とあるサキュバスの日記   作:とやる

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18ページ目『サキュバスらしく』

 

 雷に打たれたような。

 頭に浮かんだのはそんなありふれた比喩だった。

 

「とある、サキュバスの日記……」

 

 一冊のノート。

 そこに記されてあるのは、私の知らないモブ男の軌跡。

 モブ男が見ていた"美上サキ"の姿。

 

 心理的抵抗感がなかったわけじゃない。

 罪悪感がなかったわけじゃない。

 だけど、私の手はページをめくろうとしていて。

 それを止めることは、できなかった。

 

 何かが分かる気がした。

 あの、モブ男の言動の理由が分かる気がした。

 間違いなく、ここにはあいつが隠していた、私に知られたくなかったであろうモブ男がいたから。

 

 ページを、めくった。

 

 

 4月11日

 

 

 一睡もできなかった。眠ってしまうことで忘れてしまうことが怖ったから。

 まだ覚えている。僕の胸の中に、あのときの情景が、感情が残っている。

 不思議な気分だ。疲労で頭がぼうっとしているからか、昨日よりは自分の状態を正確に把握できている気がする。

 

 相変わらず僕は誰のことも思い出せない。そのことについて何も思うことはない。

 ただ、彼女のことだけははっきりと覚えている。

 ……本当に、不思議な気分だ。

 

 

 4月12日

 

 

 眠らない。眠るな。

 明日学校に行けば、また会える。だって、僕と彼女は同じ学校で、隣の席だから。

 なんて声をかけよう。声をかけてもいいのかな。分からない。でも、クラスメイトってそういうものらしい。いつの間にか増えている漫画にはそう書いてある。だから声をかけても大丈夫だ、きっと。

 楽しい話をしたい。彼女に喜んでもらいたい。綺麗な彼女の、自信満々の笑みがまた見たい。

 でも、まずはお礼を言わないとな。

 忘れるな。絶対に忘れるな。僕は忘れたくない。眠るな。

 

 

 4月13日

 

 

 気付いたら保健室で寝ていた。

 前後の記憶が全くない。おかしい。人物のことは覚えていられなくても、自分が何をしたかは覚えてるはずなのに。

 僕はえっと、誰か……と一緒に教室に行って、それで……だめだ、思い出せない。

 でも、自力で保健室に来たのは間違いないそうだ。……あれ、これは誰に聞いたんだっけ。起きたとき誰かが横にいたような……考える意味はないか。どうせ思い出せない。

 

 でも、彼女のことは覚えていた。眠っても、覚えていた。

 その事に心底安堵して、胸を撫で下ろした。ほっとするって、こういう感情だったんだ。

 泣いてしまったから、どうも目が腫れぼったい。今日はもう寝よう。

 

 きっと、明日も僕は忘れない。

 

 

「……出会ってたのね」

 

 考えるまでもない。同じクラスなのだから、それが当たり前。

 なのに、私の主観においてモブ男が存在するのは6月から。

 "ほらね"と言われているような気がして、ページをめくる手を重くした。

 

 ページを、めくる。

 

 

 4月17日

 

 

 おかしい。彼女に話しかけられない。

 記憶の前後が繋がらない。なんでだ……? 

 これじゃあ、ありがとうも言えない。なんとかしないと。きっと僕のせいだ。

 

 

 4月19日

 

 

 彼女と話そうとすれば、その前後の記憶が飛ぶ。

 症状が進行したのかと思って病院で検査したけれど、そうではないらしい。むしろ、死んでいるはずの脳機能が微弱に活動し始めているとか何とか。メモに僕の主治医の方から書き置きがあったのでこの認識で間違いはなさそうだ。

 そのメモには、相手がサキュバスならチャームされている可能性が高いとも書いてあった。

 聞いたことはある。確か男性を誘惑する力のはずだ。つまり、僕は彼女にチャームをされていて、それで話しかける事が出来なくなっているということになる。

 そういうことなら、明日からはチャームされないように頑張ろう。彼女はとっても綺麗で、僕はもう彼女に恋をしてるから、難しいだろうけど。でも頑張ろう。……サキュバスについて調べておこう。

 

 

 4月20日

 

 

 心構えをしていたはずなのに、耐えるとか耐えないとかそういう認識すらなかった。

 サキュバスのチャームってこんなに強力なんだ。でも本にも個人差あるって書いてあったし……。

 でも、どうしよう。僕はこのままずっと彼女と話すことすら出来ないのだろうか。

 それは嫌だな。うん、頑張ろう。

 

 

 4月21日

 

 

 明日こそは。

 

 

 4月22日

 

 

 諦めない。

 

 

 4月23日

 

 

 痛みで意識を強く持つ作戦失敗。

 

 

 4月24日

 

 

 彼女の姿を認識して、彼女の方へ一歩足を踏み出した瞬間、一気に記憶が飛ぶ。

 授業中の記憶もないのに、何故かその日にやったノートはしっかりとってあるし、授業の内容も頭に入っている。

 ……もしかしたら、耐えるとか、耐えないとか、そういう次元の話じゃないのかもしれない。本にも淫魔の魅了には抗えないって書いてあった。

 でも、嫌だ。もう一度彼女を見たい。話してみたい。僕の中の彼女は、未だにあの日のままだ。このまま思い出にしたくない。諦めるな、僕。

 

 メモ。

 図書委員で一緒になった、水妖精の女の子。彼女の雰囲気が気になったと僕の字でメモ書きしてある。

 死ぬタイミングがあれば死にそうだと。ああ、多分僕は共感したんだろう。それは確かに、以前の僕と同じだった。

 

 

「水妖精……?」

 

 唐突に出てきた私以外の存在に目が止まる。

 日記のモブ男は私に話しかけようとして尽く失敗していた。

 この頃の私は、近寄る男がフリーならほぼ例外なくチャームしていたので、おそらくそのせいだろう。

 

 でも、それなら疑問が残る。

 モブ男をチャームすることが出来ているからだ。

 それは、矛盾。

 現在のモブ男と過去のモブ男が矛盾していた。

 

「……」

 

 ごくり、と唾を飲み込む音がした。

 緊張からか、手汗がじっとりと染み出してくる。

 

 この先に答えがある確信がある。

 なぜ、モブ男はチャーム出来ないのか。

 なぜ、モブ男はチャームされることをあんなにも拒むのか。

 

 日記の内容からも両想いだって分かるのに。

 どうして、私を振り払ったのか。

 

 今での全ての答えが、ここにある。

 

 震える手で、私はページをめくろうとして──。

 

「入るぞ。ユキカゼ、美上さん、準備が──え? 何この部屋」

 

「うひゃあわぁ!? し、シラヌイさん!?」

 

 開くドア。

 私は慌てて、隠すように日記を自分の鞄の中に突っ込んでしまった。

 

「あ、ああ。美上さんだけか? ユキカゼのやつは……いやそれにしてもこの部屋はいったい……」

 

「……ちょっとね。転んだ拍子に本棚にぶつかっちゃた」

 

「おお、ユキカゼ。それは……雑巾か。そうか、二人とも怪我はないか……? ないのか、ならよかった。……まあ、丁度いいかな。美上さん、ちょっといいか?」

 

「は、はい!」

 

「ちょっと私の部屋まで来てくれないか? ユキカゼが部屋を片付けている間にやってしまおう」

 

「……あ、採寸ですね。分かりました」

 

「ありがとう、それじゃあ付いてきてくれ。……お、そうだ。ユキカゼ、部屋にカゲがいるから手伝わせてやれ。居ないよりはマシだろう」

 

「ん、分かった」

 

 慌てて荷物を掴んで、シラヌイさんの後を追う。

 部屋から出た瞬間、入り口に立っていたモブ男と目があった。

 

「……」

 

「……」

 

 上手く、言葉が見つからない。

 ただ気まずさが募るだけの沈黙。

 一度深く息を吸ったモブ男が、笑顔を作った。

 

「……採寸、終わったら帰るよね。送るよ」

 

 取り繕った、いつも通りだった。

 

「……いえ、大丈夫。お母さんが家にいるはずだから、車でこっちに来てもらうわ」

 

「そっか。じゃあ、次に会うのは文化祭当日だね」

 

「そうなるわね」

 

「衣装はばっちり用意するから安心してね。当日、楽しみにしてるから」

 

「……あんたが作るんだから、どんなのかは知ってるでしょ」

 

「それでも、実際に着てるかどうかって違うよ」

 

 装っていた。言葉の一つ一つに、言外の意味が込められていた。

 "無かったことにしよう"。繰り返すように、そう言っていた。

 震えそうな声をぐっと堪えて、私が口を開くたびに、ほっとしたような顔を浮かべている。

 

 それが無性に、腹が立った。

 

「……何してるの、美上さん」

 

 手を握った。モブ男の困惑と怯えが入り混じったような瞳を睨み付ける。

 掴んだ手から流れてくるのは確信。

 サキュバスとして。そして、女の子として。やっぱり、この感覚だけは、絶対に間違えない。

 

 手を離す。

 無言で、背を向けた。背中でモブ男の呟きを聞いた気がした。

 

「……今まで通りは、もう無理なのかな」

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 モブ男の家で私がやるべきことが終わったあと、近くまでお母さんに迎えに来てもらい私は自分の家へと帰った。

 浅海家の人たちはお母さんにも会いたい雰囲気がひしひしと感じられたけど、丁重に断った。

 お母さんがどんな失礼なことをするか分かったもんじゃないのよね……。

 本当によく分からないけれど、浅海の家の人たちからの好感度がちょっとびっくりするぐらい高い。

 

「……」

 

 結局、日記は持ち帰ってしまっていた。

 そこに罪悪感はあれど、一度中身を見てしまっている。続きを読むのに抵抗感を感じたのは一瞬だった。

 それ以上に、私は知りたかった。

 

「……」

 

 ベッドに座って、もう一時間以上も日記を読んでいる。

 その日記には、色んなことが書かれていた。

 

 私とモブ男が出会った4月。

 "チャームに対する抵抗権"を得たモブ男の苦心が書かれていた5月。

 初めて会話するようになった6月。

 関わりが薄いまま夏休みに入った7月。

 初めて一緒に遊ぶようになった8月。

 一緒にいることが多くなった9月。

 お互いのことを少し知れた10月。

 いつの間にか普通の学生生活を送っていた11月。

 そして、12月。

 

 私の知らない2ヶ月があった。

 私の知らない6ヶ月があった。

 そして、私の知っている6ヶ月があった。

 

「……」

 

 私がモブ男に興味を持ったのは。

 私がモブ男に話しかけたのには。

 チャームが出来なかったらという理由があった。

 私の日記には、チャームが出来ないモブ男をなんとかチャームしてやろうとしていて、そして、惹かれていった私の軌跡がある。

 

 そうだ。私の半年間には理由があった。その理由が、今日の私の行動につながっている。

 だから、モブ男の半年間にも理由があったのは当たり前だった。その理由が、今日のモブ男の行動につながっている。

 

 そして、その理由が分かった。

 

「……」

 

 最後まで読み終えて、私は日記を閉じた。

 そのまま机の上に置いて、リビングへ。

 鼻歌を歌いながらお皿を洗っているお母さんの背中へ、問いかけた。

 

「お母さんは、どうしてお父さんを好きになったの?」

 

 お母さんは驚いた顔で振り返って、私の顔を見て笑みを引っ込めた。

 

「そうねえ……」

 

 流水がお皿に当たって飛び散る音がやけに大きく聞こえた。

 お母さんは、懐かしむように目を細めた。

 

「股間が大きかったの」

 

「真面目に」

 

「はい」

 

 ごめんごめんと笑いながら、お母さんは洗い物を再開した。

 そして、何でもないように、

 

「理由なんかないわよ。だって私、気付いたらあの人のこと大好きだったんだもの」

 

 幸せを綻ばせるような、そんな声音だった。

 

「それが聞きたかったの? サキがお父さんのこと聞きたがるなんて珍しいこともあるものだわ。……あ! そういうことか……安心しなさい。サキはちゃんと愛のあるセックスで生まれた子どもだから!」

 

「……別にそんなこと心配してないわよ。ていうか、娘にそういうこと言うな。どんな顔すればいいのよ」

 

「お母さん今ゴミを見る顔で見られてるんだけど。既にこういうときの顔が完成してるんだけど。これ以上を目指すの? お母さん怖い」

 

 食器を洗い終えたお母さんは水を止め、エプロンを脱いで私を抱きしめた。

 そのまま、慈しむように私の頭を撫でる。

 擽ったくて、気恥ずかしかったけれど、何となくそのままにさせた。

 あったかい。そう思った。

 

「……大きくなったわねえ。あっという間だったわ」

 

「……なによ、急に」

 

「母はね、娘の成長を感じたくなるときがあるのよ」

 

「いつも一緒にいるじゃない」

 

「それでもよ。それに、いつもはこうやって抱きしめさせてくれないじゃない。本当に大きく……大きくなったわね」

 

「胸を見て言うのやめてくれないかしら?」

 

 揉もうと手を伸ばしてきたのではたき落とした。

 

「いたた……。まあ、お母さんの惚気を聞きにきたわけじゃないでしょう。サキがなんでこんな事してるかも、お母さんだいたい分かってるわよ」

 

「……嘘ばっかり。お母さんは私の気持ち全然考えてくれない」

 

「分かってる事とそれを踏まえた上で行動するかは別じゃない?」

 

「親失格でしょうが」

 

「そうねえ……サキにとっていい母親であれたかどうかは、わかんないわねぇ……。でも、サキや……ユキの母親であれたとは、胸を張って言えるわよ」

 

 ……それは、まあ。

 なんでこんな母親なんだって悪態をつく事はあっても。

 こんな母親じゃなければよかったって思ったことは、一度もない。

 

「……ま、私から娘に言えることは、一つだけね。私も大概失敗ばかりの人生を生きてきたけれど、それでも言えることがある」

 

 お母さんの声は、とっても優しかった。

 大切なものに触れるように……けれど、その存在を確かめるようにぎゅうっと力強く。

 その微笑みには、確かな愛があった。

 

「キッカケなんて何でもいいのよ。"もし"の過程なんて全て無意味よ。私たちが生きているのは"現在"。セックスできるのも、気持ちを通じ合わせられるのも、恋ができるのも、愛する誰かがいるのも、全部。悩んでもいいわ。立ち止まってもいいわ。でも、忘れないで。私たちはサキュバスよ。……サキュバスがやる事なんて、一つでしょう?」

 

 胸の奥が、熱くなる感覚があった。

 

 ええ。

 そうね。

 

 ……そうだったわ。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 文化祭当日の朝はとても冷えていた。

 氷そうなほど冷たい空気が肌を刺してきて、防寒着なしではとても出歩けない。

 特に、日が昇ってまもない早朝ともなると尚更だ。

 

 そんな早朝の学校に私はいた。

 外気温によって冷え切った校舎の中はまるで冷蔵庫のようで、凍えながら廊下を歩く。

 

 ああもう、寒い。

 ほんと寒い。

 カイロを何枚も張ってきているのに震えが止まらないじゃない。

 

 文化祭直前ということもあり、装飾の施された校舎には数は少ないが人の気配があった。

 朝早くだというのに、校舎が開放されているのだ。

 

 なら、当然、あの人も校舎にいるはず。

 

 私の目的地。

 本校舎からすこし離れたその場所には、生徒会室というネームプレートが掲げられていた。

 

「つべたっ」

 

 金属のドアノブは洒落にならないぐらい冷たかった。

 さっと手を引っ込めて、制服の裾でドアノブを覆ってから力を込めた。

 ガチャリと、ドアが開く──。

 

「──待て待て待て待て!! お前何するつもりだ!? 何するつもりだ!?」

 

「何って……先輩を縛ろうとしただけだが?」

 

「頭おかしいんじゃないのか!? くそっ元からだった! 俺もう生徒会じゃないのにお前に頼まれて手伝いに来てんのに! ていうか頼むからその頭のおかしい服なんとかしてくれ!! なんだそのコスプレは! ハロウィンはとっくの昔に終わってんだよ!」

 

「僕の服がおかしいって……露出少なすぎってことだよね?」

 

「多すぎって言ってるんだよ!!! なんだよそれビキニアーマーか!?」

 

「ビキニサンタだよ。クリスマスだから」

 

「ドヤ顔するなぁ!! お前まさかそれで開会の挨拶をやるつもりじゃないだろうな……?」

 

「それはしないよ。寒いからね。全く、先輩は僕を何だと思ってるんだ」

 

「よ、良かった……! 我が校の風紀は守られた……! 頭のおかしいドスケベモンスターに侵略されずに済んだ……!!」

 

「だから代わりに、この全身ピチピチタイツにしようと思うんだ」

 

「もうやだこいつぅ!!」

 

「ふふ……なら僕を止めてみるかい? ほーらほーらどうした先輩、さっきから口だけでちっとも動かないじゃないか。本当は僕に拘束されたいし、僕に人前でこの格好をしてほしいんじゃないのかい? 全く、こんなスケベが前生徒会長だったなんてね。生徒たちが知ったら幻滅するだろうなあ?」

 

「お前がチャームしてるからだろうがあ!!! ぐっ……体動かねえ……!!」

 

「ふっ、無理だよ。いくら僕のチャームが埒外に弱くても、こうやって余すことなく密着した状態では逃げられない。体を動かしたくなくなってしまう。この状態を維持していたくなる。僕を膝の上に乗せたのが先輩の敗因さ。……このまま、その元気な口も塞いでしまおうか……」

 

「!? 待て、待て麗華!」

 

「……名前で呼んでくれるって約束破ったから、だめ。ん……」

 

「んーッ!?」

 

 ──ドアを開くと、発情したサキュバスと人間の痴話喧嘩を見せられた……。

 

「あのー」

 

「ん……んちゅ、ちゅる」

 

「〜〜〜〜ッ!!」

 

「あのー!」

 

「ちゅ、ぢゅるっ、れろ、んちゅ、んちゅ、んちゅう、れろ、れろ、んれろ、ちゅぅ、ちゅう、んちゅ、ちゅう、ちゅう、ちゅっ、ちゅう、ちゅう、ちゅう……」

 

「……っ、……ふぁ……」

 

「ふっ……先輩……力抜けて……可愛い……。なのに、ここはこんなに……ふふっ」

 

「ぁっ……あ、ぅ……」

 

「大丈夫……一緒に気持ちよくなろうね……せん、ぱい」

 

 ウッソでしょ!? 

 こいつらこのまま私の事ガン無視しておっ始めるつもりなの!? 

 ここ学校よ!? 今日文化祭よ!? この後この人たち大勢の前に出るのよ!? あったまおかしいんじゃないの!? 

 

「させるかぁ!!!」

 

 やるなとは言わないけど時と場合は選べ! 

 

「ん、んんんんっ!? ぷはっ、しっ、尻尾を握……っ! んぁっ!」

 

「あんたも弱かったのね……」

 

「……くっ、ふっ、なな、何を言ってんんぅ! ふ、ふふ、その手を……離しっぅぁん! ……離してくれないかい?」

 

「いいけど。生徒会長が生徒を無視して盛ってることに関して何もないの? ねえ、先輩」

 

「ふっ。正直気付いてはいたが、僕は見せつけることで興奮するタチでいひゃん! 悪かったからっ! し、尻尾はやめてくれ……!」

 

 本当でしょうね? 

 しぶしぶ離すけども。

 

「これが生徒会長になるんだから世も末ね……。どうすんのよ、前生徒会長、完全にキマってるわよ。あんたこれ中毒にしてない……?」

 

「……ふぁ……ぁ……ぅ……?」

 

「ふふ、いいだろう? もう先輩は僕なしでは生きていけないのさ」

 

「こわ……。束縛強そうだとは思ってたけど恋人になった途端これとは……サキュバスとヤンデレって最悪の組み合わせね」

 

「なに、一応先輩だって同意の上さ。僕が不安なら、それでもいいと言ってくれたんだ。……ふっ、優しくて、カッコいい人だろう? ……というより、知っていたんだね。僕と先輩が付き合い始めたの」

 

「日記でちょっとね。……ま、それより。ちょっと聞きたいことあるのよ。いいかしら」

 

「ああ、いいとも。生徒の悩みを聞くのも、生徒会の仕事だからね」

 

 くるりと体を反転させた麗華生徒会長が胸を張る。

 どうでもいいけど前生徒会長の膝の上からは動かないの? あ、動きたくないのね。

 めちゃくちゃ気になるけど意識的に無視した。目の前でいちゃつかれるとイラッとくるのはどうやら本当だったみたい。

 

「先輩は、どうして恋をしたのかしら」

 

「どうして?」

 

 麗華生徒会長が目を丸くする。

 答えは、あっけらかんとしたものだった。

 

「先輩が僕の好きな人だったから。それ以外の理由はちょっと分からないな」

 

 それは、予想していた答えでもあった。

 

「それが例え、チャームできる男でも」

 

「うん?」

 

「いつか、チャームできない男が目の前に現れても」

 

「はい?」

 

「きっと、また同じ恋をするのね」

 

「……何を言ってるかよく分からないが。先輩がチャームできてもできなくても。先輩より良い人が現れても。僕が好きになったのは先輩だ。それ以上の問いが必要だとは思わないね」

 

 最後に、当たり前の通りを説くように、麗華生徒会長は言った。

 

「だから僕は先輩をオトしにいったのさ。僕が好きになった、大好きな男だったから。気に入った雄は必ずオトす。サキュバスなら当たり前だろう、そんなこと」

 

「ええ。そうね。……ありがと。また暇なときに来るわ」

 

 胸の奥で、火の灯る感覚がした。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 日が昇り切り、時計の短針が7を過ぎる頃になるとぽつぽつと生徒の数が増え始める。

 普段よりも多いのは文化祭準備に追われているからだろう。

 昇降口で登校してくる生徒を眺めていた私は、見知った水色の髪を見つけて歩き出した。

 

「随分と早いわね、水妖精」

 

「そういう貴方もですね、淫魔」

 

 無言で憮然として視線が絡み合う。

 未だにこいつに対する苦手意識も、敵意もある。

 けれど、それ以外の感情だって。

 そして、私はこいつに……水妖精にだけは、言っておかなければならないことがあった。

 

「……何のようですか? 私、クラスの準備に行かないといけないのですけど」

 

「……大した手間は取らせないわ。ただ、貴方に言わないのは……筋が通っていないと思ったのよ」

 

「何のことですか……?」

 

 怪訝そうに首を傾げる水妖精。

 ……覚悟は、してきた。

 もう、私はどうするかを決めてある。

 だから、一息に。

 

「私は、ユキカゼが好きよ。好きになってた。それを伝えておこうと思ったのよ。……貴方にはね」

 

 水妖精は何も言わなかった。

 吸い込まれそうな淡い藍色の瞳が、じっと私を見つめていた。

 どれぐらいの時間そうしていたのだろうか。

 目を閉じた水妖精は、大きなため息をついた。

 

「……知っていましたよ、そんな事。……それより。私にわざわざ報告に来たってことは、あの事を知ったんですね。ユキカゼくんが話すとは思えませんし……ハクローですか?」

 

「違うわ。白狼は関係ない」

 

「そうですか。……まあ、いいです。……そっかあ……」

 

「……謝りはしないわよ」

 

「謝られたらぶん殴ってますよ。どれだけ私を惨めにさせたら気が済むんだって。……でも、そうですね。ユキカゼくんには、もう伝えたんですか?」

 

「……ええ。それで、振られたわ」

 

「でしょうね。でも、もう分かってるのでしょう?」

 

「もちろん。だから今日、貴方にそれを伝えに来た」

 

「うっわあ……。やっぱり淫魔、貴方性格悪いですよ」

 

 ……それは否定しないわ。

 自分がやってる事がどんな事かは、分かってるつもり。

 それでも、私は言うべきだと思ったから。

 

「ありがとう、水澄イズミ。それが、どんな形だったのであれ。貴方のおかげで、私は恋を知った」

 

「どういたしましてとは言わないですよ、美上サキ。私が貴方に送るのは恨み言です。それがどんな形だったのであれ。貴方のおかげで私の恋は始まって、その瞬間に終わった」

 

 別れ際に、水妖精は微笑みを浮かべて言った。

 冬の湖のような寂しさのある微笑みだった。

 

「私から恋を横取りして行ったんです。しっかりしないと殴りに行きますからね、淫魔」

 

「あんたに殴られると死にそうだから遠慮しとくわね、水妖精」

 

 胸の奥に灯った火が、勢いを増した気がした。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 5月8日

 

 

 どうやら僕は一週間近く眠り続けていたらしい。目が覚めたときにシンユウくんが教えてくれた。

 覚えている。覚えている! 

 シンユウくんの事も、水澄さんのことも、鬼塚くんのことだって! 

 今まで美上さんのことしか覚えていられなかったのに、覚えている!! 

 今はだいぶ落ち着いたけど、目が覚めたときは無茶苦茶に取り乱して、泣いてしまった。

 まさか、こんな奇跡があるなんて思わなかった。

 銃で心臓を撃ち抜かれたのに生きてたことも含めて、水澄さんにはもう何と感謝をすればいいのか分からない。彼女を助けにいったのに、逆に命を救われてしまった。

 お医者さんが言うには、僕の体はこれから徐々に水妖精に近づいて行くそうだ。原因は分かっているけど、前例が記録に残ってないからどこまでその水妖精化が進むかは分からないらしい。けれど、僕にとってはそんな事どうでもよかった。

 

 水妖精。その種族特性は癒しの体液。言い換えれば、常軌を逸したレベルの恒常性の活性化。

 あらゆる状態を常に最適に保つ水妖精は、サキュバスにチャームされない数少ない種族の一つ。

 だから、水妖精化が進めば。

 もしかしたら、サキュバスのチャームが効かなくなるかもしれない。効きにくくなるだけだったとしても、一瞬も抗えずにチャームされることはなくなるかもしれない! 

 それなら、美上さんとお話しできる! 美上さんと一緒にいられるかもしれない! 彼女に、僕を認識してもらえるかもしれない! 

 こんなに嬉しいことってない。本当の本当に、涙が出るぐらい、それが嬉しい。

 水澄さんには頭が上がらない思いだ。これがお礼になるなんて思わないけど、水澄さんが困ってたら絶対に力になろう。それを僕はこの日記に誓う。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 文化祭当日ということで、前日に机や椅子を全て運び出した教室は広いけれどどこか物悲しい。

 広い部屋に薄く伸ばされた冬の空気がより冷たくて、コートの首元に顔を埋めるようにして、私は窓際に寄りかかっていた。

 背中に忍び寄る冷気に震えながら待っていると、ガラッと教室のドアが開く。

 思ったより早く来た。まあ、このぐらいに来ることは分かってたのだけれど。

 

「あれ、美上さん? 珍しいな、まだHRまで一時間あるのに。もしかして遠足前は眠れないタイプだったか?」

 

「……そんな可愛らしい子どもじゃなかったわよ私は。……白狼は、陸上の練習はいいのかしら」

 

「今日はないよ。でもいっつもこの時間に来るからかな、癖で起きちまうんだよな……だから、早く来てみんなの分も準備進めちまおうと思って」

 

 そうね。あんたはそういうやつだわ。

 

「……ユキカゼは?」

 

「あいつは今日は遅いだろ、昨日……いや今日の深夜に衣装完成したって言ってたし……仮眠とってギリじゃねえかなあ。……聞いてないのか?」

 

「まあ、ね。そんなところよ」

 

「ふーん。まあ、親友もだいぶ疲れてるみたいだったしなあ。あんまり誰かと話す余裕がなかったのかもな」

 

 劇で使う小道具などのチェックに、教室の前の廊下の飾り付け。

 私たちの教室はフリーの休憩室になるから、その準備を二人で進めていく。

 手を動かしながら、背後で作業をしている白狼に問いかけた。

 

「白狼。あんた、知ってたでしょ」

 

「え、何を? ……あ、そっち終わったか?」

 

「もうちょっと。……ユキカゼが私のこと好きな事よ」

 

「オッケー、それおわったらこっち手伝っ……はい!?」

 

「とぼけなくてもいいわ、ネタは上がってんのよ。思い返せばやけに協力的だったのよね、あんた」

 

 私とモブ男が二人になれるようにしたり。

 何かと私にモブ男の好みを教えてきたり。

 思い返せば、私とモブ男をくっ付けるように動いていた節がある。

 

「それも、モブ男の恋が実るように……って感じじゃないわよね。どちらかと言えば、私がモブ男をオトす手助け。……理由、聞いてもいいかしら」

 

「……あー……ばれてんのか……」

 

「ちょっと露骨だったわよ、あんた」

 

「……はは。慣れないことはするもんじゃねえなあ……」

 

 一度頭を振った白狼は、ぽつぽつと話し始める。

 申し訳なさと願いが同居したような声音だった。

 

「親友が美上さんのこと好きなのは知ってたんだ。……正直、最初はあいつが恋をする事、反対だったよ。俺だけじゃない。カゲさんやシラヌイさん……親友の家族だってそうだ。それでも。親友がまた、前を向いて歩き出せた事が嬉しくて……誰も、それを止められなかった。その頃はさ、その、美上さん、やさぐれてたっていうか、孤高って感じで……ちょっと怖かったのもあったしさ。あ、怒んないでくれよ?」

 

「……それで?」

 

「夏休み前からかな。美上さんの雰囲気が変わったのは。……というより、俺たちが無闇矢鱈にチャームされなくなった。そしたら、今まで分からなかった美上さんの人柄が見えてくる。……なんて言ったらいいのかな……そのとき、俺は初めて、美上さんを知ったんだ」

 

「……ふぅん。それで、あんたは私をどう思ったの?」

 

「すっごく馬鹿だなあって思った」

 

 はっ倒すわよお前。

 

「待て待てチャームはやめてくれ。……まあ、なんつーのかな。普段の態度が王様のそれで、正直反発感はあったんだ。でも、よく見てみれば変に気を使いまくってるのも分かった。……実際、うちのクラスでも付き合ってるやつは殆どチャームされた事なかったしな。思いのままに……それこそ自分の国だって作れそうなのに、チャームでやってる事がセコくて、小物臭くて、それでいて変に周囲を気にしていたりする。思ったよ、あ、この人はただ感性が傲慢不遜の小者なだけだなって」

 

「もしかして喧嘩売られてるの?」

 

「違うっつの。まあ、それから俺は親友の恋を応援していた。色々理由はあるけど……大きい理由は、それだ。でも、夏休みの後半を境にスタンスを変えた」

 

「どうして?」

 

「……怒んないでくれよ?」

 

「怒らないわよ」

 

 私、そんなに怒りっぽくないと思うのだけれど。

 じゃあ話すけど……と前置きをした白狼は、多くの生徒が続々と投稿し始めている窓の外を見ていた。

 

「親友が美上さんを攻略したら危ないと思った。たぶん、それは親友にとって良くないことだと俺の勘が確信した」

 

「……サキュバスが人間にオトされるって?」

 

「うわこわ。めっちゃ睨んでくるじゃん。怒らないって約束忘れないでくれよ……あとチャームはやめてくれ。……でもまあ、実際、美上さん結構絆されてるところあったんじゃないのか?」

 

 なかなか鋭いわねこいつ……。

 まさか馬鹿正直にオトされましたというのも私のプライドが許さなかったので、黙って続きを促す。

 

「親友には歪みがある。親友が美上さんをオトしきれば、きっとそれはずっとそのままだ。だから、俺は美上さんに親友を完璧にオトして欲しかった。歪みを正して欲しいって。……美上さんには、悪いけどな。俺は、親友に……ユキカゼに、幸せになって欲しかったんだ」

 

「そう。……自分勝手な願いね」

 

「それを言われると弱ぇなあ……ぐうの音も出ないほどその通りだ。結局、これは俺のわがままでしかない」

 

 だけど、と。

 白狼は、私を真正面から見つめて。

 

「辛いことがあったやつが、ずっと辛いままだなんて嘘だろ。俺は親友の幸せを願う。それに対して誰にも文句は言わせない。……だから、さ。もし、美上さんが……あいつのこと、想ってるなら。……ユキカゼのこと……俺の、親友のこと。よろしく頼む」

 

 下げた頭には、申し訳なさと、願いと、そして、託すしかない歯痒さが詰まっていた。

 私の答えは、決まっている。

 

「ええ。サキュバスに目をつけられたんだもの。頼まれたって逃しはしないわ」

 

「……はは、そいつは頼もしいな」

 

 胸の奥で燃えている火が、激しさを増した。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 8月10日

 

 

 美上さんを誘って海に行けた。クラスみんなで……正確にはみんなではないけれど、とにかく美上さんと海に行けたことが嬉しかった、のに。

 あんな事があったから、素直には喜べない。美上さんはずっと気にするなって言ってくれたけど、僕が誘ったことが原因の一端でもあるし、もっと早くに助けにいけなかったのかと責めずにはいられない。

 美上さんはサキュバスだから男に組み敷かれているなんて想像もしなかったけど、それは言い訳にもならないだろう。かげ兄だって好きな女の子を泣かせないようにしろって言っていた。僕もあのとき、初めて頭に血が上った。

 反省点は多くある。もう、絶対にこんな事は起こらないようにする。好きな女の子に泣いて欲しくないって思う気持ちは、きっと正しいから。

 

 もちろん、良いこともあった。

 美上さんの水着見れたし水澄さんの塗り薬の効果が確実に出てきてるし美上さんの水着見れたし美上さんも日記書いててお揃いみたいで嬉しかったし美上さんの水着見れたしあと美上さんの水着見れたし! 

 今日は危なかった。一瞬でも気を抜いたらたぶんチャームされてたと思う。だいぶ水妖精化が進んだのと、チャームの抵抗の仕方を覚えたから前ほど自傷しなくてよくなったのに、今日は骨を折りに行かないとやばかった。

 

 気を引き締めよう。

 絶対にチャームされたらいけない。

 僕が今美上さんと一緒にいられるのは……自惚れでなければ、美上さんが僕を他の人よりずっと意識してくれてるのは、僕が美上さんにとってチャームできない特別だからだ。

 忘れるな。一度でもチャームをされてしまえば、僕は美上さんの特別じゃなくなる。特別じゃなくなれば、また美上さんは僕から興味を失って、存在しないものとして認識される日々が戻ってくる。

 それは嫌だ。絶対に嫌だ。また、好きな人に無視され続けるなんて、恐ろしくて、怖くて、きっと耐えられない。

 絶対に忘れるな。絶対に勘違いをするな。僕が今美上さんの近くにいられるのは、覚えてもらえているのは、僕がチャームできない特別だからだ。

 チャームができる僕に価値はない。それは僕の日記が、6月19日が証明している。

 絶対に、忘れるな。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

「うわー、すっごいいっぱいいるよー」

 

 体育館には、溢れんばかりの人が集まっていた。

 午前中の、劇の一発目。文化祭の本番は午後からだっていうのに、なんでこんなに人が集まってるんだか。

 文化祭が開始されてから早数時間。

 体育館での出し物はローテーションが組まれていて、出入り自由だというのにこの人だかりはちょっと引きそうだった。

 

「めちゃくちゃ美人なサキュバスが出るそうだぞ」

「サキュバスだいたい美人じゃないか?」

「ばっか、その中でも格別にそうなんだって話だ!」

「マジかよ。おいおい、しかもサキュバスってことはそれもうエロエロってことだよな? ってことは文化祭終わりの性の6時間には……」

「やめろよ鼻息荒くするな。……ま、それを狙って集まってきてるやつが多いのは確かだけどな。思いの外多かったが」

「男どもが集まってきすぎなんだよな……つられてサキュバスも集まってきてるが」

「サキュバスからは離れとくぞ……本命前に搾り取られたら敵わん」

 

 客席からそんな会話が聞こえた気がした。

 あ、これもしかしなくても私のせいだったわ。

 

 さて。

 もう間も無く劇が始まる。

 

 原題は『愛染のサキュバス』。

 己色に染め上げることでしか、愛を信じられなかった一人のサキュバスのお話。

 けれど、私たちの劇では結末がすこし変わって、そんなサキュバスが最後にはチャームに打ち勝った男の子と結ばれて、真実の愛を見つけて幸せになる。

 

 良い話だと思う。

 誰も不幸にならず、みんな幸せになって、適度にロマンチック。

 最後に愛が勝つなんて、素敵だと思わない? 

 

「美上さん、そろそろだよ」

 

「……ん。衣装、ありがと」

 

「うん。まだ着るのは先だけどね。でも、頑張ったかいはあったよ。楽しみにしてる」

 

「期待してなさい」

 

 でもね。

 それって結局、サキュバスが男の子にオトされてるのよね。

 

 冗談じゃない。

 種族サキュバス。

 男を惑わし、蠱惑し、思いのまま操る淫美な女たち。

 

 男にオトされるのがサキュバス(私たち)じゃない。

 男をオトすのが私たち(サキュバス)だ。

 

『昔々、あるところに──』

 

 弓森さんのナレーションに合わせてステージ中央へと歩んでいく。

 湧き起こるのは盛大な拍手、歓声。

 息を飲む音が聞こえる。

 

 悪くないステージだ。

 観客は多い方が盛り上がるってものよね。

 ステージ裏で待機しているモブ男に目を向けて、不適に笑う。

 

 ──さあ、覚悟しなさい。

 これは人の愛が勝つお話ではない。

 淫魔の支配を乗り越えた男の愛の話でもない。

 

 サキュバスの誘惑に、男が負ける物語だ。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 12月24日

 

 

 絶対にオトしてやるんだから! 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 人物紹介。

 

 美上サキ。

 主人公。

 好きなものは動物とサブカルチャー。サブカルチャー好きは姉の影響が強く、その後弓森さんに伝播した。弓森さんの成績はすこし落ちた。

 苦手なものは男とホラー。お化けなんかいないから! が通らない世界観なので、結構洒落にならない怖さがあるとは本人の談。

 恋愛属性は攻め。受け身に回った瞬間負ける。

 

 浅海ユキカゼ。

 ヒロイン。

 好きなものは特になし。漫画は読むが、あまりの無趣味っぷりを見兼ねた兄に渡されたものを読むスタンスなので、2000年後の漫画の話を振られても答えられないことが多い。最近は美上さんと話すために色々読み始めた。

 苦手なものは女の子。過去が原因で女性が苦手になっていたが、記憶障害で女性が苦手ということも忘却してしまうため実質あってないようなものだった。水妖精化に際して記憶障害が治り苦手という感情も取り戻すが、その頃には美上さんの傍若無人っぷりを目の当たりにしていたため、ある種の悟りに至っている。

 自分に嘘をつかない人が彼にとっての救いとなれる。自分に嘘をつきまくってる彼がそう思うことが皮肉だった。

 恋愛属性はオールラウンダー。攻めにまわっても守りに入っても戦える。どっちかといえば守りが得意。

 

 水澄イズミ

 好きなものは冷たいものとアクション、スプラッタ映画。ちょくちょく見せてた喧嘩っぱやさはこの辺が影響してる。基本思考が殴れば勝ちなのでだいぶ脳筋。暇な時はゴミをプレスする動画やいろんなものを壊しまくる動画を見ている。最新の検索履歴は 鉄 潰す力

 苦手なものは幽霊とゲーム。ホラーがダメというわけではないしホラー映画も見れはするが、殴れば勝てる系脳筋なのでホラー映画見た後に一人で真っ暗な部屋に放り込んだら十秒で部屋ぶっ壊して出てくる。殴れないと怖いそうだ。ゲームは普通にコントローラー壊すのでそもそも話にならない。

 恋愛属性は攻め。守りにまわると決めた瞬間に彼女の恋の結末は決まっていた。実は結構性癖がエグい。

 

 白狼ハクロウ

 好きなものは走ることと速いもの。結構ロボットも好きな普通の男の子。4月の水澄さん誘拐事件、8月の水澄さん拉致事件で怪我してるので走れなかった時期はそれなりにある。多分一番苦労してる人。どんまい! 

 苦手なものは辛いものと人の話を聞かない人。美上さん、ユキカゼ、水澄さんの三人とも白狼にとって苦手な人間なはずだが、ちゃんと大切な友達として認識している。もしかしたら、彼が言う苦手なものとは照れ隠しの部分もあるのかもしれない。

 恋愛属性は守り。攻めることは苦手だが、守りに入ると持ち前の忍耐力と観察力からなかなか厄介。

 

 弓森コノハ

 好きなものは冒険小説と勉強。美上さんの影響でそこに漫画が加わりちょっと成績が落ちた。やめ時が難しかったようだ。

 苦手なものは騒音と運動。弓森さんは妖精だが、正確には風妖精となる。かなり運動能力はある種族だが、本人に運動神経がないので持て余しているのが現状。おまけにドジっ子属性がすこしある。

 風妖精の種族特性は風読み。ある一定の条件さえそろえば、風を辿って何かを追跡できる。

 恋愛属性はオールラウンダー。こいつはやばい。実は作中で一人こいつにやられてる。





完結見えてきましたね。
別紙のバレンタインは美上さんがオトされたルートです。分岐はもう分かりますよね。日記を見つけられなかった場合です。
あのルートは色々歪みがあるので上手くいきません。見えてる破滅にゆっくり進んでいくエンド。

やっとモブ男くんの設定出せた。
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