気になる方がいたら申し訳ありません。
ヴィランの危険度には、E~Sまであり、Eはその辺のチンピラ。
D~Cはヒーローや警察協力しなくても対応できる範囲レベル。
B~Aはヒーローと警察しないと対応できないレベル。
Sはヒーローランク一桁台がいないと対処できないレベルとなっています。
no.3
死霊術師を逮捕後、私とオールマイト先輩は一緒に食事を取っていた。
先輩がおすすめの定食屋さんとのことで、ボリュームが満点で女性の私にはちょっとキツイ量だが、味はピカイチだった。
食事がほどほどに済むと、さっきまでのバカ明るい様子が鳴りを潜め、先輩は重たそうに口を開く。
「顧美くん、最近のヴィランの活動について何か思うことはないだろうか」
なるほど。
道理でこの定食屋には私たち以外の人がいないと思った。
先輩はこの話をするだけに私を食事に誘ったのだろう。
答える前にいろいろ言いたいことはあるが、真剣な先輩を前にそんなことは言えるはずもない。
さて・・・
「端的に言えば、異常ですね。今回の死霊術師のような危険度が非常に高いヴィランが、この一ヶ月で都内だけで10件以上逮捕されている」
そう、今回の死霊術師だけでも民間人の犠牲者は20人を超えている。
ヴィランが起こす事件の軽傷、重症含む被害者の平均が2~3人となっているなか、犠牲者20人オーバーはとんでもない大事件だ。
実際にマスコミでも大きく取り上げられており、ヒーロー及び警察の怠慢を批判する内容が多く報道されている。
ただし、これだけの事件を起こせるのは強い個性を持つ、危険度Sに当たるヴィランだからだ。
ヒーローと警察が協力体制を築いている現代では、都内であれば通報から5分もかからずにヒーローか警察が駆けつけることができる。
そのような状況で、駆けつけたヒーローたちを蹴散らし、被害を及ぼしながら逃げ回るなど至難の業すぎる。
―――しかし、そんな荒業が行える危険度Sのヴィランが短期間で10人以上現れ、逮捕された。
「ありえません、だってこのヴィランたちは、、、もともと個性を持っていないじゃないですか」
一番の問題はそこである。
多少差異はあれど、個性は幼い時に発現し、身体の成長と共に個性を磨いていく。
それが現代の常識なのだ。しかし、、、
「その通りだ顧美くん。逮捕された危険度Sのヴィランたちは総じて戸籍上無個性とされていた。
個性の管理が厳重になっているこの現代で、大人になるまで隠しきるのは無理がある。
なにより、逮捕されたヴィランの犯行はどれもまるで自分の個性を確かめるように徐々に犯行の
規模が広げていった」
その序盤の犯行の稚拙さで、我々が逮捕できたというのは本当に悔しいことなのだがなーー
先輩がやるせないような表情で天井を仰いだ。
私はそんな先輩の様子があまりにも辛そうに見えて、思わず尋ねてしまった。
「---先輩、何を知ってるんですか?」
瞬間、先輩の顔が引きつった。
あぁ、当たりを引いてしまった。
ここ最近の先輩の様子に違和感を抱いていたが、また随分と重たいものを背負い込んだみたいだ。
「いやぁ、相変わらず顧美くんには敵わないなぁ」
どうして気が付いたんだい?と先輩の目が私の推測を促す。
「最初におかしいなと思ったのは、二人目の元無個性ヴィラン「人砕き(マンクラッシャー)」を
逮捕した時です。襲われている民間人を助ける形での逮捕、先輩なら絶対被害者の心のケアを優先させるはず、、、でも先輩は少しの間、誰かを探すように周囲を警戒した」
平和の象徴を目指す先輩らしくない行動だった。しかし、この時は私では感じとれなかった不安要素を先輩が感じ取ったのかと自分を納得させた。
「そのあとの先輩は、どこか焦っているように見えましたよ。犯人のヴィランを逮捕したにも関わらず、インタビューでは自分の至らなさを必要以上に謝罪、しかも逮捕したヴィラン全員と面会してるみたいじゃないですか」
民間人を不安にさせてしまっていることに申し訳なさはあるが、ヒーローが弱腰すぎるところを見せるのは、とてもよろしくない。
そしてヒーローはヴィランという犯罪者を逮捕するが、逮捕後のヴィランの身柄の管轄は警察だ。
確かに今回の事件は不可解なことが多いため、情報交換等は活発に行うべきだが、さすがにヴィラン全員と面会を行うのは警察の管轄に踏み込み過ぎだ。それが分からない先輩ではない。
「そして、何より先輩は平和の象徴を、真の英雄を目指してます。先輩、前教えてくれましたよね。
英雄は笑みを絶やしてはいけないって。人々に希望を与える英雄が暗い顔してはいけないって。
でも先輩、、、最近上手く笑えてないですよ」
先輩は大きく息を吐く。
そして気付いてしまった私に困ったような笑みを浮かべた。
その笑みも心なしか固いように見えるのは私の思い違いだろうか。
「そうか・・・笑えてない・・・か。顧美くんには心配をかけさせて申し訳ないな」
先輩が謝る必要なんてない。そんな言葉が喉から出かけたのをぐっとこらえる。
「私も顧美くんには気付かれているだろうなという予感があった。君の個性は人質救出や怪我人の救出に大きく貢献できる。逆に言えば、凶悪な個性を持つヴィランとの戦闘は不向きな個性だ。君は優秀だ。自分の得手不得手を理解した上でそれぞれの任務に最大限貢献している」
そう、私の個性は「交換」、自分の体液、血液がついた物体同士を入れ替えることができる。
流石に自分の体液などをそのままつけるのは犯罪チックなので、薬品や何やらで無色無臭の無害な液体に変化させているが。
先輩も言う通り、1対1の戦闘にはあまり向かない個性だ。死霊術師の時もそうだが、交換する対象が大きければ大きいほど、反動として個性を使用後の私は動けなくなる。
今回の死霊術師のように、敵が1人で味方が複数人いる場合は無理をして相手と自分の位置を交換することで、相手の虚をつくことができる。
「そんな君がだ。戦闘向けの個性を持つヴィランを相手に前線に立ち、立て続けに逮捕に貢献している。
私にも言えることだが、ヒーローとしての立ち回りは、そう簡単に変えられるものではない。そして、」
一息入れたオールマイトは少し恥ずかし気な様子だ。
「顧美くん、最近ヒーローの活動範囲を私のところと被せてきてるでしょ」
私ってそんなに信用ないかなぁってぼやく先輩。
違う。私は誰よりも先輩を信用している。
でも、先輩が私を頼ってくれないから私は邪魔に思われても、踏む込むしかないのだ。
何もしなかったら、いつの間にか先輩がいなくなってしまう。
そんな不安が私を包んで離さない。
「お互い違和感に気付いてたってだけの話ですよ、先輩」
表情を見られないようにしながら、水を飲む。
お互いの推測はここまでだ。ここからが本題だ。
「それで、先輩がそこまで気をかけないといけない相手ってのは誰なんですか」
私が知る限り最強に近いヒーロー。これからも成長を続けることを考えたら、
歴代でも最強のヒーローになるだろう先輩。その先輩が恐れる相手。
「・・・悪の象徴」
「あぁ・・・」
聞いた瞬間、嫌だなって思ってしまった。感じてしまった。
平和の象徴と悪の象徴。
これ以上ないほど、ピッタリの組み合わせ。
「名前はオール・フォー・ワン。個性が世に出始めた、超常黎明期から悪事に手を染め、
歴史に残る重大な事件の裏には必ず奴がいる」
私はその日、先輩が抱えてきた秘密とこの世を悪を知った。