12番目の使徒 作:名無しの権兵衛
一段落し、改めてウェルギリウスと話を始める。といっても特筆することはコカビエルを羽根の繭で包み込み、元の姿に戻した奇跡のみなので話すことといえば専らそれだけなのだが、意外と話は膨らむようだ。
「まさかお主にあの奇跡を使うことができようとは思わなんだ。どうやって会得した?」
「コキュートスの奥深くかつ傲慢の象徴たりし悪魔サタンに噛み続けられればあの奇跡の知識はエーテルを通して私に流れ込んでくる。もとより地獄の最下層、我が友が生誕するよりも前の真エーテルが充満していてな、お前の頃よりも昔くらいか、なんにせよ堕ちた当初は濃密な真エーテルに体を蝕まれ、サタンの戒めよりもきつかった」
「ほう? 俺よりも前とはずいぶんと言い切ったな。なぜそう言い切れるのか、お前のことだから理屈はあるんだろう? 俺は今暇だ。さっさと説明してくれ」
そういわれ、私はかつてよりの昔、遂には2000年も昔になってしまった過去を思い出す。我が友の奇跡を盲目な同志に見せるため、我等が主の御威光をこの世に示すための足掛かりを作るために我が友を異端狩りに売り、罪を主に問われ自らコキュートスの最下部に降り立ったあの時を。
なにせ、一番最初に感じたことは息苦しいことだった。今となっては真エーテルの所為だと解るが考える余地すら無かったあの時に咄嗟に考え付く事が出来る筈も無く唯々困惑して立ち尽くすだけだった。
【来たか、態々アイツの慈悲とやらを受けながら此処に来たいと進言した虚けはお前か】
「あ、くま、さた、ん」
【降りてくるまでにどれだけ時間をかける気だ貴様は。とっくのとうにアイツの子は復活し、教えは未来の最大宗教としての第一歩を踏んだぞ】
「噛め」
【やれやれ、ココまで来ると狂信者よりも厄介だ。教えを絶対として狂信する訳でも無くかと言って別の道に行く訳でもない中道を行く。その様子ではなおさらエーテルに飲まれるだろう。これらは何物にも染まらず何物をも染めるものを好むからな】
「エー、テル?」
【ああ、特にココは凄い、我等が生まれるよりも前、アイツの力も弱く、地下に籠るしか無かった時の物だ。ちょうど俺様のあたりがメソポタミア全盛期あたりだな】
「ということを言われたし、実際余裕ができてからしばらく研究してみると確かに古代メソポタミアの遺物に僅かに残留していたエーテルに酷似していた。1、200年程度なら前後するかもしれんがそれでも確実にお前よりは前だ」
「ああ、降参だ。それなら確かに俺でも並ぶことすら不可能だ。それよりも、今日は随分と来客が多い。此処には厄災の神でもいるのか?」
「似たようなものならいるじゃないか。いくら私よりも後に生まれた一島国の一小国の守り神だろうが一応はドラゴンだ」
「赤ん坊が同然が二天龍とか言って準最強に名前列するとか劣化し過ぎじゃね?」
「コカビエルを浄化して感じた所感だが、世界全体に呪いがかかっている可能性がある。そのせいで神話から見たら赤ん坊同然が持て囃され創世の女神が矮小な一ドラゴンに身を窶しているのだろう。まるで誰かを持て囃すためだけに作られたような歪な世界になるようになっている。まだ研究が進んでいないせいでその誰かが誰かはまだわかっていないがもう少し、具体的には」
「落ち着け落ち着け、ほれ、奴さんも困惑してるぜ」
ウェルギリウスにそう言われ、回転を続けていた口を一旦アイドリング状態にしておき、上を見る。そこには白い鎧に身を纏わせた男が空を飛んでいた。
なんだ、かませとして用意された白い竜にさらに世界の呪いがかかり知能デバフを受けただけの愚かなドラゴンじゃないか。いや、待てよ? 知能デバフは受けているが能力バフは持っている、つまりは白い竜と赤い竜のどちらか、もしくはその宿主が持て囃される誰かか? それなら辻褄も会う。しかし勝手にペラペラと「戦いたい」と駄々を捏ねる糞餓鬼の御膳立てならばわざわざここまで来ることはさせないだろう。そもそもの話こいつは聞き流す単語を整理するに神の子を見張るものに協賛している者のはずだ。
「さっさと俺と戦え!」
「ウェルギリウス、押し付けていいか?」
「え”ぇ”~……良い肉よこせよ。和牛な」
「必要経費か」
「ウェルギリウス……? 詩人程度が俺と戦うと?」
ここからは言うまでもない。半世紀も生きていない鼻垂れ小僧でついている力も白い竜というウェルギリウスから見れば女子の赤子の足の小指を折るよりも容易いと、役不足だと文句をぶー垂れながら、元がゴリゴリの筋肉親父だとは思えないほど素早い動きで後ろに回り込み、首を刈る。
ウェルギリウスとこの後について話し合おうか。赤い竜が要観察対象となったため、見張るためにここに暫く滞在しなければならない。定職も持っていた方がいいだろう。周りから浮いてしまい相手に見つかるのは下策中の下策だ。茶店でも開こうか、余生だが楽しむのもまた彩りに必要だ。