「大輔君、ごめんね。私、サッカー部でひとりぼっちだから、構ってくれる太一と大輔君だけが心の支えだったの。そしたら、太一が突然、いなくなっちゃったでしょ?大輔君までいなくなっちゃうんじゃないかって思ったら、怖くなっちゃったの。
ごめんね、理想的なお姉ちゃん頑張らなくっても、そばにいてあげるだけでいいっていってたのにね。おかしいって気付いてるから、大パニックおこしちゃうって丈先輩から言われてたのにね、忘れちゃった」
「え?ひとりぼっちって?」
「私、実はお母さんにサッカーやめろって言われてて、私はサッカーやめたくないってずっと喧嘩してるの。仲直りできないまま、夏休みになっちゃったの。私一人っ子でしょ?だから家に帰っても一人ぼっちなの。
大輔君と一緒なのみんないるのに一人ぼっちでおそろいなの。だから、大輔君の気持ち、すっごくよくわかるわ。だから、いつのまにか、私と重ねちゃってたみたい。
私が守ってあげなくっちゃいけないんだって、心の底から思ってたのに、頑張りすぎちゃって、やらなくちゃに変わっちゃったみたい。ごめんね」
「ほんと、ですか?サッカーやめたくないってホントですかあっ!?」
「え?ええ、もちろんよ、当たり前じゃない」
「よかったっ……!よかったあああああああっ!」
うわあああん、と泣き出した大輔に空は困惑しきりである。
「ごめんなさい、ごめんなさい、空さんも甘えんぼさんなんだって知らなくってごめんなさい!オレたち、空さんのためを思って我慢してたのに、空さんのこと傷つけちゃってたんですね!空さんにひっどいことしてたんですね!ごめんなさああい」
ひっしと抱きついてくる大輔を受け止めた空は、さっぱり事情が呑み込めず、どうして?と聞くしかない。
ぐしゃぐしゃの大輔は、今までずっとずっとべったりでありながら、聞きたいけど聞けない、聞きたくないの二律背反だった事実を告げるのである。
心の葛藤を吐露するのである。空がいなくなってしまうのではないかという恐怖を常に抱えていたことを聞かされた空は、どこまでも思考回路が一緒だと気付くのである。どこまでも空と大輔は仲良しである。
「オレたちの知ってる空さんて、お母さんみたいで、男の子みたいにかっこいい空さんだから、お台場小学校のサッカー部のエース頑張りすぎちゃって足をけがしたんだって。
オレたちがツートップの空さんに頑張らせすぎちゃったんだって、コーチが言ってたんです。だから、今はちょっと休ませてやれって、そっとしておいてやれって、見守ってやれって、空さんがサッカー部に戻ってくるかどうか決められるまで待ってなさいって。
このこと空さんに話したら空さん泣いちゃうからっていわれて・・・・・・・!」
「………え?う、うそ、でも……。じゃあ、みんなが私のことを遠巻きに見てたのは、嫌いだからじゃないの?!」
ぶんぶんぶんと大輔は首を振るのである。
「そんなわけないじゃないっすかあっ!お台場サッカー部の得点王に出てけなんていうやつ誰もいませんよっ!」
「え、そ、そうなの?ほんとに?私にサッカー部やめてほしいんじゃなくて?」
「そんなわけないじゃないっすかああっ!お台場小学校サッカー部のツートップは、八神太一と武之内空がいてこそっすよ!一人でサッカーはできないって、一人抜けてもサッカーはできないんだって教えてくれたの空さんじゃないっすか!
だからオレ、サッカー部がオレの場所なんだって思ったんすよ!みんなにみんなに必要とされるような人になったら、ジュンお姉ちゃんほめてくれるかなって!ぜーんぶのことが上手になって、コーチからの指示だったらなんだってこなせて。
オレちっちゃいから太一先輩みたいにエースストライカーにはなれないけど、空さんみたいにみんなを支える、みんなから頼りにされてるボランチだったら、ほめてくれるかなっておもってえ!
太一先輩と空さんあってのツートップじゃないっすか!オレそんなやついないから、うらやましかったのに!オレのチーム、太一先輩みたいにぐいぐい引っ張る奴いないから、オレが中心になんなきゃいけなくて、ボランチだけやりたいのに司令塔までやってんすよ!おかしいじゃないっすかあ!」
「大輔君・・・・・」
「みんなしってますよおっ!空さんがサッカーの練習出られないのは、
おうちの事情だからって。みんな、やめてほしくないって思ってますよ!でも、おうちの事情だからオレたちは何にもできないからって、こおちがああ!」
よしよし、と空は頭を撫でるのである。もう大輔ボロなきである。
「なあんだ、私、全然気づかなかっただけなのね?そんなわけないじゃない、大輔君、大輔君から教えてもらってほっとしたわ。ずっとずっと、私、さみしかったんだから。
早く戻ってきてくれってみんないうのに、なんで無視するんだろう、なんでほっとかれてるんだろう、なんでかまってくれないんだろうって、サッカー部がわたしの場所なのに一人ぼっちになっちゃったような気がして。
怖くなっちゃったのよ。勘違いしちゃってたみたい。またつっぱしっちゃった。危なかったわ、ありがとう、大輔君。あやうく、私、みんなに嫌われてるんだって思い込んだまま、サッカー部やめちゃうところだったわ。
もし元の世界に帰れたら、頑張って、お母さんともう一回話、してみるわね」
「ほんとっすか!?」
「みんなが待っててくれるんだもの、それだけでも涙が出るくらいうれしいわ。ありがとう、大輔君。ほんとうにありがと。ホントはね、私、サッカーやめるつもりだったの。
この冒険が終わったらサッカーやめるつもりだったんだ。コーチにいうつもりだったの。はやまったこと、しなくて良かった」
「よかったああ。だってお台場中学校には女の子がサッカー部入れないって聞いてたから、もしあと一年あるのに空さんどっかいっちゃったらどうしようって、オレ、オレえ」
「大丈夫、大輔君、私はここにいるから」
「はいっ!」
甘えんぼさんなふたりは、にっこりと笑ったのである。甘えんぼさんなのは恥ずかしいから内緒にしてねって言われた大輔は、内緒はもう増やすなって散々怒られたタケルとの大喧嘩を思い出して頭を抱える。空はくすくす笑ってタケル君ならいいわよって教えた。え?と疑問符を浮かべる大輔である。
「大輔君のことが知りたいから教えてくださいって、私や太一やヤマト君に聞きまくってたわ」
「え゛」
「私もそんなお友達が欲しいわ、うらやましいわよ、大輔君」
「うらやましい?」
「ええ。とってもうらやましいわ」
「えーっと、じゃあ、空さん」
「なあに?」
「理想的なお姉ちゃんじゃなくなって、空先輩って呼べるようになったら、オレ、そのお友達してもいいっすか?」
「え?」
「だって、オレ、空さんにいっぱいいっぱい頑張ってもらえて、みんなに話せるようになったんです。オレ、何にも考えないで、平気で嘘つくやつ、嫌いなんです。
一生懸命に頑張ってきたこと、奇跡とか、偶然、とか、簡単にかたずけちゃうやつ、嫌いなんです。ありがとう、言えないやつ、大っ嫌いなんです。ありがとうございます、空さん。なんか、思ったこと言った方がみんな喜ぶから言ってみたんすけど、これでいいっすか?」
「・・・・・・・・っ!」
おうわ、と大輔はいきなりぎゅーって抱っこされて、ぎゃああああってなるのだ。え?え?空さん!?はなしてー、はなしてー、なんかやわらかいよう、あったかいよう。
はずかしいよう、やめてえええと大輔のあったまのなか、ぐっちゃぐちゃになる。顔真っ赤である。うぎゃああああ!と逃げようとするマセガキに、いつもの空がからりと笑ったのだ。
「ありがと、大輔君」
「は、はあ、あははは」
がっちりホールドされて逃げられない。
「トラウマ、どっかいっちゃったみたいね、よかったわ」
「え?あ、はい。なっちゃんが直してくれました」
「そっか、もう一人のジュンお姉ちゃんによろしくね、大輔君」
「はい」
「あとはその痣ね。うーん、半年くらいで消えるかしら」
「そんなにかかるんすか!?」
「大輔君のトレードマークにしちゃってもいいかもね。太一のゴーグルマネしてつけてるのに、尊敬してる私の何にもつけてないっておかしくない?」
「あ、たしかに」
「あげるわ、その赤いスカーフ。バンダナみたいに使っちゃえばいいと思うし」
「ありがとございます!」
「はいはい、本日の営業は終了いたしましたわよ!選ばれし子供達!
いつまでもこっぱずかしい光景見せつけてないでとっととおたちなさいな、選ばれし子供たち。
こっちはもう腹ペコでおなかと背中がくっついちゃいそうでたまらないんですから、とっととベッドルームに行きやがれ。おいしくもない腹壊しそうな寒々しい光景なんざお門違いでしてよ。
いつでもできることなんざほっといて、さっさとベッドルームにお行きなさい。明日には出てってもらわないとダメなんだから、ほらほらほら!」
引っ付き虫の大輔をひっぺがし、ずるずるずるってバクモンは運んでいく。そらさーん、だいすけくんーん、って寸劇みたいなお遊びのお別れの後、大輔はバクモンにチコモンがいまかいまかと待ちわびているであろうベッドルームにひきずられていった。
なっちゃんのことは全部空には話してある。3日かかるということは、2回の夢をみればいいということである。だから明日にはここから追い出されるだろう。あーあ。
「なあ、バクモン」
「なんですの?」
「なんで3日なの?」
「きやがりましたわね、何百辺と繰り返してきた問答ですわ。いい加減繰り返すのも面倒ですし、やっぱりどっかに看板でも立てるべきかしらあ?いいですこと?
ワタクシたちバクモンは悪夢を食べていい夢に変えて差し上げることがお食事でもあり、お仕事なんですの。そりゃワタクシたちだってめんどくさいので、できるならこんなことしないで、一人のお客様を徹底的にケアして差し上げたいですわ。
でも、悪夢かどうかを決めるのはあくまでワタクシたちなんですの。その恐ろしさ、お分かりになって?」
「んー?よくわかんねえや」
「はー、これも何千回繰り返してきたかわからない問答ですわ、どうしていつもいつもお客様って似たようなことしか言わないのかしら、意外性に乏しいですわ、貧弱ですわ、なんてつまらない。
だからいやなんですのよ、営業。いいですこと?あなた、いいことだらけの世界なんて怖いと思いませんこと?毎日が幸せで、幸福で、嬉しくて、楽しくて、笑っちゃうようないいことだけの世界があったとしたら、それってすさまじくおぞましいですわよ。
居心地良すぎて出てこれなくなりますもの、現実より夢の世界の方がお客様にとっての現実に変わっちゃいますわ。夢なんてものは現実にあったことを整理整頓するためにごっちゃごちゃにしてる時にみる、あたまのなかのお遊びみたいなもんですの。
夢の中でいくら幸せでもそれは現実で途方もない虚脱感を生みますわ。
いずれ思うでしょうね、夢の世界がほんとだったらいいのにと。ずーっと寝たままになりますわよ。お分かりになって?」
「あ、そっか、うん、わかる」
「さすがは選ばれし子供達ですわね、理解が早くて助かりますわ。はっきりいって夢の中の世界に逃避するようなところまで行ったら、もう食べるものなんてカスしか残ってないんですの、たんなる粗大ゴミですわ。
いいですこと、いいこと、と、わるいこと、というものはとっても仲良しですの。どっちかだけ、なんてものはありえないんですの、おわかり?あなた、おすなばあそびはすきかしら?」
「おう!」
「なら聞きますけれど、たかーいすなの山を作ろうと思ったら、どうしますの?」
「え?えーっと、スコップで砂掘って、山造る」
「そういうことですわ。もともとなんにもない平ったいらなところから、穴を掘って、山を作るでしょう?それしか方法はないですわよね?いいことは山、わるいことは穴をお考えくださいな。
つまり、切っても切り離せないものなんですの。ふたつでひとつですの、おわかりかしら?」
「うん、なんとなく」
「十分ですわ。こういうことは感覚で覚えていくものですもの、頭で理解できるものではありませんもの。
ワタクシたちのみせる夢というものは加減を忘れると、穴がないのに高い高い山をつくれるということと似てますわ」
「おかしいな」
「おかしいでしょう?人間もデジモンもどうやら同じようですわね、ほどほどが大事ってことですわ。わるいことがあるからいいことはうれしいんですの、たのしいんですの、たいくつではなくて、素敵な思い出なんですわ。
わるいことだらけの世界なんて弱肉強食の厳しい世界ですけども、いいことだけの世界なんて洗脳と同じでしてよ。ワタクシたちはだからホーリーリングをつけているんですわ、
光も闇も極端すぎますから、ワタクシたちはほどほどですって証ですの。
どっちの勢力とも関わりませんっていう証ですの、お分かりかしら?」
「そっか、じゃあエンジェモンでもデビモンでもないってこと?」
「そういうことですわ。あいつら、鏡越しでなんら変わらないというのに、頭かたいもんですから、異様に敵視して殲滅しようとしてますの。むちゃくちゃですわよね。
太陽がいくら照らそうとも影はそれだけ伸びるもんですわ。どっちかあってこそだというのに、下っ端ほどそれがわからない。あたますっからかんにした方がらくですのにねえ。
はっきりいって、あなたのおともだち、あぶなかったんですわよ」
「空さん?」
「違いますわ、未熟者の天使持ってるもっとも幼き子」
「タケル?」
「ええ。あなた、なっちゃんから聞いたでしょう?2人たりないと」
「うん」
「そもそも、デジタマが世界各地にとび散った時点で暗黒の力の侵略は始まっていたんですわ。それにより、なっちゃんは本来獲得するはずだった力を一つしか得られず、もう一つはコロモンに分断されてしまったんですの。
おかげでなっちゃんとコロモンは暴走状態となり、場外乱闘となり、想定外の大災害になってしまいましたわ。あなたたちの世界ではデジタルモンスターは異物でしょう?
だから記憶を消すしかなかった。私達の世界ではそうやって対処してきたんですの。でも、デジタルモンスターと違い、あなた達人間は記憶を消されることで甚大な被害を被ると私達は知らなかったんですの。
申し訳ありません。選ばれし子供達もばらばらになり、場所を特定するのに4年もかかってしまいました。
おかげでコロモンとなっちゃんでデジヴァイスは出来たんですけども、コロモンはなっちゃんのバグで直せたんですが。
奇跡の力は奇跡の力によってしか直せない。あなたを待つしかなかった。それを任せた天使がデビモンですわ。想定外に想定外が重なって、私達はいつもいつも後手後手なんですの。私達はデータですわ、盲点を突かれると弱い。
暗黒の力も同情はしますけれども、この世界を守護するものとしてはどうしてもその先へいくことは難しいんですの。この世界を壊されては困りますもの。歯がゆいですわ。はっきりいって、あなたともっとも幼き子は狙われたんですわ、
それはもうピンポイントで。最悪の事態は免れたんですけれども、もっとも幼き子はもともともう一人の子をサポートするため、もう一人はあなたが極端な道に突っ走らないように抑止力となるためにみんな一緒に来るはずだったんですわ。
ですが、こちらの陣営を何人も引きずり込まれてしまったものですから、情報筒抜け。最悪ですわ。営業不慣れな中間管理職が四苦八苦やってるものですから、いつもいつも後手後手に回っちゃうんですの。
なっちゃんが復活してくれたおかげで、中間管理職が営業しなくてもよくなったのは幸いですわ、もちつもたれつ、適材適所は大事ですもの。
これでようやく少し希望が見えてきましたわ。本当にあなたにはどれだけ感謝してもしきれませんわ。ありがとう」
「えへへ」
「本当にこんな過酷な冒険になってしまったのは完全なるこちらの落ち度ですわ。見たでしょう?ワタクシたち、選ばれし子供を呼のは2度目ですの。
本来なら先代がサポートしてくれるはずだったのに、暗黒の力ははるか上を行きますわ、なにせ未来の知識を持ち得ているんですもの、しかも私たちよりもはるかに精密な予言を。
先代の体験と知識という最高の予言の書。これ以上ない未来予知はありませんわ。所詮私たちはデータですもの、考えることで生きているあなた達にはかないっこないですわ。
だから、ワタクシたちは同じ子供を呼ぶしかなかった。本当に申し訳ありません」
「えへへ。いいって。なっちゃんから教えてもらった魔法の言葉があっから。オレたちは出会うべきじゃなかったのかもしれない、出会っちゃいけなかったのかもしれない、この出会いは早すぎるのかもしれないし、遅すぎるのかもしれない、でもだからこそオレたちはここにいるんだって。もう出会っちまったのはしょうがねえだろ?これからのこと考えようぜ?」
「ありがとう。本当にあなたはいい子ですわ」
「なんかこの世界に来てからいっぱい褒められてるなあ」
「あなたはあたりまえでも、それによってたくさんの方が救われているんですの。自信を持っていいですわ、本宮大輔」
「えへへ」
「本来抑止力となるべき者がいないせいで、あなたには本当に辛辣な旅を強いてしまいましたわ。よくぞここまで頑張ってくれましたね、本宮大輔。ほんとうにありがとう。
そして、ごめんなさい。ワタクシはここを管轄するのに精いっぱいで動けないんですの。ここが壊れてしまえば、おかしくなっていくデジタルワールドのデジモン達の心のよりどころがなくなってしまいます。
ここは暗黒の勢力は入ってこれない異空間。本来住む現代種と古代種、選ばれし子供しか入れないところですの。もしまた何かあったらおいでなさい。いつでも歓迎いたしますわ」
「うん」
「夢の中くらい楽しい夢をごらんになって。それを糧にどうか暗黒を救ってやってください。かわいそうな子たちを、どうか、頼みましたわよ」
「わかった、ありがと」
選ばれし子供達もデジタルワールドもまだ絶望的な事態であることを知らないのだ。暗黒の力はさらにその上を行く。本来この世界を守護するデジモンのうち、すでに何人も闇の陣営に落ち、配下となった彼らは自分たちの拠点を暗黒勢力に献上している。
守護デジモンはそのエリアにおいて指折りの実力者であることが多いから、彼らが闇に落ちた時点で対抗できる勢力は皆無に近いのである。まして、この世界に存在する特定のエリアのデジモンしか出入りを許されないはずの、特別なエリアのうち1つはもう暗黒勢力の拠点となっている。
ウィルス種しか出入りできない神聖なエリアであるはずの闇貴族の館は、すでに暗黒勢力の拠点として重大な位置におかれていた。守護デジモンが暗黒勢力に与した時点で、闇貴族の館の機能は完全に失われている。
だから暗黒勢力は徹底的にウィルス種のデジモン達を中心に勢力を拡大したのである。かつて世界を侵略しようとした者たちが利用した異世界からのゲートが開かれていることに、誰かが気付いていればよかったのかもしれない。
しかし、ワクチン種のみが出入りを許されているはずのアイスサンクチュアリの教会は、守護デジモンだったピッドモンが闇に落ちて、堕天使となった時点で無人となる。すでに機能は失われたも同然だ。
そして、すべてのデジモン達が異世界へのゲートの存在を確認できる場所は、あまりにも危険だからと隠匿された場所にあり、知っているのはごく一部だったが。
そのごく一部が失踪、行方不明、陥落となれば形骸化したも同然だ。ピッコロモンたちが、暗黒勢力の基盤となっているエリアがどこなのか、
未だに把握できずにいるのはそのためだ。
セキュリティシステムに与するデジモン達は、その誕生の背景から、圧倒的にワクチン種が多い。大輔たちが寝室に引っ込んだことを確認したバクモンはため息をついた。
「こんなところにまで配下のデジモンを寄こすなんてさすがですわ。見つかるのも時間の問題ですわね。あの子たちだけでも逃がさないと」
力を抑えているとはいえ、正直完全体以上の勢力から逃げ延びる自信はバクモンにはないのである。