とあるサキュバスの日記   作:とやる

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日記要素無し。ある意味過去回。




9ページ目 『水澄さん』

 九月といえど日中の気温は二十八度を超える日も珍しくない。

 容赦なく照り付ける日差しは体力を奪い、降り注ぐ紫外線や大量にかく汗は思春期の学生にとっては大敵だろう。

 

 それでも彼ら彼女らはやめない。

 毎日体操服を洗濯して、日焼け対策に苦労して、お風呂で寝そうになって、休み時間にマジ最悪〜とクラスメイトと言い合っても。

 不満はいっぱいある。それでも、今日も制服から体操服に着替えグラウンドへ駆け出すのだ。

 

 なぜなら。

 

 そこに青春のきらめきがあるからだ。掛け替えのない思い出があるからだ。

 やがて大人へと成長したとき、『あの時は楽しかったね』と級友と語り合える未来がある事を知っているからだ。

 

 学生の一大イベントのひとつ、体育祭。

 

 もちろん、そうではない者も一定数いるが。

 ここはそんな学生のひとりだった、とあるサキュバスの転機ともなるこのイベントまでの日常をほんの少し追ってみるとしよう。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

【種目決め】

 

「では、今から私たちのクラスの体育祭の出場種目を決めたいと思いまーす」

 

 二学期が始まって数日。今日のLHRは委員長の弓森さんのこんな一言で始まった。

 

 全三学年の計十五クラス。

 それぞれ一学年ずつの合計五チームで競い合うのがウチの学校の体育祭だ。

 こういった催しで同学年のクラスと共同することは少なく、その校風ゆえにクラス間の結束が少々強いかもしれない。

 

 黒板には出場種目一覧がずらっと並んでいる。

 同学年で競う団体戦と、あと何かひとつは必ず出場しなければならないのがネックだ。

 つまり、私も何か出場するものを選ばなければならない。

 といっても、私はチャームを使って適当にサボるので何になろうがどうでもいいんだけどね。

 

「まずは一番重要なブロック対抗リレーから。えーっと、この中で一番速いのは……言うまでもなく鬼塚くんなのでどうでしょうか」

 

 コツン、と一番右端に書かれたリレーの文字の下にチョークを当てながら弓森さんが問う。

 みんな異論はないのかうんうんと頷く中、ひとり異を唱えるものがいた。

 推薦された本人だ。

 

「悪ぃけど俺はリレーには出ねえぞ。綱引きで勝負するって約束しちまった」

 

 クラス中がどよめく。

 最も速い者が出る、とみんなどこか当たり前のように思っていたからだ。

 

「え、絶対に無理ー?」

「無理だ。約束は破れねえ」

 

 クラスの総意を代表した弓森さんの問いはにべもなく断られる。

 その屹然とした受け答えからこれは無理だと判断した弓森さんが目を向けたのは、藍の混じった灰色の髪にぴょこんと耳が出た狼の獣人。確かモブ男の親友だったかしら。

 

「じゃあ、白狼(しらかみ)くんはー?」

「あー、すまん」

 

 最も速い者が断った時点で二番目に速い者である自分に話が振られるのは分かっていたのか、申し訳なそうにモブ男の親友は断った。

 しかし、その代わりとばかりに。

 

「俺の代わりというか、多分今の親友は俺と変わらないぐらい速えと思う」

「えっ、僕?」

 

 まさか自分に振られるとは思ってもなかったのか、素っ頓狂な声を上げるモブ男。

 その声にクラスメイトの視線がモブ男に集まる。

 

「ユキカゼってそんな速かったか?」

「四月の体力測定だと人間の平均よりは……って感じだったと思う」

「え、リレーに人間が出るの? 無理臭くない?」

「でもでも、確かに四月と比べてユキカゼくんの身体すごく変わったよねっ」

「いや確かにそうだけど、でもユキカゼは人間でしょ? リレーは速い種族の独壇場だよ?」

 

 当然と言うべきか、人間は平均的な身体能力は低い部類に入る。

 人より力の強い種族、人より脚の速い種族なんて幾らでもいる。

 極限まで身体を練り上げたアスリートレベルならまだしも、特に部活動をやっているわけでもないモブ男の推薦に疑問を持つのも無理はない。

 そのざわめきを吹き飛ばすように。

 

「大丈夫だ。親友は速い。俺が保証する」

「ちょっと待って親友。僕の意思を無視しないで。他のクラスには風妖精も水妖精も居るんだよ? 無茶だって」

 

 その力強い断言に皆が押し黙るなか、むりむりと全力で首と手を振るモブ男。

 

「僕じゃなくて自分で走った方がいいって。めちゃくちゃ速いじゃん」

「親友と違ってあの時の怪我がまだ残っててなあ」

「うぐ、それを言われると……」

「それにな、よく聞けよ親友。──リレーを走ればモテるぞ」

「別に僕はモテたいわけでは……」

「ひょっとしたらリレーを走る親友を好きになる子もいるかもな? 例えば……な?」

「走ります」

 

 興味がないのでスマホを見てたから会話のほとんどを聞いてなかったが、どうやら後日走力を見てから決定するものの、リレーはモブ男でほぼ決定になったらしい。

 あ、この猫かわいい。癒されるなあ。

 

 それからどんどんとそれぞれの種目が決定していくなか。

 

「えーっと、次は……あ、二人三脚。誰か出たい人いるー?」

 

「「「はい! はいはいはいはい!!!」」」

 

 うわ、びっくりしたわね。

 何事かと顔を上げればクラス中の男子が他の男子を牽制しつつ手を挙げていた。

 意気込む男子とは裏腹に女子からは「またかよ……」というため息があちこちから聞こえ、私に視線が突き刺さる。は? 

 

「ウチの高校の二人三脚は男女混合……! 男女混合……! きゃっほい!!」

「女子でまだ種目が決まってないのは布蛇さんに弓森さんに……そして美上さん!!」

「美上さんと密着……えっちなサキュバスと二人三脚……! 耳元でいっち、にっ♡ってカウントダウンしてもらいながら走るんだ……!!」

「美上さんと触れ合える美上さんと触れ合える美上さんと触れ合える……!!」

「美上さんのいい匂いを肺に溜めてもう一生呼吸しない

「俺は美上さんと肩を組んだ半身は二度と洗わない」

「肩を組まなきゃだからいろいろ触れても事故だよね? ね? ね?」

「落ち着け親友っ! ステイ、ステイだ!! その手に持った包帯でどうするつもりだ!?」

 

 うわあ……。

 喧々囂々と口に出される欲望に耳が腐りそう……。濁った性欲が私の肢体に叩きつけられているのをありありと感じる。

 ほんっっっと、これだから男は……。

 

「美上さんと合法的に触れ合えるこの機会を逃すわけにはいかワタクシハ男ト肩ヲ組ンデ走リマス」

「俺モデス」

「俺モ」

「俺モ男ト走リマス」

 

 煩わしかったので全員チャームした。

 男子の熱狂で騒がしかった教室がシン、と静まる。ふん、これで快適になったわね。

 

「こら、美上さん」

「あたっ」

 

 これで落ち着いて猫の画像を漁れるとスマホに視線を落とした瞬間、ぴっと指で軽くおでこを弾かれた。

 一体どこのどいつだとおでこをさすりながら顔を上げれば、困った顔をしたモブ男が正面に立っていた。

 

「気持ちは分かるけど本人の意思を無視しちゃダメだよ」

「発情した犬と走れって言うのかしら」

「それを言われると弱い。でも……ね?」

「私からもお願いするよー、美上さん」

「……ふんっ」

 

 まあ、弓森さんがそう言うなら? 

 仕方なくチャームを解いたあと、男子は結局男子同士で組むことになった。男女混合とはいえ、必ずしも男女がペアになる必要はないのだ。

 

 そして、私の種目は借り物競走になった。別にサボるからなんでもよかったのだけれど、弓森さんや私にそこまで悪感情を抱いていない女子たちの同情の視線が少しだけ気になった。

 

 

 

 

 

【vs.水澄さん】

 

 毎年体育祭の練習はサボってきた。だから今年もサボろうとそう決めていた。

 しかし、私のクラスを担当する体育教師が女性である事を完全に失念していた私は、単位のために参加せざるを得なくなったのだ。授業でやらないでよ……! 特に何の意味があるか分からない全体の進行練習……!! 

 

 しかも、朝、放課後と団体種目の練習まで始める始末。

 私のクラスだけじゃない、全クラスでだ。信じられない。高校生のこの体育祭にかける熱量がどこから生まれてくるのかしら……。

 

 その熱量に流されて眠い目をこすって朝練に参加し、疲れた身体に鞭を打って放課後も学校に残っていたけど、もう限界。

 別に私まで頑張る必要はないのよ。頑張りたい人だけで頑張ればいい。

 

 そんなわけで放課後練習の準備を始めるクラスメイトたちを尻目に意気揚々と帰宅のために上靴を履き替えていたその時だった。

 

「へえ、もう帰るんですね」

 

 放課後、人通りの多い騒がしい昇降口でなおはっきりと聞き取れるほどその声は澄んでいた。

 透き通るような声音。でも、そこに乗った感情にははっきりと色が付いている。

 

 誰に言ったのか、など考えるまでもない。だって、さっきから背中に私を見下した視線が突き刺さっているから──! 

 

「悪いかしら。別に貴女には関係ないでしょう」

「いいえ、関係あります。淫魔が居なくなるのなら私は嬉しいですから」

「はあ?」

 

 振り返った先に立っていたのは、何処か見覚えのある女子。百七十はあろうかという身長にスラリと伸びた肢体が体操服から惜しげも無く覗き、その肌は遠目からでも分かるほどに白くきめ細かい。

 水妖精の種族特有の透き通るような水色の髪はポニーテールに纏められている。

 常ならば凛とした顔立ちなのだろう。しかし、今はその薄い唇は歪み僅かに口角が上がっている。

 

 カチン、と自分の頭の中で音がなった気がした。

 私に喧嘩を売ってくる女なんて久し振りね……! いいでしょう、ここ最近練習漬けでストレス溜まってたし買ってやるわよその喧嘩っ!! 

 

「……随分なもの言いね。私、貴女に恨まれるような事したかしら。あ、もしかして貴女が想いを寄せる男を取っちゃったかしら? ごめんなさいね、私が可愛い過ぎて。それに……ぷ、胸は何処に落としてきたのかしら?」

「はあああああ!? はああああああああああっ!!? ちゃんとありますぅ!! あるんだから!!! 淫魔のように下品なおっぱいじゃなくて気品のあるおっぱいなんですぅ!!」

「え……? ごめんなさい、私には地平線しか見えないのだけれど」

「ブッコロ」

 

 数秒前の冷徹な雰囲気を吹き飛ばし肩を怒らせる水妖精。気分が良い。

 むきーっと地団駄を踏んだ水妖精は、仕切り直すようにはんっと鼻を鳴らし。

 

「この際です、淫魔。私は前々から言ってやりたかったんですよ。貴女は自分の事を可愛いって言ってますがぶっちゃけ男ウケしかしてないそれは可愛いというよりは都合のいいが正しいですよ。ぷ、男に都合のいい淫魔(笑)。お似合いですね」

「はあああああああ!? はあああああああああ!!? 言うに事欠いて私が男に都合のいいですって!?」

「男嫌いって噂ですけど……あれ? それにしては男にだけ都合のいい容姿を随分とご自慢なさっているようで(笑)」

「ブッコロ」

 

 一瞬で沸点に到達した。こいつは今超えてはならない一線を超えた……! 

 

「わあ、怖い顔。そんなに自分が可愛いと思うのなら文化祭でミスコンに出てみたらどうですか?」

「ふざけんじゃないわよ、なんで私がそんな……!!」

「怖いんですか? ですよね、だって今年は女性審査員が多数と決まってますからね。男子の需要だけを集めてその中で鼻を伸ばす……淫魔ってオタサーの姫みたいですね」

「はあああああああああっ!!?」

 

 オタサーの姫ですって……!? 

 どんな男でも虜にできる私が人生でモテない男の集まりで自尊心を慰める(偏見)オタサーの姫ですってぇ……!? 

 

「私も自分の容姿が整っていると客観的に思いますけど。淫魔と違ってカッコいい、綺麗と形容されるタイプなのでミスコンでも男性票も女性票も狙えます。それにもともと男子の好みなんて数え切れないほど細分化されるものですから、規則で魅了の使えない淫魔では……あれ? 井の中の蛙?」

「……水妖精、話は変わるのだけれど貴女に兄か弟はいるかしら」

「え、怖い急になんですか、弟はいますけど……あ、なるほど。無駄ですよ、水妖精にお得意の魅了は効きません」

「……水妖精の種族特性、癒しの体液ッ!」

「正確には恒常性の活性化、つまりは身体に取って最適な状態を保つ、ですけどね」

 

 サキュバスがチャーム出来ない数少ない種族のうちのひとつ。

 水妖精がそうである事を怒りで忘れていたわね……! 

 

 今からほんの三十年ほど前。水妖精はその稀有な種族特性から人攫いが横行し、重罪の人身売買も法の目の届かない場所で頻繁に行われていた。教科書にだって載っている。

 今は元締めを担っていた犯罪シンジゲートが崩壊して安寧を取り戻しているが、その影響は計り知れず水妖精はいっとき絶滅しかけるほどその数を減らした。

 今もその影響は根深く、水妖精の種族は驚くほど少ない。

 

 だから私も水妖精の男にチャームをかけた事はないのだけれど、お母さん曰く大岩を押しているような感覚らしい。

 

「なので当然私は運動も得意です。淫魔は……そのだらしない身体じゃ無理そうですね。ぷっ」

「だらしなくないわよ!? 私がどれだけ体型の維持に気を使ってると思って……!」

「え? それで気を使ってるんですか? どこもかしかもむちむちむちむちと……ひょっとしてボンレスハムにでもなるつもりです?」

「はああああっ!? 勝手につくお肉の苦労も知らずに……!! 何もしなくてもいくら食べても痩せるチート種族は黙ってなさい……! ふんっ、水妖精もなにそれ、どこもかしかも筋肉で硬そうね!! 男見たい!!!」

「はああああっ!? 今どこ見て言いました!? 今どこ見て言いました!!? 人が気にしてる事を一度ならず二度までも……!!」

「一生保たれる身体に最適な状態(塗り壁)」

「ブチ切れました」

 

 ワナワナと肩を震わせる水妖精。側から見ただけでも怒りが内心渦巻いているのがよく分かる。

 ……それは多分、今の私も。

 人通りの多い場所でこんな言い合いをしていれば嫌でも人目につく。私たちの周囲には取り囲むように人だかりが出来ていた。

 ただ、いつもなら鬱陶しく思うそれも気にならないほどに今、私はブチ切れていた。

 頭に来ているのが自分だけだと思わないことね……! 

 

「ふふ、ふふふふ、初めてよ、ここまで私をコケにした女は……!」

「こちらのセリフです、淫魔。貴女は禁忌を口にした……!」

 

 一触即発の空気。私たちから溢れる、瞬きした次の瞬間には掴み合いになりそうなほどの敵意と殺気に野次馬をしていた周囲がざわつき出す。

 

 如何に身体能力に優れた水妖精といえど、数年前までお姉ちゃんと取っ組み合いの喧嘩をしていた私を甘くみないことね……! 絶対に泣かしてやる……! 

 

 じり、じりと間合いを測るような張り詰めた緊張感。視線がぶつかる。誰かが生唾を飲み込んだ音がやけに響いた。次の瞬間、私たちは利き足に力を込め──。

 

「ちょ──ーっと待ったぁ!! ステイステイ! 君ら何やってんの!?」

「邪魔しないでモブ男の親友!」

「離してハクローそいつしばけない!!!」

「モブ男の親友!? なんだそれ!?」

 

 あわや肉体言語を用いた喧嘩勃発、といったところで私たちの間に飛び込んできた灰色。

 私に背中を見せるように間に立った狼の獣人、モブ男の親友は暴れ出しそうな水妖精の肩を抑えている。

 

「なんでこんな事になってっか知らねえけどお前その身体でそれはダメだって!」

「この淫魔には一度私が分からせてやる必要があるのです……!」

「それがダメだって言ってんのよ!?」

 

 二人のやり取りの意味は分からないが、モブ男の親友が水妖精を抑えているこの状況は都合が良い。

 モブ男の親友をチャームしてこのまま拘束させても良いし、何より今水妖精の注意が私から外れている事がグッドだ。

 

「どうして私の邪魔をするのですかハクロー! 貴方は私の味方のはずあいたぁ!? 淫魔……! 今その尻尾で私をはたきましたね……!?」

「さあ? 知らないわね。気のせいじゃないかしら?」

「むっきいいいいっ!!!」

「あれえ!? 美上さんってこんなキャラだっけ!? 二人とも頼むから一旦冷静になってくれ!!?」

 

 悲鳴のような声を上げるモブ男の親友。水妖精は依然抑えられたまま顔を赤くしている。……びっくりするくらいキメ細い肌ね……正真正銘何のお手入れもなくアレなんだから本物のチート種族ね。余計腹たってきた。もう一発いっとこうかしら。

 

「はーなーしーてーくーだーさーいー! ハクロー! 貴方もしかしてこのいやらしい淫魔に魅了されてるんですか!? 正気に戻ってください趣味が悪いですよ!! 絶対えっちな方のパパ活とかやってる見た目ですよ!! 処女厨のプライドを見せてください!!」

「お前こんな人目のあるところで何言ってくれちゃってんの!!?」

「いやらしくないしやってないわよ!!? 散々な物言いといいいきなり喧嘩は吹っかけきた事といいほんとこいつ……!!」

 

 そうよ、頭に血が上って忘れかけてたけど水妖精が帰ろうとする私に喧嘩売ってくるからこんな事になってるのよ。

 同じクラスでもないしなんなら面識も……いや、何処かで見た気が……。単純に水妖精って珍しいから見かけたのが記憶に残ってただけかしら……? 

 

 記憶に引っ掛かりを覚え思案する私をよそに、ため息を吐いたモブ男の親友は諭すように言う。

 

「水澄、お前に理由があるならまずは謝らなきゃだめだ。今は納得出来なくても、そうやって区切りを付けないと話し合いにすらならな──」

「嫌です私こいつ嫌いです」

「あら、奇遇ね。私も大嫌いよ」

「助けてくれ親友……」

 

 天を仰ぐモブ男の親友。抑えられつつもその脇から顔だけをすぽんっと出した水妖精が私を睨む。

 自分から喧嘩売っておいてこの言い分……ろくな性格してないわね。間違いなく気に入らない事があったら無理やり従わせようとするタイプね(特大ブーメラン)

 

 というより、正直もう謝まる謝らないのラインはお互いとっくに超えている。泣かすかどうかだ。

 後はそれをどうするかで──。

 

「あー、なんか引っ込みが付かなそうだから、じゃあこういうのはどうだ? 体育祭の団体戦で負けた方が勝った方の言う事を聞く、とか。それで一言謝れば気も晴れるだろうし──」

「──なんでも」

「──言う事を聞く?」

「お、おう。……え? なんで急にガチトーンになってんだ? 怖い」

 

 その言葉に。

 私と水妖精の目の色が変わった。

 見る人が見ればこう例えただろう。

 

 ──転生した子ブタがレンガの家でお湯を沸かして狼を待っている時のような目みたいだ、と。

 

「私はそれでいいです」

「私もよ」

「おや、逃げないのですか? そのだらし無い身体では騎馬も大変ですね」

「あら残念、私の騎馬は体力自慢なの……だからだらしなく無いわよはっ倒すわよ」

「……だから嫌なんだ」

 

 最後、呑み込もうとして呑み込めきれなかった言葉の意味は分からなかったが、お互い敵意とやる気が十分。

 バチバチと視線の火花が散る。

 

 ……と見せかけて、私の内心は『まだだ……まだ笑うな……しかし……!』状態でにやけそうな顔を堪えるのに必死だった。

 抜かったわね水妖精。自分たちには効果がないからって、私がサキュバスだという事を甘く見たのが貴女の敗因よ……!! 

 

「うわ、これなんの騒ぎ? 凄い人だかりでここまで来るの大変だったよ」

「お、親友。もっと早く来て欲しかった」

「ぁ、ユキカゼくん」

「……こんな所で油売ってないで練習行くわよ!!!」

「え、昨日からは信じられないぐらいやる気に満ち溢れてる……というか、美上さんが帰っちゃったと思ってたから僕たちの騎馬は練習出来な……いえなんでもないです。わ、あ、親友! 先行ってる! 水澄さんもまた委員で!」

 

 思ったより騒ぎが大きくなったのか、新たに人垣から現れたモブ男の腕を掴み練習場所へ。

 

 死ぬほどやる気のなかった体育祭だったけれど、絶対に負けられない理由ができた以上、ほぼ勝ちが決定しているとはいえ万が一に備えて練習は欠かせない。

 

 首を洗って待ってなさいよ水妖精!! 絶対に負かしてやるんだから!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺も騎馬なの忘れてそうだなあ美上さん」

「……ハクロー」

「怖い怖い怖い。美人に凄まれるとすげえ怖い。……でもまあ、驚いたよ。事の良し悪しはともかくお前が親友以外であんなに感情豊かなところ、初めて見た」

「私にも感情はあります。好き嫌いだって」

「四月とはえらい違いだって言ってんの。……人集まってきてるし、自分のクラスんとこ戻った方がいいぜ」

「……そうですね。では」

 

 

 

「……淫魔。貴女は先に喧嘩を売ったのは私だと言った。それは正しい。でも……先に奪ったのは貴女です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 読まなくてもいい登場人物紹介

 

 美上さん

 主人公。激おこぷんぷん丸。

 姉妹喧嘩以外は全く経験がないので煽り耐性はほぼゼロ。

 乗るな美上! 戻れ! 

 

 モブ男

 ヒロイン。四月から身体が結構変わったらしい。

 

 水澄さん

 彼女は美上さんから何かを奪われたと思ってるけど厳密な順番を付けると……。

 容姿に自信ネキ。一言で言えば口を開かなければ……タイプ。

 

 親友

 実は各ページでちょこちょこ存在は確認できる。




長くなりそうだったので分割。ダイジェストでサクッとやるはずがどうしてこうなった。

オリジナル作品の原作設定が変わりましたね。ふと他の作者様の作品を読んでいて、こんなのが現代-恋愛の顔で並んでいていいのか……?ってちょっと思いました。
もうすぐ恋愛し始めるから……!多分……!
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