12番目の使徒 作:名無しの権兵衛
青銅の槍を収納の術式から取り出し、穂先をコカビエルに向ける。
腑に落ちない部分もある。いくら主を失い目的を見失った堕天使といえどあまりにも人を軽視し過ぎている。
それを聞き出してから始めようか。
「かつて人の子を愛し、星の巡りを教えたもうた汝に問おう。袂を分かった嘗ての朋友を相手に、魔と象徴たるを相手に戦わんとするは良しとしよう、が、何ゆえ人の子を巻き込むか」
「愚問だな。象は足元の蟻を気にするか? 否だ。それと同じだ。なぜ偉大なる我々が矮小な人間どもを気にしなければいけない」
「…………そうか。之よりの問答は不要」
よもやここまで落ち果てるとは、まるで聖書を全く知らない馬鹿が描いたような堕天使だ。愚者にもなりきれぬか。
跳躍の奇跡を足に纏わせ、思い切り地を蹴る。コカビエルの少し上辺りまで跳び、空を蹴る。
体重はあまり乗らないが速度だけなら音をも置き去りにする。赤化し軟らかくなった青銅部分を拗り込み、そのままに新たな槍を取り出す。
これで楔は穿たれた。あとは広げるだけだ。
「汝等人ならざる者と追随せし者のみで争うのであらば口出しはすまい。だが、人の子を巻き込むならば、汝を元在るべき姿に変えん」
「貴様、何を」
「其の名はコカビエル。旧約聖書偽典、エノク書にて描かれる天体の
「やめろ! その薄汚い言葉の羅列を!」
「問われし罪は過干渉。人の子の女を愛し、言祝ぎし堕天使。其の本質は愛。愛ゆえに堕ちる尊敬すべき情の持ち主」「故に祝福しよう。汝は決して傲慢が故に堕ちたわけではないのだから。今は亡き主に愛を承るに相応しい」「汝が役目は闘争に有じ。汝が役目は愛に有り。汝の元在るべき姿は是に有じ。呪われしその姿、今は亡き主の御業にて失い、元へと戻さん」
私が詠唱を終えると同時にコカビエルの翼は繭の様に体を包み込み、しばらく浮遊する。
ウェルギリウスに戦わせられずすまないと謝るとオーラに中てられ、気絶している女たちを移動の奇跡により最寄りの教会の入り口付近まで飛ばす。
今度試合をすることを条件に許され、雑談していると、繭が光り始め、罅が所々に入る。
卵から雛が生まれるかのように夜闇の如し黒々とした翼を携えた好青年の姿を取った堕天使が姿を現す。
「祝福しよう。此処に汝は再誕した。何者かに呪われし姿は解かれ、在るべき姿である」
「まさか、裏切り者の代名詞に救われるとはな。思わなんだ」
「汝は是より如何せんや。神の子を見張るものもおそらく呪われていよう」
「ふむ、まあ、星の良さでも説きながら旅でもするかな」
「汝が旅路に祝福のあらんことを」
「あらんことを」
堕天使編はあともうちょっとだけ続くんじゃ