島田さんと木下さんによって朝から吉井が関節技を受けて、いつものドタバタな日々が始まりを告げた。基本的には俺たちはFクラスで授業を受けるのだが、体育の時は誰もいなくなる。
坂本は婚姻届を失くし、ムッツリーニが全女子のバストサイズ一覧を失くし、秀吉がナース服を失くし、島田さんが秘蔵の写真を失くし、姫路さんも封筒を失くした。Fクラスのメンバーが全員体育に出ていたとなると、Fクラス以外のメンバーがこの事件に関わっていることになる。
「鉄人が金庫に持って行ったらしいんだ!」
「ダンボールの中に大切な物が入っていてな。」
「それを間違えて持って行ったらしいのじゃ。」
「まあ、協力はするが……」
「サンキュー」
「恩に着る。」
焦っている彼らについていけば、大きな金庫の前。
「どうだ?」
金庫というより金庫室、よくルパン三世が侵入するようなものだ。どうやら普段は重大な倉庫として使っているので、理由を言ったとしてもそう簡単に許可が下りることはないだろう。
「今開けなきゃダメなのか?」
「「「ダメ!」」」
「……そうか。」
まあ、俺ならどうなってもいい。
開けるには、パスワードと鍵。
鍵は教師の誰かで、特に西村先生が持っている可能性が高い。パスワードについて知っている教師もそう多くはない。また、物理干渉ができる吉井の召喚獣なら力づくでも破壊できるが、その手段はない。
「やっぱり、月村もそう考えるか。」
「まあな。」
ノートパソコンを膝の上に置き、コードでサーバーと繋ぐ。
「何をするのじゃ?」
「パスワードを探す。」
「でも、下手に打ちこんだら警報が鳴るらしいわよ。」
「誰から聞いたんだ?」
「根本ってやつだ。」
「……そうか。」
坂本が特に気にしていなら、問題はないだろう。
俺は構わず、操作を続ける。
「……それなら、警報が鳴らない。」
「以前、サーバールームに入った時、端末にアクセスするパスワードがわかったんだ。それを使って、何か手がかりがないか調べてみる。」
「「「おおっ!!」」」
そこまでは複雑ではないから、俺でも操作できる。
召喚システムはまさにプロトタイプと言えるもので、オカルトの要素さえなければ動かせないことは確かだ。だから、積もった情報の中に金庫のパスワードが残されていてもおかしくはない。
「あった。」
数字4桁。
学園長のガサツさがわかる。
「これなら鍵さえあればなんとかなるね!」
「ここからは俺たちの出番だな!」
数十分。
吉井が包帯を頭に巻いているとはいえ、生還。
これで、鍵は手に入った。
「よしっ、開けるぞ。」
積もれたダンボール。
各自の探し物も、ちゃんと取り戻せたようだ。
「ほんと、よかった。」
「そうだな。よかったよ。」
「あんたは?」
「根本君だよ。ここにあるって教えてくれたんだ。」
「有能だったよ、君は。」
俺の肩を軽く叩き、根本はダンボールの中からプリントの束を1つだけ取り出す。
「試験問題か。」
「そんなっ!」
「それってカンニングじゃない!」
「そうだな。お前らも一緒に見るか?」
「……乗せられた。」
「くそっ! 最初からこういうつもりだったのかよ!」
「は? ま、まて。坂本雄二。あんた、気づかなかったのか?」
「すまん。」
「ははっ、俺はつくづく運がいい! バカがまちがってダンボールを運び、気が動転した坂本は真意に気づかず、そしてバカ正直な有能君がいてくれた! 最低で屑で、踏み台には相応しいんだよ、Fクラス。」
「そんなこと! Fクラスはみんな、やさしくてあったかくて。最低なんかじゃありありません!」
「はっ、勝手にほざいてろ。」
「「てめぇ!」」
「お前らは共犯者さ。バレれば一緒に停学。運が悪ければ、退学さ。」
「くそっ、そんなこと怖くない!ぶん殴ってやる!」
「まてっ、明久!」
「でも!」
「このことは秘密にしようぜ。お互いのためにな。」
「根本、ロクな死に方はしないぞ。」
「おおっ、こわ。じゃあな、踏み台のバカたち。」
―――賢く生きようぜ
嗤いながら去っていく、根本。
俺たちは、沈黙を続けるしかない。
「とりあえず、ここから出るぞ……」
「そうだね……」
「システムのことはやっておく。だから、鍵持って帰ってくれ。」
「あ、あのっ。」
「全部、俺が後始末するから。俺があいつを道連れに」
言葉は途切れる。
頬の痛みが俺を襲い、胸ぐらを掴まれる。
「月村君!?」
「アキ、あんた!」
「ふっざけんなよ!誰がそんなこと頼んだ!僕たちが巻き込んだことなのに、なんであんただけが責任を取るんだ!」
「俺が勝手にお前らを信用して、俺が勝手にやっただけだし、これからも勝手にやる。……閉めるぞ。」
扉が、閉じた。
****
誰もいないFクラスの教室に入った。
真っ暗で、でも必要な物の場所はわかる。
彼らの私物を使うことは心苦しいが、仕方がない。
「伊月君、待ちなさい。」
細い腕だ。
振りほどくことも容易い。
「そんな怖い目をしているのに! 心配しない友達がいるわけないでしょ。」
「……なあ、俺ってバカなのかな。」
「どういうこと?」
「何も言わずに勝手にいなくなる。それをまた繰り返そうとしている。」
こんなに苦しいのだ。
転生なんて、しなければよかった。
「……伊月君のこと、私はほとんど知らないの。学校に来てなかった理由も、あまり自分のことを話してくれないから全然わからない。だから、まだまだいろんなことを聞いてみたい。」
―――あなたがいなくなるなんて、私は嫌よ。
「キツいな。」
「ええ。簡単には、逃がさないから。」
「関節技は、まだ経験したくないな。」
「そう、よかった♪」
「……決着をつけてくる。」
行き先は、学園長室。
まずやることは、土下座。
俺たちが金庫室に入ったこと。
テストの問題を見たのは、根本だけ。
全部、バカ正直に話した。
「……それを信じるバカがどこにいるさね。」
「学園の模範生である私が、バカ正直な彼を信じます。」
「そうかい。」
嬉しそうに、微笑んだ。
学園長は俺たちに背を向け、呟くように告げる。
「なぜパスワードがわかったのか疑問だろうね。」
「それは、まあ。」
「あんたの召喚獣は、あのバカのより特殊なのさ。なぜか意識を持ち、召喚していないときでもサーバーの中を動き回る。そしてたとえフィールドがなくても展開できる、あくまで今は腕輪を媒介としているだけ。まったくこれだから、召喚システムの研究は楽しいのさね。」
「俺の召喚獣、よっぽどの問題児らしいですね。」
「そういうことさね。だから罰の代わりに、これからは召喚システムの向上に力を貸しな。それで、お前は将来……。まあ、この話は今度にしようさね。」
窓の向こうでは、テスト問題が舞っている。
バカたちが、バカやったみたいだ。
「バカどもと一緒に、決着をつけてきな。」
扉が、蹴り開けられた。
「「やるぞ。試召戦争!!」」
「了解。」
バカは、転んでもただでは転ばない。
****
Bクラスとの決戦が始まる。
「開戦だ!」
「「「うおおおお!!」」」
Fクラスで突出した点数は、数学の島田さんと保健体育のムッツリーニ。そして、俺や姫路さん。しかし、気迫なら他のクラスメイトも負けていない。リア充であるBクラス代表を敵視した異端審問会メンバーは、Bクラスメンバーを集団で囲んで同士討ちにまで持ち込んでいる。
「なるほどな。ムッツリーニ、引き続き頼んだぞ。」
「……了解」
「まるでニンジャだな。」
「ああ。頼りになる。」
Fクラス教室のボロボロの扉が、開かれた。
「お客様が来たか。」
「いたぞ!坂本だ!」
「船越先生、頼みます!」
「承認しました。」
「「「召喚!」」」
「「召喚。」」
250点くらいが3人。
島田さんにも敵わない実力で、戦線の後方から乗りこんできた。
「300オーバーに、500オーバー……?」
「うそだろ。」
「なんでこいつらがFクラスなんだ。」
かつては神童と呼ばれた坂本なら、あり得る。
前世は理系学生だった俺なら、あり得る。
拳と大剣が、敵を蹴散らした。
「威力偵察だろうな。」
「ああ。引き際を間違ったな。」
「戦死者は補習!」
3人を抱えて、走り去っていく。
そして、教室の外から見ていたやつをわざと逃がす。
攻撃と防御、それぞれに人数を割く必要がある。Fクラスには切り札がある以上、一斉攻撃することは慎重派の根本は選ばない。じっくり追い詰めることをするからこそ、わざと戦線の反対側を開けているのだ。
「西村先生、戦場を駆けまわっているんだよな。」
「まさに鉄人だな。」
だからこそ、今回の鍵だ。
「雄二!伊月!」
ボロボロの扉が勢いよく開かれて、壊れた。
彼は根本が警戒する、黒金の腕輪の持ち主の1人。
「目立つバカ。おつかれさん。」
「ずいぶん走り回ったみたいだな。」
「はぁはぁ……、奇襲をかけるよ!」
「「ああ!」」
さて、ここでこの学園の構造を説明しておこう。旧校舎にあるのがFクラス、新校舎にあるのがBクラスだ。それぞれの校舎は渡り廊下で繋がっていて、渡り廊下こそが戦争の中心となる。
島田さんと姫路さんがそこで今も戦っている。
「まったく、俺を使うとはな。今回だけだぞ。」
そして、BクラスはAクラスと向かい合っているのだ。
「頼んだぞ、鉄人。」
「よろしく、鉄人。」
「よろしくお願いします、鉄人先生。」
「月村まで……」
屋上から俺たち3人を抱えて、Aクラスの窓から侵入。
「「「鉄人、さっすがー!!」」」
木下さんと、俺は頷き合った。
「行くぞ。」
「「「ああ!」」
真向かいにある、Bクラスの扉を、蹴り壊す。
「「「根本、来たぞ!!」」」
「なにっ!?」
「代表!Fクラスに坂本も月村もいません!」
「バカ!ここにいる!」
秀吉の声真似や演技。
それで、とどめの一斉攻撃を行わせたわけだ。
「残念ながら、俺を過剰に気にしすぎたな。」
ムッツリーニによって情報操作は完璧。俺が霧島さんに匹敵するという情報は、慎重派の根本をさらに慎重にさせることは簡単だった。もし、俺を倒したければ保健体育でも持ってくればいい。
「鉄人!!科目は保健体育!!」
「承認した!」
坂本や吉井は、徹夜してムッツリーニの補習を受けたのだ。
「起動!」
そして俺は、保健体育以外の科目ならいい。
科目は物理。
俺の周囲だけは別科目で戦うことになる。
「運が良かったな。」
吉井たちは300点。
そして、俺は580点。
召喚獣の操作は、俺たちが上。
「姫路さんも、そろそろ到着する頃だろうね。」
「くそっ、お前ら!俺を守れ!」
護衛は10人。
慎重派の、根本らしい人数だ。
「「「ムッツリーニ!」」」
「……加速!!」
根本の召喚獣の首を、忍者が刈り取った。
点数は600点オーバー。
「まさか、お前らさえも囮だと……」
「そういうことだ。」
「……勝った。」
「戦争終結! 勝者Fクラス!」
「「「よっしゃー!」」」
Fクラスのメンバー、誰1人欠けてはならなかった。
バカができることをやったからこその勝利だ。
「これは罠だ!」
「は?」
「なぜAクラスから来て、騒ぎにならなかった! 他クラスとの協力は規定違反だろ!」
「雄二と協力……、ぽっ」
「一体、なにがあったのかしらね。」
「ボクたちのクラスに鉄人先生が入ってきたんだよね!」
「吉井君たちと一緒にね。」
「そう。俺たちは勝手に窓から入ったんだ。」
「最近暑いから、窓が開いていてよかったよ。」
「他の皆は、他の教室に行っていたみたいだな。」
「く、くそっ。お前らのせいだ!お前らが俺を守らない、から……」
駒として扱い、責任をなすりつける上司は最悪だろう。
Bクラスは3ヶ月もFクラス教室になるのだが、自滅。ヘイトを根本自身が集めてくれた。そもそも私物まみれのFクラス教室にはみんな愛着が湧いているし、教室交換は行われない。
「……後でお前はみっちり指導してやる。補習では済まないぞ。」
ともかく、Bクラス生徒は根本を睨みつけた。
鉄人先生によって、こってりしぼられるだろう。
「すっきりした?」
「……ありがとう。」
「ど、どういたしまして……」
頬をかく木下さんの頬は赤い。
もし木下さんがいなければ俺は、まちがい続けたと思う。
「明久君!やりましたね!」
「アキ!すごいじゃない!」
「柔らかいものと固いものに挟まれて!?」
明久は姫路さんや島田さんに抱きつかれ、秀吉やムッツリーニとも健闘を讃え合う。雄二も霧島さんの胸にうずめられて、顔を真っ青にしてイチャイチャしている。Fクラスをバカみたいに勢いづけるのは、やはり明久と雄二なのだ。
「「「異端者は、処す!!」」」
「なんでだよ!?」
「やっと解放されたんだが……」
ブラックリストに俺も載ってしまったなっと
「まあ。とりあえず」
「「「逃げる!!」」」
これ以上は、自分の気持ちから目をそらすことはできないだろう。