とあるサキュバスの日記   作:とやる

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1ページ目 『終業式』

 地球に生きる高度知的生命体は人間のみ……だったのは遥か昔の話。

 現代よりもうんと前に何処からともなく彼らが現れ、今地球上にはエルフや獣人、小人やそれらの混血と多種多様な生物が暮らしている。

 その中でも特に女性的魅力に優れ、妖艶であり美しい種族をサキュバスという。

 

 私の種族はサキュバス。

 髪に隠れて目立たないけど頭部にはちんまりとした二本のツノがあり、お尻と肩甲骨の間には蝙蝠のような羽根が、臀部には細い尻尾がふりふりと揺れる。

 例外なく美しい容姿を誇るサキュバスの種族的特徴として、私の外見も十人が十人美しいと答えるほど綺麗である自覚がある。

 風に揺れる絹のような銀の髪は日光を浴びて透き通るように煌めき、低い女性的な身長に、処女雪を思わせるシミひとつない真っ白な肌。出るところは出て引き締まるところは引き締まった瑞々しい肢体は男の情欲を唆る。

 

 これだけでも世の雄が私を放って置かないけれど、更に私にはサキュバスとして魅了の能力……チャームが使える。

 私がチャームを使えば……いや、使わなくても、私に堕とせない雄はいない。

 ちょっと胸を寄せて潤んだ瞳で上目使いでチャームしてやれば、どんなお願いでも喜んで聞いてくれるお猿さんたちなのだから。

 

 同性にはチャームが効かないから中学では笑えるくらい疎まれてたけど。

 それでも、クラスの男はみんな私の虜だったし、別に寂しくはなかった。

 むしろ女の妬み僻みの視線が心地よかったくらい。

 取り巻きの男どもに好意に属する感情はない。出会って一秒で私に気に入られようと尻尾を振る犬に、ペットに向ける以外の気持ちが芽生えまして?少なくとも私にはそれしかなかった。

 

 だから高校に進学しても、これまで通り男を都合のいいように使って、別にいらないけど友だちは出来ずにまた三年を過ごすんだろうなって思っていた。

 

「それはダメだよ」

 

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 放課後の掃除当番が面倒くさかったから、チャームを使って近くにいた獣人の男に押し付けようとした所に制止の声がかけられた。

 男の声。

 振り向けば、名前も覚えてない人間の男が一人私をみていた。

 

 何だこいつ。

 顔も名も知らない恐らくはクラスメイトに行動を咎められた私は気分を害して、この男にもチャームをかけて辱しめてやろうと思った。

 

「……今日の掃除当番は美上さんでしょ?押し付けるのは良くないよ」

 

 その時の私は心底驚いた顔をしていたと思う。

 胸元を緩めて、きゅっと庇護欲をそそるか弱い力で男の手を握り甘ったるい声で私はお願いをした。

 チャームを使ったそれは男には呼吸と同じぐらい抗い難いものであるはずなのに、あろう事か男は平然と私に流し目を送ってきたのだ。

 

「僕も手伝うから早いとこやってしまおう」

 

 人生初の出来事に動揺していた私は、不覚にも男に促されるまま掃除をしてしまった。

 家に帰り、自分の部屋で着替えてベッドに身を投げしてから私の胸の内からぐつぐつと赤い感情が湧き上がった。

 

 なんだあいつは。男のくせに。エロい事しか考えてないケダモノのくせに!

 あんな真面目くさっててもどうせ頭の中セックスのことしかないくせに!!

 チャームが効かない……サキュバスの女としてのプライドが傷つけられた私は決意をした。

 

 絶対にあいつを堕として高校三年間の学校生活を送れないように辱しめてやる。

 この私に口答えをした事を後悔しても遅い。何もかも全てを私に捧げさせて、日陰者としての人生を歩ませてやる。

 

 

 6月☆日

 

 この悔しさを忘れないために日記をつける事にした。

 絶対にチャームしてやるんだから!見てなさいよ!!

 

 

 6月◻︎日

 

 やはりあの男はクラスメイトだった。

 名前なんてどうでもいいからモブ男と呼ぶ事にする。なんか顔が如何にも脇役って感じだし。

 都合の良いことに今日は体育があった。

 体育は男女別だけれど、授業終わり更衣室に移動する際に少し話す時間くらいはある。

 それだけあれば十分。運動で汗をかいた私の身体は雄を蠱惑するフェロモンを周囲にばら撒く。

 意識して抑える事も出来るけど、あえて私はそれを抑えずに更衣室に入る直前のモブ男の袖をちんまりと掴んだ。

 体操服を着た絶世の美少女が雄の本能を掻き乱す匂いを漂わせ、胸元からちらりと谷間が覗くように姿勢を調整する。

 チャームは対象を性的に興奮させればさせるほどより強力に作用する。

 これでこの男も鼻の下を伸ばして私に従順な犬になる……と思ったのに!

 あの男!!早く着替えたいから手を離してくれないかですって!!?

 私が!この私が!!谷間まで見せて誘惑しているというのに!!!

 呆気にとられて思わず手を離してしまいましたが、後々何をそんなに急いでいたのかと思って適当な男に聞けば、どうやら購買にお昼を買いに行ったとのこと。

 私よりお昼の方が重要だと言いたいのかしら。

 男のくせに……!覚えてなさいよ……!!

 

 

 6月△日

 

 モブ男の前で首の後ろで一括りにしていた髪をかきあげてうなじを見せつけてみた。

 暑いなら制服脱げば?って言われた。

 ビンタしてやろうかしらこいつ。

 

 

 6月♪日

 

 英語の授業で二人一組を作れと言われたのでモブ男とペアになった。

 片方が英文を読み、もう片方がそれを聞いて発音をチェックするというので、唇をモブ男の耳に近づけ甘く囁く。

 擽ったいから普通にしろですって。

 私の匂いと空気を伝って触れる体温。男の理性を溶かす声を耳元で囁かれ、何より私のチャームを受けてなんで平然として入れるのだろう。

 

 

 6月¥日

 

 チャームにかからない。

 

 

 6月%日

 

 なんで。

 どうして。

 

 

 

(一週間と少し短い書き込みが続く)

 

 

 

 7月&日

 

 気付いたことがある。

 そもそもチャームどころか性的な視線すら向けてこない。

 ふざけるな。絶世の美少女だぞ私は。サキュバスの中でも飛び切りにエロい身体をしているんだぞ。

 一体どういう事だろう。

 あと周りは夏服になったけど私はフェロモンの関係で制服のままだ。

 それにしても、夏服になって気がついた。あいつなんであんなに怪我してるのかしら。

 

 

 7月○日

 

 まさかあいつ女だったりして……?

 それならチャームが効かない事も性的な目を向けてこない事も頷ける。

 これ見よがしにボタンを緩めてチャームをかけても胸元すら見てこないし。

 

 

 7月♪日

 

 下校途中にどこかの家の飼猫が足にすり寄ってきたので少し遊んだ。

 私の尻尾を猫じゃらしか何かと勘違いしているのか、ふりふりと振ると捕まえようとしてきてすごく可愛かった。

 やっぱり動物は素直でいいなあ。

 

 

 7月△日

 

 夏服を着た。

 フェロモンを抑えられるといってもそれはゼロにできるわけじゃない。

 男どもにじろじろ不躾に見られるのは不快だから本当は夏服を着るつもりはなかったけど、モブ男をチャームするために私も本気を出す。

 惜しげも無く晒される健康的な白い二の腕に少し汗を吸って透けるシャツ。

 暑さで緩めたボタンから顔を出す柔らかな谷間。

 しかも私は美少女。

 性欲旺盛な高校生の男にはこれだけでも致死量だろう。

 私も夏服にしてんだけどどう?って軽くその場で一回りしてモブ男顔を覗き込むように聞いたら『もうあと一週間で夏休みなのに今夏服にするのはダサい』とか言いやがった。

 感想を!言え!!!

 

 

 7月$日

 

 明日が夏休み前最後の登校日。

 流石の私も業を煮やした。

 今まで私がちょっと相手の目を見て笑いかけてチャームにかからない男はいなかった。

 なのにあいつは手に触れたり囁いたり匂いを嗅がせたりあまつさえ谷間を見せても、とにかく何をやってもチャームにかからなかった。男性機能が生きているのか疑うレベル。

 もうこうなったら正面から抱きついてやる。

 チャームの性質上性的に興奮さればさせるほど、身体的接触部分が多ければ多いほどその効果は強くなる。

 薄い夏服で私が抱きつけば流石のあいつも墜ちるだろう。

 ここまで私にさせたんだ、その分の借りはしっかりと返してもらう。チャームにかかって私に逆らえないあいつにね、ふふふ。

 明日が楽しみだわ。

 

 

 7月#日

 

 失敗したくそまさかあんな事になるなんて男のくせに男のくせに男のくせに。

 もうやだ今日はもう寝る。

 

(この日は殴り書きされている)

 

 

 ☆☆☆

 

 

 式が終わった後の休み時間、教室に居なかったあいつを探して廊下に出たところでこの一ヶ月と少しですっかり顔を覚えた男を見つけた。

 作戦通り不意に抱きついてやろうと足音を忍ばせて近づき、あと二歩というところでぐらりと視界が揺れた。

 雨により濡れた廊下に足を取られ滑ったと認識した時には、階段に身体が吸い込まれるように傾く。

 ヤバい、と硬くなる身体が来たる衝撃に怯えるように縮こまり、数秒後の痛みに恐怖してぎゅっと目を瞑った。

 

「美上さんっ!!」

 

 ぐっと力強い手が腕を握り、引っ張られる。

 どしん、と何かが倒れる音がしたけれど想像していた痛みと階段の冷たさはなくて、代わりに温かくて硬く、でも柔らかな感触を肌が伝えた。

 

「あ、危なかった……美上さん、大丈夫?」

 

 硬く閉じていた瞼を開ければ、ワイシャツの白が視界いっぱいに広がっていて。

 首ごとわずかに目線を持ち上げれば、心配そうに自身を見つめる少年の瞳と視線が交わった。

 

 今も感じる少年の体温に、自身の腰に回された、自分の細い腕とは違う男の子の腕。

 あ、筋肉ってこんな感じなんだ……とぼんやりする頭で考えてから冷静になった思考が現状を弾き出す。

 

 仰向けに倒れた少年にのしかかるように覆いかぶさっている。

 

 階段に落ちかけた所を助けてくれたんだ、と思ったのも束の間。

 守るように、閉じ込めるように身体に回された腕やら、少年の匂いや体温、吐息の触れる距離にあるその顔が。

 散々自分からその距離に踏み込んだというのに、何故か強烈な羞恥心が胸の中を荒れ狂って。

 

「お、おおおお覚えてにゃさいよ!!」

 

 ばっと勢いよく立ち上がって、ひと昔前の捨て台詞を残して逃げるように走った。

 

 顔がとても熱いのは。

 胸がどきどきとしているのは。

 きっと今走っているせいなんだって言い聞かせながら。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「おーす親友〜なんかすげー音がおわあ!?お前なんで口から血ぃ出てんの!?病気か!?夏目漱石か!?」

 

「いやちょっともうひとりの自分と戦ってて。……喋るだけで痛い。口の中って縫うのかな?」

 

「縫いはしねえんじゃねえかな……ちゃんと病院行けよ?ただでさえ高校入ってから急に自分で自分を殴ったり内出血するぐれえ抓ったりで生傷絶えないんだから。ついでに頭も診てもらえ」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 7月〆日

 

 よく考えたら正面から抱きつくという当初の目的は達せられているわけで。

 なんでチャームされないのあいつ……?

 女の子な訳がない。だってあの時の感触は女の子とは全然違って……やめろ私。

 サキュバスのチャームが効きにくい男ってのは凄く珍しいけどいないわけじゃない。でもそれは効きにくいだけで効果がないわけじゃない。

 私レベルの美少女が抱きついてチャームにかからないなんて有り得ないはずなのに……。

 でも、あの時のあいつは純粋に私を心配してくれてたし、何より男性的な生理現象がなかった。

 密着していたから間違いないしサキュバスの私はその匂いや気配に敏感だからすぐに分かる。

 下心から私を抱きしめていたのならすぐにぶっ飛ばしたけど、そうじゃなかったのはサキュバスである私が一番分かってる。

 ……男のくせに。セックスのことしか考えてないくせに。エロい事以外で私を見てないくせに。

 ……………………お礼も言わずに走って行っちゃったのは悪かったとは思うけど。

 まあそれはいつかちゃんと伝えるとして。具体的には夏休み中にでも。

 この私にここまでさせたのよ。このまま終わらせるもんですか!

 絶対に私にメロメロにしてやるんだから!

 

 ……できるよね?私に魅力がないわけじゃないわよね?

 うん、できるはずよ。私って美少女だし。あいつ以外は直ぐにチャーム出来るし。

 ……なんであいつはチャーム出来ないのかなあ。

 

(二ページにわたる考察と愚痴が記されている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読まなくてもいい人物紹介。

 

美上さん

主人公。種族はサキュバス。

銀色の長い髪が綺麗。肌も綺麗。顔も綺麗。スタイルも良い。サキュバス全員に言えることだけどとにかく可愛い。

チャームはエロ漫画の催眠をイメージすると分かりやすい。

目があっただけ、声を発しただけでチャーム出来るので実はそういう経験はサキュバスの癖に皆無。恋愛クソ雑魚。

 

モブ男

ヒロイン。種族は人間。名前はまだない。良いのあったら教えてほしい。

美上さん曰く脇役っぽい顔。性格は真面目な方。

入学して直ぐに美上さんに惚れた。でもある日「直ぐに魅了される男なんか都合のいい召使いでしかないわ」と美上さんが言っているのを聞いて必死にチャームに抗うようになる。すると美上さんの傍若無人っぷりが分かったのでやめさせたいと思ってる。

チャーム?んなもん気合いで乗り切るんだよ。

最近の悩みは治療費。




思いついたら投稿するスタイル。
次は夏休み中のことでも書こうかなと思ってます。
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