それは、唐突に起こった。今や木の葉の里だけではなく、世界中に英雄として認められた、うずまきナルト。未だに度々起こる困難や苦悩に立ち向かいながらも、七代目火影としての仕事をこなしていた。
しかし残念ながら、悪は平穏になった今でも、忍び足でやってくる。ナルトは、やんちゃで愛しいわが子(反抗期によって非常にツンがでている)ボルトと、いつも明るく笑顔の可愛いヒマワリに、いつも優しく自分を支えてくれる奥さん、ヒナタを中心に、今や掛け替えのない宝になった里を…守るために、命を張っていた。
「く…っ!」
くぐもった声が、辛うじてナルトの口から漏れ出す。
「父ちゃん!」
焦った様子のボルトが、必死に手を伸ばすが…彼には届かない。
なぜならば、木の葉は今、テロリスト達によって支配され、ナルトが四日間も徹夜してフラフラなのをこれ見よがしにチャンスだと、まんまとナルトをチャクラが吸い取られてしまう特殊な結界の中に封じこめてしまったのだった。
その結界の中に長くいれば、確実にチャクラをすべて吸われて死んでしまう。ナルトは体力と精神力が弱まり、うまくチャクラを練れない状況下にいる。おまけに吸われたチャクラは敵の攻撃用戦闘人形カラクリや敵自身に送られてしまっていた。
「く、そ……」
「父ちゃん!!」
「あなた!」
みせしめにと、敵が木の葉中の人間を広場に集め、その中心にナルトを結界の中に幽閉した状態で、誰も近づかせないように、四天王に見張らせている。
「ぼ、ぼる…と…ヒマ…ヒナタ…」
苦し気にそう言いつつ、手を伸ばすナルト。蹲って胸に手を当てながら、もう片方をボルトたちへと伸ばすナルトの姿は、痛々しく。里の者たちは大声で英雄の名を呼ぶことしかできなかった。
「くそ…くそ! 父ちゃんを放せよ!! はなしやがれよ!」
大声でボルトが喚く。
彼や他の下忍や中忍、上忍たちが下手な真似をするたびに、敵がナルトを苦しめて、チャクラを奪い、殴る、蹴る、刺すなどの暴行を行う。
「あがぁ…!!」
「父ちゃん!!」
傷口や痣は、チャクラが体に通ってないので、なかなか治らないし塞がらない。そして敵は、これ見よがしにナルトを侮辱し、傷の部分を蹴りつけてナルトの悲痛な叫びを聞きながら笑い、楽しんでいた。
「ナルト…ッ!」
シカマルでさえも、万策尽きてしまった。なにをどうやっても何故か敵にバレてしまう。シカマルが言うには、敵はなんらかの方法で感知能力をあげまくっている。そしてその感知能力に使う莫大な量のチャクラはナルトから絞り出していると。
だから、もう誰も動けずにいた。
助けたい気持ちだけが膨れ上がる。
けれど、目の前では逆に、英雄ナルトが弱まっていく。もうかれこれ二日だ。いくらナルトのチャクラが膨大でも、もうそろそろ限界が近づいていた。
(ああ、くそ……九喇嘛の声も聞こえなくなっちまってやがる…)
このまま自分はくたばってしまうのか。近くで聞こえていた人々のざわめきが、今は遠い。九喇嘛も最初は、暴れ回るほどに五月蠅かったというのに。
(俺、今本当にチャクラ吸われながら封じられてるんだな……)
九喇嘛も、こんな感じだったんかな。などと現実逃避しつつも、どうしようかあれこれ考えていた。しかし思考は鈍くなるばかりで。体中が軋んで痛みが走るたびに、声をあげてしまう。
大切なものの名前を言うことくらいしか、今のナルトにはできなかった。
(守れねぇのか…今度ばかりは…)
それは酷く、己の心を抉った。
(誰かに助けに来てもらわなきゃ…ダメなのか…)
脳裏には、たった一人。
(この絶望的な状況を覆すの、アイツしかいねぇじゃねぇか)
サスケ。たのむ…頼むよ。来てくれ。
(もう、目の前で…木の葉の皆が辛い目にあってるの、見てらんねぇよ…)
己が捕まってから、木の葉の里の皆は…虐げられ、彼らの利益のために働かされていたのだ。今や木の葉は敵の拠点だ。もう何人もの見慣れないヤツが連れてこられ、無理やり働かされているのを見た。
酷い時は命を奪う。
(さすけぇ…何処いっちまったんだよぉ…)
身体に力が入らないナルトは、地面に顔をこすりつけるような恰好で横たわっていた。
(もうこうなったら、サスケが来れないんだったら、誰でもいい。誰でも良いから…)
助けてくれ
ナルトがそう強く願った時だった。
「七代目火影さんよ」
四天王の一人が、これ見よがしにナイフをチラつかせながら、悪い顔で近寄ってきた。もう片方の手には、拘束したボルトが。
「ぼ、るとに…なに、を…」
「いやね? 意味はないんだよな…ただな? お前の目の前で、こいつを傷つけたら…どうなんのかなって思ってさ!」
きゃはは! と笑う敵を見て、一瞬ゴクリと生唾を飲み込んだボルトは、威勢よく父を真っ直ぐ見つめた。その瞳には揺るがない信念があるように見て取れる。蒼い瞳が…一層青く光ったような気がした。
敵が喜ぶようなことはやらない。敵の思惑には、乗ってやるものかとボルトは怖がる己の心を叱咤激励するかのように、背筋を伸ばしつつ、ゆったりと、しかし力強く答えた。
「どうもなんねぇよ…お前なんかのために…俺は屈しないってばさ」
脅しにも屈しないボルトに舌打ちをした敵は、持っていたナイフをボルトの首筋にヒタヒタとあてる。何かしようものならば、ナルトが痛い目に合う。かといってこのままじゃ、ボルトが痛い目を見る。
「自分の…大切なモン守れねぇんじゃ、生きてる意味なんてねぇよ」
今にも悲鳴を上げそうになっている心境の父を見て、彼なりに元気付けようとした。己は身も心も強いと。だから何も心配する必要性はないと。
「ぼる…と…」
しかしナルトは息子の言葉を聞くやいなや、さらに心が悲鳴を上げた。
ナルトにとって、強いか弱いかなど関係ない。彼にとって築き上げたものは全て宝だ。今までずっとやってきたこと、守ってきたモノすべてが。
「ぼる、と………」
やっとできた家族。やっと望んだ家族。血のつながった、自分の息子。そのまだ若干幼い息子の口から出た言葉が、ナルトに失う怖さを思い出させてしまった。
否……
「にげ…て、くれ…」
「父ちゃんを置いて逃げられるかよ!」
そもそもナルトは、その怖さを、その痛みを、忘れた事なんてなかった。ずっとずっと脳裏に焼き付いて、心に刻まれているのだから。
「そうか。そんなに死にたければ」
「!」
チャクラが通ったナイフを、男がボルトめがけて振りかざす。
「死ぬがいいさ」
とっさに、ナルトがチャクラを多く放出した。
「だれか!」
その直後に、ナルトが大声を出し、残り少ないチャクラと声を無意識で混ぜた。その時の声はまるで──
「たすけてくれぇぇえええええ!!」
空気を、風を、山を、空を切り裂くようで。
まるで、世界を振動させたかのような感覚さえ感じられたのだった。
「なんだあれは?!」
その数秒後、人々が空へ指をさす。ふいに敵も味方も、指されたほうへ視線がいった。
彼らの頭上に空間が切り裂き、亀裂なようなものがパカリとあいていた。そしてそこから、誰かが勢いよく数メートルの高さから真っ逆さまに“落ちてきた”のだった。
「うぎゃぁあああああああ?! そこどけぇええええ?!?!?!」
あまりの急な展開に、頭の切り替えができずに固まる皆は、すんでのところで非難に成功した。
その何者かが地面と衝突したその際には、衝撃音と地響き、そして砂埃が舞い上がって。その勢いで地面に転がり落ちたボルトは、チャンスだと敵から離れる。
「アイタタタ…」
頭を強く打ったのか、片手で抱えながら起き上がったその誰かは、ブツブツと何か文句を言いつつ立ち上がり、大声を出した。
「投げるなら、もうちっと手加減してくれよ! サクラちゃ…」
そこで青年は、改めて自分が知らない場所に居ることに気が付いたようで、目をぱちぱちと動かしつつ、首を傾げた。
「アレ? ここはどこだってばよ?」