12番目の使徒 作:名無しの権兵衛
目の前の美女は湯飲みに入った煎茶を一切の淀み無く、かつ美麗な仕草で飲んでいる。
湯飲みを音を立てる事無く置いた後、お通しで出した栗羊羹も特に不満もなく食べているようだ。
「ふぅ……御馳走様でした。娘から基督教の信者がここにきて同族の処理をしたいと言っていると聞いたときは何事かと思いましたが、思っていた以上に馴染んでいるようですね。気に入って頂けているようですし、そこは嬉しく思います。ですがだからこそ腑に落ちないのです。なぜ貴方ほどの方が今更此方に黄泉帰り、事を成しているのか。あ、これは個人的なことですのであしからず」
「正直言って、私も黄泉帰るつもりはありませんでした。しかし、地獄から罪人に罰を与える悪魔が去り、罪人は咎を背負うことなく解放されました。まさしく異常事態ですよ。それで主の命に逆らうことを承知で外に出てきたら世界はおかしな歯車の周り方をしている。挙句の果てに関係の無い人様の土地で暴れる……ふざけるな! あの人の授けた
冷蔵庫の中から冷やされたタオルを取り出し、額に乗せる。ヒンヤリとした冷気が額と瞼を冷やし、改めて思考が冷静になっていく。
やってしまった。上から数えた方が早いほどのお方を前に取り乱してしまった。とはいえずっと黙るのはそれ以上の無礼。
「大変お見苦しい姿をお見せしてしまいまして申し訳ございません。以上の理由からです、己の内に潜む主の残滓が悪行を許すなと、過ちを正せという心が囁くに基づき行動しております」
目の前のお方は嘆息した様子で口を開ける。
「まったく、自分の信者にここまで気負わせるなぞ何をしているのか。何よりあなたは十二席に名を連ね、自らの信仰に殉じた信者の鏡とも言ってもいいものでしょうに後始末もせず……念のために警告しておきます。分かっているとは思いますが我々は目的の物さえ回収が済みさえすればあなた方が危害を加えなければ何もしませんがもし喧嘩を売るのであれば人の形を取った自然そのものを相手取ることを承知しておきなさい。覗き趣味の黒鳩」
途中まで私に向けていっているものかと思えば実際には周りをウロチョロしていた堕天使に向けたものであった。
言葉に危うく感じたのか堕天使は姿を現す。金髪に所々黒髪が入ったチンピラ風の男だ。
「待ってくれよ、俺だって覗きたくて覗いたんじゃない。裏切り者と謀反人が一緒にいるってんで偵察に来ただけだ。断じてアンタらに喧嘩を売りに来たわけじゃない」
弁明と思われるものを口にする堕天使だがこの堕天使は目の前にいる存在のことを分かっているのだろうか? その気になれば夫ともども全ての生命を無に帰す力を持つ造物主が一柱だということに。