12番目の使徒 作:名無しの権兵衛
『嫌なことを思い出す。否、これは私への罰なのだろう』
私は愕然としている。我が師の教えを広めるために11人の同士と師と共に各地を放浪し、ユダヤのみに適用される古い考えを重視する者たちの監視を潜り抜けながら、少しづつ、しかし確かに進んでいるはずだったのに。
「もう、一度、お願いできますか? 少し、耳がおかしくなっていたようなので、もう一度、しっかりと」
「すまない、ユダ。より民衆に分かりやすくするためには一度死んでよみがえるほどの奇跡が必要だ。だから、君にはユダヤの異端審問に私の情報を売ってほしいんだ」
「なぜ! あなたの教えに間違っていることはないのだからそのようなこと……しなくとも……」
違う。本当は分かってる。大規模な奇跡を見せびらかさないと普通の人々はそう簡単に我々の考えに賛同できない。だからこそ言葉が尻すぼみになっている私の肩をガシと掴まれる。今にも涙を溢しそうな、悲しい顔を浮かばせながら。
「賢い君ならわかるだろう。このままやっていてもよく有る胡散臭い信仰宗派で終わってしまう。それは君も含めだれも望まないことだ。君に辛い役目を背負わせてしまってすまない」
『やめてくれ、そんな悲痛な顔を君がしないでくれ』
どうしてそんな顔をあなたがするんだ。どんな理由があろうと、これから想像も付かないほど苦しい責め苦を受けて死に行くなぞあなたが一番分かっているだろうに。
『君が赦すのなら、私のこの苦しみは何所に向ければいいんだ。君が恨むのならば私は君に恨まれながら死ぬのだと裏切りの報いを受ける。なのに……』
チリンチリン
「良くぞ
「ありがたき幸せ」
たったのデナリウス銀貨30枚か、こいつらにとっての我が師の死への価値は。は、はははは。日雇いの30日分程度なのか。
我が師が奇跡を起こしたのち、我が四肢は大地に還らん。人を裏切り己の欲を満たさんとする大罪者には罰を。主よ、我等が貴き御心よ、どうかこの罪深き者に最高の苦しみを。
『主よ、御隠れせ給いし後何者かによる
我が、我が穢れた魂にて御身の御声を聞く事能わなれど御身の御心しかとこの胸に響きたり。
「おい、起きろダンテ。戦の予兆がする。今回は多少楽しめそうだ。あとその鬱陶しい後光仕舞え、んで顔洗ってこい」
「ああ。行こうか」
もう二度と、我が師にあの顔をさせないためにも。