新緑が眩しい真夏の季節。蝉の声が騒がしく通り過ぎていく。選ばれし子供たちがサマーキャンプでデジタルワールドに飛ばされる1999年8月1日からさかのぼること一週間ほど前のことである。一人の精悍な顔つきをした老人が都内にある某墓地を訪ねる姿があった。
しかし、墓参りというにはあまりにも険しい表情をしている。供える花もなければ、お供にする和菓子や会いに来たであろう人間の生前好きだったものも携えず、お墓をきれいにするためのバケツもひしゃくもなく、ただただ手ぶらである。お彼岸にはまだ早く、行事があるわけでもなく、一直線に向かった先にはひっそりとたたずむ一つの墓前があった。
老人はその墓を無機質に見つめ、たたずんでいる。静寂がそこにはあった。そして、心の中の激情を土の中にいる男に向かってぶつけ始めたのである。
「驚いたか、今日はわし一人だ。他には誰もおらん。いや、いるにはいるがおそらく二度と来ないだろう。
一度しか言わん、よく聞け。口に出すだけでもおぞましい最悪の事態が起こってしまったではないか、貴様のせいで。
貴様のお伽噺という名のくだらん嘘のせいで。もう一度パートナーデジモンと会いたいとか遺言で言い残すものだから、貴様がありもしない非現実なんて教え込むから。
わしは今日、一度に二人も息子を失ったんだぞ、どうしてくれる!一人はもうお前の所に行っているだろう。もう一人はもう二度とうちの敷居はまたがせないと言ってしまったわ。もう後戻りはできんのだぞ。どうしてくれるのだ。
貴様の遺志を継いで、デジタルワールドを探し出して、選ばれし子供になって、貴様のパートナーデジモンに貴様のことを知らせると、もう一度会わせてあげるんだと、ここに連れてきてあげるんだと、デジタルモンスターの存在を証明してあげると。
わけのわからん妄想に取りつかれたわしの大事な大事な息子たちを
あの世とこの世で別れさせよって。ロンドンだそうだ。海の向こうだ。
警護していた要人をかばい、即死だったそうだ。昔から優しい子だったよ、貴様もよく知っているだろう?
貴様はわしから一人息子を奪った挙句に、その親友であるはずの及川くんの人生までも狂わせたのだ。いつまでもいつまでもデジタルワールドなどというありもしない妄想に取りつかれて、まともな大人になれないまま、普通の生活に支障が出るほどにまで執着しきっているんだぞ!?
いい加減目を覚ませと喝を入れたら、二度とこないといわれてしまったではないかっ!なぜ貴様はいつもいつもわしの大事な家族を奪っていくのだ!死んでもなお!何とか言ったらどうだ!」
果てしない二律背反である。男は声を殺して泣いていた。拳に爪が食い込んでいる。
「そもそも貴様の意思を継がせること自体、わしは反対だったのだ。
だが、たったひとりのかわいい一人息子だぞ、あんなきらきらとした眼差しで頼まれては何もいえんではないかっ!親友と共に妄想とはいえ夢を語らう子供たちをどうして邪魔できようか。だが、その結果がこれだ。
貴様が海外のネットワーク通信に何かヒントがあるのではないかと吹聴するものだから、妻と息子を残して海外にまで飛んだバカ息子が、いつまでもありもしない夢を仕事をしながら追い続けるからこうなるのだ!
…………よくわかった。そもそもわしが間違っていたんだな。腐れ縁だからと許容していたわしが愚かだったのだ。それがそもそも間違っていたのだな、よくわかったぞ、貴様の戯言に付き合わせていたから、わしの息子たちはおかしくなったのだ。
そしてわしは一遍に二人も息子を失った。普通の幸せは壊された。あの写真のようにみんなでそろう家族写真は二度ととれなくなってしまったのだ。もう戻らないんだぞ。
わしの息子だ、おそらくそっちで済まなかったと貴様に謝罪しているんだろうが、一番謝罪しなければならない貴様が土の下などこんなむなしいことがあってたまるかっ!ふざけるな!返せ、わしの息子たちを、あのころの幸せを!」
誰もいない墓石の前で、男は泣いていた。ただ夏のざわめきが遠い。
「約束されていた普通の幸せをわしのたった一人のかわいい孫は奪われたんだぞ。わしの息子の忘れ形見は奪われたんだぞ。ロンドンだ。海の向こうだ。本来なら家族旅行や留学で行くようなところだぞ。
だが、わしの孫はな、貴様の名を継がされた孫はな、来年お台場小学校に入学するというのに父親がいないんだぞ。母親しかいないんだぞ。おかげでまだ若いというのにその母親は未亡人になってしまったではないか。
わしらと共に住まなくてはならなくなったではないか、たった一人の残されたお母さんはショックを受けて
病院に入院したんだぞ、まだ伊織は6歳だというのに!しかも家長だ。火田家の家長は6歳だぞ。
まだ甘えたい盛りだというのに母親が倒れたせいで、ロンドンに父親の遺骨を取りに行って受け取ることができるのは、本人で間違いないのかと確認することができるのは、家長しかおらんのだぞ。
わしの孫しかおらんのだぞ、あんまりではないか、初めてのる飛行機が父親の遺骨を取りに行くためなど
残酷にもほどがあるとは思わんかっ!
貴様のせいだぞ、すべて、デジタルワールドやパートナーデジモン
などという嘘をついた貴様のせいだぞ!」
男は物言わぬ墓石を見下ろした。
「孫はわしがひきとる。父親代わりとして、普通の、まともな、立派な、人生を、幸せを、送ることができる男として育て上げてみせる。
嘘などつかない、まじめで、しっかりとした、立派な大人にしてみせる。貴様の意志など継がせはせんよ。もうわしらの幸せを壊さないでくれ。頼む、もう二度と現れてくれるな。わしが今日、ここに来たのはもう言わなくてもわかるだろう。
わしがここに来たのは、もう二度と貴様には会いに来ることはないという決別の宣言をするためだ。ありえんと思うが、もし、万が一、気が向いたら孫と会わせてやろう、二度と会うことはないと思うがな」
そして男は立ち去る。
「これからかわいい初孫に、父親の遺骨を取りにロンドンに行くから、ついてきなさいと告げねばならんのだぞ。お土産を楽しみにしている、いつ会えるのかと楽しみに待っている、かわいい、6歳の、孫に、わしが、わしが告げねばならんのだぞ。あんまりではないか。一生恨むぞ、友よ」
泉光子郎がデジタルワールドに持ってきた私物は、パイナップルマークの黄色いノート型パソコン、携帯電話、デジタルカメラ、パソコン用のマイク付きヘッドフォンである。子供会主催のサマーキャンプを楽しむ目的で集まっている子供の持っているものとは思えないものばかりである。
もともと社交的ではなく、内気ではあったものの、養子であることを隠す育ての両親の言い合いを目撃して誤解した、他人との距離の取り方に異様に過敏になったミーハーな少年だ。
人付き合いという小学生であるがゆえに避けられない問題を、自分から一人ぼっちになって、自分の世界に没頭することで解決した。
サマーキャンプももともと下級生であるがゆえに、雑多な下処理しかできないことは分かり切っていたので、上級生に交じってまきを取りに行くふりをして、どこかでメールやネットなどをする気満々だったのである。
自分の世界を形作る電子機器はどこであろうとかたくなに持っていこうとする男の子であり、明らかにおかしいにもかかわらず指摘すらしてくれないまま、いってらっしゃい、光子郎さん、と。
さみしい笑顔と共に見送られてしまった肩すかしは今も心に巣食っている。おかしいだろ、それ、とサマーキャンプ先でからかい半分に指摘してくれた太一がどれだけうれしかったか、きっと誰もわかりはしないだろう。とんだ天邪鬼である。
ひとりぼっちの少年は、いつだって友達の輪の中に入れてくれる誰かを待っている。だから光子郎は明らかに小柄な体質で運動とは無縁であるにも関わらず、サッカー部に入ったのである。ものすごく中途半端な時期に、ものすごく中途半端な学年で。
なんで外でパソコンなんかしてんだよ、お前、外なんだから外で遊ぼうぜ、とたまたま公園でサッカーをして遊んでいたゴーグルの少年に声をかけられた瞬間から、サッカー部に誘われたときに断わるわけがなかったのである。
もともと光子郎という少年は誰よりも誰かとコミュニケーションがとりたい社交性に飢えている矛盾した少年だったから、なおさら。
そのサッカー部で光子郎は世界が出来上がった。ツートップを組んでいる関係で紹介された幼馴染らしい空、太一を慕うかわいいサッカー部の後輩である大輔。
とりわけ、今まで誰にも負けないという自負も自尊も人一倍ある自信家な男の子は、だれにも自慢できないうっぷん晴らしと気晴らしに、いたずらをいっぱいしてきた。
ネット上にある機密情報をクラッキングして入手して、ネット仲間と面白がって回したり、既製品を自主制作したコピー品と比べて完成度を競ったり、結構犯罪すれすれを通り越して真っ黒すぎる分野にまで足を突っ込んでいるとんでもない少年である。
その過程でハーバード大学に在籍する小学生と知り合ったわけだが、その小学生もまたダーティないたずら大好きな子で、意気投合してからはその過激さは勢いを増しており、すさまじいスピードで光子郎という少年を一つの分野の頂点に押し上げてきた。
おそらく両親が彼のこの一面を垣間見たら卒倒するに違いない。本気を出したらサイバーテロまがいなことまでしかねない子である。好奇心旺盛な男の子である。悪乗り大好きである。魔改造大好きである。
今の選ばれし子供たちの中では下級生組にあたるので、まだ遠慮気味なのだが、最高学年の初代パソコン部部長、しかもそのメンバーがみんな新しい選ばれし子供という新体制での最年長となれば。
バックアップする側となったらもう彼を止められる人間はいなくなってしまう。一気に才能が開花するのは3年後。突っ込み不在で大輔の胃が空くのは時間の問題である。
そんな男の子が誰よりも信頼する太一がいなくなったら、下級生の方針として待っているという選択肢を提示されたので素直に待っていることを選んだ。
自分の世界に没頭すると帰ってこなくなる石像に不満が大爆発したミミと喧嘩別れしてしまった光子郎は、
必ず太一は帰ってくる、約束したから、という約束を信じて待ち続けていた。
ましてやピラミッド迷宮には自分と同レベルそれ以上の技術と知識を持つナノモンという同士がいる。言うまでもなく光子郎が残る理由としては十分すぎるものだった。デジタルワールドの謎を解き明かしたいという探求の選ばれし子供と、マシーン型の起源を知りたいというワクチン種は、意気投合である。
テントモンもガジモンも置いてきぼりだ。水を得た魚は、まるでスポンジのようにマシーン型のデジモンの講座を受講し、デジ文字の遺跡を徹底的に調べ始め、デジタルワールドという異世界のたどってきた歴史を知り、ロマンを感じるのである。
この異世界には光子郎もどこかで聞いたことがあるような、お伽噺の世界の歴史が繰り返されてきたのである。
デジタルワールドは四聖獣という朱雀、白虎、玄武、青竜という京都の守護獣とよく似たデジモンが東西南北を統一し、それぞれは、3体ずつ完全体の十二神将(デーヴァ)を従えている。残念ながら具体的な名前やどういうデジモンなのかは記述されていない。
四聖獣のレベルだという「きゅうきょくたい」っていうのはいまいちよくわからない光子郎である。ナノモンは伝説のデジモンらしいと補足する。よくわからないけどすごい奴なのだろう、たぶん。その配下は不思議なことに、十二支を模している。
一時期、北と南を守護する「きゅうきょくたい」というものすごいデジモンが守護するはずの方位が反対になり、大陸が消滅、時間軸がずれたという異常事態になったことがあったらしい。デジモンが世界を形作っていることを思わせる記述である。
データが実体化して生きているデジタルモンスターだから、いろんな勢力があるらしい。四聖獣の青竜は、神に最も近い竜のデジモンである3つの聖竜と考えられ、神の啓示を受けた神竜系の頂点を司る竜、再生と破壊を司る小龍ながら両腕に竜種族中最強の魔力を秘めている竜と共に、強大な力でデジタルワールドにより封印された1つの邪竜とバランスを取っているらしい。
そして、マシーン型の起源が記述された碑文がみつかった。解析はフルスピードである。
はるか昔、デジタルワールドには鋼の帝国が存在していたらしい。
機械をベースにして感情や意志を持たないデジモンと、生き物の肉体をベースに作られた対になるデジモンが生み出された。しかし、後者は感情のオーバードライブを起こして、セトモンのように暴走してしまったため、封印されたとのこと。
鋼の帝国はサイボーグ型デジモンの起源となるデジモンを作り上げた。
やがてマシーン型、サイボーグ型デジモン達が彼らの手を離れて帝国を作り上げるまでにデジタルワールドで一大勢力を作り上げた時、鋼の帝国は上記の4大竜と接触。
そして、目覚ましい技術革新が起こり、竜と機械が融合したデジモンが誕生する。対空迎撃用デジモン、対地迎撃用デジモン、水中迎撃用デジモンが開発され、改造、改修、強化、改造、を繰り返し、急激に発展を遂げた。明らかなる争いの火種である。
よって、遥か未来のデジタルワールドを守護する最高位であるロイヤルナイツという謎の聖騎士集団が、4大竜と鋼の帝国の監視を行っていたといるという。
「アンドロモンがいたあの工場は、鋼の帝国の名残だったんですね。
部品を作っては分解するというよくわからないことをしていたんですが」
「われわれマシーン型、サイボーグ型デジモンは、それぞれがトップクラスの技術を持っている。それがいわば存在意義だ。居場所だ。守り続けているのだ。故郷がなくなってもなお。おそらく、失われた技術、知識は多岐にわたる。
だが、平和となった今のデジタルワールドには必要なきものだろう。
私は起源が知りたいのであって、鋼の帝国を復活させようなどとは思わん。私は修理屋だ」
「そうですよね。そのほうがいい」
「ロイヤルナイツというのは、今とは比べ物にならないデジタルワールドが存亡の危機となった時、現れるとされているようだな。その勢力に危惧されるような帝国だ。ほろんで正解だろう」
「……あの、ロイヤルナイツ、対立が目撃されているってありますけど」
「いうな」
「え、えっと、記述があいまいでよくわからないものもありますね。
はるか昔に、火、水、風、氷、雷、土、木、鋼、光、闇の
「きゅうきょくたい」デジモンがいたって、これだけじゃよくわからないな」
「オリンポス十二神もだな。具体的な記述があるのは、一体だけか。ロイヤルナイツと同等の力を持ち、領土を守りつつ共存している謎の集団。何が起きようとも徹底した中立を保ち、デジタルワールドを見守る存在。面白い組織だ」
そして、彼らは背反する勢力へと記述が下る。
七大魔王という勢力がある。強大な力を誇る七体の魔王型デジモン達であり、それぞれがここに独立した存在として君臨していたとされ、それぞれの関係は薄く、仲間意識は薄く、具体的な協力関係は記述では確認できない。
具体的な記述が確認できる。どうやら七つの大罪がモデルのようだ。神に作られた身でありながら、神に追放された聖と邪の究極魔王の傲慢を筆頭に。
ベヒーモスで駆け獲物を狩る孤高にして残虐な魔王の暴食、強大な顎で世界を飲み込む大海の魔王の嫉妬、
怪しい力で魅了し金色の爪で腐食させる暗黒の女神である色欲、かつて善を司りながら闇に堕落した逆襲の大魔王の憤怒、魔力解放狡猾にして強欲なる老魔王の貧欲、千年に一度目覚め門の底より迫りくる大魔王、怠惰。
それぞれが、太陽、木星、火星、土星、金星、水星、月を模していている。
「どうした?」
「いえ、なんでもないです。なんだか、本当に異世界だなって思って。
きっといたんでしょうね。太一さんと同じ名前の人が七代魔王の一人と戦ったわけだし」
「そうだな。そのパートナーはロイヤルナイツに加盟したと書いてあるが、ロイヤルナイツの結成ははるか未来の筈だ。随分時代が下っているぞ。てっきり同一のデジモンが在籍しているものと思っていたが、まさか世襲制なのか?まあいい。やはり、デジタルワールドにおいてもっとも記述が深いのはこのデジモンになるか」
「神の申し子ですか、ほんとに僕たちの世界と似てますね。なんだっけ、神様になろうとして一番最初に地獄に落とされた……えーっと、だめだ、この分野はミミさんの方が詳しそう。古代ワールド期かあ、ブイモン何か覚えてないかな」
「いや、記述的にこのデジモンが降臨したのは記述があいまいな10体の「きゅうきょくたい」デジモンが出現した時と同時期だ。時代は下るだろう。あのデジモンは純正の古代種だ、覚えておるまいて」
「すごいですね、成長期なのに完全体並み、白い羽が12枚、エンジェモンの倍……。3大天使を作って善の勢力の頂点だったのに」
「世界を破滅に導こうとして封印されるか。しかも、封印を破って魔神になって降臨、デジタルワールドを崩壊。では我々のいるデジタルワールドはなんなのだ。謎は深まるばかりだな」
「思っていた以上にすごい世界なんですね、デジタルワールドって。
データが実体化したってだけじゃなさそうだなあ」
「そうだな。私も驚いている」
神の申し子が率いるはずだった善の勢力は以下のとおりである。神の申し子の側面を3つに分断した3大天使。神々の集団を統率するデジモン達である。神の正義と秩序の守護者の熾天使。神の膨大な知恵を管理する智天使。神の深い慈愛を体現する座天使。
天使系、神聖系の頂点に立ち、デジタルワールドの神の領域を守護している。そこには厳格な階級と戒律がある。10枚の羽を持つ究極体デジモン、が中級クラス。さらに下には8枚の羽根をもつ完全体デジモンがいる。
中でも、その完全体デジモン他下級天使たちを監視、管轄する重要な役割を持つ天使がいる。下級クラスになると6枚の羽をもつ成熟期デジモン、4枚の羽を持ち戦いの先陣を切る天使、2枚の羽をもつ天使、戦闘力はないが幼年期の小天使と続く。
ホーリーリングを身に着けた聖獣や神聖系デジモンで構成されるとされている。しかし、その聖獣の中にはかつてロイヤルナイツの監視をうけたはずの4大竜のうち一体がこれをつけている。
神聖の証であるはずのホーリーリングを持つ者がいる。かつて敵対する鋼の帝国側であったにも関わらず、
ロイヤルナイツ側とされる中立な神聖側に寝返ったのは何か意味があるのだろうか。
「ホーリーリングは中立の証だ。許されたのだろう」
「でも、ふつう、かつて敵側の勢力で裏切ったんなら、監視とかつきそうですよね」
「そうだな。この勢力は厳格な戒律があるようだ。息がつまりそうだ」
「デジタルワールドもいろんな勢力があるんだなあ」
そして最後になる。光子郎とナノモンは沈黙した。
「箱舟計画、ですか」
「ずいぶんと物騒な記述だ。デジタルワールドがもう一つのデジタルワールドを作り、必要なデジモンだけ移していらないデジモンは排除か。すさまじいな」
プロジェクトアークと書かれている。日々数を増やし続けるデジモンによりデジタルワールドは不規則な進化や多様な進化をしたため神の逆鱗に触れ、選ばれたデジモン達以外は旧デジタルワールドに残したまま、残されたデジモン達は神によりウイルスをばらまかれて滅亡とある。
だが抗体を作ったデジモンと排除しようとするデジタルワールドで戦争が起き、デジタルワールドは選ばれたデジモンと排除されるはずだった抗体を持つデジモン達の世界に分断された。以下はそれぞれの歴史が紡がれている。
「………新しいデジタルワールドの記述は見ているだけで不快になってくるな。我々が何をしたというのだ」
「パソコンの中だから限界があるのかな、でも、これは……」
「ああ。まるで実験場のような扱われ方だ。むちゃくちゃではないか。
ゴーグルをつけたあの小さいほうの選ばれし子供の言葉が身に染みる。
我々は生きているのだ。デジタルワールドというこの世界で、電気という酸素を吸いながらな」
「僕たちでできることがあるのなら、この予言はなかったことにしたいですね」
「予言が的中しないことを祈りたいものだな」
「はい」
こうしてナノモンと共同作業で行われたデジ文字の解析が終了するころには、すでに3週間が経過していた。まだ選ばれし子供たちは帰ってこない。
「光子郎はん、光子郎はん、やっと終わったんでっか?」
「あ、テントモン、いたんだ」
がくっとずっこけるテントモンである。
「ひ、ひどいこと言わんといてえな、光子郎はん。わて、ずーっと光子郎はんのこと待ってたんでっせ。
光子郎はん、ナノモンと意気投合して、わてのこと置いてきぼりですがな」
「入ってきてくれてもいいのに」
「いや、もう、無茶言わんといてーな、わてあそこまでどっぷりな世界ついてけまへんて。なんか二人の世界で入れまへんて。忘れてましたやろ、わてのこと」
「・・・・・・・えーそんなことないよ」
「えーて。わて、光子郎はんのそういう知りたがりの探求心すきでっせ。光子郎はんらしいから。でも」
「でも?」
「今日、寝たのなんじでっか?」
「え?えーっと、何時だっけ?」
「もー、堪忍してえや。気を付けてえな。ナノモンはマシーン型でっせ。電気が常に充電できるあのデジ文字の遺跡部屋やとフル回転できるけど、光子郎はんは人間でっせ。なんかあったらわて何していいんだかわかりませんて」
「ごめん、気を付けるよ」
「あーもー、何度目かわかりまへんよ。ちょっとは休憩入れんと。ほら、ガジモンたちが休憩の準備してくれてますから、いきましょーや」
「大丈夫だよ、まだまだやりたいことがいっぱいあるんだ」
「ちょ、光子郎はーんっ!」
行ってしまったパートナーに、テントモンは追いかけようとするのだが、光子郎が吸い込まれていったナノモンの城は立ち入り禁止のマークが点灯した。
「光子郎はん……」
さみしそうなテントモンの声が本当はお母さんと呼びたい女性と重なった気がして、一瞬振り返った光子郎だが、首を振る。パイナップルマークのノートパソコンに魔改造しよう、デジモンの図鑑であるデジモンアナライザーの作成データを発見したというナノモンの大発見に打ち消されてしまう。
そして、一週間が経過した。
デジモンアナライザーが出来上がり、テントモンに見せようと探し回る光子郎である。ガジモンたちに聞いてみる。だが、ピラミッド迷宮にテントモンの姿はなかったのである。
一か月がたとうとしていた。