とあるサキュバスの日記   作:とやる

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14ページ目 『性癖』

『未だ人気の衰えないサキュチューブ』

 

『今朝はそんなサキュチューブの魅力について迫っていこうと思います』

 

 朝ごはんを食べながら見ていたテレビでは、女性アナウンサーが真面目な顔をしてそんなことを言っていた。

 

 サキュチューブ。

 それは大手動画配信サイトの名前だ。

 

 元々は別の名前だったんだけれど……サービス開始しばらくしてサキュバスに目をつけられて実質無料エロ配信サイトになってしまい、健全な運営をしたかった企業側は徹底したエロアカウントの削除を行ったけど、それでエロ目的の利用者が消え、しかもその頃には世間的な認識が完全にエロ配信コンテンツだったので必死の再アピールをしても利用者が増えず……。

 最終的にサービスを一新することになり、そうしてできたのがサキュチューブなのよね。

 

 完全会員制の年齢制限あり。

 その代わり他サイトと比べてやれることの幅が段違いに広い。

 どれぐらい広いかというと、サキュバスの間でアカBANRTAが流行ったぐらいにはいろいろできる。

 伝説のサキュチューバーBeautifulOne通称BOの三時間半は未だ誰にも破られていない。違反行為をしていないのにエロすぎるから即BANされたサキュチューバーは後にも先にも多分この人だけでしょう。まあ、私はその動画見たことないしあまり興味もないけどね。

 

「あら、そういえば」

 

 私の対面で同じように朝ごはんを食べていたお母さんは言った。

 

「お姉ちゃんがサキュチューブで配信始めたって言ってたわね」

 

「………………」

 

「あの子、昔から色んなことやりたがるのよね〜」

 

 インドア気質のある私と違い、お姉ちゃんは結構活発的だ。

 体質の差……というわけではなく、インドア気質の私が相当に珍しいだけで、だいたいのサキュバスは活動的なのよね。

 休日に繁華街のほうに行けばナンパとかナンパとかナンパとかしてるサキュバスをかなり見かける。

 

「あ、今の色んなことやりたがるっていうのは、色んな子とヤりたがるっていうのとかかっててー」

 

「その上手いこと言ったみたいな顔イラッとくるからやめてくれる?」

 

 体育祭のことまだ許してないから。

 

「娘が冷たくてお母さん寂しい……」

 

 反抗期かしら……と小声で言いながらスマホを操作したお母さんは「あった、これよこれ」と私にスマホを差し出した。

 その画面に表示されていたのは……。

 

 

【露出縛りRTA! 現役JDサキュバスの音だけでイかせる音声part3】

 

 

 真顔になった。

 お母さんが再生ボタンをタップする。

 

 

『ズゾッ! ずぢゅぞぞぞぞゾッ!!』

 

 

 堪らず動画を消した。

 

「何やってんの!?」

 

 本当に何やってるの!? 

 

「何って……蕎麦を食べてるだけよ?」

 

 お母さんが動画を再生する。

 

 

『んっ、ぢゅる、ぢゅるるるるっ! ん、ふぅ、あっ、かたぁい……んっ』

 

 

「硬いとか言ってるけど?」

 

「お箸噛んじゃったのかしら」

 

「とぼけないでくれるかしら!?」

 

 これ絶対あれ……いやあれでしょう!? 

 画面に映ってるのはお姉ちゃんの借りてる部屋だけでお姉ちゃんは尻尾しか映ってないけど……いやでもこれアレでしょう!? 

 

「もうサキってば、蕎麦食べてるだけなのに大袈裟ねえ」

 

「仮にそうだとしたら食べ方が汚すぎてそれはそれで嫌なのよ!」

 

「ふぅー、サキ、蕎麦は音を立てて啜ってもいいのよ? 股間の棒と同じよね」

 

「例えが最低過ぎる!!」

 

 というかそれほぼ認めたのと同じじゃない! 

 やっぱりこれアレじゃない!! 

 

 確信を得ようともう一度画面を見てみる。

 目が止まる。

 気づく。

 あれ。

 いや。

 この配信者名。

 えっ。

 

 

【投稿者 パーペキ美少女サキるん】

 

 

 あんのクソ姉えええええええぇっ!!! 

 

「お母さんね、家族としてお姉ちゃんのことは応援してあげたい……どうしたの? 急に電話なんかして。何処にかけてるのかしら」

 

「エロ配信に妹の名前を使うバカのところによ!!」

 

 六回目のコール音で電話がつながる。

 

『ふあぁ……もしもし……どしたのサキ……こんな朝早くに……』

 

 今は七時五十分。

 早いには早いだろうけど、健全な学生が言うにはやや不健全な言葉だ。

 さっきからゴソゴソ衣擦れのような音が聞こえるし、多分まだベッドの中なのだろう。

 なんでこんなに眠そうなのかとかは意識的に頭から追い出した。サキュバスの姉の夜更かしの理由なんか考えないに限る。

 

 その後、怒った私の小言でお姉ちゃんはアカウント名を【えろえろ娘】に変えた。センスが一昔前のそれね。

 因みに、本当に蕎麦を食べてるだけだった。

 

 

『あはは、それはまだやらないよー』

 

 

 とはお姉ちゃんの談。

 私は思考を放棄した。

 

 それから一週間後。

 昼休みに何となくサキュチューブを開く。

 ブクマしていたお姉ちゃんのアカウントページに飛ぶと……。

 

「あ、消されてる」

 

 削除理由は度を過ぎた投稿。

 何やったか知らないけど、規約違反で消されなかったのなら一応RTAは完走ね。

 記録は九日。まあまあ速い方じゃないのかしら。

 

 ブクマを解除してスマホを仕舞う。

 サキュチューブの事はすっかり頭からなくなっていた。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 10月∇日

 

 モブ男どうやったら堕ちるのかしらねー。

 手を握ってもダメ、見つめてもダメ、抱きついてみてもダメ。

 二人っきりのときはいけそうな感覚あるんだけど、あるだけでいけた試しはないのよね。

 男を誘惑する方法……性癖を抑えるっていうのは常套手段の一つね。

 私レベルの美少女だとそれ自体が好みって枠組みをぶっ飛ばして惚れさせる要素になるけど、そうじゃなければ相手を好きになるっていうのは一つ一つ好きになるポイントを積んでいくものだってお姉ちゃんが言ってた。

 性癖っていうのは特別これが好きだって趣味思考。それを抑えるのはそのまま好意に転じる。

 あいつの性癖なんだろ……メイド服? でもウチにメイド服なんてないしな……。

 …………………………いや、着ないけど。前は無理やり着せられてたから、あのままだと着た損だったから有効活用しようとしただけだから。

 だいたいメイドってキャラじゃないのよね私。

 私がメイドになるよりもモブ男が私の執事になった方が……うん、そっちの方がぽいわね。これがあるべき姿よ。

 となると……あいつがよくやってる事……。

 そういえば、あいつ、いっつも怪我してるのよね。そんな毎回毎回怪我する? しかもたまに自分で自分を痛めつけたりするし……あれ間近で見るとちょっと怖いのよね……。

 ……ん? もしかしてあいつ痛いの好きなのかしら。

 だって、そうじゃないと普通は怪我を避けようとするはずだし自傷なんて絶対やらないし……。

 ええ……? あいつそんな趣味があったの……? 

 

 10月◎日

 

 今日は学校が休みなので「痛いの好きなの?」とメールで聞くと「嫌いだよ」と返ってきた。

 あれー? 

 痛みは嫌いだけど痛い事はするの……? 

 え? なんで? 

 分からない……お姉ちゃんに訊けば分かるかなと思ってお姉ちゃんに「痛い事を自分にする人ってどんな人?」って訊いてみた。「それはドMね」って返ってきた。

 モブ男ドMだったんだ……。

 

 

 10月‰日

 

 家に手錠と鞭があったので(何であるかは考えない)ので学校に持っていった。

 誰かにバレないように布袋に入れて鞄の底に沈めて。

 全く……モブ男も度し難い性癖を持ったものね……。それを満たしてあげようとする私に平伏して感謝しなさい。靴なら舐めさせてあげてもいいわよ。ドMってこういうの喜ぶのよね? たぶん。

 そこで気がついた。

 どうやって手錠すればいいの……? 

 

 

 10月◇日

 

 手錠を探してたお母さんに借りてる事を伝えると「じゃあそれもってていわよ〜」と。なんで探してたのかは全力で思考放棄した。

 でもそうね……目隠しはいいアイデアだわ。

 

 

 10月*日

 

 でもやっぱり手錠をするタイミングが……。

 男はどうにでもなる。チャームすれば記憶はどうにでもなるし、なんなら見せないようにもできる。問題は女だ。流石に私もモブ男に手錠かけて目隠しして鞭でぺちぺちするところを見られるのは困る。

 写真なんて撮られたらもう戦争だ。中学のときの二の舞は流石にごめん被るのよね。

 理想は誰もいない場所。それでいて、そこにモブ男が絶対にいること。次点で男はいるけど女は絶対に居ないし来ない場所かな……。

 そうなると候補は限られてくる。

 ……そういえば、明日、体育があったわね。

 ……使えるわね、これ。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 まず鼻腔に飛び込んできたのはムワッと鼻につく汗の臭い。

 遅れて、制汗剤混じりの淀んだ空気が肌を撫でる。

 頭がくらっとして頭の中の何かが理性を一瞬外しそうになった。それを過去の記憶が雁字搦めに押し込んで、私はチャームを使った。

 

 私が現れたことに驚いていた男たちが一斉に口を閉じ、手早く制服を着て立ち去っていく。

 後には、お互い体操服のままの私とモブ男だけがそこに残った。

 

 ここは男子更衣室。

 モブ男が目を丸くして私を見ていた。

 

「え、なに? どうしたの……? というか、ここ男子更衣室……え? 美上さん? なんで?」

 

 だいぶ混乱している様子。

 まあ、それも仕方ない。私だって女子更衣室にいきなり男が現れたら即チャームして記憶消す。

 でも、今はその混乱が都合が良い。

 

「目を閉じて」

 

「えっ?」

 

「目を閉じて」

 

「なんで……」

 

「いいから」

 

 訳も分からないままモブ男は目を閉じた。

 ……ふふ。こいつのこういうやけに素直なところは、正直嫌いじゃない。

 布袋から細長い布地を取り出しながら、モブ男の背後に。

 ……無駄に背高いのよね、こいつ。手が届かないわ。

 

「しゃがんで」

 

「待って待って、状況が分からない。一回説明してほしい」

 

「全部終わったらしてあげるから、しゃがんで」

 

「……これでいい?」

 

「ん。いいわよ。目、開けたら許さないから」

 

 手ごろな高さに来たモブ男の頭に取り出した布を、目隠しする様に巻いていく。

 これでモブ男の視界は完全に覆われた。今目を開けても布の裏地しか見えないだろう。

 

「これ目隠し……?」

 

 モブ男の独り言を無視して今度は正面に。

 布袋から手錠を取り出し、手首につける。

 

「冷たっ。あれ、これ、え? 手錠……? え?」

 

 面白いぐらい動揺してるわね。

 珍しい姿にちょっとクスッとなった、次の瞬間。

 

「ふっ! …………っ! は、ふぅ。最悪力づくで取れそう」

 

 ギチギチギチギチ! と、悲鳴のような音を上げて手錠が軋んだ。

 ええ……。

 

「それステンレス製なんだけど……」

 

 錆防止で合金とはいえドン引きよ……。

 

「あ、ごめん、壊したらダメだよね。いきなり手錠されたから驚いちゃって……ってそうじゃなくて! なんで僕目隠しされておまけに手錠までされてるの!? 僕何されるの? ちょっと冷静になってきたけど何この状況!」

 

 まあ、終わったら説明してあげるって言ったし、説明してあげましょうか。

 素直に従ってもくれたわけだしね。

 

「ほら、あんたドMじゃない」

 

「………………え? それだけ? 説明それだけ? 前提が大暴投してる上にそれだけの理由で僕は今こんなことになってるの?」

 

「嬉しいでしょう?」

 

「あらぬ勘違いからのめちゃくちゃな押し付けが来た! 気付いて! それ殆どいじめの理論だよ美上さん!」

 

 失礼ね、私はあんたを思ってやってるのに(自分のため)

 持参した鞭でペチっとモブ男の足を叩く。

 

「うわっ! 何これなんか今足のところぬめってした! 何これ!? 何これ美上さん!?」

 

「鞭よ」

 

「鞭!? なんで!?」

 

「ほら、あんたドMじゃない」

 

「それで全ての説明ができると思ったら大間違いだよ!? あと違う!」

 

 いやそんなこと言われてもねえ……。

 あんたの常日頃の様子がねえ……? ネタは割れてるのよ、素直に認めたらどうなの? 

 

「ドMのあんたの性癖を満足させてあげるわ。だから、安心してチャームされなさい」

 

「ぐっ、うう……! んんんっ!! いきなり人を目隠して手錠して鞭で打ってくるサキュバスにチャームされて安心できるわけがない……! というか、これ、僕をチャームするための……!」

 

 うるさい。

 私はペチっと鞭を振るう。

 

「ぬわっ! なんだろう、この、なんとも言えない絶妙な力加減は……! 痛くないから鞭の感触だけがダイレクトに伝わってきてなんか気持ち悪い……!」

 

「いや、だって、あんまり思い切りやると痛そうじゃない」

 

「その気遣いがあってなんでこんなことになってるのか気になるかな……!」

 

 気遣ってるからこうしてるのよ。

 ほら、ぺちぺち。

 

「やばい、なんかぞわぞわする……!」

 

「語るに落ちるとはこの事ね。やっぱりドMじゃない」

 

「これは違うからね!?」

 

 モブ男の声には若干の焦りが見える。普段より少し声が上ずってる……のかしら。

 焦るって事は、やっぱりそういうことよね? 

 

 でも、なんだろうこれ。

 目隠しして、手錠を壊さないように力抜いて、口は出すけど動かずにじっとしてるモブ男を鞭でぺちぺちすると、私もなんか変な気分になってくるというか……。

 なんかイケナイ気持ちになるというか……新しい扉が開くというか……。

 

「はぁ……はぁ……、なんで、今日はこんなに……、チャームが強い……流石におかしい……! ぐっ……! あああっ! 目隠しとりたい!」

 

 モブ男が頭をぶんぶん振って目隠しを振り落とそうとする。

 ちょっとちょっと。

 

「取ったらダメよ」

 

「!?」

 

 なので、動けないように頭を押さえ込んでやった。

 後頭部に手を回して、そのまま胸元に抱き込んでやると、モブ男はすぐに大人しくなった。

 ん、ちょっと擽ったいわね。

 

「──はっ! ちょっと待って、待って美上さん、これダメだ、本当にダメだから! なんか今日本当におかしい! なんかした!?」

 

 が、直ぐにサッと振り解いて距離を取ってしまう。

 その際に目隠しをしてるがためか、躓いて尻餅をついてしまうが、モブ男はそんな事には気付いてすらいない様子で、手錠をされた両腕を前に突き出して。

 それは私に近づくなと言っているようで。そう懇願しているようで。

 普段は見上げているその顔を見下ろしている私の嗜虐心が疼く。

 

 ああ、なんだろう、この気持ち。

 なんで、こんな、こんな──。

 

 ────もっと、イジワルしてみたい、だなんて。

 

「──何が、ダメなの?」

 

「うぁ!?」

 

 ゆっくりと足音を立てないように側に回り込んで、耳元で囁く。

 びくりと体を大きく震わせたモブ男が弾けるように後ずさって、衝突したロッカーが大きな音を立てて揺れた。

 その姿が可笑しくて、可愛くて、愉しくて、心が震える。

 頭に霞がかかっていく。頭の奥の方で何かが弾けようとしている。押さえ込もうとする理性を振り切って、ずっと縛り付けていたナニカが待ち侘びたとばかりに咆哮をあげようとしている。

 でも、私にももう、それを気にする余裕もなくて。

 

 私は、焦りのあまり手錠を引き千切って逃げようとし始めたモブ男に手を伸ばし──。

 

 

『非力な僕に力仕事だなんて……これが支持率ぶっち切りの一位で会長になった男のする事かい? 悪逆非道にも程があるってものだよ。再選を要求しよう』

 

『再選しても全校フリーセックスの馬鹿げた指針で当選するわけないだろう支持率最下位の副会長。いつまでも文句言ってないでやる事ちゃっちゃっとやるぞ』

 

『フっ、セックスって言うときに照れて顔を背けるの、情けなくて僕は好きだよ。キスしたくなる。──まだ、慣れないのかい?』

 

『うるせえよ。お前たちがおかしいんだからな? お前たちがおかしいんだからな? 二回言ったぞ。三回目も言うな。お前たちがおかしいんだからな?』

 

『僕から全力で距離を取って吐く強い言葉、あまりの滑稽さに流石の僕も失笑を禁じ得ないね。フッ、そんなに僕にキスされたくないのかい? 少し傷ついてしまうよ』

 

『そうしねえとお前俺をチャームして逃げるだろうが。前科何犯だと思ってんだとぼけんな』

 

『フッ』

 

『言葉に詰まったら意味深に笑って誤魔化すのウケるよな』

 

『……』

 

『おっと! チャームはされないぜ。お前に触れなきゃ大丈夫だからな! 俺が何のためにボクシング齧ったと思ってやがる。俺は絶対にお前に負けないからな』

 

『……本当に、彼女たちが羨ましい限りだよ。ユキさんの気持ちが今ならよく分かる』

 

 

 ──ドアの外で、声が聞こえた。

 

 それはどんどん大きくなって……って、もしかしてここに来る!? 

 会長!? 副会長!? ってことは、ここに来るの生徒会の人!? 

 男だけならチャームで何とかなった。でも、声からして男女の二人……女はまずい! チャームできないから、男子更衣室にいる所を見られたら誤魔化しようがない! 

 しかも、私は以前水妖精に言われたように女受けは最悪だ。それは自覚がある。だから、これは本気で不味い。

 このネタを理由に何をされるか分かったものじゃない。

 

 見つかったらやばい! 

 

 ここの出入り口は一つだけ、あそこは使えない、窓は小さすぎて無理、後はあとは……! 

 

 冷や水を浴びせられたように謎の高揚感から正気に戻ってきた理性がとっさに私を動かした。

 手近なロッカーを開けて、そこに飛び込む。

 

 ──誤算があったのは。

 

「──え、ちょ、きゃあっ!」

 

「つっ」

 

 モブ男も、音を頼りにしたのか私と同じロッカーに飛び込んできたこと。

 

 そして、ロッカーが閉まるのと更衣室のドアが開くのは全くの同時だった。

 

「ん? なんか音しなかったか?」

 

「気のせいじゃないかい? 今は昼休みだしここを使う生徒はいないさ」

 

 ばくんばくんと心臓が早鐘を打つ。

 早鐘どころじゃない。爆発しているようだった。

 

 狭いロッカーの中に。

 薄手の体操服のまま、互いの体を押し付け合うように。

 

 私の顔の正面に、目隠しをしたままのモブ男の、顔が。

 

「──んぁ、ちょっと、どうして、あんたはあのままいれば良かったじゃない!」

 

 ここ男子更衣室なんだからあんたがいるのは可笑しくもなんともないでしょう!? 

 弾けそうだった頭の中のナニカを必死に縛り付けて小声で問い詰めれば、同じく小声でモブ男が言う。

 

「いや無理だよ! 僕今手錠に目隠ししてるんだよ。変態じゃないか!」

 

「変態でしょ!」

 

「理不尽すぎる!」

 

「ゃっ、ちょっと、あまり、動かないで、擽ったいのよっ」

 

 モブ男の吐息が首筋にかかって、背筋がゾクゾクするような擽ったさを感じる。

 それに、ロッカーの中狭いから、しかもこんなに近いから、私の匂いに混じってこいつの臭いが、して、体の感触とかも、これ、これ……。

 

 

 

 ──────あ、これやばい。

 

 

 

 心臓が、爆発し続けているようだった。

 頭の奥の方で、止まれと叫ぶ私がいた。

 ずっとソレを抑え続けていた、封印していた鎖に、ヒビが入るような音がした。

 そんな音が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 読まなくてもいい登場人物紹介。

 

 Q.美上さんなんでサキュバスらしくないの? 

 

 A.サキュバスらしくはある。小学生の頃のトラウマが在り方をねじ曲げただけです。

 

 Q.それがなければ普通のサキュバスと一緒なの? 

 

 A.一緒です。

 

 Q.じゃあ、今までひたすら抑え付けられてた普通のサキュバスらしさってどうなってるの? 

 

 A.勘のいいガキは嫌いだよ。




堕ちれば終わりを迎える関係がある。
実れば潰える想いがある。

なぜなら、二人の繋がりは。

あんた(君)が振り向かないから始まったーー。
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