各クラス5人ずつの一騎打ち。
何でも言うことを聞く、という権利をかけた勝負でもある。
「件の霧島さんに勝てるのか?」
「まあ、任せておけ。」
大将を務める坂本がそう言うのなら、任せるべきだろう。
「くっ、僕はどうすればいいんだ!」
「勝つことに専念すればよかろう。」
Aクラス代表である霧島さんは姫路さん狙いということが、すでに吉井の頭の中の9割強を占めているらしい。それが正しいことなら、吉井にとっては恋敵となるわけだ。ただし吉井本人はいまだに自分の恋心にもクラスメイトからの好意にも気づいていない。
「吉井、まずはお前だ。」
「ふっ、僕の隠れた実力を見せてあげよう。」
「よ、よろしくお願いします。」
霧島さんと姫路さんか。
美少女同士なのだから、さぞ絵になるだろう。
Aクラスは女子の割合が大きいし、そういう関係を築いている女子たちがいるかもしれない。だがしかし一方通行な好意は俺は求めているわけではない。
「召喚します!」
「僕は左利きなのさ! 召喚!」
サーかば、なのフェイ、……etc、今まで二次元でしか理想のカタチは見ることはできていないが、さて。
「イタタタタ」
「だ、だいじょうぶでしょうか?」
観察処分者である吉井には、召喚獣に対するダメージのフィードバックが大きい。召喚獣の操作は吉井に軍配が上がるが、圧倒的な点差の前に敗れた。数学だけはBクラス並だという島田さんの慰めにもバカな答えを返して、夫婦漫才が今日も始まる。
「さあ、ここからが本番だ。」
「僕のことは信頼していなかったのかよぉ!」
「……行ってくる。」
ムッツリーニが、静かにフィールドへ向かっていく。
科目選択は、『保健体育』。
「じゃあ、ボクが相手をしようかな♪」
「お前は……」
Aクラスで一番保健体育が得意な女子らしい。
甘い誘惑に屈して鼻血を出しながらも、冷静沈着な表情を保ちつつ召喚獣を出した。背後では吉井とFクラス女子2人は夫婦漫才をしていて、『異端審問会』というリア充撲滅組織は殺意たらたらなのだが、いつもの光景なので坂本や俺は戦況に集中するだけだ。
「ふっ、さすがだな。」
400点を超えると得られる『腕輪』の効果のぶつかり合い、制したのはムッツリーニ。非常に大きい加速度によって得たスピード、そして普段は使い方の間違っている観察眼を持ち味とした戦い方だった。
「まさか、ボクが負けるなんて……」
「なかなかだったな。」
保健体育だけで、570点だ。
それでもFクラス入りしたということは、他の点数の悲惨さを物語っている。一体どれだけの努力を一科目に費やしたのだろう。常に持っているカメラで、今もなおコソコソと女子のスカートを撮ろうとしているのだけれど、警察沙汰にならないことを祈ろう。
Aクラスから1勝をもぎ取ったことで、はしゃぐ。
吉井と一緒に喜んでいるし、基本的にみんな単純だよな。
「次は僕が相手をしよう。」
「久保か。」
学年次席。
どちらかといえば文系寄りとはいえ、どの点数も一般的なFクラスメンバーでは太刀打ちできないだろう。まして総合科目を指定してきたのだ。俺や姫路さんで対抗するか、それとも戦力を温存するか。
「ここは私が。」
「がんばってきて!」
「はい!」
坂本も、姫路さんがフィールドに向かうのを止めることはない。
「僕は彼の前で負けるわけにはいかないんだよ。召喚!」
「いきます、召喚!」
4000点と、4400点。
2人とも、この学園でトップ3を争う実力者だ。
「私はこのクラスのために。彼がいるこのクラスで。」
「まさか、ここまで伸びているとは!?」
Aクラスでなかったことに後悔はないらしい。
吉井のバカっぽい表情は、今だけ少し大人びていた。
「がんばりたいんです!」
「僕も、譲れない想いがあるんだ!!」
4000点台の召喚獣ということもあって激しいぶつかり合いだ。400点差なんて感じさせない。互いに譲れない想いをぶつけ合う。成績としてもライバルであって、同じ人を好きになってしまったことで恋敵でもある。
「がんばれぇー!」
「負けるんじゃないわよー!」
木下さんは顎に手を当てて吉井と久保を交互に見ているのは、攻めか受けかを考えているのだろう。表情は冷静沈着なままなのだから、戦争のことをそっちのけであることには俺以外は気づかない。
今回勝ったのは、姫路さん。
これで2勝1敗であって、Fクラスのリーチなのだ。
「頼んだぞ。」
「ああ。大将の出番、ないかもな。」
「よしっ、伊月なら勝ったも同然!」
「うん! 姫路さんに匹敵するからね!」
期待というプレッシャーが背後から俺を襲う。こういう人の前に立つ場数は踏んできたので、動じることはない。対する木下さんは仲間の期待をちゃんと受け取って、力にしている。
「まさか、あなたと戦うことになるなんてね。」
仲間に壁を作り続けている点では俺たちは同じだが、その厚さは圧倒的に違う。
「科目はどうする?」
「日本史よ。」
「なるほど。」
「「召喚!」」
木下さんの396点に対して、俺は349。
騎士の巨大なランスを大剣で弾き返そうとしたが、吹き飛ばされた。
「思った通りに動くのね。」
「ああ。仕組みが気になるよな。」
召喚獣の操作は初めてなのだろうが、彼女にとってランスは馴染み深いもので扱いやすいらしい。
「でも、今は決着をつけましょうか!」
モンスターを狩る某ゲームでは双剣使いであったし、まだまだ大剣の扱いが拙い。
ランスが、召喚獣の身体を貫いた。
「今回はアタシの勝ちね。」
「これでも伸ばした方なんだけどな。」
「そ。次は楽しみにしているわ。」
付け焼き刃の日本史では敵わなかったらしい。
しかしみんなは責めることなく、俺の健闘を讃えてくれた。
「どんまい!さすがAクラスだったね!」
「……たしかにAクラス。」
「それ、姉上の前で言わないでおくのじゃぞ?」
「さて、俺の出番だ。」
「雄二……」
2勝2敗、つまり各クラス代表同士の戦いで決着がつく。
日本史の、限定テスト対決。
そう告げた。
100点満点のテストで、決着をつけるらしい。
「どういうことじゃ?」
「小学生レベルなら、2人とも満点じゃないの?」
「小さなミス1つで敗けるってことですよね?」
「……例えば、年号」
「小学生の時に、間違って雄二が教えたとかか?」
彼女の記憶力は、『完璧』だと聞く。
「まっさかー! あの雄二に霧島さんみたいな美少女の幼馴染がいるわけないよ!」
「美少女……」「ここにもいるんだけど」
「えっ、なんで、ぐぇ!?」
俺や木下は、テストを受ける2人を見つめるだけだ。
「今は代表を信じるだけじゃ。」
「そういうことだな。」
―――数十分後、テストが終わりを告げた。
「97点、だと。」
「我らが代表が……」
「まさか、そんなことって……」
彼ら彼女らに一時的とはいえ、Fクラスの設備を使わせることになるのか。そもそも、Fクラスの設備はもう少しくらいマシにしてもいいだろうに。今の時点で健康被害が出るレベルなのだ。
「やったっ!これで僕たちの勝ちだ!」
「……フラグ」
53点
「「「は?」」」
「「「は?」」」
「ここからが、勝負だ!」
呆気なく、召喚獣は凶刃に貫かれた。
約2倍のステータスの前には、屈するしかない。
「くっ、ころ!」
「雄二、キサマぁ!?」
「作戦は完璧だったのにな。」
敗北だ。
しかしFクラスがAクラスに一矢報いたという点では、成功なのかもしれない。
「雄二。なんでも言うこと聞くって。」
「あー、まあ、そうだったな。」
「こっち」
「あっ、おい。待てって。」
校舎裏に霧島さんに連れて行かれた雄二。そんな彼を殺意たらたらで追いかけようとした異端審問会メンバーたちは、霧島さんによる覇王色の覇気のような何かで気絶していく。もしかしたら幼馴染ということは合っていたのかもしれない。
「なんでも聞くって、言ったでしょう。」
「あれは雄二たちのことでしょうが。」
「あっち見なさい。」
ムッツリーニに至っては、対戦相手の女子が逆になんでもしてあげるって言い寄っている。重要なところでヘタレそうなムッツリーニなのだから、からかって面白がっているだけだろう。もし実技をすればムッツリーニの身体が耐えられない。
「あまり出せるものはないぞ。」
「そうね……散髪。」
「はい?」
「散髪してきなさい。」
「まあ、それならいいか。」
元の身体の持ち主が前髪を伸ばしたままだったし、そのままにしておいたのだ。
「それで、放課後は一緒に勉強会。たまに本屋に行くのに付き合いなさい。」
「1つじゃないのかよ。無理難題じゃないからいいけど。」
この学園で、友達はどんどん増えていく。
だから少しずつ、年相応な俺になれるといいな。