12番目の使徒 作:名無しの権兵衛
「『伝承再現』今此処に我は宣言す。我は《ユダ》なり。神の加護を受けながらにして師たる救世主を裏切り背信した異端の徒である。救世主を裏切りし対価を捧げ不遜ながらも我等が主に畏み畏み申したるは極めて歪みし此の世の再編なり」
目を開けると、何ら変哲の無い普通の学園にいた。巨人はフン、と鼻を鳴らした後ズカズカと歩みを進めていく。
巨人に対して軽く手を伸ばしてしまうが、私にその手を伸ばす権利なぞ無く、小さく出した手を引っ込めた。
すると巨人は立ち止まり、此方を向くと、何とも晴れ晴れしい笑顔を浮かべながら私に話しかけてきた。
「さらばだ、殉教者。汝が献身、とくと見させてもらった。また会うときは、酒でも酌み交わそう」
その言葉に、短くも長かったこれまでを思い出し、泣き出しそうになるが、涙はこぼさない。
「ああ、さらばだ誇り高き戦士。また会う時までには、最高級の葡萄酒を用意しておこう」
私がそういうと巨人はニヤリと笑い、その言葉忘れるなと言葉を紡ぎながら出口の方へ歩いていく。
巨人が見えなくなったとき、私はその場に崩れ落ちる。寂しさもある、だがそれだけではない涙をボロボロと溢しながら。
「私の、私の思いは何ら間違っていなかったのか。友よ、師よ、私は今、ようやく貴殿らと同じラインに立てたよ。主よ、我等が貴き天上の主よ。数々の試練を賜りましたこと、深く感謝いたします。災禍の終わらぬ此の世に、不幸が終わらぬ其の人に、神の御加護のあらん事を」
世界には、何もなかった。世界中の神話群はすでに神と人の離別を終え概念と化し、聖書に記された者たちもただただシステムのように死後の、罪あるものに相応の罰を、無垢なるものに相応の恩賞を与えそのエネルギーは龍脈を通して世界中へと再分配される。日本神話は神が生まれたり死んだりを繰り返しながら神代にして人代を過ごす。
聖書の記述が曖昧だった故に巨人は世界中を放浪し、武の極致ともいえる達人を相手に組み手をしていた。
ユダの福音書によって再評価がなされたイスカリオテのユダは、天国にて志を同じくした友と、敬愛する師と共に哲学を論じながら、幸せに過ごしていた。
世界は変わらず、何もなく、人によって、回っていた。
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