サクラ側視点
ナルトを思いっきり投げ飛ばした張本人のサクラは、ナルトやサスケほどではないが、ナルトの気配を追っていた。
「あ…」
次の瞬間、しまったという声色に、焦ったような顔をしたサクラを見てヤマトは、ん?と言いながら聞き返す。
「どうした、サクラ?」
「ヤマト隊長…多分、私やらかしました」
「やらかしたって…」
どういうことだとヤマトが問えば、時間短縮のためにサスケと落ち合うまでに、説明するとサクラは言った。その口ぶりからして、彼女が何をやらかしたか思いつく辺りヤマトも彼らと一緒に居る時期が長かったことを示している。
しかたがない。そう思いながらヤマトは森の奥へと足を走らせ、サクラも続いた。もちろん森の中はトラップもあれば、歪みも消えては現れて危険だ。そして厄介な事に敵もいた。
「あんたら雑魚にかまってる暇はないのよ!」
我慢していたサクラの堪忍袋の緒が切れ、一瞬にして彼女はチャクラを拳に集中させた。
「しゃーんなろー!」
そのチャクラを何の迷いもなく地面へドカン!と拳と共にぶつける。地形が変形し盛り上がる岩や押し上げられた地面のせいでそこらに埋まっていたトラップが発動するが、それもサクラは計算の内にいれていた。
自分たちが害のないような範囲内で、敵をトラップごと消滅させた。
「ヤマト隊長!」
あっちへ木遁を使ってと指をさすサクラを見て、素早く木遁を使い腕から大木の枝を生やしつつ伸ばす。その上をサクラが駆け上がっていくのを見てから、ヤマトも駆け上がり、走っていく。
サクラの気転をきかせた発想で、素早く敵もトラップも回避できた。あとは歪みにさえ気を配ればいい。彼らは目的地であるサスケの待つ場所へと走っていった。
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サスケ視点
助けてくれ。そんな声が風のささやきのように、弱く、か細く聞こえた気がした。
「ナルト…?」
声が聞こえた方角へ視線をずらす、漆黒の瞳をした彼はその先を見つめた。そこには真っ青な晴れた空と、そこら中にいつ発生し、いつ消滅するかわからない歪みが現れては消えている。
(気のせい…か?)
気のせい…なのだろうか?気のせいにしては、おかしい。あの声はナルトのだったと、サスケは敵と交戦中に考えていた。風が彼の顔へ迫る。直前でクナイを取り出し、何かを空気中にてはじいた。空中に何かが投げ出され、風が止む。風の正体はクナイだった。
息つく暇もなく手裏剣が飛ぶ。四方八方に数多の手裏剣をサスケへと投げつけた敵を見失わないように黙視しつつも、手裏剣を避けつつ、その漆黒の眼を真っ赤な写輪眼へ変化させ、引き続きかわす。
このままではらちが明かないと判断したのか、それとも焦ったのか。はたまたサスケの体力を奪ったと判断したのか、敵方は刀を構え、攻撃を直に仕掛けてきた。サスケは難なくそれを片手で引き抜いた刀で受け止め、そして跳ね返すと、両者その勢いに任せて離れ、距離を取った。
(まて。あの声は確かにナルト…に似ていた。だが)
若干…今よりも大人びて、今よりも声が低かったような…?
それに、とても悲痛で弱々しかった気がする。
戦いとはまったく別の事を思考していたサスケは、そんな事に気が付きつつ、さらに思考を深いものに変えていく。
それらに気を取られて、彼は一瞬反応が遅れた。そんな好機を敵が見逃すわけがない。これ見よがしにサスケへと迫っていき、秒で手に持つ刀をサスケの喉笛へと突きつけ、あと少しの動きでその喉を切る。
ニヤリと敵が勝利を確信し、笑った気配がした。
その、刹那
「なん?!」
男の持っていた刀が、ただの棒きれに早変わりした。まるで狸にでも化かされているかのように。まるで狐にでも騙されているかのように。
ふと男が目にしたのは、らせん状の渦巻く、紫色の───
「忍びは、いついかなる瞬間でも、隙を見せることなかれ」
静かで、無情で、冷たい声が聞こえたと思った。
その瞬間に男の意識は刈り取られ、身体はどさりと地面に落ちた。男の頭は…ごろりと地面を転がる。
「それがたとえ」
サスケが、豪火球の術で男がいた証を全て灰にしつつ、言葉を続ける。風でも味方につけてるかのように、その場で強い疾風が駆け巡り、炎の勢いが思った以上に舞い上がった。
「勝利を確信した、その瞬間でも…だ」
業火の炎に照らされ、風が舞い、サスケの前髪に少し隠れていた紫色の螺旋模様の瞳が露になる。まっすぐ炎を見つめるその瞳は、心ここにあらずで、一体どこを見つめているのだろうと、疑問さえ持つが──…
その心は、ただただ、友と愛する女性ただ一人を想うのだ。その瞳はただただ、温かく優しく、生きるもの、死に行くものたちを包み、弔うのだ。
それがたとえ、己の敵であったとしても。散りゆく命を、刈り取るしかなかった命を、決して無下にはしない。しばし祈るかのように、サスケは瞼を閉じる。全力で挑んできた若者の魂へ敬意を表して。
「…なんだ?」
突如、己の近くで空気が吸い込まれるような音がした。同時に異様な巨大なチャクラと、強い強い感情──これは悲願だ。とサスケはこの時思った──振り返ると、目の前に急に現れた空間の歪み。
チッと舌打ちをしながら横に逸れて免れようとしたその瞬間
「…ぁああああああ!」
「ナルト?!」
その歪みのはるか向こう側の空から、先ほど声を聞いたはずのナルト本人が吹き飛ばされつつ、キレイに歪みの中へ吸い込まれて行ってしまった。歪みはナルトを吸い込むとそれっきり、綺麗に跡形もなく消えてしまう。
あんぐりと、らしくもなく口を開けたまま呆けて、それからサスケは頭痛がしたように片手で頭を抱えた。大きなため息がその場に響く。
会いたいと思っていた。旅の話をしたいとも、思っていた。あれからどう、あいつが感じ、行動し、どんな事件を解決してきたのか。里の皆の事も聞きたかった。
…サクラがどうしているのかも、聞きたかった。
次会ったらと、本当に楽しみにしていたのだ。それがたとえ、任務であったとしても、サスケなりに浮足立っていた。期待していた。胸を躍らせていた…それなのに。
「あンッの……ウスラトンカチ…………!!」
流石は、意外性№1の、ドタバタ忍者ナルトである。彼は誰もの予想を、上回ってしまう。
「…あいつ、チャクラなしでここまで吹っ飛んできたな」
どうせそれは歪みをチャクラで刺激しないようにだろうが、成長した彼をここまで吹っ飛ばせるものは限られてくる。そしてその限られた人数の中に、今日落ち合うハズだった一人の少女…女性を思い出した。
その髪は春を現したかのような、綺麗な淡いピンク色で。その瞳はまるで翡翠のようで。誰もが知る限り、彼女は怪力を持つ一人で。
「サクラか…」
きっとナルトを吹っ飛ばしたのはサクラだ。遠慮を一切なしで全力でぶん投げたのであろう事は容易く想像できた。なんせ、相手はあの、サクラである。
ハァー。疲れたような、呆れたような溜息がサスケから放たれた。しかし何故か、その顔は苦笑いのハズなのに、どこか嬉しそうだった
「変わってねぇみたいだな。サクラ」
流石、俺の──…そう言いかけて、彼は横を見つめた。人の気配がしたからだ。
「サスケくん…」
そこには、自分が想像していた以上に綺麗になっていたサクラがいたのだった。
「……久しいな。サクラ」
ヤマトにはまったく目をくれないで。サスケとサクラはじっと見つめ合う。サクラは恥ずかしそうにもじもじしつつも、視線をそらさない。対してサスケも優しい光が宿る瞳で熱くサクラを見つめ続けていた。
サクラとサスケの空間だけができ、ヤマトは完全に蚊帳の外だった。
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未来の○○〇視点
父ちゃん。俺の、みんなの父ちゃん。
わかってる。忙しい事も、ちゃんと俺たち家族の事を思っていることも、それでもどうしようもなく里も守りたくて、少し家族を疎かにしちまってる理由も今は、もうわかってる。
けど、けど俺は…少しだけでも。そう。家族のイベントに少しだけでも加入してほしかったんだってばさ。
「なんで…俺の誕生日に来てくれなかったんだよ」
火影室にいる父ちゃんを睨む。父ちゃんは疲れた顔をしながら、俺がここに来ることなど想定してなかったのか、驚いた顔をしていた。
「ボルト…」
わかってる。俺のこの行動は父ちゃんを困らせてる。行けなかったことが罪悪感になって押しつぶされそうになってるってのも、もちろんわかってる。けど、けど!!
「納得いかねぇってばさ!なんで…なんで来てくれなかったんだよ!」
「…」
「仕事が忙しいのはわかってっけど!それでも俺は!!父ちゃんに来てほしかった!ヒマも、母ちゃんだってそうだ!」
「…すまねぇ」
「あやまって全部が丸く収まるとでも!」
「思っちゃいねぇ。けど、謝らせてくれってばよ…すまねぇボルト」
悲しそうな顔でそういうもんだから。なんにも言えなくなった
「お前は、優しいから…お兄ちゃんで、母さん想いだから…もちろん、俺の事も想っててくれてるってわかってるってばよ。あんがとな。」
言いながら頭を撫でてきて。何でか無性に腹が立ってきて。
「頭を撫でんな!俺は今、怒ってるんだってばさ!」
だって。だって。いくら頭で理解してても。心が耐えられねぇんだ。悲しいんだ。頭を撫でてた父ちゃんの手を振り払って、キッと睨む。
「いくら火影だって言ったって!家族をないがしろにすんなよ!俺がどんな気持ちで…」
ああ、涙が出てきた。かっこ悪ぃな…
「どんな気持ちで…!ダチの誕生日に…!無理してでも来てくれる父親見てたかわかるか?!」
「!」
「俺がどんな気持ちで…!今まで…嬉しそうに寄り添って笑う家族を見てきたか…ちょっとは考えて…」
そこで、俺はハッとして言葉を止めた。だって、父ちゃんが今までにないくらい
「父ちゃん?」
苦しそうな、悲しそうな顔をしてたから。少しの異変に気が付いたら、もう次々と異変を見つけちまう。
たとえば、いつもよりも今日は書類の山が少なくなってた事。かわりに父ちゃんの顔色が悪いし、目の隈もすごい。少しふらついてて、今まで寝ずに書類と向き合ってたんだ。
何のために?もしかして…もしかしたら…父ちゃんは俺の誕生日に間に合うように無理して仕事をこなしてた?けど、実際にできなくて、顔向けできなくて…今までずっと仕事をしてた?
俺や家族に対して、妙に不器用な所がある父ちゃん。
けど、今の俺にはキャパオーバーし過ぎて、それらに気づいても、気付かないフリをした。
目を、現実から…逸らしちまったんだ…
「もう、知らねぇ!」
だから、俺はそこから立ち去ったんだ
「ボルト!待ってくれってばよ…せめて、これを!」
最後の一生懸命な父ちゃんの声を目いっぱい無視して、俺はそこを飛び出した。震える父ちゃんの声が、今でも耳にこびりついてる。
ああ、あの時…もう少し話し合ってたら。父ちゃんを精神的に追い込んで弱らせなかったら。あるいは父ちゃんは、敵の襲撃に気づいて、いち早く対処できたかもしれねぇのに…
「俺の…せいだってばさ…」
俺は、そんな資格はもうないけれど。
深く後悔した。
もう、なにもかも、遅かった。
次回は戦闘編???