とあるサキュバスの日記   作:とやる

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7ページ目 『相合傘』

 9月☆日

 

 二学期が始まった。

 久々の学校……ってわけでもないけど、教室の空気がなんだかちょっと懐かしかった。

 二学期は長い。この間にモブ男を絶対にオトしてやるんだから! 

 ……でも、その前にアレをなんとかしないといけないわね。気が重いなあ。

 

 

(一週間ほど取り留めのない書き込みが続く。途中数日はテレビで見たペット番組に影響され猫飼いたい欲が爆発していた模様)

 

 

 9月》日

 

 猫可愛い……すごく可愛い……。お母さんが許してくれればなあ……。

 はあ……ついに体育祭の練習期間が始まってしまった……。

 

 

 9月¥日

 

 中学までは体育祭の練習とかは教師をチャームして見学してたのに、私のクラスの体育教員は女性でしかもチャームはモブ男が止めてくるから参加せざるを得ない……! おのれモブ男……! 

 別に運動が嫌いなわけじゃないけど、身体能力で種目を決めていくと種族差でばらつきがあるとはいえだいたい男女で二分割されるからモテない女子からのやっかみがエゲツないのよね……。嫌いじゃなくても得意ってわけでもないし……。

 普段は怖気付いて何もしてこないくせに、集団のイベントだからかやけに強気になってくる。本当めんどくさい。あーやだなー。

 

 

 9月∟日

 

 私の種目は借り物競走とクラス団体戦になった。

 借り物競走はいいけど、団体戦は見学したい。本当に。

 

 

 9月▱日

 

 今年の一年生のクラス団体戦は騎馬戦みたい。

 よりにもよって騎馬戦。最悪だわ……。

 

 

 9月♯日

 

 9月といっても日中はまだまだ暑い。炎天下の中入場退場の練習とかアホなのかしら。

 お肌のお手入れも楽じゃないのよ。くたばれ教頭。そのままてっぺんから禿げて仕舞えばいいわ。

 

 

 9月∞日

 

 性別による筋力含めた身体能力の差はあるものの、それ以前に種族差が大きい。男女別に分けてオリンピックとかやってたのっていつまでだったっけ……歴史の授業でやってたような……。

 ともかく、クラス団体戦は男女混合だ。男女混合で騎馬戦だ。これ考えたやつ許さないわよ。

 戦略的に体重の軽い女子は騎馬ではなく騎手になる場合が多い。体重の軽い私は当然騎手になった。体重が軽いから。

 逆に、騎馬は男がなる場合が多い。ほんと最悪。休みたい。モブ男が私の騎馬になったのがせめてもの救いだ。まだギリギリ許容範囲内だから。

 

 

 9月≠日

 

 練習がしんどい。

 

 

 9月§日

 

 いやほんとにしんどい。

 

 

 9月♭日

 

 なんでみんなこんなのに入れ込んでるの……? 朝練って嘘でしょう……? ノリについてけない……弓森さんもなんか気合い入ってるし……。

 休みたいいいいい!!! 

 モブ男が居なかったらチャームしてサボってるのにいいいい!! 

 

 

 9月♩日

 

 運動嫌いだったわね私。うん。

 

 

 9月¢日

 

 もう日記書く元気もなくなってきた……。

 私こんなに運動音痴だったっけ……? というか体力が無さすぎる……。考えてみれば基本インドア派だから体力がつくはずもなかったわね。

 モブ男は疲れる様子すら見せずめちゃくちゃ元気だ。あいつの身体どうなってるのかしら。アンドロイドか何かなの? だからチャーム効かないの??? 

 疲れ過ぎてもうモブ男をオトすためにどうこうする気力がないわね……。

 

 

 9月≡日

 

 筋肉痛が辛い。

 

 

 9月∪日

 

 よくよく考えれば私まで真面目に練習する必要ないじゃない。

 やりたい人だけでやってればいいよの。そうよね、うん。

 むしろ私は美少女だから見学で……こう、勝利の女神的な。男のやる気なら確実に出させてあげるわ。私可愛いし。

 よし、決めた! 明日からサボる! 

 

 

 9月∨日

 

 覚えてなさいよ水妖精!!! ぜぇったいコテンパンに負かして泣かしてやるんだから!!! 

 

 

 9月*日

 

 あの水妖精にだけは絶対に負けられない。私に喧嘩を売ったことを後悔させてあげるわよ!! 

 

 

 9月◎日

 

 練習がしんどい。朝練もきつい。でも負けられない。

 

 

 9月∠日

 

 くう……! 水妖精じゃなければ父親をチャームして家庭崩壊させてやったのに……!! 

 ……いや、本当にはやらないけど。バレたら大変な事になるし、流石に分別はある。

 でもあの水妖精、自分の種族にチャームが効かないからって調子に乗ってるのよね……! 同性では初めてよ、私をここまでコケにしてくれたのは……!! 

 

 

 9月&日

 

 寝る前に日課書くのもしんどくなってきた……。

 放課後の練習が……でも水妖精には負けたくないし……。

 家帰ったらお風呂入って、ご飯食べて……お肌の手入れだけして……今も眠いのよね……。

 日記はしばらくお休みしよう。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 空に蓋をするような曇天の空。黒に近い灰色の雲からは突き刺すような雨が地面を叩く。

 

「……はあ」

 

 昇降口で空を見上げた私は力なく肩を落とした。

 傘を忘れたのである。

 

 今朝はカラッと晴れていたというのに、昼を過ぎたあたりから徐々に雲行きが怪しくなり始め放課後の今となってはご覧の有様。

 体育館は上級生と応援団が使用しているので本日の練習は中止となり、眠い目をこすって毎日洗濯している二セット目の体操服は鞄から出ることはなかった。

 

 何時もはお母さんが雨が降るなら降ると言ってくれるけど、昨日の夜に出掛けて今朝は帰ってきてなかったから、登校時の快晴に騙されてしまった。

 家が近いなら職員室でナイロン袋を貰ってそれに鞄を入れて走って帰る事も出来たけど……走るにはそこそこ距離があるのと、ここ最近の疲労が陰鬱な雨に呼応するようにどっと溢れてきて、そんな元気はなかった。

 

 一縷の望みをかけてお母さんに送ったメッセージは最後に確認したLHRのときには未読状態。

 昨夜、すぐ寝てしまって充電を忘れたスマホは既に力つき、私は途方に暮れてしまった。

 

 来るかも分からない迎えを待ち続けるか、雨に濡れて帰るか。

 小雨ならまだしも、流石にこうも土砂降りだと風邪を引きかねない。あのいけ好かない水妖精には死んでも負けたくないので、風邪をひいて練習が出来なくなるのは困る。同じ理由でクラスの男から傘を平和的に譲って貰うのもNGだ。

 なので水妖精のクラスの男から傘を和やかな談笑の結果として譲ってもらおうと思ったのだが、私が行ったときには既に女子しかいなかった。おのれ水妖精。これで勝ったと思うなよ……!! 

 

 因みに、弓森さんは自転車通学なのでもうカッパを着て帰って行った。家から傘を持ってくるって言ってくれたけど、連日の練習で弓森さんも疲れてるのにそれは申し訳ないと断った。

 

「……はあ」

 

 二回目のため息。

 濡れて帰るわけにはいかないと行っても、流石にお母さんがメッセージに気付いて迎えに来てくれるのをずっと待つわけにもいかない。

 もしかしたら気付いてくれるかもしれないと思って、こうやって車が来たかどうか分かる昇降口で待ってはいるものの、いつものやつなら今日家に帰ってくるかも怪しいし……。

 

 もうこれは濡れて帰るしかないかしら。

 後ろ向きな覚悟を決めて、三度目のため息と共に職員室にナイロン袋を貰いに行こうとしたときだった。

 

「あれ、美上さん?」

「……あら?」

 

 呼びかけらた声の方に首を向ければ、傘を手にしたモブ男が目を丸くして立っていた。

 

「直ぐに教室を出て行ったからもう帰ったと思ってた。どうしたの?」

「なんでもいいじゃない。あんたこそなんでまだいるのよ」

「リレーのやつで集めれられたんだ。なんかルール変更があるとかで」

「……ああ、そういえばあんたリレー出るんだったわね」

「鬼塚くんが綱引きの方に行っちゃったからその代わりだけどね。でも、選ばれたからには頑張るよ、人間代表みたいな所あるし。それに……」

「それに?」

「……や、なんでもない。それより……もしかして、美上さん傘忘れた?」

 

 不自然に言葉を濁したモブ男が私が手に何も持っていないことを確認して言う。

 そして、素直に認めるのは何となく嫌で口をつぐむ私に、提案するように。

 

「良かったら入っていく?」

 

 傘を軽く持ち上げて、なんて事ないように言った。

 

 ……正直、モブ男に声をかけられたとき、私もそれを考えた。

 考えたけれど。

 

「あなた自転車通学でしょう」

 

 なんでカッパじゃなくて傘なのから分からないけど、モブ男は確か自転車通学だったはず。

 帰る方向は同じだったと思うが、モブ男の家は私の家よりもかなり遠い。

 自転車を押しながら二人で傘に入るのは流石に無理だし、二人乗りはもっと無理だ。

 けれど、モブ男は杞憂だと笑った。

 

「うん、いつもは自転車なんだけど……先週色々あって壊れてね……ははは。くぅ。……まあ、とにかくそんな訳で今は徒歩なんだ。だから大丈夫だよ」

「……え? 電車じゃなくて徒歩? ……あんた、何時に家出てるの? 朝練いつもいるわよね?」

「六時過ぎぐらいかなあ。ってそれは別にどうでも良くてっ」

 

 言いつつ、昇降口から外へ一歩踏み出したモブ男は傘を開いて振り向く。

 

「本当は傘を貸してあげられたら良かったんだけど、この傘かげ兄……あー、僕の兄のだから。その……だから、相合傘……になっちゃうけど、美上さんが良かったら、その……」

 

 後半はだんだん尻すぼみになっていき、俯きがちに。

 断られる可能性に思い至って怖くなったってところかしら。

 

 相合傘。ひとつの傘に二人で入るため、必然的に二人の距離は近い。体温を感じられるなんてレベルではない。それこそ肩と肩が触れ合うレベルの距離感。

 どうやってもパーソナルスペースを踏み越えるそれは……多少、いや、それ以上に相手に好意がなければ簡単には出来ない行為。

 つまり、相合傘を持ち掛けて断られるという事は言外に『お前無理』と言われるのに近く、逆にOKされれば少なくともパーソナルスペースに入る事を許されるだけの好意の証明にもなる。

 同性相手でもそうなのだから、それが異性ならなおさら。

 

 ……私がその距離感を許したと思われるのも癪ね……。

 おんぶはあくまで例外。例外だから。例外なんだからねっ! 

 確かに一学期のときは自分からモブ男に触れに行ったりしたけど、あれはチャームをするためであって……! 

 

 ……そう、だからこれもチャームのため。

 チャームのためだから、相合傘も仕方ない。うん。仕方ないんだ。

 

「……お願いするわ」

「ん、どうぞ」

 

 そう自分に言い聞かせて、私はモブ男の隣に並んだ。

 大粒の雨が力強く傘を叩いて、弾かれた雨粒がまた小さく傘を叩く。地面に落ちた雨の音と合わさって、それはまるでひとつの演奏のようだった。

 

 だから。

 

 この胸の音も、きっとモブ男には聞こえない。

 初めての相合傘に緊張してる、それだけだから。

 本当に、それだけなんだから。

 

 横目で盗み見たモブ男の耳は、ほんのり赤くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一向に止む気配のない雨。

 縦に白黒の線を何本も引いたように不明瞭な視界のなかを二人肩を並べて歩く。

 

 水たまりを避けようとする度にどちらに避けようかと顔を見合わせ。

 側を車が通る度に水飛沫から私を守るように前に出るのが。

 濡れる事がないようにと無言で傾けられている傘の角度が。

 

 こそばゆかった。

 息が詰まった。やり場のない感情の逃げ場を探すように尻尾がふるふると揺れた。

 

 ……なんというか、近い。

 相合傘なめてた。距離感がエグい。

 雨で気温が下がってるからか、モブ男の体温が分かる。肩は触れてないけど、隣り合ってる方の肩だけ、少し、熱い。

 それに、体温だけじゃなくてモブ男の息遣いまで分かって。

 頭がふわふわして、距離を取りたくて、でも傘の中は狭くて、どうしたらいいか分からなくなって、ずっと同じ距離。

 

 あと、私はモブ男の肩ぐらいまでしか身長がないから、傘を持つモブ男の腕がちょうど目の高さにくる。

 

 腕めっちゃ太い。私の二倍はありそう。半袖だからよく分かる。包帯巻いてるけどその上からでもあ、筋肉だって分かるぐらい。

 私なら傘をずっと持ってるとすぐに疲れて肩に担ぐように傘を差してしまうけど、担ぐどころか一向にブレる気配がない。

 男ってみんなこうなの……? なんだか、女とは違う生き物なんだって見せつけられているみたいだった。

 何気にガッシリとした身体なのは知ってたけど……背負われたときも思ったけど、男と女じゃ身体のつくりが根本から違うってことが実感としてわかる。

 漫画だと見た目は女の子とそう変わらないのに……。

 

 とはいえ、その身体のつくりすら覆す種族の差ってどうなってるのかしらね……鬼族の女の子なんか一見細くても物凄く力強いって言うし。文字通り細胞レベルで身体のつくりが違うんでしょうね。

 

 でも、私はサキュバスだ。サキュバスの前では男がいくら力が強くても無意味。

 男を手玉に取り意のままに弄ぶのがサキュバス。私は他のサキュバスとは違う(強弁)けど。違うけど! (念押し)

 

 つまるところ、サキュバス>男という力関係。

 具体的に何が言いたいかって言うと。

 

「でさ、そのときに親友が〜〜」

 

 私だけこんなに悶々としてこいつが余裕そうなのが納得いかない──! 

 

 耳が赤くなってたから美少女との相合傘に緊張してるのかと思えば、何の淀みもなく会話を振ってきた。

 そこは緊張して無言になるところでしょう!? 美少女を何だと思ってるのよ。もっとときめけ。

 

 モブ男の親友とやらの話などどうでも良いので、適当に相槌を打ちつつ切りのいいところを狙って仕掛ける。

 そもそもチャームするために相合傘を許容したのだから。逃げ場がないのは向こうも同じ。守勢に入れば攻め込まれるのみ。ここはひたすらに攻めの姿勢が最良!! 

 

「そういえば、前々から思ってたけどあんたって結構身体鍛えてるわよね」

「えっ!? あ、え? 美上さん?」

 

 手首から肘までつぅと人差し指でなぞるように。

 包帯のざらっとした感触と皮膚の滑らかな感触。二の腕のあたりを手のひらで包むように撫でる。

 

 びくりと身震いしたモブ男。傘が揺れて雨粒が散った。

 やや間があって。

 

「……別に、鍛えてるってわけじゃないんだ。日常生活がちょっとしたトレーニングみたいになってるところはあるけど……」

「なら、鍛えてるんじゃないの?」

「うーん、そういうわけじゃなくて……別にトレーニングしなくてもこうなるというか」

「ならないわよ。運動無くして体型の維持はできないわ。私がどれだけスクワットをやっていると思ってるのよ……!」

「美上さん……?」

「……なんでもないわ」

 

 思わず熱くなってしまった。

 例外なく美しい容姿を誇るサキュバスといえど、それはあくまでポテンシャルの話であって。

 睡眠不足に運動不足、おまけに暴飲暴食なんてやってたらニキビ出まくりの脂ギトギトのデブに普通になる。

 

 美しさとは努力なのだ。セックスがあれで結構な運動量らしいが、セックスをしない私はもちろん、セックスしまくりのお姉ちゃんやお母さんも日々のスクワットは欠かさない。

 美しさを誇るからこそ、美しくなるための努力を怠らないのよ。

 それをトレーニングしなくてもですって……!? 寝言は寝て言いなさい。

 

 そんなチートが許されるのは極少数の種族だけよ。

 ……連想で思い出してムカついてきたわね。本当にあの水妖精覚えてなさいよ……っ!! 

 

「絶対に泣かす」

「どうしたの急に!?」

 

 敵意が溢れてしまった。

 そこで、ふと思い出した。

 

「そういえば、あなたも水妖精も同じ図書委員だったわよね」

「ああ、水澄さんのこと? うん、そうだよ」

「友達かしら」

「うん」

「そう、良かったわ。弱点とか知らないかしら?

「ちょっと待って、何でそうなるの?」

「嫌いなものや苦手なものでもいいわよ。友達なら知ってるでしょう?」

「仮に知ってても初手でそれを聞いてくる人にはちょっと教えられないかな……

 

 ぽりぽりと指で頬をかくモブ男に口を破る気配は一個にない。

 それが、少し面白くなかった。

 他の男なら私が教えてって言うと何でも言うのに。

 ……私のお願いより水妖精の方が大事なの? 

 

「ねえ……私、どうしても知りたいの……ダメ?」

 

 半袖の袖をちょこんと摘むように。くいっとか弱い力で。

 身長差で自然となる上目遣いで、震える唇から熱い吐息を零す。

 尻尾がしゅるりと傘の持ち手を持つモブ男の手へと絡まり、優しく撫でた。

 

 雨を弾く傘の中。二人だけの世界。

 吐息すら交わりそうな距離で視線が絡まり合う。頤が上下しゴクリと生唾を飲み込む音。何かを堪えるようにモブ男がぐっと力を入れたのが分かった。数秒後。

 

「ダメです」

「……イ○ポ野郎」

「今日の美上さんなんか毒強くない!?」

 

 うるさいばーか! 

 ふんっ! 

 

 モブ男が素気無い態度を取るのはいつもの事だけど。

 その日は、いつもよりムカついた。

 ……なんでか、ムカついたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 程なくして、私の家に着いて。

 

「……ありがと。助かったわ」

「どういたしまして」

 

 玄関の前。隣ではなく、向き合った私が一応お礼を言うと、モブ男は屈託無く笑った。その半身は雨に濡れていた。

 

「……それ」

 

 対して、私はどこも濡れていない。せいぜい、靴下程度。

 モブ男はシャツの色が変わるほど濡れていて、腕に巻いている包帯だって気持ち悪いはずだ。なにより、風邪を引いてしまうかもしれない。

 私が何を言いたいのか分かったのか、モブ男は心配ないと笑う。

 

「大丈夫だよ、僕は絶対に風邪引かないから」

「そう……」

「……あー、でもそうだな、包帯はちょっと気持ち悪いから取っちゃいたいかも。もう治ってると思うし。でも、タオルは忘れちゃったから、貸してくれると嬉しいな」

「……少し待ってなさい」

 

 ……嘘だ。今朝の練習の時にタオルで汗を拭いていた。

 でも、ここでその気遣いを断る事はしない。私が少しもやもやとした気持ちを抱えていたのは事実だし、これで双方憂いなく終わるのならそれが一番。

 

 ……私、こんなキャラじゃなかったはずなんだけどなあ。

 夏からの自分の変化に戸惑いながら玄関の鍵を開けようと、鞄から鍵を取り出したときだった。

 

「あたっ……く、ぅ……!」

「も〜、サキったら迎えに来てって言っておきながらぜんっぜん返信しないじゃない。お母さん困る……うん?」

「わ、美上さん大丈夫……?」

 

 ゴツン、と。

 突然開いた玄関がちょうど私の側頭部を強打。

 あまりの痛みに鍵を取り落として蹲る。

 

 ツノに……! ツノにゴチンってした……! 吐きそうなぐらい痛い……!! 

 

「あら、帰ってきてたの? 傘立てに傘あるのにどうやって……って、それならそうと連絡ぐらいして欲しかったわよ……ふぅん」

 

 頭を抑えて蹲り痛みに悶える私を見たお母さんは、直ぐにモブ男に気づき、私とモブ男を交互に見た後得心がいったと艶やかに口を歪めた。

 

「あなたがモブ男くんね。娘を送ってくれてありがとう。随分と濡れてるみたいだし、良ければ家で休んでいかないかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 読まなくてもいい登場人物紹介

 

 美上さん

 主人公。割と負けず嫌い。

 水澄さんとバチバチしてる。

 美しさは努力とか言ってるが元が良すぎるのでガチで努力してる人たちには秒でしばかれる。

 

 モブ男

 ヒロイン。イ○ポ野郎(疑惑)

 最初は純粋に心配して声をかけたが途中から相合傘をしたい欲が出た。美上さんと相合傘が出来て内心小躍りしている。内出血ぐらい軽い軽い。

 腕の包帯? 騎馬戦って結構密着するんですよこれが。

 

 お母さん

『高校一年生とアラフォーっておねショタになるのかしら』などと供述しており。




やめて!美上ママの人妻の色気で理性を焼き払われたら、好きな子の前でおぎゃってしまってモブ男の精神まで焼き払われちゃう!

お願い、死なないでモブ男!あんたがいまここで倒れたら、出会いの日の約束はどうなっちゃうの?理性はまだ残ってる、ここを耐えれば美上さんとのドキドキ体育祭が待ってるんだから!

次回、「モブ男死す」 デュエルスタンバイ!


❇︎予告は実際の本編とは異なる可能性があります。
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