互いの夢について語り合う2人、よくフォールド後にみられる光景である。彼らは食堂でランチを取りに並びながらそんなことを話していた。
「で、アクアってどんな星なんだい、あんまりまどかから故郷の話を今まで聞かなかったんだけど」
「そういえば、あんまり話していなかったわね。乗船前の約束もあるし、アクア到着まであと1週間みっちり話してあげるわよ」
なんだか過去の話を思い出したせいか、少し楽しげなまどか。非常に上機嫌にランチを選びながら、自らの故郷について語りたがっていた。
そのような流れで、彼女が昔どこで、どんなふうに遊んでいたか、アクアで見なければならないものは何なのか、そして家族についての自慢話をランチを食べながらずっとユーリは聞くことになったのだった。
それをユーリもなかなか楽しげに聞いていた。結構楽しかったのかランチが終わってもずっと食堂に居座り、追い出されそうになったらまどかの部屋で、彼女の故郷の話を聞いていた。
「・・・・で、すみれはそういったのよ、お姉ちゃんも歌がうまいんだから歌手になればいいのにって。けど私にはやりたいことがあった。それよりも挑戦してみたいものがあったのよ」
「僕もまどかが歌手ってのはちょっと想像できないな、やっぱり空を飛ぶのが一番だろ、僕たちは」
こんな風に彼らが楽しげに話しているときだった。突然爆音、そして振動が船に響き渡る。そして続いて全船にアラートが鳴り響いた。
「警告、警告、ただいま本船は宇宙海賊の攻撃を受けております、しかしながら本船はSMSの護衛を受けており沈没の恐れは全くありません。御乗船のお客様は、ご安心ください」
このように安心させる放送が即座に入ったものの、実際のブリッジは大混乱であった。SMSの護衛6機のうちフォールド後、体調を崩すパイロットが奇跡的な確立で発生し一時的に対空防衛網に穴があいていたのだ。そこから旧型とはいえVF-11が10機も飛び込んできたのである。いくら新型をそろえ、エースぞろいのSMSといえどもこれに対応するのは厳しい。ブリッジは無傷で済むとは思っていなかった。
しかし、SMSの連中はそんなことを全く考えていなかった。
「こちら,ブラボー1。たった10機でSMSにケンカを売ったことを後悔させてやらねばならんようだな。全機、奮戦を期待する」
「ブラボー2、了解。まああんなノロイ奴らには落とされませんよ」
「お前の心配はしていない、お客様を守るのがおれたちの仕事だということだ」
こんな形でブラボー3、5,6も強気で答えていき、SMS遊撃中隊バイライン所属ブラボー小隊はVF-22を駆り10機の海賊の迎撃に向かっていった。
「これはフォールド後の疲労時を狙った攻撃か。SMSがいるとはいえ、僕らも出たほうがいいかな」
「私たち2人には一応移動時の緊急事態に判断する権利は与えられているわ。だが、SMSの回線もわからないし、全船チャンネルで連携は取れないので様子見、機体のところへ向かうってとこが一番無難かしら」
警告が流れてすぐ、統合軍の軍人としてどのように行動すべきか考えた2人。VF-171という武器もあり、判断する権利も与えられている2人だが積極的に行動することは控えようとしていた。上官の指示抜きで戦闘は、軍人としては避けるべき行為であり、また同士討ちの危険性もあったためである。
「まあ、『どなたか、バルキリーをお持ちのお客様、いらっしゃいましたら当艦ブリッジまでお越しください』なんて言われるわけないし、僕たちの判断で出撃許可を取りに行くのが一番かな」
「そんな冗談言ってると、現実になるわよ」
そう、そんな冗談がまどかの予想通りに10分後に現実になるとは彼らは思いもしていなかった。