12番目の使徒 作:名無しの権兵衛
「しかし、だ。キリストとやらはよほどひどい教えを広めたようだな」
「ウェ(彼奴等を少し懲らしめるためだ。本心ではない)……分かった」
ウェルギリウスが言ったのを発端に、私も口を紡ぎ始める。今は亡き主よ、友を貶める私を今だけはお許しください。
「そうだな。仮にも神道や仏教が主体の日本で寺を襲うだの賽銭箱を荒らすだのを神とやらの名を使っているならやってもいいと考えられる教徒がいるとはキリストとは救世主ではなくペテン師の間違いだったようだ」
私の口から言葉を出し切り終わるとフード付きのローブを被った者二人の内、青い髪が見えた方が睨め付ける。
しかし私はさらに新しく言葉を切り出す。
「もっとも?
「それもそうだ。元より宗教など源流から常に変わりゆく物。キリストがどんなに崇高な意識を持っていようと、それを俗世に染まり切った今の信者に求めるのも酷な話だ。うっかりだな」
「ああ、うっかりだ」
言い終わると青い髪の方に加えて茶色い髪の方もこちらを睨んでくる。事実しか言っていないというのに、事実無根の話で誹謗中傷されたというのであれば怒りは尤もだが事実陳列のみでの怒りは善悪の区別着かぬ幼い子供じゃああるまいに。
話を茶店でも開いてみようという話に発展させているとあちら側からわざわざ話しかけてくる。
「貴様、よくも侮辱してくれたな」
「おいおい、この者は今侮辱といったぞ。日本の刑法での定義は確か事実を適示しないことが前提のはずが事実を陳列しているのに侮辱ときた。それもあろうことか長物を背負いながら強盗の相談をする相手にだ」
「何を!」
「周りを見よ、犯罪者予備軍。ただでさえフード付きローブで怪しいのに刑法で明確に禁止されている強盗の相談を白昼堂々布被せられた長いもの背負ってやる。言葉に出そうか。今この場に法の執行機関が来て真っ先に捕らえられるのは貴方の方だ」
「ゼノヴィア、言ってることは正しいしここは……」
この程度で話すわけがなかろう。我が友の教えを都合のいいように解釈するまでは我慢しよう。それは人の業で、彼はそれを背負った。だが悪用するのであれば話は別だ。それは私の良心の呵責が許す範囲を逸脱しすぎている。
「言ってることは? では何を間違えているのか説明してくれ。それが納得できるものであれば私はこの場で謝罪しよう。ジャパニーズドゲザでもいい」
「そ、それは、」
なぜ言葉に詰まる。自分の言ったこと行ったことには責任を持て。それは人の世を生きる上での前提、無いのは保護者が代替わりしてくれている子供の頃だけだ。
なぜ目を泳がす。真に自分の言ったことが正しいと思うのなら前を向け顔を上げろ。
待て、人払い? 奇跡ではない、が、先の天使と似たようなもの。コカビエルか、こんな時間にどうしてきた。様子見であれば人除けを張る理由も無し、であれば……気づかれたか?
偽典とはいえに星詠みについて旧約に乗るほどの格の天使だ。木っ端の天使では気づかなくとも長く生きている天に属するものであったのであれば気付かれる可能性も十二分にあり得るか。
「ほう、面白い人間が来たと思ってきてみれば、まさかお前とはな」
「こちらこそ意外だ。星について授け、人を愛したものが今や戦争狂とはな。かつてのメタトロンが今の貴殿を見れば憐れむだろうな。己の役割を見失い、其処に有るかもしれないと思った戦争に身をやつす貴殿を見れば」
予想通りにコカビエルが来た。私が皮肉になり切れぬ皮肉を浴びせていると茶髪の方の女性、いや、少女が手首に着けていた髪飾りの形を剣に変える。青髪の方は、本当にそのまま布巻いただけの剣か。あとで警察に通報しとこう。