ぴゅうっと吹く木枯しに冬の臭いを感じるようになってきた。
突き刺すような寒さとはまでは言わないけれど、肌を這ってくるような冷たい空気が立ち込めているような気がする。
防寒具を着込むとちょっと暑くて、でも着ないと少し身震いしてしまうような、そんな絶妙な気温だ。
こういう時はお家でゴロゴロするに限る。
そんなわけで私はリビングのソファーに寝っ転がってぐでーっとしていた。
「テスト終わってからずっとそれね……。休みの日ぐらいナンパしたらどうなの」
「娘にナンパを勧める方がどうなのよ」
ナンパされるのを心配しろ。
「そういうお母さんも最近はずっと家にいるじゃない。その雑誌……ファッション紙? ずっと読んでるみたいだけど」
「いや、これエロ本よ」
「ああ、エロ本なのね……そんなものリビングで読まないでくれるかしら!?」
「親子丼って一回くらいやってみたいと思わない?」
「しかもそれ母娘ジャンルなの!? 娘の目の前で何んてもん読んでるのよ!!」
「あ、そうだサキ、私、娘が生まれたらやりたいことがあったのよ」
「親子丼って言ったら絶縁するわよ」
「親子ど……うしの触れ合いの時間をね?」
「…………………………ぺっ」
「娘に唾を吐かれた!?」
よよよ、と泣き崩れたお母さんはしばらくメソメソした後、飽きたのかクッションに腰を下ろした。
「ねえ、まだ怒ってるの? 体育祭の時のこと」
「当たり前でしょ」
思い返すのは二ヶ月ほど前のこと。
あの体育祭のとき、お母さんは私のチャームの影響下にあった男の支配権を強引に奪い取った。
サキュバスにとってそれは所有物を横から掻っ攫われるのに等しく、ゲームに例えるのなら端末を奪われ、集めたアイテムを目の前で捨てられていく行為。
要はサキュバス界の屈伸煽りレベルでイラつくものだった。
「ごめんなさいって謝ったでしょ」
「謝って済むなら警察は必要ないわ」
「そうね、お母さんが間違ってたわ。じゃあ今からセックスしましょう」
「それで済む警察は間違いなく要らないわよ!?」
「あ、因みにお母さんこの街の署長さんとメル友よ」
この街の治安は腐っていた。
「もう……これが反抗期かしら……お姉ちゃんは無かったから分からないわ」
「お姉ちゃんは年中発情期だからでしょ」
「人型は全員そうなんだけど……もう、そんなにつっけどんしないの。理由は説明したでしょう?」
「その理由に納得いかないって言ってるの!」
「あのね、サキ。昔から口を酸っぱくして言ってるけど、本気でチャームを使っちゃダメだって約束したでしょう? その約束を破ろうとしたのは誰?」
「娘を襲って足腰立たなくさせた状態で無理やりした約束を盾にお説教って親として恥ずかしくないの?」
「そんなこと言ってても律儀に守ろうとする姿勢はあるサキがお母さんは好きよ。優しい子に育ってくれてありがとうね」
「む、むかつく! 普段あんなんなのにここぞとばかりに親面してきた!」
怒りのあまり思わず体を起こしてしまった。
お母さんの顔が視界に入る。
頬を窄ませて唇を突き出していた。
「じゅるじゅぼぼぼぼぼぼ」
「おらぁ!!!」
「おっと」
やばいつい手が出た。
躱されたけどこれは仕方ないと思う。
ダメだ全然気持ちが治らない。もう一発いっとこう。
「このっ、逃げるな!」
「遅い遅い、そんなスローペースじゃ出るものも出ないわよ! 焦らしてるつもり?」
だめっ! 当たらない!
暫くソファーの周りをぐるぐると周りながらお母さんを追いかけて、体力の尽きた私はそのままソファーに倒れ込んだ。
くそう……なんでこの中年こんなにエネルギッシュなのよ……。
「ふぅ、良い汗かいたわ」
「ぜぇ……ぜぇ……いつか絶対理解せてやる……」
「どっちかというとサキは理解せられる側だと思うわよ」
息も絶え絶えな私と違い、お母さんはまだまだ余裕そうで呼吸も落ち着いていた。
疲れた分だけ溜飲は下がったけど納得はしていない。だけどもう動けない。
息を落ち着けながら、愚痴るように私は溢した。
「いつもいつもお母さんはそればかり……。何よ本気で使っちゃいけないって……それなら、理由ぐらい教えてよ……」
私が本当に小さな頃からずっと言われ続けていた。
ただ、本気で使っちゃいけないって。
サキュバスにとってこれは生まれ持ってあるものだ。呼吸と同じくらい自然な体機能の一部としてあるものだ。
私にとってそれは、健康な脚のある人間に絶対に走るなと言われているようなもので。
頭ごなしに言われただけでは、到底納得できるものでは無かった。
「……これも、もう、何度も言ってる事だけどね」
だけど、お母さんは絶対にその理由については教えてくれなくて。
「サキは本気でチャームを使っちゃダメ。少なくとも……大勢の前では、絶対に」
そうして、決まって最後にこう言うのだ。
「納得できなくても良い。私を恨んでも良い。でも、これだけは信じて。お母さんは、娘に幸せになって欲しいのよ」
押し付けでもなく。無理やり言い聞かせてようとしているわけでもなく。
その声が、その目が、どうしても娘の先行きを案じているようにしか見えなくて。
「……頭の片隅に置いておくぐらいはするわよ」
その"お母さん"の言葉に、私はいつも根負けしてしまうのだ。
☆☆☆
11月¥日
本格的に寒くなってきた。
制服をすっかり衣替えをして冬服だ。露出が減った事で男たちは残念がっていたけど、私としてはこっちの方がやっぱり落ち着くのよね。
最近はみんな文化祭の話題で持ちきりだけど、正直あんまり気乗りしない。
体育祭のときもそうだったけど、学校外から人が来るイベントのときって声かけられまくって鬱陶しいことこの上ないのよねぇ……。
……と、いつもの私なら言ってるんだけど。
うちの学校の文化祭は12月24日、つまりクリスマスイブにある。
一年で最もセックスされてるらしい性の6時間が直前に控えた文化祭ってわけで、文化祭前から告り告られと学校中がピンク色になっていき、当日にはお相手が出来ている場合が殆どなのよね。
文化祭直後の高揚した雰囲気のままそのままホテルに……っていう黄金パターンがあるので、お姉ちゃんが三年生のときに遊びにいったときもあまり私に声をかけてくる男もいなかった。
それに、体育祭のときのように体をはってしんどい練習があるわけでもないし、クラスの出し物ってやる気のある人たちが毎回勝手に張り切ってやるものだし。
気ままにお祭りを楽しめる機会なんて滅多にないから、私にしては珍しく、少し楽しみだ。
でもどうしよう、友達と文化祭を周るのなんて初めてだから不安だ。お姉ちゃんの漫画で文化祭の予習をしておこう。
11月+日
さて、文化祭というのは実に都合がいい。
今の時点で学校は恋人ブームが来てるってレベルで、至るところで誰と誰が付き合ったとかどうだかの噂が耳に入る。
私が告白される回数も激増してるけど、大事なのはこの雰囲気。
恋したい空気が学校に蔓延しているのなら、モブ男だってきっと……!
……と、期待するほど私も学習能力がないわけじゃない。
あいつは何もしないでしょ。空気に当てられて私に告白してくる事もなければ、チャームにかかるわけでもない。もう、それぐらいはあいつの事を分かってる。
やっぱり私から仕掛ける必要があるのよねぇ……。
でもなんだろう、この、もう私から何かをやって成功する未来が見えないというか、なんというか……。
6月から半年何やってもダメだったし、もうダメなんじゃないかって思う時は正直あるのよね……。
……ああ、だめだ。
この事を考えると、胸の辺りがずきずきする。
上手く考えがまとまらない。今日はここまでにしとこう。
11月%日
弱気になるな私。
私はサキュバス。誰もが振り返る美少女。
私にオトせない男はいない。そうでしょう。
絶対にモブ男だって振り向かせて見せるんだから。
11月〒日
私が知ってるあいつの事を纏めよう。
敵を知り、己を知れば百戦危うからずと昔の人は言った。
私は、もっとモブ男の事を知らないといけない。
モブ男まとめ。
・チャームが効きにくい(効かないわけではない)
・人間ではあり得ない回復力(見た目は人間)
・人間にしては異様な運動能力(特に昔から運動してるわけでは無いって言ってた)
・交友関係は広い(特に白狼と仲が良い)
・透けブラが好き(チラリズムに弱い?)
・体つきはガッチリしてる(抱き付くと安心感がある。特に腕が良い)
・バイトをしてるので何か学校行事が無いと放課後は捕まえにくい(これのせいで何回か機会をふいにしたのよね)
・いつもニコニコしてる(何がそんなに楽しいか知らないけど、思い出すあいつの顔は笑顔が多い……気がする)
・特殊な性癖は無さそう(暫定)
・服がダサい(ファッションセンスはないというよりは、無難を選び過ぎて逆に野暮ったくなってるのよねあいつ)
・失礼だし気が利かないことも多いけど何だかんだ私を気遣ってくれる(……まあ、優しいのよね。誰にでもだけど。ふん、あんなに人の顔色を伺って楽しいのかしら)
・何かと水妖精の味方をする(……ふん!)
・モブ男と出会ってから、私が困ってるときはいつも助けてくれる(……ふん!!!)
・度が過ぎるほど物事に入れ込む(努力家、というには病的過ぎる気もする。普通の人間なら絶対に壊れてる)
・好きな食べ物は特にない(まあ、あっても私料理できないから意味ないけど)
・好きな女の子のタイプは私! (絶対そう!!!!!!!!!!!)
11月○日
先日の日記を読んだ。
やっぱり、おかしいと思った。
すなわち、モブ男は本当に人間なのか。
考えなかったわけじゃない。でも、おかしいのだ。
種族性は絶対に外見に出る。ここに例外は存在しない。
私ならツノと尻尾、妖精なら髪色と細長い耳、獣人なら獣耳に各部位の特性といったように。
モブ男の外見は人間のそれだ。それは間違いない。間違いないけど、私が見てきたモブ男は人間に出来る事を逸脱していた。
何度も何度も確認してるけど、そもそも人間の男が私のチャームに抗える事が絶対的におかしい。
何かが致命的に狂っている、そんな気がする。
まるで、外側だけが人間で、中身が別の何かになってる、そんな気がする。
あいつは自分を人間だと言った。信じて欲しいと言った。
私はそれを信じる。信じる、けど。
人間に許される範疇を超えているのはモブ男だって分かってるはずだ。
……あいつは自分の事を、どう思ってるんだろう。
11月$日
何日も何日も考えても埒が明かない。知恵熱が出そうだからもう考えるのやめた。
ま、結局あいつが男だって事に変わりはないんだし。
人間だろうがそうでなかろうが私には関係なかったわね。ふん。
ちょっとぐらい変な人間がいたからって何よ、性別が雄ならサキュバスの掌の上よ。
私とした事が、らしくない事を考えてたわね。
あいつは自分を人間だと言った。私はそれを信じると決めた。
じゃあもうそれで良いのよ。はいもうこの事で悩むのやめやめ。
11月*日
近々文化祭の出し物決めがあるらしい。
まあ、私は文化祭を弓森さんと周りたいので積極的に関わるつもりはないかな。
でも弓森さんは多分クラスの中心で頑張るだろうから、手伝うくらいなら、まあ。
どうせモブ男も頑張っちゃうんだろうし。
……文化祭準備を頑張るモブ男を労う後輩系で行ってみるか?
11月〆日
劇の主役にされた……。
☆☆☆
昔々あるところに一人のサキュバスがいました。
サキュバスが生まれたのは深い森の中。豊かな自然だけがサキュバスの友達でしたが、サキュバスはいつも寂しい思いを抱えていました。
そんなある日、サキュバスのもとに一人の男の子がやってきました。どうやら、迷子になってしまったようでした。
サキュバスはその男の子を森の出口にまで連れて行ってあげました。
そうして、二人は友達になったのです。
それからの毎日はとても楽しいものでした。
男の子はあれから頻繁に森に訪れては、サキュバスと日が暮れるまで遊んでいました。
二人はとっても仲良しでした。
サキュバスは、男の子といる時間だけは寂しさを感じることもありませんでした。
出会ってから暫くして、二人は街に出ました。
男の子はずっと森で暮らしてきたサキュバスに、人の街を見せてあげたかったのです。
どんっ。
初めての人の街にはしゃいでいたサキュバスが大人の男性とぶつかってしまいました。
男の子がすみませんと頭を下げます。どうか許してください、と。
けれど、待てども待てども返事は来ません。
男の子が恐る恐る目を開けると、男性はサキュバスに跪いていました。
まあ、何という事でしょう。
サキュバスには、男性を思いのままに従える力があったのです。
サキュバスは次々と男性を従えて行きました。
幸せな家庭の父親を。
明日結婚式を控えた新郎を。
仲睦まじい恋人の彼氏を。
沢山の男性を従えたサキュバスは男の子に言いました。
「私が貴方の願いを叶えてあげる」
男の子は言いました。
「貴方の役に立てる事が僕の願いです」
あれ?
サキュバスはおかしいなと思いました。
けれど、そんな疑問も直ぐになくなります。
男性は自分のために存在しているのだと、信じて疑っていませんでした。
サキュバスは沢山の男性を支配してサキュバスの国を作りました。
そこには、何処からやってきたのかサキュバスが他にもいっぱいいました。
サキュバスの国では男性は休む間もなく働かなければなりません。
体はみるみるやつれ、死んでしまう人もいました。
世界中をサキュバスが支配しようとしていました。
けれど、女性たちは立ち上がりました。
サキュバスの国と戦い、愛する人を取り戻したのです。
サキュバスに負けない真実の愛を取り戻した彼らは、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
「──というのが、私たちの文化祭での出し物である創作劇の原作『愛染めの誓い』の内容だよー」
教卓で絵本を広げている弓森さん。
私はそれを、ぶすっとした顔で見ていた。
「嫌だって言ったのに……」
劇をやるのはいい。文化祭で何をやるかは自由だ。
劇の原作がサキュバスの絵本なのもまだいい。童話でかなり有名な絵本でもあるし、何を題材に劇をやるかもある程度自由であるべきだ。私がサキュバスだからって目くじらを立てるほどの事でもない。
でも、そのサキュバス役に私をキャスティングするのはどうかと思う。
「原作だと捕まったサキュバス殺されるの知ってるのかしら……これ虐めじゃない? そっちが多数決を盾に押し通すなら男を全員チャームして覆しても許されるわよね? 民意は私にある」
「独裁者みたいな事言い出した」
「数の暴力でいたいけな女の子に嫌がる事を無理やりやらせるのといい勝負だと思うわよ」
「まあまあ……気持ちは分かるけど、これ創作劇だからそのまんまってわけじゃないし、弓森さん脚本を任されたからにはハッピーエンドにするって張り切ってたよ」
私の隣で困り顔のモブ男が苦笑する。
「ハッピーエンドね。絵本だって一応悪いサキュバスをやっつけてハッピーエンドなんだけど?」
「弓森さんはそんな結末にしないと思うけど……」
「は? あんたに弓森さんの何が分かるわけ? 知ったかしないでくれるかしら。弓森さんならサキュバスも誰も幸せになる最高のハッピーエンドにしてくれるに決まってるでしょ」
「うわ面倒くさい」
「というか、あんたが私をサキュバス役に推してたの知ってるわよ。嫌がる女の子を? 無理やり?」
「人聞きが悪い言い方はやめて。でも美上さん、よく考えてみてよ。他の誰かが最も美しいサキュバス役やってもよかったの?」
「私より美しいサキュバスがいるわけないでしょ」
「え、ああうん、僕は美上さんのそういうところ嫌いじゃないよ」
決まった経緯、というほどの物でもないけど。私が主役をやることになった理由は種族の一致というのもあるだろう。
そして、その愛染のサキュバスの触れ込みが世界で最も美しい女。
まあ、確かに。私じゃないとこの役は出来ないでしょうね。
だって私美少女だし!
そんなわけで、渋々私は劇の主役をやることになったのだった。
「……まあ、でも。美上さんの気持ちも分かるんだよね。これ、原本はとても悲しいお話だから」
ポツリと、モブ男が溢した。
「……なに、あんた知ってるの?」
「まあね。……終わるしかなかった一つの恋の話。誰にも証明出来なかった想いの話。染めることでしか愛を確認できなかったサキュバスの物語。色褪せるわけじゃない。風化して行ったわけじゃない。ただ、ある瞬間を境に失くなってしまう思い出の残骸に縋り付く、そんな話だ」
「……そうね。ま、でも関係ないわよ。だってこれハッピーエンドにしてくれるんでしょう? それに童話は所詮童話よ。現実じゃないし、何より童話のサキュバスと現実の私は別人なんだから」
そもそも。
「童話のサキュバスより私の方が絶対美少女だから」
「うわぁ、すごい自信だ。でも、僕もそう思うよ、美上さん」
そう言って、モブ男はふにゃりと笑って。
「童話のようにはならない。させない。絶対に……」
瞳の奥に決意を滾らせ、己の掌を見つめていた。
……え、あんたそんなにこの劇に入れ込んでるの?
"ガチ"度が高すぎないかしら……何事も真面目に取り組もうとするやつは加減を知らないのよね……。
……あれ?
そういえばクラスのみんなもやる気になってる気がする。
それはいい。それはいいんだけど。
これ、もしかして、主役の私は劇での出番も多いだろうから、練習にずっと出ずっぱりで……ひょっとしたら体育祭のときレベルで居残り練習に小物製作とめちゃくちゃ忙しいのでは……。
当日も劇なら公演回数を分けるだろうし、そうなると私が弓森さんと文化祭を回る時間はいったいどうなってしまうのか……。
………………………………。
やっぱりなし! ちょっと待って! 劇は嫌! やめよう!!!
ねえってば!!!
☆☆☆
12月☆日
却下された。ぴえん。
12月♪ 日
練習が始まった。
体育祭を乗り越えた私の体力なら余裕だろうと思ってたのに、きつい。
セリフ覚える量多すぎるのよ……一冊の本を丸暗記しろって言われてるようなもんよこれ……。
でも、弓森さんの脚本は良かったわね。
ちゃーんとみんな幸せになる、そんなハッピーエンドだ。
粗を探せば多少の強引さは目立つけど、それで救いのある話になるのならそっちの方が断然良い。私好みのお話だ。
というか弓森さんの脚本にケチ付ける奴がいたらチャームしてぶっ倒れるまで校庭を走らせてやるわ。
まあ、でも。
最後の……はちょっと……なんというか、ねえ?
胸のあたりがむずむずする……こそばゆいというか、恥ずかしいというか……。
私これ演じるの……? ううん……。
現実にはこんな事あるわけないから逆に創作の虚構だって分かるんだけどそれでも……うーん。
愛が魅了の支配を乗り越えるなんてこと、絶対ないのに。
12月→日
……なんだろう、これ。
サキュバスと出会う少年役がモブ男。それはいい。
脚本が脚本だから、モブ男と……その……恋人みたいに、演じるのギリギリいい。
でも、どうして私の胸はこんなに痛くなるの?
病気なのかもしれない。今度病院に行こう。
12月¥日
あんのヤブ医者め!!!!!!
此処らで一番大きな病院だからって調子に乗ってるわねぇ!?
しかもネームプレートが水澄って絶対水妖精のお父さんじゃないのこれ!!!!!!!
髪色が燻んだというよりは痛んだ灰色だったから最後まで気付かなかったじゃない!!!!!!!!
やっぱり水妖精はだめね! 面の皮が厚い恥知らずの一族だわ!!!!!!!!
12月$日
劇の練習もしんどいけど、何より劇で使う衣装や小物作りが面倒くさい。
美術班が人手不足って言われても、私そんなに手先器用じゃないし、裁縫なんて出来ないんだけど……。
12月€日
モブ男……お前その見た目で裁縫できるのか……。
お姉さんから教わっていたらしい。
うちのお姉ちゃんは裁縫したら布を血塗れにするから不思議な感じだった。
裁縫が出来るお姉ちゃんもいるんだ。
12月%日
戦力外通告をもらってしまった。
何よ……ちょっとほつれてるところ直そうとして全部の糸引っこ抜いちゃったりミシンでミミズがのたくったりしただけじゃない……!
……一から作り直しになったので申し訳ない気持ちはあった。
他のこと手伝おう。
12月°日
あれだけあったセリフも空で言えるようになってきた。
何事も慣れね。反復すれば大抵は出来るようになるとはモブ男の談。面倒くさいからやるのは嫌だけど、出来る様になればそれはそれで嬉しいものね……。
劇自体は順調に進んでるのだけど、美術関連の進みがどうにも遅い。振り分けられてるクラスメイトたちが悲鳴を上げていた。
手伝える人たちが居残りしてほぼクラス総出で取りかかってるけど、これ間に合うのかしら……?
12月#日
文化祭までもう日がない。緊張してきた。
何かを演じるというのは初めての経験だから、流石の私も緊張する。
私が私であれればたとえどんな場面でも大丈夫なのに。
12月○日
小道具はどうにかなったけど、衣装がこのままだと間に合わないらしい。
特に、私の衣装はほぼ確実に。
純粋に他の人より数が多かったのと、ちょっと凝ったのが原因だった。
実際に合わせながら作った方がいいらしいけど、家に持ち帰っても私は裁縫できないし、お母さんもアップリケ着けるぐらいしか出来ないんだけど……。
そんなに衣装に拘らなくても私が最高に可愛いから大丈夫って言ったんだけど、拘りだから譲れないらしい。
間に合わなかったら意味ないと思うんだけどなあ……。
12月*日
どうしよう。
明日、モブ男の家に行く事になった。
読まなくてもいい登場>人物紹介。
>サキュバス
>悪。かつてこの世界を支配しようとした。
>男の子
>被害者。かつてサキュバスに惑わされ、使役された最初の人間。
>人間の女性
>主人公。かつて愛を弄ばれ愛する人を奪われた。しかし、サキュバスを倒して真実の愛を見つけた。
>めでたし、めでたし。
へいKetsu。
サキュバス 対義語 検索。
検索結果は以下のとおりです。
インキュバス。
雄。
人間(女)。
貞操。
清楚。
恋。
真実の愛。