翌日の昼、チライとブロリーは並んで歩いて散歩をしていた。
相変わらず、ブロリーは元気なさそうではあるが、自分が声をかければ、こうして応じてくれる。
落ち込みまくって、外にも出ようとしないとか、そんな展開にならなくて良かった。と、チライは内心でほっと胸を撫でおろした。
ブロリーは唐突に足をとめて、空を見上げた。
いつもと変わらない、昼間でも少し昏い、空の色。
チライの目にはそう見えたが、ブロリーには違うようにうつったみたいだ。
チライは空を見上げるブロリーに声をかけた。
「空を見てても、まだ帰ってこないよ。淋しいだろうけど、ちょっとは辛抱しな」
「…うん」
ブロリーは、空を見上げたまま、チライに気のない返事をした。
そして、空から視線をはずし、真っ直ぐにチライを見つめて言ったのだった。
「チライ、今夜はオレと過ごそう」
(………?オレと過ごそう!?どういう意味!!どんなつもりで……!!?ブロリー、あ、あ、あ、あんた、まさか…!?)
チライは、わけがわからず、ブロリーの発した言葉の真意を必死に探ろうとした。
現在、レモは不在中。
ブロリーは純度100%の、赤ん坊のような人間で邪なものを持っていない男だと思う。
しかし、邪でないといっても、彼だって立派な成人男性なのだ。
でもでも…
自分達は恋人関係というわけでなく、ブロリーが自分を「女」として、意識してみている可能性は限りなく低い気もするし、自分もブロリーのことは嫌いではない。信頼もしている。だが、「男」としてブロリーを意識したことなど、ほとんどないのだ。
だから、ブロリーのいきなりの爆弾発言に、チライはなんと言えばいいのかわからず、顔を赤くしたり青くしたりしながら、口をぱくぱくさせた。
そんなチライにブロリーは気遣うように、声をかけた。
「チライ、顔色がよくない。身体、しんどいのか…?部屋、戻る?」
「い、いやいや!そんなことないっ!しんどくないっ。だ、大丈夫だからっ!!すごく元気だからっ!!」
チライの言葉に、ブロリーはほっとしたように笑った。
「良かった。じゃあ、今夜、チライの部屋へいく」
ブロリーは、そう言うと、目を細めてまた、空を見上げた。
(部屋にくるなんて…やっぱ、ソレが目当てなわけーっ!!?)
チライはパニックに陥りながら、複雑な視線をブロリーに投げかけたのだが…
この、赤ちゃん並に純粋なブロリーにチライの複雑な視線にこめられた、感情の意味などよめるはずもなく、首を傾げるばかりだった。
住居へ戻って、夕食を食べる。
しかし、チライはブロリーの「今夜、部屋へいく」の言葉が頭からはなれず、ほんの少しだけ、夕食を食べたあと、すぐに自室へ入った。
部屋へくるということは…
つまりは、やっぱり、そういうこと!?
いや、恋人関係にあるわけでもないのに、いきなりそういう展開は…ちょっと…よくないのでは…
チライは部屋の中をぐるぐる歩きながら、頭を悩ませていた。
とにかく、順序というものは守った方がいいような気がする。少なくとも、今はまだ、そういうことはしない。という旨を、ちゃんと説明してわかっもらおう。
そうしよう。
チライは、すっと背筋を伸ばして、ベッドに腰かけた。
その時、部屋の扉がノックされた。
「はーい」
平静を装って、扉をあけると、悟空が贈ってくれた厚手のコートを着用したブロリーが立っていた。
「ブロリー、どっか行くの?」
「チライに見せたいものがある。何か上着きて」
ブロリーは子供のように、無邪気に笑うとチライに上着を着るように促した。
クローゼットから、厚手の上着を取り出してチライはそれを羽織った。
(…部屋にくるとかいうから…てっきり男女のアレが目的なのかと焦ったけど…勘違いだったかなっ!)
チライは自分の勘違いが恥ずかしくて、目をおよがせた。
ブロリーは自分に「悪いこと」なんてしないだろう。
安堵したチライは、いつもの調子でブロリーに笑いかけた。
ブロリーは、にこりと赤ちゃんスマイルでチライの手をとると、歩き始めた。
惑星バンパの夜は、とても寒く、外は砂嵐で荒れるのが常だ。
でも、その日の夜は気温が低くても砂嵐はおきていなかった。
「少し遠いから…飛んでいく」
外に出るなり、ブロリーはそう言うとチライの身体を腕の中に横抱きにしておさめて、飛行し始めた。
(ひゃーっ!!)
自分を抱えるブロリーの腕はたくましく、どこか真剣な眼差しはとても男らしく、精悍で、チライは、そんなブロリーの姿にドキドキした。
いつもと変わらないブロリーのはずなのに、まるで別人みたいにみえる。
そんなブロリーから目がはなせない。
漆黒の闇の中をしばらく飛び続けたあとに、小高い丘に着いた。
ブロリーはそこにチライを降ろすと、空を見上げた。
チライも同じように空を見る。
しばらく無言で、二人で空を見上げていると空に異変が起き始めた。
星1つ、無かったはずの…
漆黒の空に星が現れ始める。
それも、1つや2つでなく数えきれぬ程の無数の星が…
大小、様々な星が輝きを放ち、その無数の星々は四方八方に夜空を滑り、流れ始めた。
無限に流れていく、星の煌めきは筆舌につくし難い程、美しく、神秘的で…
チライはまるで星々から抱擁されているような、心地になってしまい、呆然と一言を発するのがやっとだった。
「…キレイだなぁ」
心の底からの本音であろう、その言葉にブロリーは本当に嬉しそうに笑った。
「バンパの夜は…寒くて、厳しい。でも、空が…こうやって星を降らせてくれることもある。だから…オレはバンパが好きだ」
星の中で響く、ブロリーの静かな声がとても素敵に感じられた。
「…そーだね」
「…本当は…レモにも…見てもらいたかった。この空を。チライとレモと三人で一緒に…見たかった」
「まあ、今回は残念だったけど…次の時は…三人で一緒に見よ」
「…オレ、チライとレモにたくさん、助けてもらってる。でも、オレは何もできないから…せめて、こうやって星空を見て…喜んでほしいと思ったんだ」
「あんたが何もできない。なんて、そんなことはないよ。ブロリー、あんたのおかげで…あたしはフリーザ軍を出るきっかけを掴めたんだ。あたしは、軍の下っぱにいた頃より、今のが幸せだし、毎日が楽しいけどね」
チライは、そう言うと笑ってブロリーの腕を引き寄せた。
「三人で星を見たい」か。ブロリーの心はやっぱり、凄く純粋だ。
ブロリーが自分に対し、悪いことをしようとしていたのでは。など、邪推をしていた自分が本当に馬鹿らしくて嫌になる。
ブロリーに対して、物凄く失礼だ。
チライは、ブロリーの顔をのぞきこんで、言葉を続けた。
「今日は本当に驚いたよ。でも、サーンキュ!」
感謝の気持ち、嬉しくてあたたかい気持ちをどうにかして伝えたくて、チライは、少し強引にブロリーの頬にキスをプレゼントした。
驚いたように、ブロリーはチライを見た。
「何―?嫌だったのかよ?」
「…嫌じゃない」
そう言うとブロリーは、おずおずと顔をチライに近付けて彼女の小さな頬にキスをお返しした。
「ひゃ!」チライが驚愕してブロリーを見ると、ブロリーは照れくさそうに、はにかんだ。
ブロリーの表情を見ているうちに、チライの心に広がって浸透していく、あたたかい感情。
この感情の正体が…何か、チライにはまだわからない。
友情とも、家族愛とも少し違う、不思議な色と形をした、このあやふやな感情が何か、ちゃんとわかるのは、もう少しだけ先の話だ。
だから…今は、精一杯頑張って「ロマンチック」を自分に与えてくれた、このサイヤ人に感謝だった。
厳しいのに、優しい、不思議な惑星バンパの夜は…
他のどんな惑星の夜よりロマンチックで素敵だった。
―終―
ドラコンボールには、いろんなカップルや夫婦がいて、どのカップルも皆、好きです。
ブロリーとチライはお似合いの、いいカップルになると思うんだけどな。