(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第101話

「あれ?お兄ちゃん?キャンプ、どうしたの?」

 

 

こてん、と首をかしげるヒカリに、太一は崩れ落ちるようにして、はああああ、と盛大に溜息をついて、ただいま、ひかりいって抱っこするのだ。ぎゅーって抱っこされて一人ぼっちから解放されて嬉しいのだが。

 

何だかドキュメンタリー番組でみた一年ぶりの感動の再会みたいなお兄ちゃんに、ヒカリは疑問符がいっぱい飛んでいく。ピンポーンって呼び鈴が鳴ったから玄関にいったら、自分のお家なのにどぎまぎしながら、遠慮しながら。

 

ごくりって唾を飲み込んで、おじゃまします、やがみたいちです、って意味不明なこと言ってるお兄ちゃんがいたのである。お兄ちゃん?って言いながら、ロックを解除して、サマーキャンプに行ってからたった3時間。

 

突然の帰宅、しかもお母さんなしに

ヒカリがびっくり仰天するのも無理はない。ふと視界の隅っこに、たいちい?おにいちゃん?このこひかりのいもうと?って懐かしすぎる声が響いてきた気がして、幻影だって思ってヒカリは必死で首を振るのだ。コロモンがいるわけないだろう。

 

5歳のヒカリちゃんのささやきから耳をふさぐのだ。太一は今、極端なホームシックからようやく解放されて崩れ落ちたのだ。

 

無理もない話である。八神太一少年は、漂流生活の間、ずーっと最愛のヒカリのことを大輔を見るたびに思い出していて、ずるずるってお父さんやお母さんのことを思い出してしまって、それはもう、寂しくて寂しくてたまらなかったのである。

 

ヒカリに重ねてしまう大輔に構っても構っても所詮は他人である。しかもどんどん大輔は太一から離れていくのだ、たまったもんじゃなかった。太一だって妹がいるのに一人ぼっちだったのだ。しかも丈みたいに最高学年だっていう自負も自覚もないし、そこまでしっかりした子じゃない。

 

どこまでも八神太一は八神光ありきでかがやく男の子だから辛いのも無理はない。だって、太一は大輔と違って上級生だから弱さなんて見せられない。ようやく太一のねっこが見せられる相手が現われたのだ、もう太一はヒカリにべったりである。

つかれたのだ、息抜きだって大事だ。だって、気付いたらお台場の自分の家の近くにある公園、いつもいつも大輔達と一緒にサッカーして遊んでるあの公園のど真ん中に突っ立っていた。

 

コロモンと一緒に何の前触れもなく、いきなり現実世界と言う名の太一の世界に帰ってきてしまったのである。上空を飛行機が飛んで行き、真っ白な雲が入道雲が眩しい夏の空を二分していく。

 

雑踏やざわめきが遠い。家族ずれや子供達、夏休みを満喫する子供達、大人たち、たくさんの人間がいっぱいいるど真ん中である。かえりたい、かえりたい、って願い続けていた現実世界に帰ってきてしまった。

コロモンと一緒に、しかもみんな置いてきぼりにして、自分だけ。

 

自責の念は半端ないだろう、エテモンを助けるために頑張って完全体に進化して倒してみんなで喜ぶはずだったのに、コロモンも力尽きて幼年期にまた逆戻りして、にんげんがいっぱいだって怯えた様子で太一の足もとに隠れる始末だ。

 

夏のざわめきが恐ろしいくらいに太一を包み込む。怖くて怖くてたまらなくなった太一は、おれのせかいって放心状態でつぶやくのだ。愕然とした太一の様子に、たいちのせかいい!?って。

 

驚いたコロモンと言うデジタルモンスター、現実世界に置いては完全なる異物が大声を上げた。ばっかしゃべるなああっててんぱるあまり、大声を上げるのは仕様である。心の余裕を無くした太一少年は誰よりも弱いのだ。

 

もちろん公園にいるみんなの視線は集中していく。はってなった太一はもういてもたってもいられなくなって、コロモンを抱きかかえて、無我夢中でいつも帰る時に使っている人工林を突っ切る近道を通って。

 

一気に自宅に直通で帰ったのである。あれなに?あれなに?って腕の中で興味津津のコロモンの声なんて太一の耳には入らない。全ては真っ白な世界である。不思議な気分だった。

 

やばいやばいやばい、こいつもオレも今は宇宙人と一緒だ!ここにいちゃいけないんだ!そう思ってしまったのだ。現実世界は太一の世界なのに、なんだか全然違う世界に迷い込んでしまったような、そんな違和感が重責としてのしかかってくるのだ。

 

違う違う違う、オレはこんなの望んでない!オレはみんなと一緒に帰るんだ!帰るって決めたからリーダーになりたいんだ!太一の脳裏をよぎるのは、頑張ってください!信じてます、オレ、太一先輩のこと、アグモンのこと信じてます!待ってます!って、笑って送り出してくれた大輔が強烈に焼き付いているのだ。

 

みんなの元気づけてくれた顔があるのだ。裏切ってしまったっていう絶望が先走る。かつてヒカリと同一視していた大輔を!みんなを!オレにしか出来ないって言ってくれたナノモンを!もう目の前真っ暗である。

 

自宅前に帰ってきたものの、今度太一に襲いかかるのは、デジタルワールドでの漂流生活でおいてきぼりにされた年月と言う名の現実である。

八神って書いてあるけど、実は何十年も立っていて、実はお父さんもお母さんも死んじゃって。

 

ヒカリが結婚して誰かと一緒に住んでるんじゃなかろうか?赤ちゃんいるんじゃなかろうか?そしたら太一は完全なる異物である。死んじゃったことになってたらどうしよう?

 

夏みたいだけど、全然分からないのだ。太一は現実世界で一人ぼっちになってしまった。完全に現実の時間が分からないのだ。こわくてこわくてたまらなくなって逃げてきたのに、ここに居場所がなかったらどうしよう?ってなるのだ。

 

そして恐る恐るインターホンを鳴らして、お、おじゃましまーすって、やがみたいちです、って言った太一の耳に聞こえてきたのは、はあい、っていう最愛の光の声である。最愛の光の太一の知っている声である。お台場小学校2年生の声である。

 

よかった、あんまり時間経ってない、と安心した太一はこの時点で力が抜けてしまう。パートナーの精神状態はコロモンだって分かっている。だから隠れるのだ。みんな僕のこと怖がってた、多分僕はここにいちゃいけない。

 

ヒカリまで怖がってしまったら太一は本当に一人ぼっちになってしまうって思ったので、ドアに隠れたのだ。人間に怖がられるという当たり前を初めて知ったデジタルモンスターは、大好きなパートナーの大好きな妹に怖がられたら死んでしまう。

 

パートナーデジモンはパートナーのもうひとりの自分なのである。でもやっぱりどんな子なのか気になるから、ちょろーってのぞいて、太一によく似てるけど、大人しそうな、でもなんだか元気そうな女の子がいて。

 

なんかどっかで見たような子だなあって思いながら、コロモンはヒカリという初遭遇する人間と目があった気がして、慌てて隠れるのだ。耳が隠れてないけど、ヒカリを抱っこしてる太一は気付かない。

 

しばらくそのままじっとしていた太一は、ようやくいつもの太一になって、あれ?って思うのだ。途方もない安ど感に満たされていたので、驚愕の事実にびっくり仰天する反動も凄まじいものとなる。ヒカリ、今なんて言った?

 

 

「きゃ、キャンプう?」

 

 

間抜けな顔でなっさけない声を出す天然に、ヒカリはまた疑問符が飛んでいくのだ。なんかお兄ちゃんおかしいぞ?流石ににぶちんさんも気付く。いくらなんでも。なのでヒカリはキャンプにもってっちゃった筈のお母さんをどこへやったか聞くのだ。

 

 

「ねえ、お兄ちゃん、お母さんは?」

 

「は、え、え、はあえ?!え、ちょ、ヒカリ、今日何年何月何日ついでに今何時!?」

 

「え?」

 

「だっから、今あっ!」

 

「え、えーっと」

 

 

いきなりそんなこと聞かれて答えられる訳もないヒカリは、えーと、っとなってしまうので、まごまごである。埒が開かなくなってしまった太一は、もういてもたってもいられなくなって、たっだいまーって勝手知ったる我が家とばかりに。

 

ヒカリのことそっちのけで玄関で靴を脱いで、ばらっばらにほっといて、ルーズソックスを滑らせてリビングに直行するのだ。日めくりカレンダーがあるから。テレビを付けるのだ、公共放送を聞くのだ。全部一気にやった太一がようやく知るのである。

 

今は1999年8月1日、12時26分。忘れもしない、カレーを食べ損ねて腹が減りそうで仕方なかったから覚えている。デジタルワールドに太一達が漂流する羽目になった、全く同じ日、全く同じ時間、いや厳密には26分たっている。

 

太一の感覚では26分しかたっていない、となる。なんだこれ、どういうことだこれ、なんなんだよ、はああ?!もう大パニックである。ひとりぼっちの現実が嫌で嫌でたまらなくなって、太一は電話のあるところまで飛んでいく。

 

そして、一抹の期待を胸に、みんなが現実世界に帰っているんじゃないかって言う罪の意識から逃れたいあまりに、コロモンとヒカリを玄関に置きっぱなしに来ているのなんか、とっくの昔に忘却のかなた、片っ端から電話をかけるのだ。

 

えーっと、えっと、いきなり電話をかけたら変に思われるよな、じゃあじゃあ、そうだ、忘れしたってことにしよう!そう思って電話番号を押すのだ。電話の応対くらい出来る。だって、太一はお台場小学校5年生のサッカー部キャプテンである。

 

 

太一の知っている電話番号はみんな全滅である。みんな、サマーキャンプから帰ってきてないんだって!そして、太一は思い出して、くっそってなって、慌ててサッカー部の緊急連絡網を引っ張り出しに、

 

いろんなものが貼ってある冷蔵庫の前に逆戻りである。引っぺがして、捜すのだ。あった!ってなって、そのまま電話に向かうのだ。いつもいつも、約束は学校だった。家だってどこにあるのか知らない。

 

わからない。必要ないから意識したことなんてなかったけど、改めて思うのだ。オレは大輔のこと何にも知らなかったんだ!って。

 

 

「もしもし、本宮ですけど」

 

「あ、本宮大輔君のおうちですか?」

 

「はい、そうですが」

 

「あの、その、オレ、サッカー部のキャプテンやってる八神ですけど、大輔、帰ってますか?」

 

「………はあ?大輔なら太一さんと空さんにあえるって、サマーキャンプにお母さんと一緒に飛んできましたけど?あなた、でしょ?「太一さん」。なにいってるの?」

 

「え、あ、あの忘れもの」

 

「忘れ物?するわけないじゃない、あたしが準備してあげたんだから。………ねえ、大輔になにかあったの?」

 

「な、なんでもないです!勘違いです!ごめんなさい」

 

「………ふうん、なら、いいけどね」

 

「あ、はは。あの、もしかして、ジュンさん、ですか?」

 

「………「初めまして」」

 

「は、はい、どうも、「こんにちは」」

 

「……………ふうん、そっか」

 

「え?」

 

「なんでもないよ。なあに?何か聞きたいこと、あるみたいだけど?

あたし、隠し事されるの嫌いなの、あるならあるではっきり言って?

なんか、気持ち悪いから」

 

 

大輔に似て直感に優れているお姉さんだなあって舌を巻きながら、太一は言うのである。嘘をつくのがへたくそな太一は、ねをあげた。無言の圧力が怖すぎた

 

 

「あの、なんで大輔のこと嫌いなんですか?」

 

「………ふうん、そんなことまで話すほど仲いいんだ」

 

「え?」

 

「なんでもないよ。こっちの話。そうねえ、ひとつだけ聞いてもいい?そしたら教えてあげる」

 

「え?あ、はい」

 

「ゴーグル、いつからつけてるの?」

 

「え、ゴーグル?」

 

「………大輔がゴーグルくれないってうるさいの。だから、どうしてかなって思って」

 

「あ、そうですか。えっと、これ、オレの爺ちゃんの形見なんです。だから、えーっと、小1んときからかなあ」

 

「………………ふうん、そっか。そういうことか、やっぱりね。そうだろうと思ってた。覚えてないっていいね、うらやましいよ」

 

「え?」

 

「じゃあ、教えてあげる。大輔のこと大好きよ。たったひとりの弟だもん、大好きに決まってるじゃない、当たり前のこと聞かないでよ。でもね、あたしちっちゃい頃からホイッスル恐怖症なの。あのきんきんうるさい音聞いちゃうと、気分が悪くなるの。死んじゃうくらい辛いの。

 

だから、サッカーの試合来れないんだ。おかあさんも、おとうさんも、つれてってくれないの。だって体育の時間だって保健室があたしの場所だから。大輔にはいわないでね、せっかく見つけたきらきらする場所、

取りあげちゃうのかわいそうでしょ?サッカーやめちゃうかもしれないし」

 

「つらく、ないんですか?」

 

「…………………なんでそれをあなたがいうかな」

 

「え?」

 

「......何にも知らないっていいね」

「ジュンさん?」

 

「......なんでもない。忘れて。口が滑っただけだから。辛いに決まってるじゃない。でもね、あたしは「お姉ちゃん」なんだからがんばらなきゃいけないの。あの子のためだから」

 

「大輔のため?あの……」

 

「なんで大輔があなたのこと慕うのか、分かった気がするよ、ありがとね。ねえ、電話、もういい?あたし、これから友達と日本武道館にコンサート見に行かなくっちゃいけないの。あたし、そのまま、お父さんと一緒にお台場行く予定だから、もう留守電になっちゃうと思うから、いないの、だれもね。大輔にそういっといて?」

 

 

一方的に切られた電話である。太一は放心状態のまま、受話器を置いたのだ。

 

 

「お兄ちゃん……どうしたの?」

 

 

たいちいいったすけてええって情けない声を出しているコロモンを抱っこしたヒカリが心配そうに見上げている。ヒカリの胸には、ホイッスルが揺れていた。これで9人目。最終決戦には、あと一人足りない。

 

 

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