(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第107話

デジタルワールドが選ばれし子供を選んだのは、1995年に発生した光が丘テロ事件という不測の事態で発生した出来事により解析されたからデータからである。

 

予言の書による啓示で、この世界における200の年月をかけて、セキュリティシステムの末端であるエージェントたちのみで極秘のうちに準備された。

 

選ばれし子供たちのためにデジヴァイス、紋章、タグが開発され、パートナーのデジモン達が今はナノモンの迷宮ピラミッドとなっている地下室で誕生した。

 

裏切り者がいたことは分かっているが、それが誰なのか唯一の生き残りは頭を振るのでわからないままである。

 

突如、機械型デジモン達の襲撃を受けた秘密の地下施設は壊滅状態となり、ゲンナイをのこしてすべてのエージェントたちが死んでしまった。

ゲンナイは残されたデジモン達とデジヴァイスをファイル島の守護デジモン達に匿ってもらうことで逃げ延びた。

 

ダイノ古代境に残されていたはずの先代の子供たちが残してくれた闘いの記録、通称デジモン黙示録はゲンナイを執拗に追いかけてきた機械型のデジモン達によって根こそぎ奪われてしまったため、その全文を光子郎たちが見ることは叶わない。

 

 

唯一の手がかりは予言の書のみである。ナノモンが解析した古代デジ文字の記述によれば、先代の子供たちによってかつて炎の壁の向こう側に封じられた者たちがいたという。

 

古代ワールド期という途方もない昔、融合という疑似進化手段がまだ存在したころ、先代の選ばれし子供たちが封印するしか倒す方法がなかった者たちがいる。本来ならばダークエリアに送られ、3つの選択肢を与えられるはずの未来、現代、平行世界から作られたデジモンのような者たちである。

 

先代の選ばれし子供の一人の知識を頼りに、死にたくない、という一心で時間と世界を跳躍した彼ら。どのようにして彼らが生誕し、時間跳躍の能力を得たのかは不明なままである。5人目の選ばれし子供たちのパートナーデジモンが敵となって現れた発生の理由も。

 

古代デジタルワールド期、ダークエリアが存在しないブイモンのような種族が消滅という死を受け入れざるを得なかった時代である。鋼の帝国の侵略により消滅の憂き目にあったデジモン達はたくさんいた。

 

戦いの終止符を打ったとされるロイヤルナイツが一角、オメガモン出現の前に、予言の書に記されることすら許されない哀れな者たちは膨大な数に及ぶ。ブイモンはオメガモンに救出された数少ない古代種の一匹である。

 

初めは哀れに思って共にダークエリアに行こうと手を差し伸べたのだろう。ダークエリアでアヌビモンの裁判を受けるためにいわば、「ダークエリアに送られるため」に10体のデジモン達は一つの塊となる。

 

しかし、あまりにも膨大すぎる消滅の憂き目にあった者たちの魂はやがて核となるデジモン達すら覆い尽くしてしまう暗黒の塊となってしまう。古代種であるブイモンがすっからかんになってしまうほどの途方もない過去からの跳躍である。

 

長きにわたる旅路の果てに、無数の意識の複合体となってしまったのが暗黒の力の正体ではないか。なっちゃんから聞いた話、予言の書の記述、守護デジモンたちから断片的に聞いた話。

 

すべてを複合して、矛盾なく説明するにはこれしか考え付かなかったと光子郎はいう。あんまり考えたくないんですが、と光子郎は難しい顔をしている。

 

 

「もしかしたら、先代の子供たちが戦ったという相手と僕たちの戦う相手は根本的に何かが違うのかもしれないですね。

 

はるか未来からの侵略者と予言の書には書かれていますが、僕たちからすれば古代デジタルワールド期の封印がとかれて現れた過去からの来訪者です。未来なんていくらでも分岐するでしょう?

 

当時から見ればその未来はきっと今のデジタルワールドのはずです。きっと彼らにとっては、この世界は故郷と呼べる世界ではないんでしょう。だから壊そうとしてるんだと思います。いや、作り変えようとしてるのかもしれない」

 

「ねえ、光子郎君。先代の子供たちは、倒せなかったんでしょう?私たちにできるかしら」

 

「大丈夫ですよ、空さん。同じ時間軸のデジモンではないから、倒すことができなかった。炎の壁の向こう側に封印するしかなかった。そう、書かれています。

 

古代デジタルワールド期に現在の時間軸から干渉してるデジモンがいたんですよ、多分。僕たちがいるのは、その未来なんです。同じ時間軸にいる以上、きっと倒せますよ」

 

 

光子郎の言葉に、空は安心したように笑う。大輔は複雑な表情をこわばらせたまま沈黙している。大輔の傍らには、光子郎の仮説を聞いて静かに息を吐いたチコモンがいる。チコモンにとっては、あったかもしれない未来が敵として立ちはだかっている現実である。

 

覚悟を決めた古代種の生き残りは、目を開いた。そして、大輔を見上げた。

 

 

「だいしけ」

 

「なんだよ、チコモン」

 

「そんなかおしないでよ。おれはだいじょうぶ」

 

「でもよぉ」

 

「おれ、おもったんだ。きえてしまうくらいなら、なにがなんでもあがいてやるって。しにたくないって。デジモンにとっては、きえちゃうことがしぬってことなんだよ。

 

ダークエリアでつみをつぐなったら、デジタマになれるんだってナノモンいってただろ。まつことはへいきなんだよ。おれたちはデジモンだから。

 

でも、いまのあんこくのちからは、きえることしかのこされてないんだ。そんなの、あんまりだよ。だいしけ。

 

だいしけにとっては、デジモンをころすことになるかもしれないけど、それによってしかみらいがみいだせないんだったら、おれはたたかうよ。また、みんなとあいたいから」

 

 

チコモンはいうのだ。古代デジタルワールド期に絶滅した種族の言葉は重い。あまりにも強大すぎる過去からの来訪者は、現代である平和なデジタルワールドにおいて、存在自体が邪悪でしかない。

 

受け入れてもらえない、強制送還されてしまう、ひとりぼっちであると自覚するや否や悲願の時代に到達した歓喜は、現代種に対する当然すぎるほどのねたみと嫉妬憎悪、殺意に変貌を遂げたんだろうと幼年期は予想する。

 

もし大輔と出会っていなかったなら、きっとその勢力にいただろうとチコモンはいった。大輔はショックをうけた顔をするが、チコモンの本音に何も言えない。

 

光子郎たちも言葉が見つからなくて、愛らしい外見とは裏腹に辛辣な物言いをするチコモンに沈黙である。

 

 

「だからね、わかることもあるとおもうんだ。だからおれはえらばれたんじゃないかな。たいせつなものをまもれるようにって」

 

「大切な物?」

 

「おれ、おもってたんだ。おれたちのじだいにも、ダークエリアがあったらよかったのにって」

 

「そうか、古代デジタルワールド期にはダークエリアはもちろん、デジタマになれるという転生の法則なんてなかったんですよね?チコモン」

 

「うん。それがおれたちのじだいと、このじだいのいちばんのちがいなんだ」

 

「もしそれが本当なら、ゲンナイさんが完全体があんまりいないファイル島に向かったのも納得できるわね、光子郎君」

 

「そうですね。なんとしてでも守らなければならない場所があります。だからゲンナイさんはサーバ大陸の秘密基地を放棄してまでファイル島にきたんだ」

 

「え、どこっすか?」

 

「はじまりのまちだよ、だいしけ」

 

「え?はじまりのまち?」

 

「すべてのデジモンははじまりのまちでうまれるんだ。ダークエリアにいっちゃったデジモンがうまれかわるのも、しんじゃったデジモンがうまれかわるのも、みんなはじまりのまちなんだ。

 

あんこくのちからにとっては、いちばん、あっちゃいけないばしょなんだよ。しんじゃったデジモンは、いきかえらない。なんにものこらないできえちゃう。

 

おれたちのじだいのあたりまえをいちばんひていしてるのが、あのエリアだから」

 

「そっかあ。死んじゃったら生き返らないってオレたちの世界みたいだなあ」

 

「この世界の在り方まで変えてしまいそうですね。生まれ変わるというデジモン達にとって一番大切な概念の否定ですか。もしそれが実現したら恐ろしいことになりますよ」

 

 

おそろしいこと。みんな顔を見合わせる。

 

 

「残念やけど、光子郎はん。それはきっと簡単なことでっせ」

 

「え?どうしてですか?」

 

「はじまりの街が陥落したら終わりやっていうことですわ。なにせワイらデジモンは、生まれ変わる時にデータチップにある記録を転写して、

デジタマになるんでっせ?だから転写できるほどのデータがないと消えてまう。基本的にデジモンは生まれ変われるんやけど、例外がひとつあるんですわ」

 

「例外?」

 

 

先を続けたのはピヨモンだった。

 

 

「幼年期にはね、2つの姿があるのよ。チコモンが幼年期1ならチビモンが幼年期2ね。幼年期1のときに死んじゃうとデジタマになれないのよ。データが小さすぎて転写できずに消えちゃうの。

 

だから幼年期1のデジモン達は始まりの街で守られながら暮らしてるのよ、みんな。幼年期2のデジモン達は始まりの街からでても大丈夫だから、ピョコモンやコロモンはみんなで暮らしてるの」

 

 

誰から教わったわけでもない。デジモン達にとって本能ともいうべき事実である。生まれた時からデジモン達は知っている。幼年期1のデジモン達しかはじまりの街にいる理由をしった子供たちは、感心した。

 

 

「はじまりの街には幼年期1のデジモン達しか住んでませんね。なるほど、暗黒の勢力によって襲われたらひとたまりもないってことですか」

 

「……なあ、チコモン。もしデジタマとか襲われたらどうなっちまうんだよ」

 

「あのときのなっちゃんみたいになるよ、だいしけ」

 

「……ぜってーダメだ。そんなことオレが許さない」

 

「そのいきだよ、だいしけ。おれたちにしかできないことはきっとあるんだ。がんばろう」

 

「そうだよな、うん、わかった。がんばろうぜ、チコモン」

 

 

決意を新たに、子供たちはナノモンから敵勢力の現状を聞くことにするのだ。平和を謳歌する現代種に対する復讐心は、本来、ダークエリアに送ってもらうはずの跳躍すら忘却され、世界の崩壊を目論むようになるのは、時間の問題だったに違いない。

 

そして外からのお客様である過去からの来訪者は、暗黒の力となったおぞましいなにかは、瞬く間に侵攻を開始した。それが200年前のことである。エージェントたちは真っ先に狙われたというわけだ。

 

そして、本来、先代の選ばれし子供達の代わりに知識と経験を授けるはずだった4体のパートナーデジモン達、四聖獣が狙われた。かつて己らを封印の憂き目に会わせた憎き宿敵をまずは真っ先に狙ったのである。

 

圧倒的な勢力で攻撃を仕掛け、4方位を守護する四聖獣デジモン達は

方位と位置、名前がずれてしまうだけで、大陸や時間軸がずれて大災害となるため、それを防ぐために世界の崩壊を防ぐために暗黒の力との拮抗を余儀なくされ、封印状態となる。

 

暗黒の力はこれでも十分すぎるほど抑圧されたものなのだ。本来の上司を失ったセキュリティシステムは、さらなる上司との不慣れな連携を強いられる。その200年間がデジタルワールドにおける暗黒の力の侵攻とデジタルワールドとの戦いの歴史である。

 

暗黒の力は連携のうまくいかないセキュリティシステムを利用し、デジタルワールドが用意していた選ばれし子供達という最後の切り札である救世主を援護するバックアップ体制を壊滅させる。

 

守護デジモンを暗黒陣営に引きずり込み、選ばれし子供たちに架空のウイルス種という名の敵をねつ造、強烈な偏見を持たせて、破壊活動の一助を担わせるという行為に打って出た。

 

デジタルワールドが光が丘テロ事件の発生後に行った意図的な記憶の改変、忘却が、皮肉にもそれを後押しする形となってしまう。ブイモンがウィルス種に進化することで、ある程度緩和されることになったのは、何の因果かわからない。

 

 

 

行方不明になった選ばれし子供のパートナーデジモン達の行方は、現在進行形で代行の上司が急ピッチで解析しているところである。

 

万が一、デジヴァイスを喪失したとしても、ピラミッド迷宮という紋章とデジヴァイスを作り上げた本拠点が無事である限り、一度作り上げたシステムである以上復刻、複製は可能だが、紋章は選ばれし子供本人のみが発動できる貴重なもの。

 

解析と制作に途方もない時間を費やしたため、何が何でも見つけ出さなくてはいけない。間に合わない。ただでさえ暗黒の力の侵攻はもう王手寸前である。

 

これ以上の余談は許さない。想像以上の緊迫感に、空たちは息をのんだわけである。そして、今、ピラミッド迷宮という本拠点を獲得するにいたった最大の功労者は、ナノモンの古代遺跡あらため200年前のセキュリティシステムの本拠地最深部において、光子郎からお願いしますと頭を下げられていた。

 

 

「なっちゃんもいってるし、僕はますますここから動くことができなくなったんだ。他のみんながいつ帰ってくるかわからないし、説明できる人がいないとまたバラバラに

なっちゃうよ。

 

でも、なっちゃんからメッセージを受け取れるのは、今のところ、大輔君しかいないんだ。お願い、頼むよ、ジュンさんからの大切なPHSなのは分かってるけど、大輔君と連絡が取れないと僕たちはどうしていいかわからないんだ。

 

デジタルワールドでも僕の携帯電話と通じるように改造したいんだ、貸して!」

 

「あのー、いいっすけど、その、ぜってーちゃんと元に戻してくださいね?光子郎先輩。ジュンお姉ちゃんに返すって約束してるから、ぜってー変な改造しないでくださいよ?ぜってー!これ返す時、ジュンお姉ちゃんと仲直りするってきめてんすからあ!」

 

「あ、あはははははは、だ、大丈夫だよ、大丈夫!デジタルワールドでも電話できるようにするだけだから。電話番号覚えてね。僕の方も登録しとくから」

 

「なんすかその目」

 

「きのせいだよ、きのせい」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「だ、大輔君は、空さんとみんなを探してほしいんだ。バードラモンしか移動手段ないし、空さんと大輔君は離れられないんだろ?バックアップは僕とナノモン達に任せてよ。サーバ大陸の情報は大丈夫だから。

 

完全体に進化するとデジヴァイスの色が変わって、ほかのデジヴァイスの場所がわかるみたいなんだ。大輔君は空さんとミミさんを探してほしいんだ。

 

デジヴァイスの反応を見るに、一番近くにいるみたいだし、僕のデジヴァイス持って行って」

 

「はーい」

 

「あーあ、早く太一さん、2人の仲間連れて帰ってこないかなあ」

 

「一日が一分なんすよね?太一先輩知ってますっけ?」

 

「………僕たちで頑張って探そうか」

 

「はーい」

 

「じゃあ、空さん、準備できたみたいだし、いってらしゃい」

 

「はい、行ってきます」

 

 

安心してほしい。魔改造されたPHSと携帯電話が完成するには約1週間かかった。バラして、改造して、部品を埋め込んで、今までの過酷な冒険で結構故障寸前だったのを見かねて特別加工までナノモンが口出しし始めたもんだからこれでもいい方である。

 

そして光子郎がこっそり仕込んでおいた内緒の機能が完成するのも拍車をかけた。ミミの場所を特定するのに2日、これだけで一週間と少しが経過した。その時点で1か月と3週間が経過しているのだ。もう2か月近くである。

 

太一たちはもうデジタルワールドに帰還するのは秒読みである。ただ、太一たちがお台場から帰還する着地予定エリアは、ピラミッド迷宮からすんごく離れたところであるのはもはや仕様の領域である。

全然連携がうまくいっていないデジタルワールドである。選ばれし子供たちの苦労の半分以上はどっかの誰かさんのせいだろう。そもそもデジヴァイスの中に紋章ぶち込めばこんな事にはならなかったのだから。

 

やはり考えることで生きている人間に、データの世界は勝てないのかもしれなかった。

 

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