(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第103話

いつだってもうひとりのジュンお姉ちゃんであるなっちゃんの待っている大輔の夢の世界は、燃え上がるような花畑で満たされている。見渡す限りの花畑である。

 

空は穏やかな兆しに包まれていて、のんびりとした雲が広がっている、春の陽気がそこにはあるのだ。ただ穏やかな風が吹いている。なっちゃんのデジタマを抱いて、大輔とブイモンが眠っていたあの花畑エリアである。

 

はじまりの街に行こうとブイモンと共に大泣きしたあのネリネの花畑である。なんでこの花畑なのだと聞いた大輔は、この時初めて、なっちゃんから花の名前と花言葉に託された想いを知るのだ。

 

ジュンお姉ちゃんがちっちゃいころに好きだったお花らしい。光が丘のおうちに飾ってあった子煩悩な大輔の両親が造っていた作品展示室のすみっこにあった、自由研究の植物図鑑の赤色が強烈に残っていたらしい。

 

花言葉は箱入り娘、幸せな想いで、繊細でしなやか、忍耐、また逢う日を楽しみにしていますまた会いましょう。しるか、そんなの、遠回しすぎてわかんねえヒントだすなよう、そんなのわかんねえよう、とほほを膨らませた大輔に、ごめんなさい、と人間の姿をしたなっちゃんは両手を合わせるのだ。

 

世界中に逃げ出した始まりの街にあった野生のデジタマを回収するときに見つけた一面花畑のゲート先が

あまりにも印象に残っていたの、となっちゃんは笑うのだ。

 

そこで遊んでいた外国人の子供と一緒に遊ぶ若い母親の姿、そして怖い怖いと泣いている大輔を優しくあやしているジュンがいっしょくたになり、出来上がった姿らしい。

 

だから、ジュンお姉ちゃんでもあり、お母さんでもある。大輔にとっては最強の味方の生誕だ。愛情に強烈なまでに飢えている大輔にとっては最強の味方である。空お姉ちゃんもいればもう安心である。

 

 

 

ここは大輔とブイモンとなっちゃんのエリア。なっちゃんがつくったエリア。だから新しいなっちゃんの管轄エリアで、バクモンと一緒でデジモン達の避難場所となる亜空間と知らされる。

 

始まりの街エリアの近くにあるというのに彼岸花科の植物がたくさん生えているエリアというのも何ともまあ変な符号があるエリアだ。なっちゃんは教えてくれた。

 

ネリネっていうのは、大きな花弁が反り返るような姿をしていて、花に光沢があって輝いているように見えるから、ダイヤモンド・リリーっていうらしい。まさに大輔である。

 

大輔の紋章が金ぴかなのは、大輔がいいこだからなんだよって教わった。人の気持ちや態度を穏やかにしてくれて、感心するくらいけなげで、人が自分の思うようにならないでつらくて、苦しくて、冷たくて、切なくて、悩んで悩んでやせ細るくらいの思いでも、人を憂いてくれる。

 

歩くことすら心が込められているように、優しい所作がある。人を案ずることができる。いっつもいっつもみんなにからかわれているように、すぐにみんなに騙されたり、みんなに嘘をつかれて信じちゃったりするほど、疑うということがすっごくへたくそな男の子だから。

 

 

 

びっくりするくらい信じることを知っている男の子だから、穢れや偽りとは無縁だから、純粋で清らかだから。愛され上手で甘えたがりの癖に恥ずかしいを知っているから。

 

だから、自分がこうありたい、人にこうしてもらいたいと思ったら、一直線により良い状態を期待してその実現目指して頑張っちゃう子だから、金ぴかなんだよって教わった。絶対にあきらめない子だからだよって教わった。

 

忘れないでね、って。あきらめない気持ちがあなたが一番信頼している人の紋章に通じているのって言われたのである。アルフォースがあるから金ぴかなんだよって言われたのである。そっかあ、と大輔はようやくここで「奇跡」の意味を知る。

 

もうすぐこの世界にやってくるもう一人の選ばれし子供と大輔と太一がパートナーデジモンとデジヴァイスを作り上げたんだよって。あなたは進化を司る子供と太陽を司る子供と同時に感情を司る子供として、選ばれし子供に選ばれたから、紋章の選ばれし子供の開祖に近いんだよって。

 

だから、最初の選ばれし子供であるすべての始まりの神様と同じ種族の古代種の末裔がパートナーデジモンなんだよって、言われたのである。すべてはつながっているのだ。大輔はチコモンをぎゅううって抱きしめた。

 

だいすけ、おれたちすごいねえ、ってチコモンは嬉しそうに眼を閉じて笑い、うん、と大輔は大きくうなずいてほおずりするのだ。だれだろう、楽しみだなあとのんきに大輔は考える。まさか大っ嫌いな女の子であるとは思いもしない大輔である。

 

 

 

 

 

ここでようやく、なっちゃんに優しいのねって言われた意味を悟る大輔である。デビモンになっちゃんの世界に飛ばされたのがブイモンと俺だけでよかったって悟る大輔である。

 

もう背中がぞくぞくしてしまう。あやうく大輔とエクスブイモンはもろともなっちゃんと心中するかも知れなかったのだ。もしかしたら、殺しちゃってたかもしれない、消滅させちゃってたかもしれない、よかったああ。

 

大輔はその場に崩れ落ちるのだ。なっちゃんはそれを抱きしめてくれるのだ。大輔の想いが進化を生んだ。

大輔を助けたいっていうブイモンの気持ちと呼応して、黒いドラゴンは翼を広げた。ブイモンがエクスブイモンに進化できていなかったら、きっとすべてが終わっていた。

 

なにせ暴走状態になったウイルス種のパロットモンから必殺技をもろに受け、吹き抜けかららせん階段下に落下、そのまま行けばスプラッタである。大輔が死んだらブイモンはデジメンタルの大輔を失って死ぬのだ。

 

運命共同体である。何か一つ掛け間違っていたら、すべてが終わっていたのである。エクスブイモンはなっちゃんをたすけようと必死でメモリチップが壊されないように、ひたすら吹き飛ばして、攻撃を誘導したからよかったものの、真正面から勝負を挑み、攻撃を受けていたら間違いなく負けていた。

 

殺されていた。死んでいた。エクスブイモンは成熟期である。ウイルス種に身を堕としているとはいえ、パロットモンの強さは太一のパートナーデジモンであるアグモンの暗黒進化先であるスカルグレイモンと同じなのだ。戦わなくて正解である。どっちが欠けてもだめだった。

 

大輔は無意識のうちに最善手を打ったのだ。いずれ記憶を取り戻すであろうブイモン、パロットモン、いずれも大輔の奇跡の力に引きずられて、暴走状態となり、強烈な負のオーバードライブが発生したら、どうなるか。言うまでもなく心中である。

 

もろとも隔離された亜空間ごと吹っ飛ばして消滅。行方不明。もっとも警戒すべき選ばれし子供の抹殺計画、完了というわけだ。デビモンが直々に殺しに来るのも無理はない話だ。これだってエンジェモンとエクスブイモンの同士討ち狙っているのだ。

 

タケルが絶望したら希望は潰える。なし崩しにタケルがいないと進化の光の力をうまく使うことができない光は、問答無用でお荷物となる。

 

選ばれし子供ではない野生のデジモンに接するたびにすべてを光が丘事件のトラウマの完全再現で暴走状態の暗黒進化にさせ、いずれ精神が崩壊するだろう。そしたら真っ先に崩れるのは最愛の光を失った太一である。

 

ただでさえ暗黒進化したスカルグレイモンが暴走状態となったら、これ以上の内部崩壊はないのだ。もう選ばれし子供たちは抹殺される。まさに奇跡の連鎖である。

 

選ばれし子供たちは、ようやく復活したなっちゃんを中心に本来の支援を受けられる体制が整ったのだから。暗黒の力にとって大輔は、よっぽど警戒すべき相手だったようである。

 

紋章を手に入れれば大輔はデジメンタルの負担を大幅に軽減できるから、二重の罠まで仕掛けていた。執拗なまでに消滅を目論んだ。紋章をナノモンのデータチップに加工して隠すという二重の罠を仕掛け、お役所仕事をする中間管理職に振り回されるピッコロモンが、精神的な重圧からぼろぼろな大輔に同情して、

光が丘事件のトラウマを軽減しようと記憶を復活させる。

 

強烈なホームシックに見舞われた大輔はナノモンとエテモンの待ち受けるピラミッド迷宮という監獄へいく。ぞっとするほどのピンポイントである。暗黒進化したセトモンにより大輔は衰弱、あやうくもろとも消滅するところだったのだ。

 

 

 

今思えば、なっちゃんもあぶなかったのだ。大輔とエクスブイモンを見て、何かを思い出したって、ごめんなさいごめんなさいって泣き始めたのも、光が丘事件を思い出せたからなのだろう。

 

グレイモンを連想させるドラゴンだし、エクスブイモンは恐竜とにてる。だから鎌鼬とか電気を操る技がどんどん増えていった。ずっと200の年月「ごめんなさい」をいうために待ち続けていた男の子を、「わたし」を生んでくれた選ばれし子供を。

 

一方的な勘違いと嫉妬からブイモンともろとも殺そうとしたという絶望から、死にたいっていう強烈なオーバーライトがなっちゃんを蝕み、奇跡の力が発動して暴走状態が加速した。だから消えちゃうと思った。最後の力を振り絞ってお別れを言いに来た。

 

でも大輔は諦めないでエクスブイモンから飛び降りてまで助けに来てくれた。片りんを見せ始めていた奇跡の力が開花して、なっちゃんは今ここにいる。もしここで大輔以外の誰かがいたらなっちゃんは間違いなく死んでいた。

 

きっと大輔は助けられなかったなっちゃんに精神を病み、ブイモンも同様だが、大好きなパートナーを取られたという愛憎入り乱れな感情に蝕まれて強烈に大輔を縛り上げ、孤立させ、もろとも自滅させるだろう。

 

古代種の記憶を忘却していたからこその作戦である。おっそろしいほどのピンポイント。暗黒勢力の執拗な抵抗をはねのけて、今大輔たちはここにいる。そういうわけで、大輔の腕の中にいたチコモン、ようやくデジメンタルに刻まれた太陽の紋章がちょーっとだけ好きになれたのである。

 

ようするにいずれやってくるであろうその時に備えての進化段階のいっちばん最初、成熟期レベルの強さを発揮できるデジメンタルとブイモンは一緒じゃないとだめなのだ。目覚めた時に探さなくちゃいけないとかめんどくさすぎるでしょう?となっちゃんに言われればうなずくしかない。

 

その時はいずれ来ることは分かっているんだけども、いつかは分からないから予言の書を頼りにデジタルワールドは準備をするのだ。チコモンはデジメンタルに刻まれた太陽の紋章が象徴する部分が、大輔のいい所である奇跡のあり方を、ちょっとだけでてる証なのだとようやく理解したのである。そして、むくれるのだ。

 

 

「おれ、すっからかんでなんにもおぼえてないのにさあ、いきなりでじめんたるにゆうきのもんしょうつけて、おれのになったあかしだよっていわれてさあ、なかまたちつれてくるからまっててねっていわれて、

 

ずーっとまってたのにほっとかれっぱなしってひどいよう。ぴっころもんといっしょにいたおにいさん、いつまでたってもこないからあ。でじう゛ぁいすだけもってろーってむちゃくちゃだよう」

 

「ごめんなさい。ほめおすたしすさま、こういうおしごとなれてないし、えーじぇんとのみんなは、ほめおたしすさまとおしごとするのはじめてだからいろいろたいへんだったみたいなの。

 

みんなをつれてくるまえに、あんこくのちからにおってがきちゃって、

みんなをはじまりのまちにかくまってもらうのでせいいっぱいだったの。もんしょうとぱーとなーでじもんとでじう゛ぁいすはもともといっしょにわたすよていだったの。

 

でも、えーじぇんとのおにいさん、みんなになんとかのこったでじう゛ぁいすわたすのでせいいっぱいで、

みんなおおけがしちゃって、いまねてるの。でてこれないの。ごめんね」

 

「そっかあ、ならしかたないよね」

 

「それなのにむりしてわたしたちのかわりをしてたの。げんないさん。えーじぇんとなの」

 

「え?あのおにいさん、げんないさん?!」

 

「うん。おおけがしてるからね、おじいちゃんになることでなんとかがんばってるの。おにいさんのまんまだといっぱいえねるぎーつかっちゃうから、おじいちゃんなの。

 

ほめおすたしすさまとうまくおしごとできないから、なかなかうまくいかなくってごめんね、ちこもん。ひとりぼっちにさせちゃって」

 

「そーいうことならいいよ。だって、おれ、いろおんなところまわったんだもの。ふぁいるとうはおれのいたじだいよりずっとずっとすごかったから」

 

 

パロットモンは笑うのだ。ギリシアっていう国の神話に登場する美しい水の妖精で、ネーレーイスっていう綺麗なお姉さんのように。ネーレーイスは、お父さんの住んでいる海底の宮殿で黄金色の椅子に座って、歌ったり踊ったり糸をつむいだり、箱入り娘みたいな自由奔放な生活をしていたらしい。

 

なっちゃんは笑っている。置いてきぼりの大輔はむくれるのだ。大好きなお姉ちゃんそっくり笑顔と大好きなお母さんの包容力をいっしょくたにした、もうひとりのジュンお姉ちゃんにほっとかれるから。

 

 

「なあ、ちこもん、ちこもんはどこでねてたんだよ?」

 

「え?えーっとねえ、どこだっけ?」

 

「だいのこだいきょうっていうの、ちこもん、だいすけ。そのときがきたら、いってあげて。みんな、そこでぱーとなーをまっているから」

 

「だいのこだいきょう?」

 

「うん。こだいしゅがねむっているところなの。ちこもんみたいに」

 

 

ファイル島の南東に広がる亜熱帯エリアである。ミミとパルモン、光子郎とテントモンがデビモンに飛ばされたところだ。マングローブ域を抜け、ケンタルモンが守護しているあみだ森を抜け、現れるのがダイノ古代境。

 

光子郎たちはそこまで行くことは叶わなかったが、ケンタルモンが守っていたデジヴァイスの彫刻が残る遺跡のさらに先にある。古代種たちの故郷が唯一凝縮されている場所。恐竜の王国である。

 

恐竜型のデジモンが生息し、時間の流れがエリアで変わる特殊なエリアである。古代種が住みやすいところだ。外のエリアに出たがるチビモンを引き留めては連れ戻す役割を担っていたのが、マスターティラノモンというティラノモンを統括する完全体である。

 

ダイノ古代境は3つの領域から形成される。まずは、ダイノ古代境内の時間の流れが二分の一というゆっくりとしている、ダイノ古代境静域。そして、ダイノ古代境時急域。時間の流れがなんと2倍になるというエリアで、化石が転がり落ち、地層がむき出しで、周りとは一風変わった風景が広がる。

 

ただでさえ寿命が短い古代種を現代種と同じ時間軸で生活させていたら、大輔と出会う前に寿命が尽きて死んでしまう。それでは本末転倒だからと、大輔たちがやって来る直前になって、ようやくチビモンはダイノ古代境の静域から出ることを許された。

 

今となっては、オレのこと考えてくれてたのかなあ、とぼんやり考えるチコモンである。

 

 

「そのさきがわたしがいたところなの」

 

「え?そうなの?」

 

「え?うそう、だっておれみつけられなかったよ?」

 

「だって、ういるすしゅしかはいれないもの」

 

「そっか、なるほど」

 

「なあんだ、じゃあおれまってればよかったんだ?」

 

「ううん、げんないさん、とちゅうでおおけがしてたおれちゃったらしいから、あそびにいっててよかったの」

 

「そっか、まーいっか、だいしけとあえたし」

 

「ほんとよかったぜ、お前がいなかったら俺ずーっとひとりぼっちじゃねえか」

 

「うん」

 

 

トロピカルジャングルを抜けると現れるのは、オーバーデール墓地というお墓エリアである。和式ではなく洋式の墓地で、常に夜の闇に覆われている。墓地内には幽霊型デジモンがいっぱい生息しており、バケモン達がいる。

 

丈と空がデビモンに飛ばされた後に再会した場所だ。本来エリアを治める主が不在のせいで好き勝手やってるバケモン達に空たちは襲われた。

 

 

「ここってデビモンのおうち?天使は入れねえのに?」

 

「ううん、ちがうの。あそこはね、ヴァンデモンのおうちなの。あのやかたのあるじのおなまえ。いいひとなのよ。みんな、いなくなっちゃったけど。たぶん、もう、でびもんといっしょに・・・・・・・」

 

「そっか」

 

「だいしけ、がんばろう、おれたちがみんなをすくうんだ。あんこくのちからをたすけるためにも、みんなをたすけたり、だーくえりあにおくってあげないと、あんこくのちから、どんどんつよくなっちゃうよ。たすけられなくなっちゃう」

 

「よっしゃ、がんばろうぜ」

 

 

今はただ、嵐の静けさの前に。次の日、大輔とチコモンは、空と共にバードラモンと帰還の旅路に就く。ミミとケンカ別れしてもなお、気丈に待ち続けていた光子郎のいるピラミッド迷宮まで。もうすでに1カ月と一週間が経過していた。

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